「パブリック・アクセプタンス」という言葉をご存じだろうか。住民の理解や合意を得ることを指す言葉で、直訳すると「社会受容性」となる。空港やごみ処理場といった社会的影響が多い施設を建設する際などに、周辺住民らの理解を事前に得るために用いられることが多い。
この社会受容性が現在、最も強く求められている分野の一つが自動運転だ。交通環境を一変させるほどの可能性を持つ自動運転は、一定の地域のみならず、すべての地域に波及するものであるため、大げさに言えば全国民の理解を得る必要がある。
■未知の技術を既知の技術に
ではなぜ、自動運転の実現に際し社会受容性を醸成させなければならないのか。
最大の理由は、未知の技術に対する不安の払しょくだ。AI(人工知能)が脳となり、カメラやLiDAR(ライダー)などのセンサー類が目の役割を担う自動運転システムが、人間に代わって自動車を制御することになる。つまり、運転操作がコンピューター任せとなり、コンピューターシステムに命を預けることになるのだ。
御存知の通り、自動車の運転は一歩間違えれば命に関わるもので、2018年中にも交通事故により3532人の命が失われている。運転には大きな責任がつきまとうのだ。
この責任をシステムに預けることに対する漠然とした不安は、そう簡単には払しょくできない。自動運転は、交通システムの効率化と事故減少に大きく寄与する技術として早期導入への期待が高まっており、総体として人間の手による運転操作より安全性が飛躍的に高まるとされているが、人間の心理は単純には納得してくれない。
未知の技術を既知の技術とし、その安全性を広く認知してもらわなければ、自動運転はいつまでたっても本格導入・普及しない。実証実験を実施するうえでも障壁となりうるため、開発スピードも減速しかねないのだ。
■社会受容性向上にはモニター調査が有用
では、社会受容性はどのように高めていくのか。セミナーや住民説明会の開催をはじめ、技術や将来的なビジョンなどの積極的な広報、実証実験をより公開した形で開くなど、さまざまな取り組みが行われているが、これらの中で特に効果が高いと思われるのが「モニター調査」だ。
実証実験などの際に乗車モニターを募集し、地域住民や観光客らに実際に自動運転を体験してもらうことで、自動運転技術に直に触れた生の声を聞くことができる。モニターには、自動運転に期待する人や好奇心旺盛な人、懐疑的な人など、さまざまな考えの人が参加するが、自動運転を実際に体験することで先入観が姿を消し、経験としての実直な感想を集めることができるのだ。
モニター調査においては、長野県伊那市長谷の道の駅「南アルプスむら長谷」で2018年2月に国土交通省が実施した自動運転バスの実証実験のアンケート結果が興味深い。
同アンケートは自動運転車に乗車した地域住民を対象に乗車前後それぞれで実施しており、体験前と体験後の感想がそのまま反映されている。これによると、自動運転車両の公共交通導入に関し、「賛成」が乗車前42%から乗車後46%に増加したほか、「どちらかと言えば賛成」が17%から23%へ、「どちらとも言えない」が36%から26%へ、「どちらかと言えば反対」が3%から5%へ、「反対」が増減なしの1%という結果になった。
どちらかと言えば反対が2%増加しているものの、全体としては賛成側が増加しており、社会受容性は間違いなく高まっていると言える。さらに、実証ゆえモニターが感じた不満や不安を次回に向けた課題とし、改善する余地が生まれるのだ。
【参考】伊那市長谷の道の駅でのアンケート結果については「長野で実施の自動運転バス実験、反対住民わずか1% 自動運転レベル2、自動運転レベル4で走行」も参照。
■国を挙げてモニター参加型の実証実験を
経済産業省と国土交通省が設置した自動走行ビジネス検討会が2019年6月に発表した「自動走行の実現に向けた取組報告と方針」の中でも、社会受容性について「自動走行の効用とリスクを示した上で、国民のニーズに即したシステム開発を進め、社会実装に必要な環境の整備を目指す」「その実現に向け、自動走行の効用を提示、普及の前提となる責任論を整理し、状況を継続的に発信する」方針を出しており、市民利用者受容性醸成イベントの開催などを掲げている。
社会受容性の向上とともに技術やサービスの改善にもつなげることができるモニター調査は、ぜひとも国を挙げて積極的に取り組んでもらいたい手法だ。国主導のもと多くの自治体が協力し、官民一体となってモニターを交えた実証実験に力を入れてもらいたい。
また、そういった貴重な機会を見つけたら、ぜひとも参加し、自動運転に対する生の声を寄せてもらいたい。
実証実験の運営・管理、コーディネートなどを幅広く全国でサポートしているエイジェックマーケティングリサーチ社は、実証実験とパブリック・アクセプタンスについて「実際に自動運転を待ち望んでいる方にモニターとして参加して頂く工夫が必要です。特に、地方の老人施設や病院に出向いての実証実験は効果的かと思われます。また、交通安全協会と連携し交通安全教室に帯同するのも安全面アピールで意味があるとも思われます」と語っている。
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>>自動運転のアクセプタンス(受容性)向上の鍵は「モニター参加」にあり(特集:自動運転の進化、鍵は実証実験!第4回)
【参考】自動走行ビジネス検討会の「自動走行の実現に向けた取組報告と方針」については「自動運転実現へ、企業単独では難しい10分野と国の取組方針まとめ」も参照。