自動運転・MaaSと地方創生、「推進交付金」採択事業は?

11自治体をピックアップ

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出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)

地方自治体が抱える各種課題において、交通課題が掲げられる例は多い。混雑解消や高齢者の移動手段確保など理由はさまざまだが、多くの自治体が悩みを抱えているのだ。

この課題解決に期待されるのが自動運転やMaaSの導入だ。低コストで効率的な交通網を整備するとともに、異業種連携させ地域活性化に結び付けるさまざまな取り組みが各地で進められている。

こうした取り組みを支援すべく、国も地方創生推進交付金(Society5.0タイプ)を創設し、各自治体の背中を後押ししている。

2022年度を含め、過去3年間の採択事業の中から自動運転・MaaS関連に取り組む11事業をピックアップし、その取り組みを紹介していく。どのような自治体が同交付金事業に採択されたのか。

■地方創生推進交付金(Society5.0タイプ)とは?

地方創生推進交付金は、地方版総合戦略に基づき地方公共団体の事業を支援するもので、「Society5.0タイプ」は全国的なモデルとなり得る地域のSociety5.0実現を推進する目的で2020年度に創設された。

一つの事業において年度あたり3億円を上限に交付される。事業期間は最長5カ年度となっている。2020年度は18事業、2021年度は19事業、そして2022年度は自動運転やドローンを活用した事業など計26件が採択された。

▼地方創生推進交付金Society5.0タイプ採択事業一覧
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/pdf/society5type_jirei.pdf

■千葉県千葉市

千葉市は、幕張新都心を中心とした先端技術実装による都市型未来都市の実現を目標に掲げ、ドローン宅配や自動運転モビリティなどが連携するサービスの実装を目指している。

自動運転技術の実装により、宅配やバス事業など各分野の人材不足に対応するとともに、ドローンのライセンス取得を支援することで、限られた就業者の専門性や労働生産性の向上を図る人材育成を進め、企業の成長促進につなげる。

具体的には、幕張新都心の施設間を移動するモビリティや複数施設のサービスをパッケージとして提供し、回遊性向上による賑わい創出を図る。利用者のニーズに応じ、多様なモビリティと飲食、宿泊、観光、小売などを最適に組み合わせた幕張新都心版MaaSを構築するとしている。

千葉市は2021年、幕張新都心モビリティコンソーシアムを設立し、モビリティサービスに関する実証実験などを積極展開している。すでに自動運転車社会実装サポート事業や自動走行ロボットによるマンションへの商品配送サービス実証などを行っており、2022年度もMaaS社会実装サポート事業などを進めている。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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【参考】千葉市の取り組みについては「千葉市で自動運転バス実証!「技術」と「サービス」の両面から検証」も参照。

■石川県加賀市

加賀市は2020年度に「多居住拠点による新たな地方創生事業」が採択され、遠隔ロボットや5G、デジタルツイン、エアモビリティなどの先端技術を活用した地域課題解決のため同市を実証フィールドとして提供しているほか、シームレスな交通アプリの構築などを進めている。

2022年度は、新たに「マイナンバーを軸とした加賀市版電子自治体推進事業」が採択され、モビリティデータ連携基盤の構築とMaaSコントローラの導入を図っていく。

マイナンバーカードなどから得られた情報を活用し、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング/証拠に基づく政策立案)に基づいてモビリティ体系を構築する。アジャイルに料金やダイヤなどのサービスに反映させていくMaaSコントローラを構築することで、資源を最大限活用した効果的な交通体系の構築を目指す方針だ。

モビリティサービス面では、AI(人工知能)を活用したデマンド配車や貨客混載のオペレーション連携、自動運転やドローンサービスとの連携を進めていく計画としている。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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■静岡県

静岡県は、2020年度に「しずおかShowCASEプロジェクト推進事業」が採択されている。同事業は2019年度から進められており、これまでさまざまな自動運転実証などを展開している。

沼津市などの都市部においては、自動運転バスの走行を支える高度なインフラシステムによる移動自体を楽しむサービスと高度な交通システムの構築を進める。下田市などの郊外部では、駅からワンマイル周辺エリアでのAIデマンド交通を活用し、地域住民や観光客が利用しやすいサービスの構築を目指す。

松崎町などの過疎部では、過疎地域における新たな移動サービスの構築と過疎地域における交通事業者の新たな交通サービスを構築していく。このほか、CASEに係る技術開発や他業種連携のサービスイン、製品開発を好循環で実施可能なシステムづくりを進めていく方針だ。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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【参考】静岡県の取り組みについては「自動運転に力を入れる静岡、「ShowCASEプロジェクト」とは?」も参照。

■愛知県春日井市

春日井市は、「高蔵寺ニューモビリティタウン構想事業」が採択を受け、ニュータウン型のMaaSを構築して過度に自家用車に依存しなくても快適に暮らせるまちづくりを目指す。

具体的には、過度な財政負担を伴わない地域限定ラストマイル自動運転の社会実装に向けプロトタイプ事業案を作成するほか、バスやタクシーなどの公共交通への利用転換を目指すAIオンデマンド乗合サービスの社会実装、自動運転など新しい技術で将来に渡り基幹交通のサービスレベルの維持を目指す基幹交通の検討、MaaSアプリによるモビリティブレンドの展開などを進めていく。

同市はこれまで、歩行支援モビリティサービス実証や自動運転用高精度3次元地図の整備、遠隔型自動運転実証、自動運転デマンド交通実証、名古屋大学COIゆっくり自動運転実証などを実施しており、先導的モビリティを活用したまちづくりに積極的に取り組んでいる印象だ。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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【参考】春日井市の取り組みについては「自動運転車「ゆっくりカート」の運行、管理の手間を大幅軽減!実証実験スタート」も参照。

■大阪府河内長野市

河内長野市は「丘の生活拠点(南花台)まちづくりモデル事業推進計画」が採択された。地域住民主体による自動運転運行の実装を目指す方針だ。

IoTを活用したグリーンスローモビリティ実証事業」の検討を踏まえ、地域住民主体による自動運転運行を実現するとともに、自動運転技術の研究・実証を進め運行の継続性を高める。また、地域ポイント制度を構築し、キャッシュレスシステムによる有償化を進め地域で自立した運営体制を構築するとしている。

同市はスーパーシティ型国家戦略特別区域に申請するなど、先端技術による課題解決や未来型都市づくりに果敢に挑んでいる。

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■佐賀県嬉野市

嬉野市は「新たな交流拠点の誕生を契機に取り組む未来技術を活かした観光まちづくり事業」が採択された。観光産業をはじめとした地域産業の活性化や地域課題の解消とともに、地方都市におけるデジタル社会の形成を目指す。

同市の魅力を発信する環境づくりとして、デジタルモール・バーチャルモールの構築や観光情報のデジタルコンテンツ化、オンライン観光ツアー、VRを活用した体験ツアーなどに取り組むとともに、来訪者の移動を支えるモビリティサービスとして、拠点内移動を支えるパーソナルモビリティや手ぶら観光を支える自動運転サービスの導入などを図っていく。

また、5G技術を活用した各種データ収集・提供に向け、データプラットフォームの構築も進めていく方針だ。

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■山形県長井市

長井市は「いつまでも便利に安心して暮らせるスマートシティ長井実現事業」が採択された。人手不足で低下する交通や商業といった生活に関連するサービス量を補完し、その質が抜本的に改善された社会システムとともに、地域で集めたデータを活用し、新たな価値を生むサイクルを持つ社会システムの構築を進める。

具体的には、MaaSやスマートストア、スマートシティアプリによる生活基盤の利便性向上を図るほか、デジタル地域通貨「ながいコイン」の展開なども進めていく。人材育成の観点では、ワーケーションやeスポーツをきっかけとした人材の誘致・育成を図るとともに、ドローン技術者の確保・育成やDXセミナー、DXコンテストの開催なども検討していくとしている。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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■福島県会津若松市

会津若松市は、2020年度に「新モビリティサービス推進事業」が採択されている。地方都市においても自家用車に頼り過ぎることなく移動が可能な新モビリティサービスを社会実装し、あらゆる世代の移動手段確保を目指す。

具体的には、MaaSと一体となった持続可能な新しいモビリティサービスの構築に向け、従来のバス停の位置に関わらずインターネットの地図上に設けたポイントから乗車予約が可能なAIオンデマンド型路線バスの仕組みを構築する。また、AIオンデマンド型路線バスの運行時間帯以外の移動手段として、相乗り型乗用タクシーを運行する。

MaaSにおいては、異業種間連携による新たな収益モデルの構築も目指す。公共交通の利用者がバス停周辺の飲食店の情報や割引を得る仕組みや病院の予約と連携する仕組みなどを構築し、観光や商業、医療などの異業種と連携した収益モデルを構築する。

将来的には、MaaSに組み込まれたキャッシュレス決済機能を入口とし、鉄道やバス、新モビリティサービスなどを網羅した定額サービスや、公共交通運賃と飲食代金などの支払い共有化など、異業種連携による相乗効果を促進できるような仕組みの導入にも取り組む。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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【参考】会津若松市の取り組みについては「会津若松市など6地域、国がAIオンデマンド交通の導入支援!日本版MaaS実現に向け」も参照。

■茨城県つくば市

つくば市は「移動の自由と安心安全で自立した生活を支えるSociety5.0推進事業」が採択された。地方版総合戦略のもと、スマートフォンなどのデバイス活用やパーソナルモビリティ・MaaSの利用により、自由な移動や最適化されたモノの輸送などの実現を図っていく。

モビリティ関連では、自動運転機能を有するパーソナルモビリティを導入し、地区内シェアリングサービスとして自宅からバス停など近距離移動の利便性を向上させる。

郊外においては、移動スーパーなどのロケーションシステムを導入する。移動スーパーの現在地や到着時間、店舗在庫等の情報をスマートフォンで確認可能にするほか、医療機関や薬局、スーパーを連携させ、遠隔診療後に処方薬を移動スーパーで受け取ることができるようにる。

子育て世代などに対しては自動配送ロボットを活用し、希望のタイミングで荷物を受け取ることができるようにする。また、幼児を連れて買い物をする際や移動スーパーを利用した場合など、自動追従型荷物搬送ロボットを利用することで、荷物を持つことなく自宅まで帰れる環境整備も進めていく。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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【参考】つくば市の取り組みについては「電動車いす自動運転の公道走行、SIPの評価委員が視察へ つくば市が発表」も参照。

■埼玉県秩父市

秩父市は2020年度に「山間地域におけるスマートモビリティによる生活交通・物流融合事業」が採択された。人とモノの移動の困難さに着目した山間地域における物流・公共交通ネットワーク「秩父モデル」の構築を目指す構えだ。

ドローン配送による高齢者などへの買い物支援や共同配送、貨客混載に取り組むほか、医薬品などの配送も視野に入れICTを活用した遠隔医療(オンライン診療)を実施する。

ドローン配送は自動運転車を組み合わせた事業とし、ドローンとEVの結節点となる拠点を整備する。また、物流や買い物、医療、交通といった各サービスを有機的に結合するため、各サービスで保有する多様な情報を集約・分析し、的確にフィードバックする「秩父ダッシュボードシステム」の開発を進めていく。

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■長野県伊那市

伊那市は2021年度に「INAスーパーエコポリス構築プロジェクト」が採択された。ドローン配送や移動・医療MaaSなど、先駆けて実施している先端技術をいち早く実装し、横展開を図っていく。

計画には、ロボティクス技術による健康増進やドローンのマルチユース化、MaaS移動・観光・医療などの実用化、EV-MaaS車両による環境負荷軽減などが盛り込まれている。

同市は、国土交通省主導の道の駅などを拠点とした自動運転移動サービス実証をはじめ、ドローン配送実証などに早くから取り組んでいる。2019年からはMONET Technologiesとの協定のもと、フィリップス・ジャパンと医療×MaaS実証も行っている。

インテリジェント交通やスマート物流、スマート農業、スマート林業などIoT化を推進し、「IoTのINA Valley」としてテクノロジー集積地を目指す方針だ。

出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」(※クリックorタップすると拡大できます)
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【参考】伊那市の取り組みについては「KDDIが「空飛ぶデリバリーサービス」!長野県伊那市で配送イノベーション」も参照。

■【まとめ】次世代モビリティ先進地域として引き続き注目

採択された多くの自治体が以前から自動運転などの実装に取り組んでいる先進地域で、同交付金をもとに事業をいっそう加速させている印象だ。

2023年度までに改正道路交通法が施行され、レベル4モビリティや自動走行ロボットの実装が一気に進展していくものと思われるが、採択を受けている各自治体はその基盤が整いつつあるため、他に先駆けて自動運転技術の社会実装を実現する可能性が高い。各自治体の取り組みに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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