自動運転列車、「メッシュ」フェンスで人の侵入防止

検討会で議論、線路内への侵入をどう防ぐ!?



出典:国土交通省資料

鉄道の自動運転化に向け議論を進めている「鉄道における自動運転技術検討会」がこのほど、約4年間にわたる議論のとりまとめ資料を作成・発表した。

自動運転システムそのものではなく、自動運転導入に向けた環境整備に重点を置いた内容となっており、線路への立ち入りを防止するメッシュフェンスの設置など、いかに路線の安全性を高めるかに焦点があてられている。







検討会ではどのような議論が進められてきたのか。とりまとめ資料をもとに、その概要に迫る。

▼鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめ(本文)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001512132.pdf
▼鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめ(概要)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001512320.pdf

■鉄道における自動運転技術検討会の概要

道路交通における移動・輸送サービス同様、鉄道分野においても運転士や保守作業員などの人材が不足していることから、一般的な鉄道路線への自動運転技術の導入について検討するため国土交通省が2018年に立ち上げたのが「鉄道における自動運転技術検討会」だ。大学教授ら有識者をはじめ、JR各社や民間鉄道各社らで構成されている。

従来、鉄道における自動運転は、高架構造など人や自転車、自動車などが線路内に立ち入るのが困難なインフラを備えた新交通システムやモノレールで実現されているが、運転士の乗務を前提とした一般的な路線に導入する場合、安全・安定輸送の観点やコスト面を含め、どのような手法が可能かなどについて検討を進めてきた。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■とりまとめの概要
新交通システムと一般路線の違い

新交通システムなどすでに自動運転を実現している路線は、全線立体交差でスクリーン式ホームドアが設けられ、鉄道部外や鉄道利用者からの外乱を未然防止している。また、加減速や定位置停止制御も比較的容易なゴムタイヤ式を採用し、中速域で走行している。駅間も比較的短く、路線全体の距離も短いものが一般的だ。

一方、一般的な路線は、運転士が列車を操縦することを前提に建設されている。一定の処置は施されているものの、線路内への人などの立ち入りや自動車の侵入、踏切道による突発事故などの外乱リスクが常に生じている。駅間距離や路線そのものの距離が長く、線路周辺の異常監視や保全のため巡回が必要となる。

また、長編成の列車が存在する条件下での混雑時の閉扉操作や、鉄車輪・鉄レールでの接触による走行、トンネルや橋りょうなど構造上迅速な避難誘導に制約が生じる箇所が存在するなど、新交通システムとはさまざまな違いがある。

このため、新交通システムのような自動運転の考え方をそのまま一般的な路線に適用するのは困難であることを踏まえ、検討することが必要としている。

鉄道における自動運転レベル

鉄道における自動運転は、国際電気標準会議(IEC)が定義する「IEC 62267(自動運転都市内軌道旅客輸送システム)」で自動化レベルが定められている。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)

GoA(Grades of Automation)0は目視運転を指し、道路交通と混在する路面電車が相当する。GoA1は非自動運転を指し、踏切道などがある一般的な路線が相当する。

Goa2は半自動運転で、運転士が列車起動や緊急停止、操作、避難誘導などを行うシステムを指す。一部の地下鉄などが相当するようだ。

GoA2.5は緊急停止操作などを行う係員付き自動運転を指し、列車の前頭に乗務する運転士ではない係員が緊急停止操作や避難誘導などを担う。

GoA3は添乗員付き自動運転を指し、列車に乗務する係員が避難誘導などを担う。一部のモノレールなどが相当する。

GoA4は自動運転を指し、係員が非搭乗となる。一部の新交通システムなどが相当する。

検討会では、GoA2.5の係員に求められる役割や関与できる作業をはじめ、GoA3~4における路上の安全確保に重点を置き、議論を進めたようだ。

【参考】鉄道の自動運転レベルについては「鉄道の自動運転レベル、GoA0〜4の定義や導入状況を解説」も参照。

線区条件で留意すべき事項

異常が発生した際の社会的影響が大きい都市鉄道や新幹線鉄道における自動運転では、従来運転士が行っていた現場判断ができなくなることから、指令システムを強化して対応することが重要となる。

一方、輸送量が少なく事故発生リスクの小さい路線や、危険箇所を減速して運行する路線、またはGoA2.5走行を行っている場合においては、ホーム柵や立入防止柵、自動車用防護柵の設置がなく、踏切道の安全対策を強化しなくとも、一般的な路線における安全性と同等以上の性能を確保しやすい。

自動運転の検討にあたっては、導入するシステムと路線の状況に応じて、以下などに留意する必要があるとしている。

  • ①自動運転と手動運転の混在運行(列車単位での自動運転)
  • ②GoA2.5、GoA3、GoA4の混在運行
  • ③時間帯や線区を区切った自動運転と手動運転との切替え
  • ④相互直通運転におけるシステムの切替え

以下、GoA2.5とGoA3~4に大別し、それぞれの基本的な考え方について解説する。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■GoA2.5(緊急停止操作などを行う係員付き自動運転)
GoA2.5係員の役割

GoA2.5は、列車の前頭に緊急停止操作などを行う係員(以下GoA2.5係員)が乗務する。GoA2.5係員は、動力車操縦者運転免許を保有していないため、操縦や列車保安に係わる判断はできない。

GoA2.5係員は、列車前方に異常を認めた場合の緊急停止操作や緊急時の避難誘導(降車誘導)の役割を担うが、システムレベルなどに応じ、発車時刻の確認や扉の開閉操作、出発時の安全確認、出発時の情報入力操作、特殊信号の現示、異音や異常を示す警音や表示などが認められた場合の緊急停止操作、指令への連絡、車両点検を行うことが考えられる。

GoA2.5係員が関与できる作業については、システムで保安が確保される範囲、つまり人がミスしても事故に及ばない範囲とする。緊急停止操作などにおいても、運転士のように難しい判断を臨機応変に行わせることはできないと考えられることから、原則としてブレーキ操作に頼ることなく自動的に列車のブレーキが作動する自動化を行う必要がある。

ただし、分かりやすい音響などの信号に従い、判断することなく緊急停止用の単純なスイッチ操作をGoA2.5係員に行わせることは可能としている。判断を伴わず、指令員などの指示に従う中継行為に相当するためだ。

一方、GoA2.5係員の確認義務としては、速度計などの運転台機器の表示や各種警報の確認を行う場合、現行運転士と同等に各種表示や警報に応じて対応を行う必要があるとしている。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)
GoA2.5におけるシステムケース

GoA2.5を実現するシステムケースとしては、現時点において以下の3タイプを想定している。

  • GoA3~4を実現できるATC(自動列車制御装置)とATO(自動列車運転装置) で構成するシステムをベースとするもの(出発時の情報入力操作無し、列車防護は自動ブレーキ)
  • GoA2を実現できるTCとATOで構成するシステムをベースとするもの(出発時の情報入力操作有り、列車防護は自動ブレーキ)
  • GoA1を実現できるシステムのうち、パターン制御式ATS(点送受信による連続制御)と高機能ATOで構成されるシステムをベースとするもの(従来のATCとは異なる列車間の間隔を確保する装置で、出発時の情報入力操作有り、列車防護はGoA2.5係員による停止信号現示を認めた場合の緊急停止操作)

このほかにも、例えば運転免許の要否に関する検討を前提に異常時のみGoA2.5係員が限定的な操作を行う方式や、列車防護を自動化しない方式など、さまざまなタイプが開発されることも想定されるため、導入にあたっては各システムと路線の状況に応じ十分な検討を行う必要があるとしている。

■GoA3~4(添乗員付き自動運転/乗員なしの自動運転)
GoA3~4における安全確保の基本的な考え方

GoA3~4の自動運転にあたり、車上カメラやセンサーを導入する場合は、装置の性能や路線の状況を踏まえ、線路内支障物を検知して事故回避・被害軽減を行う装置など位置付けを明確にしたうえで、立入防止柵などの対策を含め総合的に捉えて対応することが適切としている。

鉄道は周辺環境との分離が前提であり、また運転士に線路内支障物を発見させる法的義務付けもないことから、運転士の視認能力の評価を前提にその役割をセンサーで代替することは困難という。

総合的判断による安全確保においては、例えば駅間の立入防止柵を強化するなどさらなる分離の措置や、センサー・技術などを活用した列車前方支障物への対応などが考えられる。また、リスク事象の発生を低減させるため、路線の状況を踏まえた自動運転に関するシステムの信頼性を十分に確保する必要がある。侵入が容易な踏切道は、路線の状況を十分に検討し別途検討する必要があるとしている。

また、万が一支障物などと衝突したときに備え、支障物衝撃吸収構造(クラッシャブル)や客室内座席の衝撃緩和構造を採用することで、乗客の安全性は向上するとしている。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)
乗員に依存しない緊急停止手法が必須

係員が乗車しないGoA4では、列車の緊急停止を列車に乗務する者に依存しない方法とする必要がある。従来の信号は係員に対して行われるものであるため、列車防護などの緊急停止は、信号以外の方法で自動的に列車の非常ブレーキが作動するシステムで行う必要がある。

GoA3係員には、乗客の避難誘導や異音・異常動揺といった列車状態の監視などの役割が考えられる。このほか、起動時の操作や出発時の安全確認などの対応を行わせる場合は、GoA2.5係員の対応方法に準ずるものとする。

線路上の支障物対策は地上設備や車上設備、ソフト対応が求められる

線路上の支障物対策としては、ハード対応として警告柵や立入防止柵、自動車用防護柵、監視カメラ、第1種踏切道、踏切障害物検知装置及び支障報知ボタン、ホームドアまたは可動式ホーム柵などの地上設備や、支障物検知用カメラ・センサーや支障物衝撃検知装置、支障物衝撃吸収構造、客室内座席の衝撃緩和構造、支障物排障構造、列車の支障物排障性能を考慮した列車組成といった車上設備、保守係員等乗務などのソフト対応が考えられる。

ホームや踏切道部分以外における分離

列車事故に至るような妨害行為の抑止や、過失による線路内への立ち入りといったトラブルの発生そのものを減少させるため、ホームや踏切道部分以外においては線路内へ立ち入る可能性が高い箇所に立入防止柵を設置するなどの対応が必要となる。

立入防止柵の構造については、妨害行為が抑止できる高さとするほか、足を掛けられない大きさのメッシュフェンスとすることや、有刺鉄線を含む忍び返しの設置など、状況に応じて十分な検討を行う必要がある。

また、必要に応じて線路内へ人などが立ち入る可能性が高い箇所への監視カメラの設置や、保守係員の添乗で発見に努めることなどによる総合的な判断・対応が求められる。

自動車の侵入防止

跨線橋や近接並行道路区間など自動車侵入の可能性が高い場所には、自動車用防護柵を設置するなどの対応が必要となる。防護柵の構造については、従来の鉄道や一般道路などでの事例を踏まえ、高さや必要な強度を持った構造のガードレールとするなど、状況に応じて十分な検討を行うことが求められる。

同様に、自動車からの積荷転落防止や他線路からの人などの立入防止、落石・倒木等対策などについても、防護柵や検知設備の設置など、それぞれの対応が必要となる。

踏切道部分における分離

踏切道内の支障については、発煙筒などの使用をシステム的に認識することは困難なであることから、支障報知ボタンを設置し、列車を自動的に減速・停止させる仕組みを導入する必要がある。自動車が通行する踏切道では、踏切障害物検知装置を設置して列車を自動的に減速・停止等させる仕組みを導入する必要がある。

ホーム上及び車内の異常時対応

車内の異常時対応として、乗客が危険を感じた際の通報装置や列車を速やかに停止させる非常停止装置などの導入が基本となる。ホーム上の異常時対応としては、ホーム上の非常停止装置やホーム火災時における駅通過機能などが考えられるが、導入する路線の状況に応じて十分に検討する必要がある。

異常時の運転・避難誘導

異常時の運転・避難誘導の検討にあたっては、周辺環境との分離の精度向上や、自動運転に関するシステムの信頼性を上げることでトラブルそのものを減少させることが重要である。また、トラブル発生時の社会的影響の大きさにより、異常時における縮退モードによる乗客救済運転など装置の稼働を確保することも重要である。

係員が乗務しないGoA4では、自動運転が可能である場合は指令において安全確認後運転を再開し、手動運転のみが可能である場合は、運転士を派遣して次駅まで運転して避難する。運転ができない場合は、係員を派遣して乗客を降車させて避難させるなどの対応が求められる。

【参考】GoA3に向けた取り組みについては「東武鉄道、「添乗員付き自動運転」実現へ検証スタート!目指せGoA3」も参照。

■【まとめ】鉄道各社の戦略・動向に注目

個々の自動化レベルにおける係員の役割とともに、鉄道を自動運転化するためにいかに線路上の安全を担保するか――といった観点が中心となっている。

道路交通に比べると、鉄道は自動運転化を図りやすい環境を備えているが、1つの事故による社会的影響が著しく大きいため、インフラに求めるべき要件をより厳格化した格好だ。

防護柵の設置などにかかるコストは、人員にかかるコストと天秤にかけられることになりそうだが、人手不足がより深刻化することが予想されれば、自動運転導入に向けた取り組みはさらに活発化する。

効率的かつ持続的な運営に向けた鉄道各社の戦略・動向に注目したい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】自動運転を導入済みの鉄道については「「無人電車」が実現済みの路線まとめ 自動運転技術、早期から導入」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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