安倍首相肝入り「2020年無人タクシー開始」は本当に実現するのか?

安全性評価、事故責任の所在…課題山積



第17回未来投資会議で発言する安倍首相=出典:首相官邸

政府は2018年6月4日、総理官邸で未来投資会議を開催し、未来投資戦略2018の素案をまとめた。無人自動運転に関しては、2020年をめどに公道での移動サービスを開始し、2030年までに全国100カ所以上で展開する目標を掲げた。

【参考】未来投資会議の内容については、首相官邸公式サイト内の「未来投資会議(第17回)」を参照。
■未来投資戦略2018素案の概要

素案では、自動運転および公共交通全体のスマート化を含む次世代モビリティ・システムの実現に向け、無人自動運転による移動サービスの実現を2020年に、高速道路でのトラックの隊列走行については早ければ2022年の商業化などを目指すこととした。


地域の交通事情に知見がある運行事業者と連携した実証や後続車無人システムの公道実証を2018年度中に開始する方針。これらを制度上可能とするため政府の方針を取りまとめた「自動運転に係る制度整備大綱」に基づき、各分野での必要な法制度の整備を早急に進めることとしている。

【参考】「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・ 官民データ活用推進戦略会議」が2018年4月に発表した「自動運転に係る制度整備大綱」も参照。

公共交通に関しては、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、羽田空港や臨海地域などにおいて、遠隔運行や完全自動運転に向けた最先端の実証が広範囲で可能となるよう、2019年度までに信号情報と車両が通信するインフラや路車間通信などの環境整備を行う。また、公共交通機関における運行情報などを手軽に利活用できるよう、オープンデータを活用したスマートフォンアプリによる情報提供の実証実験を2018年度中に首都圏で実施する。

このほか、まちづくりと公共交通の連携を推進しつつ、自動走行など新技術の活用、まちづくりと連携した効率的な輸送手段、買い物支援・見守りサービス、シェアリングなど移動手段をサービス化するMaaS(Mobility as a Service)などの施策連携により、利用者ニーズに即した新しいモビリティサービスのモデル都市、地域をつくることとしている。


首相官邸で開かれた第17回未来投資会議=出典:首相官邸
■実現するためのハードルは?

素案の中で最も目を引くのが、自動運転レベル4に相当する「無人自動運転による移動サービスの実現」だ。レベル4は、限られた区域内・限られた速度の範囲内など一定の条件下でドライバーなしで走行することが可能となるが、素案の中では「移動サービス」に限定されているため、指定された路線などの範囲内において許認可を得た事業者が無人自動運転車を運行する形になるものと思われる。

【参考】自動運転レベル4の定義については、「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」も参照。

この場合でも、専用道路ではなく一般車両が混在する道路を走行することが予想されるため、実現に向けてはクリアしなければならないハードルがいくつも存在する。例えば、無人自動運転車が満たすべき安全性の基準だ。

AI(人工知能)やLiDAR(ライダー)・カメラなどを備える各社の自動運転システムが、何をどこまで判別できるのか、どのような環境に対応できるのかなど、安全性能について基準を設け評価することが必要になる。


■民事責任や刑事責任の在り方は?

また、道路交通法などは基本的にドライバーがいることを前提に定められているため、無人自動運転車が道交法に違反した場合の責任の所在や免許の在り方なども検討しなければならない。同様に、有事の際における民事責任や刑事責任の在り方なども定める必要がある。

このほか、無人自動運転車が利用するダイナミックマップの規格化や、リアルタイムで周囲の状況などを送受信する通信インフラの整備、サイバーセキュリティリスクへの対応、無人自動運転車と並走する場合における一般車両の注意義務なども検討しなければならない。

ハードルは山積みだが、国際的なイニシアチブを握るという観点から、世界の注目が集まる東京オリンピック・パラリンピックが開催されるタイミングで日本の自動運転技術やインフラを披露することはことのほか重要視されていると思われ、2018年、2019年中にも実用化に向けた法整備やインフラ整備が具現化し、自動運転環境の構築が目に見える形となって表れそうだ。

【参考】関連して、2030年までに国内新車販売台数の3割以上を自動運転レベル3相当の自動運転車にすることなどを盛り込んだ政府の成長戦略の原案については、「年間300万台規模も!? 2030年の自動運転車販売、日本市場で」も参照。

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