トヨタ、一部車種で車外画像データを収集 自動運転技術で活用

車両オーナーから同意を得て運用



自動運転開発に欠かせない車載センサーデータの収集に、トヨタも本腰を入れ始めたようだ。高度なADAS(先進運転支援システム)を搭載したオーナーカーを対象に、車外画像データを収集する取り組みを進めている。


この記事では、トヨタによる車外画像データをはじめとしたデータ収集・活用に関する取り組みに迫る。

■トヨタのデータ収集に関する取り組み
対象車種は?

トヨタブランドでは、高度運転支援技術「Toyota Teammate」の機能の1つである「Advanced Drive」を搭載した車両が対象となっている。具体的には、MIRAIのうちAdvanced Drive機能を搭載したグレードが対象となっている。

なお、トヨタは2022年1月発売の新型ノア・ヴォクシーに、高度運転支援技術「トヨタチームメイト」の新機能として「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」を搭載している。公式サイトではカタカナ表記となっているが、「Advanced Drive=アドバンストドライブ」だ。

ノア・ヴォクシーは時速40キロ以下を作動条件とする「渋滞時支援」にとどめているところが相違点となるが、今のところ「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」におけるデータ収集の記載は見当たらない。


レクサスブランドでは、2021年10月以降にモデルチェンジした車両で「Lexus Safety System +」を搭載したものが対象となる。例えば、「Lexus Teammate」の機能の1つとして「Advanced Drive」を搭載した新型LSが相当する。

アドバンストドライブ(渋滞時支援)搭載車両など、今後データ収集の対象車種を拡大する可能性は十分考えられそうだ。

どんなデータを収集するの?

トヨタは、ADASで活用されているセンサーが取得した車外画像データを収集している。収集は常時ではなく、一定の衝突や衝突に近い状態などが発生した際(前後数秒間~約2分間)と、エンジン始動後の一定のタイミング(前後数秒間)に限りサーバーに送信するという。

一方、レクサスは上記に加え、渋滞や悪路、悪天候といった特定の交通環境にある道路を走行している場合と、新しく開通した道路や拡張された道路などを走行している場合にもデータを取得する。


なお、LS500hの「Lexus Teammate Advanced Drive取扱説明書」には、ハイブリッドシステム始動後、一定のタイミングでシステムの作動状況やセンサーが検知した情報、カメラの画像情報、位置情報を記録するほか、走行中は走行距離や車速、アクセル開度を常時記録し、通信モジュール(DCM)を使って取得するとしている。

何に使うの?

交通事故死傷者を少しでも減少させるため、自動運転・先進安全・地図関連技術の研究開発目的で取得し、利用する。

画像データは、ドライバーが危険回避行動を行った際や、自動運転・先進安全システムが作動した走行環境を把握するために大変有益で、車両制御ソフトウェアの認知・判断などの機能をいっそう向上させ、より安全かつ便利な自動運転・先進安全システムの開発につなげることが可能だという。

レクサスは、上記に加え事故解析や故障診断、事故解決のための協議、オーナー対応に使用することもあるとしている。

実際の利用においては、自動運転などの開発担当者が車外画像データや車外画像データを読み込ませたAIの学習結果にアクセスして活用する。

セキュリティ対策は万全?

社内においても車外画像データの利用にアクセス権を設定しており、開発担当者が利用する際も厳密に管理している。

車外画像データの不正なデータ利用や持出し、漏洩を防止するため、取り扱いルールやその他の社内規則に基づいて社内管理を徹底するとともに、情報セキュリティ管理主管部が不正なデータアクセスや持出しなどを常時監視し、不正利用がないことを定期的に確認している。画像データへのアクセスログも記録しており、いつ誰がどのデータにアクセスしたかを検証可能にしている。

データの保存期間に関しては、10年程度を予定しているようだ。各車両は長期間利用されるため、その期間にわたって自動運転・先進安全システムのための車両制御ソフトウェアの安全性や品質の検証に車外画像データが必要になる場合がある。このため、取得から10年程度は画像データを保存することを予定している。

なお、期間内であってもデータを利用しないと判断した場合は、速やかに画像データを削除する方針だ。

外部からのサイバー攻撃対策としては、「オールトヨタセキュリティガイドライン」に基づき、専門チームが情報収集・監視を行うなどセキュリティ対策の維持と継続的な向上に努めている。

オーナーからの許可は?

対象車両を利用するオーナーには、Advanced Driveに必要な通信サービス「T-Connect」の契約時、契約とは別途車外画像データの取り扱いなどを説明する書面を用意しており、同意を得て運用している。

プライバシーへの配慮は?

車外画像データという性質上、ドライバーをはじめとした車内の乗員の会話などは収集されていない。一方、画像に映り込んでいる人の個人情報保護やプライバシー尊重に向けては、トヨタ内で適切なデータガバナンスやセキュリティ体制の確立、車外画像データの管理を徹底している。

映り込んだ人や車のナンバープレート、表札などについては、AIによる学習利用のためぼかし処置のない状態で保存して活用しているが、画像による検索が可能な状態では保管していない。

セキュリティ対策は?

車外画像データの取扱いルールは、トヨタ自動車社内だけではなく、社外の有識者の方々(学者、弁護士、消費者団体等)にご意見をいただきながら、法律、政策動向への配慮のみならず、車外画像データの取扱いが社会に受け入れられるよう確認し、制定したものです。
この取扱いルールについては、今後、必要に応じて見直していきます

外部への提供は?

自動運転・先進安全システムの研究開発のため、車外画像データを業務委託先に提供する場合がある。提供にあたっては、提供先との間で適切なデータ管理に関する契約を締結し、セキュリティ対策や取り扱い状況の定期管理を行う。

また、裁判所が発する令状による要請など、警察や裁判所、政府機関などから強制力を伴う法的な要請に対応するほか、データを提供しているオーナー(契約者)の要望に基づき提供する場合がある。

■車外画像データをめぐる動向

自動運転開発に必須と言える車外画像データだが、その取り扱いにはプライバシーに関する問題が付きまとう。海外、特に欧州ではドライブレコーダーによる個人の録画さえ禁止している国もあるほどだ。フランスなども個人的な利用に限りドラレコの利用が認められており、映像の一般公開は禁止されているようだ。

日本は比較的緩い方だが、それでも自動運転開発に向け画像データを収集する場合、プライバシーポリシーにのっとりデータの取り扱いに関する事項を公表することが多い。車両オーナーの同意と、第三者のプライバシー保護に向けた取り組みがやはり重要となるようだ。

なお、車両制御に関するプローブ情報などは、コネクテッドサービスの一環としてすでに収集・活用が浸透している。コネクテッドカーが実際に走行した道路の情報を収集し、各道路の通行可否を地図上にまとめたサービス「通れた道マップ」や、路面の劣化状態を分析し道路の効率的な保守点検に活用するサービスなどが挙げられる。

自動運転開発はもちろん、道路交通に関するさまざまな課題解決やサービスの向上において、各種データの有効活用は非常に重要なのだ。

■【まとめ】オーナーカーからのデータ収集はスタンダードな存在に?

データ収集において、台数が多いオーナーカーの活用は非常に有用だ。個人情報やプライバシーの問題も置き去りにはできないが、必要以上に過敏にならず、社会全体でデータの有効活用を後押ししたいところだ。

オーナーカーのコネクテッド化も進み始めており、今後こうした取り組みがスタンダードなものとなっていくのか、要注目だ。

▼車外画像データの収集活用についてのご質問|トヨタ
https://faq.toyota.jp/category/show/515
▼車外画像データ利用の背景や目的について|トヨタ
https://lexus.jp/technology/faq/

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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