自動運転は「量子」で超進化

研究開発進む量子センサーや量子コンピュータ



ディープラーニングがAI開発にイノベーションを巻き起こしたのと同様、コンピュータをはじめさまざまな科学技術にイノベーションをもたらすことが期待される量子技術。量子コンピュータや量子センシングといった研究開発が世界中で進められている。







高度な処理能力を誇るコンピュータやセンサーが必須となる自動運転分野との相性も良さそうに感じるが、実際どのような研究開発が行われているのか。

この記事では、自動運転と量子技術の関わりについて解説していく。

■そもそも「量子」とは?

量子は物理量の最小単位で、粒子と波の性質を合わせ持つ物質やエネルギーの単位だ。原子や、原子を構成する電子や中性子、陽子、光を粒子として見た場合の光子やニュートリノなどの素粒子も量子に含まれる。

専門性が高過ぎるため詳細は省くが、量子力学は物理学の分野に革新をもたらし、近年では「粒と波の性質を合わせ持つ二重性」や「量子重ね合わせ」といった量子の性質・特徴を科学技術領域に応用する研究が盛んに行われている。

▼量子ってなあに?|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/ryoushi/detail/1316005.htm

日本でも、第5期科学技術基本計画(2016年閣議決定)で光・量子技術を重点技術領域として位置づけられた。統合イノベーション戦略(2018年閣議決定)にも盛り込まれ、革新的技術として光・量子技術基盤の国際競争力を維持・向上を図る目標が掲げられている。

研究分野の一例としては、量子コンピュータ技術や量子計測・センシング技術、量子シミュレーション技術などが挙げられる。量子コンピュータは並列計算能力においてスーパーコンピュータをはるかにしのぐ性能を誇る。グーグルやIBMなども研究開発に力を注いでおり、開発成果の社会実装はすでに始まっている。

国内では、産学官連携のもと量子技術の可能性を広げていく「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」が2021年9月に発足している。会員企業には、東芝や日本電気、日本電信電話、日立製作所、富士通、三菱ケミカル、トヨタなどが名を連ねている。

海外自動車関連では、BMWらドイツ企業10社が2021年10月、量子コンピューティングの産業化を目的にコンソーシアム「QUTAC (Quantum Technology and Application Consortium)」を設立した。メンバーには、フォルクスワーゲンやボッシュ、インフィニオン、シーメンスなどが名を連ねている。

■量子関連の取り組み
玉川大学が量子レーダーカメラに関する研究結果を発表

玉川大学量子情報科学研究所の研究グループは2016年、自動運転に応用可能な量子レーダーカメラの設計法を確立したと発表した。量子レーダーカメラを活用することで、従来の各センサーにおける悪天候下の性能劣化を克服することができるという。

自動運転では、高感度ステレオカメラやLiDARなどの各種センサーを用い、車両の周囲や進行方向の遠方までを把握する。基本的には、ターゲットに照射した光の反射によって障害物などをイメージングしていくが、濃霧などの悪環境化においては反射波に対する擾乱により性能が急激に劣化する。

しかし、量子レーダーカメラであれば、原理的にレーザー波の伝搬時の環境に依存しない。DARPA(米国防高等研究計画局)で開発された新しい量子計測原理(Quantum Methodology/Sensor)によって反射波の2次情報を利用した画像化が可能となり、この特徴を現実的な擾乱環境下における自動運転で実現する方法を研究した結果、約100メートルの領域をカバーするシステムが実現可能であることが理論的に確認されたという。

量子レーダーカメラを使用することで、悪天候下でも観測可能な全天候型のセンサーシステムを実現することができそうだ。

既存技術(左)と新技術(右)のターゲットの識別能力の比較=出典:玉川大学量子情報科学研究所(※クリックorタップすると拡大できます)
デンソーと豊田通商も量子技術に注目

デンソーと豊田通商は2017年、世界初となる交通系商用アプリケーションを用いた量子コンピュータの実証実験を開始した。大規模な車両位置や走行データを量子コンピュータ上でリアルタイムに処理する取り組みで、量子コンピュータを活用した渋滞解消や緊急車両の優先的な経路生成といった新しいアプリケーション提案につなげていく構えだ。

デンソーは量子アニーリング技術の考案者の1人である門脇正史氏をチーフエンジニアに迎え、量子技術を活用した次世代モビリティの研究開発に注力している。

交通最適化をはじめ、無人搬送車の最適化、スマート社会への応用など、あらゆる分野への活用を研究しているようだ。こうした取り組みが自動運転開発に及ぶのも間違いないだろう。

出典:豊田通商プレスリリース(※クリックorタップすると拡大できます)
バッテリー効率化にも?

フォルクスワーゲンは2018年、AIや量子コンピューティング技術を駆使して自動車用バッテリーの化学構造のモデル化に成功したようだ。さまざまな車両に応じた最適なバッテリー形状や化学構造を算出し、高効率なバッテリー開発が可能になるようだ。

国内では、日本マイクロニクスが量子技術を活用した二次電池「battenice(バテナイス)」の研究開発を進めていた。この研究は残念ながら2020年に事業性が見通せないなどの理由から中止が発表されたが、バッテリーの構造そのものに量子技術を応用することでイノベーションが起こる可能性もありそうだ。

■【まとめ】大きな可能性秘めた量子技術がイノベーションを巻き起こす

現状、量子コンピュータは並列計算で高い性能を発揮できるものの、複雑な計算に課題があるという。主流のGPUなどに比べ導入コストや設置サイズなども大きく、メインコンピュータとしてはまだ実用域に達していないようだ。

ただ、ポテンシャルの高さは未知な部分が多く、量子センサーのように両氏の性質を生かした技術はまだまだ進化の過程にある。今後、コンピュータをはじめさまざまな分野に大きなイノベーションをもたらす技術として、継続的な研究開発に期待を寄せたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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