事業活性化に向け全国ハイヤー・タクシー連合会が発表した「タクシー業界において今後新たに取り組む事項について」が秀逸だ。
これは、事業者が主体となって事業活性化に積極的に取り組むことを目的に国土交通省が発表した「タクシー改革プラン」を受け、同連合会が策定したものだ。11項目の事業活性化案がまとめられており、中にはダイナミックプライシングや相乗りサービス、事前確定運賃、定額運賃など先進的な取り組みが盛り込まれている。
ライドシェアの導入について議論が進む中、業界の存亡をかけて改革を推し進めていく構えで、同連合会の富田昌孝会長は「海外のライドシェアが行っていることで評判の良いものはタクシーで全部やるという気持ちで取り組まれるようお願いしたい」と各会員に呼び掛けている。
また、石井啓一国土交通大臣は2018年2月の会見で同連合会の取り組みについて触れ「11項目の活性化案や訪日外国人向けのアクションプランなど取り組みを推進するため必要な支援をしてまいりたい」と足並みをそろえていく姿勢を見せている。
訪日外国人観光客も年々増加し、交通に対するニーズが多様化している現在、タクシー業界はどのように変わろうとしているのか。11項目の活性化案を一つずつ見ていこう。
記事の目次
■初乗り距離短縮運賃
初乗り距離の短縮とともに初乗り運賃を引き下げることで「ちょい乗り」需要を創出し、利用しやすいタクシーの実現を目指すこととしている。
東京都23区と武蔵野市、三鷹市のタクシーは、2017年1月30日から初乗りの上限運賃を730円(2.0キロまで)から410円(1.052キロまで)に引き下げたところ、2017年末までの11カ月間における1日1車あたりの運送回数は29.5回と前年同期比6.9%増となり、特に走行距離2キロ以下の区分では同20%増の9回を記録し、ちょい乗り効果を裏付ける形となった。
運送収入においても、走行距離2キロ以下の区分では5462円と同1.5%減となったが、全体では4万9902円で同4%の増となり、上々の成果を上げているようだ。
■相乗り運賃(タクシーシェア)
配車アプリを活用して目的地が近い利用者同士をマッチングし、配車した1台のタクシーに複数の乗客が相乗りできるサービスの導入により、割安にタクシーを利用できるサービスを提供して新たな顧客層の開拓を目指すこととしている。
2018年1月22日〜3月11日には、日本交通、大和自動車交通の2グループが東京特別区、武蔵野市、三鷹市で実証実験を行った。
相乗り運賃は各乗客が単独利用した場合の推計運賃を上回らないものとし、各乗客が単独利用した場合の推計走行距離で按分して算出。料金面のメリットなど一定の評価を得たが、マッチングするまでの待ち時間などに課題を残した。
終電後の深夜時間帯の帰宅やイベント時、空港へのアクセスなど一定の需要は見込まれており、周知含め効果的なサービスの構築が求められそうだ。
■事前確定運賃
配車アプリで乗降車地を入力すると、地図上の走行距離・予測時間から運賃を算出し、事前に運賃が確定するサービス。
2017年8月7日〜10月6日に実施した実証実験では7879回の利用があり、確定運賃と実際のメーター運賃の乖離率は約0.6%だった。アンケート調査では約7割が「また利用したい」と回答し、値段が決まっていて安心できる点や初めて行く目的地でも事前に費用がわかる点などが好評を得たようだ。
また、20〜30代の利用者割合が約45%と高く、配車アプリを活用した新サービスは、若年層を中心に新たな顧客層を開拓する効果もうかがえた。
■ダイナミックプライシング
需要と供給などに合わせて価格を変動させるダイナミックプライシングのタクシー運賃への導入を目指すこととしている。
例えば、閑散時に料金を下げて利便性の向上や需要増を図り、繁忙時には料金を上げて営業収入の増加につなげるなど、流動的な運賃体系を構築する。
ただ、運賃は認可制のため柔軟な変更が難しいため、まず迎車料金での実験を検討することとし、2018年度中に実証実験を行う予定となっている。
■定期運賃(乗り放題)タクシー
対象者やエリア、時間帯などを限定して定額でタクシーを利用できるサービスを目指すこととし、2018年度中に実証事件を行う予定となっている。
国土交通省も導入に前向きな姿勢を見せているが、現行の道路運送法にタクシーの定期運賃制度についての記載がないため、社会実験などを経てどのような形で実施するか検討を進めているようだ。
なお、北九州市で営業する三ヶ森タクシーのように、高齢者が希望した運賃の範囲で何回でも利用可能な「高齢者フリーパス券」や、自宅から会社などの決まった区間を何回でも利用できる「定期乗車券」を導入している例もある。
■相互レイティング
配車アプリ上で、利用者からドライバーを、ドライバーから利用者を評価するシステム。乗客が乗務員を評価することで優良ドライバーを選択できるようになり、それがサービスの向上にも繋がる。また、乗務員側も不審な乗客を排除することが可能になる。
■ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)の導入
足腰の弱い高齢者をはじめ車いす使用者、ベビーカー利用の親子連れ、妊娠中の女性など、誰もが利用しやすいUDタクシーの導入を促進している。
「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に基づき制定された「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、2020年度末までにUDタクシー含む福祉タクシーを2万8000台とする目標が掲げられており、2016年度末時点でUDタクシー1048台を含む1万5128台の状況となっている。
UDタクシーは、トヨタ「JPN TAXI」や日産「NV200タクシー ユニバーサルデザイン」「セレナユニバーサル デザインタクシー」などが国土交通省の認定を受けている。
■タクシー全面広告
地域によって制限されているタクシー車体への広告掲載場所の緩和を求めていく。
例えば東京都では4つドアと屋上部分のみ広告掲載が可能となっているが、全面ラッピングタクシーなどの実現により広告収入を増加させ、経営基盤の安定化を図っていく狙いだ。
また、広告に関しては、ソニーグループと都内のタクシー会社5社が人工知能(AI)技術を活用したタクシー関連サービス会社「みんなのタクシー」を設立しており、2018年度中にも後部座席の広告事業などの提供を開始する予定となっている。
【参考】タクシーの広告事業については「ソニー、東京のタクシー5社とAI需要予測や配車サービス みんなのタクシー社、事業会社に移行|自動運転ラボ」も参照。
■第2種免許緩和
若年層や女性ドライバーの増加を目指し、第2種免許取得資格の緩和を求めていく。
テレマティクス活用による常時運行管理などICTを活用することにより安全面を強化し、現行の2種免許取得資格年齢21歳を19歳に、要経験年数3年を1年に、それぞれ緩和を求めていく。
■訪日外国人などの富裕層の需要に対応するためのサービス
増加する訪日外国人などの富裕層の需要に対応するため、高級車両や一定水準の接遇ができる乗務員によるサービスの充実を図っていく。
具体的には、ハイグレード車両の提供、語学研修・接遇研修を修了した乗務員の配備、ICTを活用した配車予約・乗務員評価の実施、Wi-Fi設備の配備、多言語対応タブレットの設置、空港や鉄道駅の専用乗り場、付加価値に見合った運賃料金設定などを実施し、訪日外国人の新しい需要の取り込みや日本滞在期間の快適度・満足度の向上を図ることとしている。
一例として、京都市で営業する訪日外国人向けタクシー「フォーリンフレンドリータクシー」は、大型スーツケースが2個以上搭載でき、各種クレジットカードや交通系ICカードが利用可能な車両を配備し、乗務員は外国語や接遇研修を受講するなどサービスの強化に取り組んでいるという。
■乗合タクシー(交通不便地域対策・高齢者対応・観光型など)
過疎地域などにおける生活交通の確保を進めていく。
乗合タクシーは、主にバスが運行できない過疎地域や空港と周辺市町村を結ぶ空港型、地域の観光スポットを効率よく周遊する観光型、マイカーが利用できない高齢者などに対応する福祉型などがあり、2015年3月末時点で全国に3798コースが設定されているという。
今後、乗合タクシー事例集を活用して地方自治体への発信と連携の強化を図り、またIT活用による効率化を進めていくこととしている。
■業界を挙げての改革、着実に前に
すでに導入されたものや実証実験が進められているものもあり、現実的な需要に向き合って利用者の満足度を向上させ、経営基盤の強化につなげていく良策が多い。
制度改正が必要な項目についても、所管する国土交通省が前向きに取り組んでいく構えを見せており、タクシー業界にとっては心強い限りだろう。
海外で猛威を振るうライドシェアに対し、反対するばかりでは状況は何も変わらない。仮にライドシェアが解禁されても、真っ向から勝負できる体制を整え、利用者に選ばれる業界になることが肝要であることは言うまでもない。
業界を挙げての改革が今、着実に歩みを進めている。
ソニー、AI需要予測でタクシー業界にイノベーション 事業化へ船出、配車サービスや決済代行、広告事業も|自動運転ラボ https://t.co/hjvAnZ3dMQ @jidountenlab #AI需要予測 #ソニーとタクシー #新サービス
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 9, 2018