自動運転化でタクシー台数はV字回復!?ラッピング広告に商機

車内はデジタルサイネージが有望か

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人口減社会の到来とモビリティ革命によって事業構造改革が必須となっているタクシー業界。車両台数は微減傾向が続いており、配車アプリや事前確定運賃の導入、MaaSへの積極参加など、次世代に向けたさまざまな取り組みを加速している。

一方、モビリティ業界では自動運転技術の開発が進み、米国や中国などで自動運転タクシーが実用化の段階に達している。完全無人化やエリアの拡大、フレキシブルなサービス対応など課題はまだまだ山積みしているものの、解決は時間の問題と言えるだろう。

改革を迫られているタクシー業界だが、ここに自動運転技術が導入された場合、事業構造は激変し、市場に投入される車両台数もV字回復を遂げると言われている。付随してタクシー広告にも注目が寄せられ、車内向けのデジタルサイネージをはじめ、外向けのラッピング広告なども再注目を集めそうだ。

今回は、タクシー業界の現状をはじめ自動運転技術導入によるインパクト、タクシー広告への波及についてまとめた。

■タクシー台数の現状
タクシー台数は都内横ばい、地方減少傾向に

国土交通省の調べによると、平成以降の国内の法人タクシー車両数は1989年度に20万3227台で、その後緩やかに増加を続け、2007年度にピークとなる22万2522台を記録した。リーマンショックの影響もあってその後は減少傾向が続いており、2018年度は18万4188台とピーク時と比較して17.2%減少している。

規制緩和や景気の影響などがタクシー台数増減の大きな要因となっているが、人口減少社会を迎えた今、地域間格差も拡大傾向にあるようだ。

運転者数や輸送人員数も減少傾向

事業者数は、長らく横ばいが続いていた法人が2003年ごろを境に右肩上がりに転じ、2008年度の8048社から2019年度には1万6714社に倍増している。要因は福祉輸送限定事業者の増加と見られ、2019年度の事業者数のうち従来のタクシー事業者は6082社、福祉輸送限定事業者は1万632社に達している。一方、個人タクシー事業者数は車両数と同数であり、一貫して減少傾向が続いている。

法人における運転者数は、2005年度の38万1943人をピークに減少が続いており、2018年度は27万3126人とピーク時から28.5%も減少している。

全国ハイヤー・タクシー連合会が取りまとめたレポート「TAXI TODAY in japan 2020」によると、タクシーの輸送人員や営業収入も平成以降微減傾向が続いており、2018年度の営業収入は1兆5700億円、輸送人員は13億9100万人で、1日あたり1台16.5人を輸送している計算だ。

■自動運転化でタクシーは増える!?
改革を迫られるタクシー業界

タクシー台数は、大都市圏では車両数を維持しているものの、地方で減少傾向が続いていることが分かった。国内人口の減少が続く中、タクシー台数も微減傾向が続く可能性が高そうだ。

経営環境面では、道路運送法などのもと、タクシー業界は運賃規制などさまざまな規制で縛られている一方、2002年に新規参入を容易にする規制緩和策の導入、2009年には供給過剰地域におけるサービスや事業経営の活性化・効率化策などを盛り込んだタクシー適正化・活性化法が施行されるなど、取り巻く環境の変化に左右されつつも硬直化した構造が早くから問題視されてきた。

国や業界を挙げて労働環境の改善を図る取り組みが継続して進められており、男性タクシー運転者の月間労働時間は2011年度以降200時間を割り、2019年度は195時間となっている。なお、全産業における男性労働者の平均は同178時間となっている。

一方、年間賃金水準は2012年度以降上昇傾向にあり、2019年度は約360万円に達しているが、全産業平均の約561万円と比較すると依然格差があるのが現状のようだ。

事前確定運賃の導入など20項目の改革着手へ

業界の改革が必須とされる中、全国ハイヤー・タクシー連合会は2016年、タクシーサービスの更なる高度化に向けタクシー業界において今後新たに取り組む事項をまとめた。項目は以下の全11項目だ。

事前確定運賃の導入がすでに認可されているほか、ダイナミックプライシングや相乗りタクシーなど導入に向けた実証も進められており、着実に業界の改革は進展している。

また、同連合会は2019年6月にも9つの追加項目を取りまとめており、改革に向けた本気度をうかがわせる内容となっている。

【参考】タクシー改革11案については「日本のタクシー業界、改革へ11案策定 ダイナミックプライシングや相乗りサービス」も参照。タクシー業界の改革については「タクシー2.0時代、20の革新 自動運転やMaaSも視野」も参照。

労働集約産業の構造を自動運転が大幅に改善する

さまざまな観点から業界改革に向けた取り組みが進められているが、今後自動運転技術の実用化が始まり、タクシーの無人化技術が導入された場合、そのインパクトはどれほどのものか。

「ハイヤー・タクシー年鑑2020」によると、2016年度におけるタクシー事業の原価構成は、総人件費が73.3%を占め、その他経費12.6%、燃料費6.1%、保険料3.0%、車両修繕費2.4%、車両償却費1.8%と続く。

労働集約型の代表例と言えるほど人件費が占める割合が大きいのがよくわかる。この構造を改善するためには、車両1台あたりの収益性を大幅に増加させるしかない。人件費を削れば運行するタクシー台数も比例して下がる構造だからだ。

しかし、ここに無人走行が可能な自動運転技術を導入することで、収益を確保しながら人件費を大幅に削減することが可能になる。自動運転タクシーがドライバーレスで運行するからだ。

その分、車両償却費や維持費などが増大する可能性も高いが、コンサルティング大手のアーサー・ディ・リトル・ジャパンが発表した「モビリティサービスの事業性分析(詳細版)」によると、車両関連コストを従来の10倍程度と見積もっても、営業収益は平均的なタクシー事業の1%から26%へと大幅に改善し、車両1台あたりの損益分岐点は、1日あたりの輸送人員15.6人から11.5人に減少し、収益化を見込みやすくなるとしている。

自動運転技術の導入により、業界の収益構造が劇的に変化するのだ。損益分岐点からみる輸送人員の減少は、都市部に比べ利用者が少ない地方においてもタクシー事業を成立させやすいものに変える。また、収益性の向上から低料金化を推し進めることで、他の公共交通と料金面でも競争しやすくなる。

自動運転化されたバスの低料金化も進みそうだが、柔軟なラストワンマイルを可能にする自動運転タクシーの利便性を踏まえた価格優位性が生まれるのだ。

また、自家用車も保有から利用への流れが進行し、MaaSへの期待が高まることが予想されるが、フレキシブルな移動が可能なタクシーは、自家用車の代替移動手段として第一候補に挙げられ、低料金化と相まって需要が急増する可能性が高い。

ビジネスとして成立しやすい収益構造の変化はそのまま導入台数に反映され、各地でタクシーの台数が増加に転じ、V字回復していくものと思われる。これが自動運転のインパクトだ。

【参考】アーサー・ディ・リトル・ジャパンの資料については「【資料解説】タクシー、自動運転化で「営業収益が25%向上」」も参照。

■タクシー広告市場は伸び、特にラッピング広告は「外向け」に有望

自動運転化に伴うタクシー台数の増加は、タクシー広告市場の見直しにもつながる。近年、キャッシュレス決済などのデジタル化を機にタクシー車内へのタブレットの導入が進み、こうした機器を活用したデジタルサイネージ広告に注目が集まっているが、車内ステッカーやウィンドウ広告、行灯(あんどん)広告など、もともとタクシーは広告の宝庫なのだ。

車両台数の増加は乗客数の増加につながるため、タクシー広告に改めて注目が寄せられることにつながる。また、乗客数の増減に関わらず純粋な車両台数の増加のみで効果を発揮するのが、外向けの広告だ。ウィンドウ広告や行灯のほか、面積が広い車体(ボディ)を利用したラッピング広告は遠くからでも視認可能なものが多く、広告としての訴求力は非常に高く有望だ。

■ラッピング広告は日本でも可能!?

ラッピング広告とは、広告デザインを、タクシーをはじめバスや鉄道車両などのボディに塗装やフィルムを貼り付けるタイプの広告。厳密には、「ラップ=包む」の意からボディの全面、あるいは大部分を用いる広告を指すようだ。

1960年代から実施されていたが、2000年に東京都交通局が導入して以来注目が高まり、フィルム技術の高まりとともに波及していったようだ。

タクシーにおいては、道路運送法などで義務付けられている表示事項と両立させる必要があるため、完全な全面ラッピングは難しいようだ。

また、タクシーラッピング広告は屋外広告物に含まれるため、東京都屋外広告物条例など所在地の条例で規制される場合もある。東京都の場合、4つドアと屋上のみ広告掲載が可能で、京都市の場合、1つの車両に表示する広告物の合計面積が15平米以下で都市景観に悪影響を及ぼさないことなどが条件に付されているほか、市長の許可制となっている。

いろいろと条件を突きつけられている格好だが、全国ハイヤー・タクシー連合会は、前述した改革案の中に「タクシー全面広告」を含め、広告収入によるタクシー経営基盤の安定化に向け、地域によって車体への広告掲載場所が制限される規制の緩和を求めている。

将来的には徐々に緩和される可能性も十分考えられそうだ。

■ラッピング広告の作成に必要な技術

ラッピング広告には、容易に貼り換え可能なフィルム技術や、複雑なボディ形状に適した印刷技術などが必要になる。ドアの一部分など、平面的な場所に四角形のフィルムを貼り付けるものが大半を占めているが、規制緩和により大々的にボディラッピングが可能となった場合、曲面や凹凸のあるボディ形状に合わせたフィルムや印刷技術が必要となるのだ。

印刷技術は年々進化を遂げており、プリンターでおなじみの精密機器メーカー・セイコーエプソンは、2020年1月開催のコンバーティングテクノロジー総合展のJFlex2020に立体物の表面に印刷が可能な立体物表面印刷機を参考出展した。

超小型で高解像度な産業系プリントヘッドを搭載し、ビジョンなどのセンシング技術を合わせた独自のロボット経路制御と、高画質が特徴であるエプソンの印刷制御技術により、曲面を含むさまざまな形状に高画質な印字を実現していくという。

こうした技術の実用化・導入が進めば、容易に貼り換え可能でさまざまな形状にフレキシブルに対応可能なラッピング技術も高まり、ラッピング広告の導入をいっそう促進する。

エプソンの担当者はタクシーのラッピング広告での立体物表面印刷機の活用可能性について、自動運転ラボの取材に対し、「あらゆる形状へのダイレクト印刷の実現を目指している。実用の可能性は大いにある」と語った。

■【まとめ】移動を伴うラッピング広告の訴求力に再注目

将来的に自動運転タクシーがどれほど数字を伸ばすかは未知数だが、技術の高まりとともに徐々にその数を増すことはまず間違いないだろう。

同時に進行するデジタル化の波によって車内向けのデジタルサイネージ広告の需要が高まり、一方、台数の増加によって広告効果を増すラッピング広告も存在感を増すことになる。

屋外広告という括りで見ると昔から続くアナログな存在だが、移動を伴うラッピング広告は不特定多数が目にする機会を増大させるため、その訴求力を侮ることはできない。最注目を浴びるだろう広告媒体として期待したい。

【参考】セイコーエプソンの取り組みについては「エプソンの曲面プリンタ、車業界が熱視線 ラッピング広告と相性抜群!」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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