船の自動運転技術開発を行うスタートアップである株式会社エイトノット(本社:大阪府堺市/代表取締役:木村裕人)の第3期(2023年3月〜2024年2月)決算公告が、官報に掲載されている。
当期純損失は前期比24%増の1億1,920万円であった。過去3期の純損益の推移は、以下の通りとなっている。損失増は2期連続だ。
<純損益の推移>
・第1期:▲5,253万7,000円
・第2期:▲9,605万7,000円
・第3期:▲1億1,920万3,000円
※▲はマイナス
【参考】関連記事としては「自動運転船に挑戦中のエイトノット、純損失82%増の9,600万円」も参照。
記事の目次
■第3期決算概要(2024年2月29日現在)
賃借対照表の要旨(単位:千円)
▼資産の部
流動資産 91,823
固定資産 8,033
資産の部合計 99,856
▼負債及び純資産の部
流動負債 27,651
固定負債 16,549
株主資本 55,656
・資本金 163,152
・資本剰余金 160,302
・・資本準備金 160,302
・利益剰余金 △267,798
・・その他利益剰余金 △267,798
・・(うち当期純損失)(119,203)
負債及び純資産の部合計 99,856
■小型船舶向け「AIキャプテン」を開発
2021年設立のエイトノットは「あらゆる水上モビリティを自律化し海に道をつくる」をミッションに、小型船舶向け自律航行技術開発を中心に「海のDX」と「船舶のロボット化」を推進し、社会課題の解決と海起点の新たな経済圏の創出を目指している。
ロボティクスとAI(人工知能)をコアとして、操船制御や物体認識、ルート生成などの船舶の自律航行に必要な要素技術を保有している。ソフトウェアからハードウェアまで船舶の自律航行に必要な技術をワンストップで開発可能な体制を構築しており、自律航行技術を活用しパートナーとの共創を通じて社会課題の解決を目標にしているという。
自社開発の「エイトノットAIキャプテン」は、全自動で安全航行を実現する小型船舶向け自律航行プラットフォームだ。目的地を選ぶだけでAIが最適なルートを設定し、障害物や他船をセンサーで検出。安全に回避しながら目的まで航行すること実現する。慎重な操船が必要な離岸や着岸も全て自動で行うことができる。
このソリューションは、障害物や他船の見落としのほか、乗組員の操船技術不足、運航海域の知識豊富な乗組員の不足といった状況に寄与することができる。
■国交省による「自動運航船検討会」にも参画
エイトノットは、瀬戸内海の事業者が運航するサイクリスト向け海上タクシーへAIキャプテンを導入したことを2024年3月に発表した。同社以外の船舶への搭載事例としては2例目、観光用途の船舶への搭載は初のこととなった。
自律航行システムを搭載することで暗い時間帯でも安全に航行できることから、通常の海上タクシーサービスに加えて、新たにサンセットクルーズというサービスの提供も可能になったという。
同年5月には、小型船舶の一般的な推進機である船外機エンジンに対応したAIキャプテンの提供をスタートした。これにより、さらに多くの船舶に自律航行システムの導入が可能となる。また7月には、国土交通省主催の自動運航船の本格的な商用運航の実現に向けた制度作りを目的とした「自動運航船検討会」に、構成員として選定されたことを発表した。
■小型船舶自動化で代表的企業になるか!?
順調に船の自動化の開発・社会実装を進めるエイトノットは、資金調達面も好調だ。2021年4月にプレシードラウンドにおける資金調達を実施したことを皮切りに、2022年2月にシードラウンド1stとして1億円の資金調達を行ったことを発表した。同年12月には地域に根ざした活動を強化するため、地域金融機関より資金調達を実施したことを発表した。
2023年7月にプレシリーズAファーストクローズを完了し、総額1.1億円の資金調達を完了した。これにより累計調達額は2.9億円になった。2024年1月付でも資金調達を実施、プレシリーズAにおける累計調達額は1.6億円となった。
船の自動化に取り組む企業は、クルマの自動運転技術を開発する企業より圧倒的に数が少ない。国内では、日本郵船や商船三井、川崎汽船などの海運大手がほとんどだ。海外では、ロールス・ロイスの船舶部門が大型船舶の自律航行技術の開発に取り組んでいる。
創業3年のスタートアップであるエイトノットは、小型船舶に特化した自律航行技術の開発を行っている。この分野はヤンマーなど大手も取り組んでいるが、エイトノットの技術の社会実装は今後ますます進んでいきそうだ。
※官報に掲載された決算公告に関する記事は「自動運転・MaaS企業 決算まとめ」から閲覧頂くことが可能です。
【参考】関連記事としては「AIが観光船を操縦!エイトノットが発表、自律航行技術を導入」も参照。