VW 中国の自動運転トラック市場を狙う 約3,600億円規模の投資で

VW傘下の商用車大手スカニアが乗り出す



独自動車大手フォルクスワーゲン(Volkswagen)グループが、中国の自動運転トラック市場の開拓に乗り出した。傘下のスウェーデン商用車大手スカニア(Scania)が、日本円で約3,600億円にあたる20億ユーロを投じた中国工場を拠点に、電動化と自動運転輸送の新事業を専門に手がける組織を立ち上げた。スカニアは現地の顧客や技術企業と組み、新たな輸送サービスの発掘から開発、実証までを担う。


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■VW傘下スカニア、中国で自動運転トラックの市場を狙う

独自動車大手フォルクスワーゲン(Volkswagen)傘下のスカニアが中国の自動運転トラック市場の開拓に乗り出した。スカニアは、フォルクスワーゲングループで商用車事業を担う商用車大手TRATON(トレイトン)の子会社だ。スカニアは今回中国で新事業開発組織VNBCを設立し、中国の自動運転トラック市場を狙っている。

VNBCの役割は発掘・開発・実証

VNBCは、戦略的な提携、顧客との協業、新規事業の立ち上げという3つの手段で、中国での新たな事業機会を探る組織だ。スカニアは発表で、提携を通じて技術とビジネスモデルを素早く試し、将来の輸送サービスに必要な知識と経験を積み上げると説明している。

連携先は企業だけではない。中国各地の地方政府や、技術・物流分野の協業先とも幅広く手を組む方針だ。

当初の重点は電動化と自動運転輸送

当初の重点分野は2つ。大型輸送を大きく変える可能性があるエネルギー転換と、自動運転輸送だ。新しい技術を市場に出すための協業関係づくりや、それに必要なビジネスモデルの検討も含まれる。


スカニアでベンチャー・新規事業部門を率いるグスタフ・スンデル上級副社長は、VNBCについて説明する。中国事業の今の成長を支えると同時に、電動化と自動運転が進む輸送の世界でスカニアの立場を強める力を、長い時間をかけて育てる役割だという。

【自動運転ラボの視点】
欧州の商用車大手が中国を「売る市場」から「試す市場」へと位置づけ直した動きだ。自動運転トラックの実用化で先行する中国の現場に入り込み、技術と事業モデルを学ぶ。こうした流れは他の欧州勢にも広がるだろう。

■率いるのは配車大手DiDi出身のケリー・フー氏

VNBCを率いるのはケリー・フー氏だ。スカニア・グループで中国のベンチャー・新規事業を担当する地域責任者に就任した。

フー氏の経歴は、自動車メーカーの生え抜きとは異なる。投資銀行、デジタルの移動サービス、商用車向け技術、新規事業づくりと、幅広い分野で経験を積んできた。DiDiには6年間在籍し、北京オフィスの総経理も務めた。


その後、中国の物流テック企業G7(ジーセブン)で投資業務に携わり、同業のE6(イーシックス)との合併で中心的な役割を果たした。両社はいずれも道路貨物輸送向けのデジタルサービスを手がけ、2022年に合併している。直近は、大型のバッテリー式電動トラックや水素を使う輸送のスタートアップに力を注いでいた。

フー氏は「中国は世界最大のトラック市場の規模と、世界で最も動きの速い技術革新の環境をあわせ持つ」と語る。そのうえで「現地の顧客ニーズから出発し、互いの強みを持ち寄り、市場で試し、実際に商業的な価値を生むものを広げていく」と方針を示した。

スカニア・グループの上級副社長で中国事業を統括するカミラ・デウーン氏も「スカニアの中国での発展は長期的な取り組みだ。中国は商業面でも戦略面でも重要な市場だ」とコメントしている。配車と物流テック、投資の現場を知る人材の起用は、車両を売るだけでなく新しい輸送サービスを生み出したいという狙いの表れと言える。

■実証の舞台は投資額20億ユーロの如皋工場

VNBCが実証の場に据えるのは、江蘇省の南通市と如皋市の一帯だ。スカニアは2025年10月、如皋市に世界で3カ所目となる生産拠点を開いた。

敷地は80万平方メートル、認可された生産能力は年5万台に上る。総投資額は20億ユーロで、現地に約3,000人の雇用を生む。スカニアは、中国で完全子会社のトラック工場に全面的な生産許可を得た初の西側自動車メーカーとなった。工場はバイオガスや認証済みの再生可能電力など、ほぼ再生可能エネルギーだけで稼働する。

スカニアは如皋と上海に研究開発拠点も構える。開所時、スカニアとTRATONのCEOを兼ねるクリスチャン・レヴィン氏は「如皋の拠点は単なる工場ではない。中国のダイナミックな技術革新の一部となり、スカニア自身の発展を後押しする」と語っていた。

中国専用ブランドNEXT ERAとの両輪

如皋工場では、世界共通仕様のスカニア車に加え、中国専用に開発した大型トラックブランドNEXT ERA(ネクストエラ)も生産する。中国の長距離・大量輸送向けのけん引車で、現地の研究開発チームが開発した。TRATONグループ共通のモジュール設計を土台とし、中国で先に導入した技術をのちに世界へ広げられる仕組みだ。

2025年の製品発表会では、販売店が発売記念モデル1,000台をすべて予約した。2026年1月には中国全土で26社の一次販売店と契約し、販売・サービス拠点は100カ所を超えた。スカニア・グループとして初めて中国ブランドを冠した大型トラックで、先進運転支援システムも搭載できる。

生産、販売、開発の基盤はすでに中国にそろっている。VNBCは、その上に新しい事業を積み上げるための組織だ。

中国 自動運転「国家5カ年計画」を発表 世界初の安全重視へ

■中国の5カ年計画が後押しする自動運転トラック市場

VNBC設立の直前、中国政府は自動運転の普及を国家目標として打ち出した。中国工業情報化省や国家発展改革委員会、公安部など9つの政府機関は2026年9月11日、新エネルギー車NEVの2026年から2030年までの政策を定めた「第15次5カ年NEV産業発展計画」を発表している。

2030年に自動運転の大量展開を国家目標に

計画は、高速道路や都市高速、一部の市街地道路での自動運転車の本格普及を2030年までに目指す方針を示した。ただし普及率や台数といった数値目標は設けていない。一方で、商業化の承認には人間のドライバーを大きく上回る安全性能を求める。商用車の新車販売に占める新エネルギー車の比率を2030年までに40%へ高める目標も掲げた。

中国政府は2026年5月、武漢での自動運転タクシーのトラブルを受けて自動運転の新規許可を停止していた。わずか数カ月で、大量展開を掲げる路線へ転じたことになる。スカニアはVNBCと5カ年計画の関係に触れていない。ただ、電動化と自動運転を柱とするVNBCの狙いは、中国の政策の方向と重なる。

自動運転トラックの商用化を急ぐ中国勢

中国では自動運転トラックの商用化がすでに動き出している。中国の自動運転開発大手Pony.ai(ポニーアイ)は、2026年1〜6月の自動運転トラック事業の売上高が前年同期比36.0%増の2,350万ドルとなった。

同社の第4世代の自動運転トラックは予定どおり量産に入った。深圳の媽湾港では、港湾大手の招商局港口(China Merchants Port)と組み、無人の自動運転トラックの商用展開を始めている。今後2〜3年で、第4世代の大型自動運転トラック500〜1,000台を長距離輸送や港湾物流などに投入する見通しだ。

中国勢は欧州へ、スカニアは中国へ

競争の舞台は中国国内にとどまらない。ロイターによると、2026年に欧州市場への参入を計画する中国のトラックメーカーは6社に上る。欧州の老舗メーカーにとって、中国勢は足元の市場を脅かす存在になりつつある。

レヴィンCEOはロイターの取材に対し、中国勢の最大の強みは技術革新から本格的な量産までを素早く広げる力だと指摘している。中国勢が欧州に攻め込む一方で、スカニアは中国の現場に入り込み、その速さを自らのものにしようとしている。

■VWが中国の自動運転トラック市場で狙うもの

スカニア自身も、自動運転トラックの開発を長く続けてきた。2021年からは米自動運転トラック開発企業TuSimple(トゥーシンプル)と組み、スウェーデンのセーデルテリエとヨンショーピングを結ぶ約300キロの高速道路で自動運転の試験を重ねた。2024年3月には、米自動運転技術企業Plus(プラス)の技術を使う自動運転の商用試験プログラムも立ち上げている。ただ、こうした取り組みの舞台は主に欧州だった。

VNBCは、世界最大のトラック市場で中国の顧客や技術企業と直接組み、電動化と自動運転を実地で試す場になる。投資額や個別プロジェクトの時期はまだ明らかにされていない。それでも、年産5万台の工場、中国専用ブランド、新事業の専門組織がそろったことで、スカニアの中国戦略は「つくって売る」段階から「ともに開発する」段階へ移りつつある。

VWグループにとって、中国の自動運転トラック市場は単なる販売先ではない。技術と事業モデルを学び、世界へ持ち帰るための実験場でもある。中国で試した電動化と自動運転の成果が、日本を含む他の市場へどう波及するのか。VNBCの今後の動きは、自動運転トラックをめぐる世界的な競争の行方を占う試金石となるだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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