本格実用化に向けた機運が高まる自動運転技術。すでに関連市場は盛り上がりを見せており、スタートアップの新規上場も相次いでいる。
こうした市場の盛り上がりを示す指標に「S&P Kensho Autonomous Vehicles Index」がある。金融サービス大手の米S&P グローバルが算出している自動運転関連業界における指数だ。
この記事では、同インデックスの内容について解説していく。
記事の目次
■S&P Kensho Autonomous Vehicles Indexの概要
S&P Kensho Autonomous Vehicles Indexは、S&P グローバルが金融サービスの一環として提供している指数だ。2016年6月に指数算出を開始している(基準日は2013年5月)。
同社は第4次産業革命の原動力となる技術群に沿う銘柄を選定した「S&P Kenshoニューエコノミー指数」を算定しており、そのテーマの1つに自動運転を据えている。S&P グローバル子会社でデータ分析を手掛けるKensho Technologiesが各自動運転関連企業の開示情報などをAI技術で自動的に分析し、銘柄を選定しているという。
個別の銘柄については開示していないが、2021年11月現在、米国18、中国4、イタリア2、イスラエル2、ロシア1、日本1の計28の銘柄で構成されている。年1回、毎年4~6月頃に指数を構成する銘柄の見直しを行い、各銘柄の適格性をレビューしているようだ。
なお、構成銘柄については、同インデックスをベンチマークとする「eMAXIS Neo 自動運転」の項で紹介していく。2021年10月29日付の開示資料によると、各年の成績はトータルリターンベースで以下の通りとなっている。
- 2014年:+31.35%
- 2015年:+14.88%
- 2016年:+16.86%
- 2017年:+41.54%
- 2018年:-19.82%
- 2019年:+38.03%
- 2020年:+126.82%
世界同時株安が起きた2018年は連動する形で指数も下落したものの全体として堅調に上昇を続けており、特にコロナ禍対策を背景に株式市場全体が上昇を続けている2020年以降は絶好調のようだ。
■「eMAXIS Neo 自動運転」の概要
このS&P Kensho Autonomous Vehicles Indexの値動きに連動する投資成果を目指しているのが、三菱UFJ国際投信(MUFG)が提供している金融商品「eMAXIS Neo 自動運転」だ。S&P グローバルから指数利用ライセンスを受け、2019年5月に信託設定されている。
eMAXIS Neo 自動運転は組み入れ銘柄を公開している。S&P Kensho Autonomous Vehicles Indexに連動する設計であるため、非公開のS&P Kensho Autonomous Vehicles Indexの構成に近似したものとなっていると推測し、eMAXIS Neo 自動運転の構成銘柄を紹介していく。
2021年9月30日付けの月次レポートによると、組入銘柄はS&P Kensho Autonomous Vehicles Indexと同じ28銘柄で、組入上位10銘柄は以下の通りとなっている。
- 1位:AMBARELLA(半導体・半導体製造装置)比率7.0%
- 2位:VEONEER(自動車・自動車部品)比率6.0%
- 3位:XPENG(自動車・自動車部品)比率5.3%
- 4位:Allegro MicroSystems(半導体・半導体製造装置)比率5.2%
- 5位:FORD MOTOR(自動車・自動車部品)比率5.0%
- 6位:TESLA(自動車・自動車部品)比率4.8%
- 7位:APTIV(自動車・自動車部品)比率4.3%
- 8位:NIO(自動車・自動車部品)比率3.9%
- 9位:LI AUTO(自動車・自動車部品)比率3.9%
- 10位:NVIDIA(半導体・半導体製造装置)比率3.8%
世界的品薄状態の半導体関連や、BEV(純電気自動車)関連の企業が目立つ印象だ。
1位:AMBARELLA(アメリカ)
1位の米AMBARELLAは、画像処理やコンピュータービジョン、エッジなどの組み込みプロセッサ開発に強みを持っており、ADASや自動運転関連への納入実績も豊富なようだ。
2位:VEONEER(スウェーデン)
2位のスウェーデンVEONEERは、同国サプライヤーのAutolivが自動運転部門などを分社化して2018年に設立した企業で、自動運転ソフトウェアをはじめ、LiDARやレーダー、ドライバーモニタリングシステムなど幅広い開発を手掛けている。
3位:XPENG(中国)
3位の中国XPENG(小鵬汽車)は2015年設立のBEVメーカーで、2020年8月にニューヨーク証券取引所に上場した。AIや先進運転支援技術と統合したスマートEVの開発を手掛けており、高速道路3,000キロ以上をカバーするレベル2相当のナビゲーションガイド付きパイロットや、記憶型の自動駐車機能「バレー・パーキング・アシスト」などを実装している。
4位以下の構成銘柄は?
4位の米Allegro MicroSystemsは、日本のサンケン電気子会社で、半導体開発を手掛けている。2020年に米ナスダックに上場した。5位には、フォードがランクインしている。6位には、EVメーカーの代表格であるテスラがランクインした。
7位の米APTIVは、サプライヤー大手のデルファイが2017年の組織改変時に改称した企業で、自動運転開発に熱心な1社だ。8位の中国NIOは、2014年設立のEVメーカーで、2018年にニューヨーク市場に上場した。
9位中国LI AUTO(理想汽車)は、2015年設立のBEVメーカーで、2019年にナスダック市場に上場した。10位の米NVIDIAは、自動運転業界で大きく業績を伸ばす、言わずと知れた半導体メーカーだ。
第3期の運用報告書によると、2021年8月時点のこのほかの組入銘柄は、以下の通りとなっている。
- ANALOG DEVICES
- STMicroelectronics
- Intel
- ANSYS
- ON Semiconductor
- Baidu
- GM
- NXP Semiconductors
- Yandex
- Lear
- Visteon
- ステランティス
- トヨタ
- Telenav
- Iteris
- Xperi
- Luminar Technologies
- Velodyne Lidar
- Foresight Automotive
- Innoviz Technology
ルミナーやイノヴィズといった新進気鋭のLiDAR開発企業や、トヨタやGM、ステランティスなどの大手自動車メーカーも組み込まれているようだ。
■【まとめ】自動運転関連市場の本格化はまだまだこれから
2020年以降の株式市場はバブル的要素を含むため注視が必要だが、自動運転関連銘柄が年々着実に市場価値を高めているのも間違いのない事実だ。
スタートアップの株式公開もすでに相次いでいるが、自動運転の実市場が本格化するのはこれからだ。世界各国の法整備が進み、レベル4サービスが次世代モビリティとして本格導入されるであろう数年後にビジネス面でも花を咲かせることになる。
引き続き業界の動向に注目していきたい。
【参考】関連記事としては「「自動運転」に投資!投資信託とETFを紹介、どんな銘柄に投資している?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)