ベロダインライダー(Velodyne LiDAR)を徹底解説! 「自動運転の目」で世界大手

フォード・百度・ニコンなどが出資

B!
出典:Velodyne LiDAR社プレスリリース

自動運転において「目」の役割を担う重要なセンサーの一つ「LiDAR(ライダー)」。その開発を手掛ける代名詞的存在が米シリコンバレーを本拠地とするVelodyne LiDAR(ベロダイン・ライダー)だ。

まもなく市販車への実用化が本格化する今、業界のリーディング企業はどのような戦略でシェア獲得競争を勝ち抜こうとしているのか。同社のLiDAR戦略を紐解いてみよう。

■そもそもLiDARとは?

LiDARは「Light Detection and Ranging」の略語で「ライダー」と読む。「レーザーレーダー」や「赤外線レーザースキャナー」と言われることもある。

光を使ったリモートセンシング技術を用いて物体検知や対象物までの距離を計測することが主な役割で、レーザー光を照射し、それが物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、物体までの距離や方向を測定する。技法はレーダーに類似しており、レーダーの電波を光に置き換えたものとも言える。

また、LiDARは3次元(3D)観測が可能で、従来の電波を用いたレーダーに比べて「光束密度」が高く、短い波長を用いることでより正確な検出ができる。レーザー光を受けた物体の情報を点状に集めて画像化することができ、三次元マッピングとイメージ処理技術により自動運転の分野において「目」の役割を果たすセンサーとして注目されている。

■ベロダインライダーの企業概要と取り組み
始まりは1983年、シリコンバレーで

Velodyne LiDARは1983年、エンジニアのDavid Hall(デビッド・ホール)氏がサブウーファー技術を開発するオーディオ会社として米シリコンバレーを拠点に設立したのが始まりだ。

開発意欲が高いホール氏は、オーディオ製品の開発にとどまらず他分野への進出にも積極的で、2011年にヨットやフェリーのプラットフォーム開発などを手掛ける海洋部門「Velodyne marine」、2015年にLiDAR開発を手掛ける「Velodyne LiDAR」をそれぞれ設立している。

LiDAR開発は、米国防総省高等研究計画局(DARPA)が実施する無人運転によるロボットカーレース「DARPAグランド・チャレンジ」にホール氏が参加したことをきっかけに始まったようだ。2005年の同レースに出場した際、既存のLiDAR技術に足りない部分を認識し、本格的に開発に着手。同年、ソリッドステートハイブリッドLiDARセンサー(HDL-64)を発表し、特許の取得などを経て2006~2007年には同社初となるLiDAR製品の出荷を開始した。

LiDAR開発におけるリーディング企業に

以降、自動運転分野におけるLiDARの注目度は一気に増し、大手サプライヤーらがLiDAR開発に本腰を入れ、多くのスタートアップが新規参入するなど開発競争に火が付き、同社がLiDAR開発におけるリーディング企業に位置付けられるようになる。

また、開発競争の激化とともに高性能化や低価格化が劇的に進んでいる。2010年ごろ、グーグルの自動運転試験車両に搭載されたベロダイン製のハイエンドモデルのLiDARは1基7万5000ドル(約800万円)とも言われており、量産車向けの生産体制と高品質化が大きなカギとなった。

その後エントリーモデルの価格は数十万円程度に下がり、近年では100ドル~200ドルを目安に開発を進める企業が多いようだ。ベロダインも2016年に米自動車メーカー大手のフォードと中国のIT大手の百度から(バイドゥ)から1億5000万ドル(約165億円)の共同出資を受け、製造コストの削減や製造規模の拡大に取り組むなど力を入れており、ソリッドステート型の安価モデルの開発を進めている。

ニコンが出資、新たな製品や技術開発へ

近々では、2018年12月に光学機器メーカーのニコンが2500万ドル(約28億円)の出資を実施したことを明らかにしている。自社の光学・精密技術をベロダインのLiDAR技術と融合させ、新たな製品や技術開発を進めていくようだ。

ベロダインは株式非上場で、基本的に巨額出資を受けないスタンスを続けてきたようだが、分社化後は大きな変化をうかがわせている。LiDAR市場にかける思いは相当強いようだ。

【参考】ニコンの出資については「ニコン、米Velodyne LiDARに28億円出資 自動運転の「目」に一眼レフ技術」も参照。

■ベロダインライダーのLiDAR製品
HDL-32E:小型軽量のスタンダードモデル

一定の性能と小型軽量化を両立させたモデルで、32個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野は40度となっている。測定距離は80~100メートルで誤差2センチほど、1秒当たり最大約139万ポイントの測定ができる。

直径5.7センチ、高さ3.4センチの円筒形で堅牢性を確保しており、重量は1キログラム。自動運転をはじめ3Dモバイルマッピング、その他のアプリケーションに対応できる。

HDL-64E:64個のセンサー備えた高機能モデル

自動運転をはじめ船舶の障害物検出などにも使用可能な高機能モデルで、64個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野は26.9度、角度分解能は0.08度、垂直方向の解像度約0.4度となっている。測定距離は120メートルで誤差2センチほど、1秒当たり最大約220万ポイントの測定ができる。

幅20.3センチ、高さ28.4センチで堅牢性を確保しており、重量は15キログラム。最も要求の厳しい認識アプリケーションや3Dモバイルデータの収集、マッピングアプリケーションにも対応できるという。

Puck(VLP-16):費用対効果の高いエントリーモデル

小型・軽量化を図ったエントリーモデルのような位置付けで、16個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野は20度となっている。測定距離は約100メートルで誤差3センチほど、1秒当たり最大約30万ポイントの測定ができる。

直径10.4センチ、高さ7.2センチの円筒形で重量は830グラム。自動運転をはじめ3Dモバイルマッピング、その他のアプリケーションに対応できる。

重量590グラムで同等の性能を持つ軽量バージョン「Puck LITE」も用意されている。

ULTRA Puck(VLP-32C):多用途に利用できるオーソドックスモデル

自動運転やADAS(先進運転支援システム)に対応した小型・高解像度を実現したLiDARイメージングユニットで、32個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野角は40度、垂直解像度は同クラス最高の0.33度となっている。

測定距離は200メートルをカバーし、1秒間に120万ポイントの測定ができる。各センサーが個別に校正を行っており、誤差も小さく優れた測距データを得ることができる。直径10.33センチ、高さ8.69センチの円筒形で、重量は890グラム。

ALPHA Puck(VLS-128):自動運転レベル4~5に対応した高機能モデル

自動運転やADAS(先進運転支援システム)に対応した高性能モデルで、128個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野角は40度、解像度は同社の既製品の中で最も高い0.2度×0.1度の密度を誇る。

測定距離は300メートルに及び、1秒間に240万ポイントもの測定ができる。各センサーが個別に校正を行っており、誤差も小さく優れた測距データを得ることができる。直径16.58センチ、高さ13.83センチの円筒形で、重量は3.5キログラム。

VelaDome:超広角の近距離新モデル

2019年1月に発表されたばかりのモデルで、東京ビッグサイトで同月に開催された「第2回自動運転EXPO」でも披露された最新製品。水平・垂直視野角がそれぞれ180度と半球型の視野を誇り、測定距離0.1〜30メートルの超広角モデルで、歩行者や自転車、死角の検知などに最適な近距離タイプだ。

コンパクトな埋め込み型で、さまざまな取り付け方法が可能。特許取得済みのMicro Lidar Array(MLA)テクノロジーを搭載している。

Velarray:2020年量産開始予定の次世代コンパクトモデル

VelaDome同様発表されたばかりの新製品で、非回転型の長距離タイプ。測定距離は約200メートルで、水平視野角120度、垂直視野角35度、サイズは70×170×75ミリで、バンパーに埋め込むなど様々な取り付け方法が可能となっている。

昼夜を問わずしっかりとした指向性のあるイメージを作り出すことができ、クラス最高の範囲と分解能により、高速道路での物体識別などが速くなり、制動距離が長くなるという。2020年の量産開始を予定している。

また、Velarrayを基盤とする画期的な先進運転支援ソリューションとして、LiDARアシスタント「Vella」も発表している。レーンキーピングアシスト(LKA)や自動緊急ブレーキ(AEB)、アダプティブクルーズコントロール(ACC)などのADASについて、カメラやレーダーを利用する既存のものよりはるかに優れ、現在市場に出回っている機能に革命をもたらすとしている。

■シェア争いが本格化する2020年へ

ハイエンドモデルから数百ドル程度のエントリーモデルまで、ラインナップの充実を図るベロダイン。フォード、バイドゥ、ニコンといった企業からの出資や協力をもとに、量産体制の充実やいっそうの高機能化を図っていく構えだ。

LiDARはこれまで自動運転開発車両への搭載がメインだったが、自動運転レベル3の登場とともに飛躍的に需要が増すとみられる。2020年までに日本をはじめ世界各地でレベル3を搭載した市販車両がデビューする見込みで、量産化や自動車メーカーの囲い込みといった下地作りは今まさに正念場を迎えている。

自動車メーカーと密接なつながりを持つ仏ヴァレオや独ボッシュ、日本のデンソーといった大手総合部品メーカーをはじめ、さまざまな技術を手に次々と誕生するスタートアップがライバルとなるベロダイン。リーディング企業としての優位性を発揮し、シェア獲得競争の初戦をどのように勝ち取るのか。主導権をかけた争いはもう始まっている。

B!
関連記事