自動配送ロボット実用化に向けた機運がいっそう高まりそうだ。2021年11月10日に第2次内閣が発足した岸田文雄総理は、内閣総理大臣指名後の記者会見で自動配送サービス実現に向けた取り組みに言及した。
岸田総理は、自身肝いりの「新たな資本主義」実現に向けた方針などを説明し、この中で自動配送サービス実現に向け関連法案を次期通常国会に提出すると言明したのだ。計画通り進めば、国会審議を経て2022年中にも成立する見込みだ。
この記事では、岸田総理の発言とともに、その背景にある動きやこれまでの取り組みなどについて解説していく。
記事の目次
■第2次岸田内閣の取り組み
岸田総理の発言主旨
岸田総理は会見で、成長戦略において力を入れているのが「デジタル田園都市国家構想」とし、デジタルの力を取り込んで地方から新しい時代の成長を生み出す考えを示した。
また、デジタルを活用する際に障害となる規制改革にも果敢に取り組む意向を示し、次期通常国会で自動運転による自動配送サービス実現に向けた法案を提出すると言明した。
法案については、新たに設置するデジタル田園都市国家構想実現会議やデジタル臨時行政調査会において議論を行い、年末以降に具体策を示すとしている。
新しい資本主義実現本部による緊急提言
デジタル田園都市国家構想は、総選挙前の第1次岸田内閣が設置した「新しい資本主義実現本部」による緊急提言(11月8日付)から誕生した。
提言には、成長戦略として科学技術立国の推進やスタートアップの徹底支援などともにデジタル田園都市国家構想の起動が盛り込まれており、この中で「テレワーク・ドローン宅配・自動配送などデジタルの地方からの実装」に言及している。
▼緊急提言(案)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai2/shiryou2.pdf
自動配送サービスについては、早期実現に向け低速小型の自動配送ロボットが道路運送車両に該当しないこととした上で、サービス提供エリアや事業者の連絡先など関する事前届出制や、安全管理義務に違反した場合の行政機関による措置、機体の安全性・信頼性向上に向けた産業界における自主基準や認証の仕組みの検討を促すことなどを前提に、次期通常国会に関連法案を提出するとしている。
なお、自動運転移動サービスにも言及しており、現行法において一般的な制度が規定されていない点を踏まえ、申請されたサービスの提供地域・区間を前提に自動運転システムの性能や遠隔監視、緊急時の対応などを確認した上で、同サービスを認める新たな制度を創設し、こちらも次期通常国会に関連法案を提出することを検討するとしている。
このほか、物流や保安、防災などさまざまな分野においてドローンを活用できる環境整備にも言及している。
デジタル田園都市国家構想実現会議が初開催
この提言を受け、若宮健嗣内閣府特命担当大臣や牧島かれんデジタル大臣出席のもと、デジタル田園都市国家構想実現会議が2021年11月11日に初開催された。
▼デジタル田園都市国家構想実現会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.html
若宮大臣は、今後の論点として以下の3つを案として示した。
- ①地方の課題を解決するためのデジタル実装
- ②デジタル人材の育成・確保
- ③地方を支えるデジタル基盤の整備④誰一人取り残さない社会の実現
①には、スマート農業など成長産業の創出やスーパーシティ構想の早期実現、③にはデータ連携基盤や自動運行システムなど官民協調型のデジタル基盤整備の加速などを具体例として挙げている。
デジタル田園都市国家構想が具体化していくのはこれからだが、年明け1月に召集される通常国会の会期中に関連法案が提出されることはほぼ間違いない。期間は限られているが、新しい資本主義実現本部の提言を素案にどのように具体化を図っていくか、今後のデジタル田園都市国家構想実現会議の動向に注目だ。
■自動配送ロボット解禁に向けたこれまでの動き
ロボットがラストワンマイル配送の救世主に
近年、配送需要の高まりを背景に宅配業におけるドライバー不足が常態化している。特に、各戸を回る「ラストワンマイル」を担うドライバーは再配達問題もあり、激務を強いられている。物販系EC需要も右肩上がりの傾向が続いており、ドライバー不足はいっそう深刻なものとなっている。
【参考】関連記事としては「物流領域における「ラストワンマイル」とは? 自動運転ロボが将来活躍」も参照。
こうした課題解決の一手段として期待を寄せられているのが自動配送ロボットだ。自動運転機能を搭載したロボットが、人間のドライバーに代わって配達を行うのだ。
自動配送ロボットは、一般的に歩道を低速で走行する小型ロボットを指す場合が多い。やや大型で、車道を走行するモデルもある。海外ではすでに実用化域に達しており、荷物の宅配やスーパー・飲食店などからのデリバリー用途で活用されている。
荷物を積み込んだロボットが自宅前などに到着するとスマートフォンに通知され、QRコードやパスコードなどでロックを解除し、荷物を取り出す仕組みが一般的だ。
2020年度に公道実証が一気に加速
日本でも以前から実用化を目指す動きはあったが、自動配送ロボットは道路交通法や道路運送車両法などに該当する規定がなく、扱いが不透明だった。このため、公道実証などは消極的で、実用化に向けた開発はなかなか進んでいなかった。
このような中、ラストワンマイル配送における課題解決に向け、国は2019年に「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」を設置し、必要なルールの在り方など具体的な協議に本格着手した。
2020年に入ると、新型コロナウイルスの影響で非接触型の宅配ニーズが高まり、米国や中国などで実証に乗り出すケースが急増した。日本においても2020年5月、当時の安倍晋三総理が「低速・小型の自動配送ロボットについて、遠隔監視・操作の公道走行実証を年内、可能な限り早期に実行する」旨の号令を発し、公道実証に向けた取り組みが一気に加速し始めた。
同年秋までに公道実証要領が整い、国の助成事業も相まって民間の取り組みも大きく前進し始めた。
【参考】関連記事としては「首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」」も参照。
首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」 https://t.co/bWOAZjhhWx @jidountenlab #自動運転 #ロボット #実証実験 #配送 #首相
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 12, 2020
ロボット開発への新規参入相次ぐ
これまで自動配送ロボットの開発はZMPなど一部企業に限られていたが、この1年でホンダやパナソニックをはじめ、ティアフォーやTRUST SMITHといったスタートアップ勢も開発に乗り出した。京セラコミュニケーションシステムは、車道を走行するミニカー規格の開発を進めている。
実証では、楽天グループやソフトバンク、日本郵便、佐川急便なども本腰を入れ、ロボット開発企業などと手を組みながらさまざまなサービス展開に向け行動や屋内実証を進めている。
ソフトバンクのように、海外製品を導入する動きも今後加速する可能性がありそうだ。
【参考】関連記事としては「新規参入相次ぐ!自動配送ロボット、国内プレーヤーの最新動向まとめ」も参照。
新規参入相次ぐ!自動配送ロボット、国内プレーヤーの最新動向まとめ https://t.co/IePHu9mb2O @jidountenlab #自動配送ロボット #日本 #企業
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 7, 2021
■【まとめ】早期実現に向け民間の取り組みもますます加速
新しい資本主義実現本部の提言内容によると、低速小型の自動配送ロボットは道路運送車両に該当せず、業界における自主基準や認証の仕組みの検討を促す方向で議論を進めるようだ。業界によるこうした基準策定や安全確保に向けた運用ルールの策定、社会受容性の醸成などまだまだ課題は山積みだが、こうした議論は公道実証なしでは進まない。
法案成立と並行し、ロボット実用化に向けた民間による取り組みもますます加速することは間違いなく、あらゆる場面を想定したサービス実証も今後本格化しそうだ。
▼岸田内閣総理大臣記者会見(令和3年11月10日)|首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2021/1110kaiken.html