陸海空×モビリティ、政府戦略の全容!自動運転車、自動運航船、空飛ぶクルマ…

AIやIoT、ロボット技術などをフル活用

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サイバー空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会「Society 5.0」。日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されたもので、少子高齢化に対応し持続的な経済成長を成し遂げるための新しい社会像だ。AI(人工知能)やIoT、ロボット技術などを活用した成長戦略の指針と言っても良いだろう。

Society 5.0におけるモビリティの分野では、新たな移動サービスを通じた社会的課題の解決に向け、必要な制度改革やデータ連携の実現、自動運転を含めたさまざまなモビリティの実現などを推進していく方針だ。具体的には、MaaS(移動のサービス化)や自動運転の実現に向けた取り組みをはじめ、陸・海・空のそれぞれについて推進すべき方向性が示されている。

今回はこの陸・海・空それぞれの戦略に触れ、Society 5.0の社会に一足早く近づいてみよう。

■「陸」の戦略
日本版MaaSの取り組み加速化

今後の取り組みとして、2020年をめどに公道での地域限定型の自動運転移動サービスを開始し、2030年までに同サービスを全国100カ所以上で展開することとしている。

また、都市と地方、高齢者・障がい者などを含む全ての地域、人が新たなモビリティサービスを利用できる「日本版MaaS」の早期実現を目指すこととしており、具体策として、「自家用有償旅客運送」「タクシーの利便性向上」「MaaS支援」「インフラ整備」を掲げている。

自家用有償旅客運送では、タクシー事業者が協力する制度の創設や観光ニーズへの対応、交通空白地の明確化、広域的な取り組みを促進することとしている。また、タクシーの利便性向上については、相乗り導入など事前確定運賃などの柔軟な料金体系の実現に向けた各種制度の整備を進める。

MaaS支援については、オープン化するデータの整理やシステム連携可能なAPI検討、ガイドライン策定、新たなモビリティサービス導入に取り組む地域の支援、公共交通のキャッシュレス化の取り組み支援などを挙げている。

インフラ整備では、バスタ新宿、品川、神戸三宮などの集約交通ターミナル「バスタプロジェクト」を全国で展開していくこととしている。

自動運転の実証環境整備を促進

自動運転の社会実装に向けた取り組みでは、重点地域における長期間の実証実験の高度化を図ることとし、東京臨海地域のインフラを整備し、2019年10月に民間事業者らによる最先端の自動運転サービスの実証を開始するとともに、空港制限区域内における自動運転車両の対象を拡大し、2020年までに省力化技術を実装することとしている。

このほか、ゴルフカートなどを活用した電動低速モビリティ(グリーンスローモビリティ)を2020年までに50地域で導入するほか、宅配用の自動走行ロボットについて、2019年度内に公道上における実証実験を実現するルール整備を進める方針だ。

【参考】宅配ロボットについては「自動運転車による無人宅配サービス、実現までの8つのシナリオ」も参照。

■「海」の戦略
自動運航船の概要、2025年までに実用化目指す

海をめぐっては、自動運航船の実用化に向けた取り組みが加速している。

国土交通省が2017年12月に発表した「自動運航船に関する現状等」によると、世界の海上輸送量は着実に増加しており、今後世界の船員需給が切迫する見通しであること、日中韓の造船業の競争激化、海上ブロードバンド通信の発展とセンサーやIoT、AI、ビッグデータ処理技術の急速な進歩、自動船舶識別装置(AIS)や電子海図(ECDIS)の普及などを背景に、船員の判断支援などから段階的に発展させていく方針を打ち出している。

自動運航船は、船上の高度なセンサーや情報処理機能、セキュリティの確保された衛星通信、陸上からの遠隔サポート機能などを備えた船舶とその運航システムを指す。

外洋上では、見張りを機械及び陸上からの遠隔監視により実施し、沿岸部では、船舶交通が多い際は船員も見張りを行うものの、基本的に見張り・操船は自動化し、船員は主に機械の下す判断を監督、承認する役割を担う。

港内では、船体が岸壁と平行になる位置まで自動操船し、接岸操船及び綱取りにおいては、無人タグのアシストなどを受けながら有人で実施し、荷役は一部を自動化するイメージだ。

2017年6月に閣議決定された未来投資戦略2017では、2025年までに自動運航船を実用化する目標に向けて、船内機器などのデータ伝送の国際規格を日本主導で策定するとともに、2023年度中に船舶の設備、運航などに係る国際基準の合意を目指し、国内基準を整備することとしている。

自動操船や遠隔操船、自動離着桟の実証試験スタート

国土交通省は2018年7月、自動運航船の実現に必要となる安全要件の策定などの環境整備を進めるための実証事業に本格着手し、「自動操船機能」「遠隔操船機能」「自動離着桟機能」の3事業について実証を行う事業者を選定した。

自動操船機能の実証は大島造船所とMHIマリンエンジニアリングが担い、自動運航船の実現に必要となる環境の整備に向け、自動操船機能について実証事業を行い、自動操船プログラムの健全性を評価する手法の確立に必要なデータ収集などを行った。

遠隔操船機能の実証事業は、MTIや日本郵船、三菱造船、NTTドコモら16社が担い、遠隔で操船する場合の安全要件などの検討につなげるため、多様なニーズに応えうる要素技術を踏まえた遠隔操船機能などに関する実証事業を通じ、船舶から陸上に送信すべき情報とその量、通信途絶など緊急時の安全対策を整理した。

自動離着桟機能の実証事業は三井E&S造船や商船三井、東京海洋大学、三井造船昭島研究所が担い、自動運航船の実現に必要となる環境の整備に向け実証事業を行い、自動離着桟システムの健全性の評価手法、緊急時の安全確保策などの確立に必要なデータの収集などを行った。

【参考】自動運航船開発に関する民間の動きについては「水上モビリティの自動運転化へ新会社 Marine X社、大阪で設立」も参照。

■「空」の戦略
空飛ぶクルマをめぐる動き

自動車業界をはじめベンチャーに至るまでさまざまな企業が「空飛ぶクルマ」の実現に向け研究開発や実証実験を行っている近年、日本においても業界有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)をはじめとするさまざまな企業・団体が空飛ぶクルマ実現に向けた構想を描いている。

こうした構想を具体化し、日本における新しいサービスとして発展させるため、「民」の将来構想や技術開発の見通しをベースに「官」が民間の取り組みを適時適切に支援し、社会に受容されるルール作りなどを整合的に進めていくことが必要なため、国土交通省などは2018年8月、「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、官民共同でロードマップを作成した。

ロードマップの概要

ロードマップでは、事業者による利活用の目標として2019年から試験飛行や実証実験などを行い、2020年代半ば、特に2023年を目標に事業をスタートさせ、2030年代から実用化をさらに拡大させていくこととしている。

具体的には、ヘリコプターやドローンなどの事業による経験を踏まえながら2019年から試験飛行や実証実験などを進め、技術開発を進めるとともにビジネスモデルを提示していく。

この結果を制度や体制の整備にフィードバックし、技能証明の基準や機体の安全性の基準整備なども並行して進めていく。

2020年代半ばには「物の移動」から徐々に事業化をスタートし、「地方における人の移動」「都市における人の移動」へと拡大していく。その間、新たなビジネスモデルに応じた運送・使用事業の制度整備の見直しや、地上からの遠隔操縦、機上やシステムなどによる高度な自動飛行などの技術開発に応じた制度整備、安全性基準や審査方法の見直しなど、国際的議論を踏まえながら実施していく。

また、事業の発展を見越した空域・電波利用環境の整備や総合的な運行管理サービスの提供、継続的に離着陸可能な場所の確保なども進めていくこととしている。

【参考】空飛ぶクルマの実証やロードマップについては「空飛ぶクルマの実証実験、羽田空港などで年内実施へ」も参照。

ドローン物流の動き:官民それぞれで実証進む

空飛ぶクルマとは別に、ドローンを活用した新しい物流の実現を目指す動きもある。国土交通省は2018年度に全国5地域を選定して検証実験を行い、2019年3月から「過疎地域等におけるドローン物流ビジネスモデル検討会」を開催して同年6月に中間とりまとめを公表した。

2019年度に数件程度の商業サービス実現に目処をつけることとし、ビジネスモデルの考え方として、人口分布や輸配送地点の位置関係、電気通信サービスなど公共サービスの提供状況を踏まえることや、地理的・自然的条件を考慮することなどを基本に据え、ドローン物流事業全体における極力少人数による実施体制の構築やドローンの機体や運用システムなどの設備投資費用削減といった経費の抑制、ドローンの多頻度利用による収益性向上やドローン物流に適した貨物の選定といった収入増加を図ることとしている。

また、地域課題解決の有望な手段となる可能性を考慮し、国や地方公共団体による機体・付帯設備・ドローン物流システムの購入等に対する補助制度や、地方公共団体による地域の課題解決に貢献する運航の経費に対する補助制度などの支援措置について検討していくこととしている。

■【まとめ】2020年代に陸海空で大きな動き 新しい移動概念へ着実に前進

陸では、MaaS実現に向けたさまざな取り組みを軸に、自動運転技術を多方面に活用していく方針だ。海では、自動運航船の開発が本格化しており、実証を交えながら2025年までに実用化する目標を掲げている。

一方、空では空飛ぶクルマの実現を2020年代半ばにも事業化する方針で、ドローン物流に関しては実証も各地で進められている状況だ。

この陸・海・空の取り組みは個別に終わるものではなく、最終的にはMaaSなどの概念により大きく一つの体系にまとまっていくものと思われる。

現在は、人や物の移動の概念が徐々に変わっていく過渡期にあり、変化を目の当たりにすることができる貴重な時期といえるだろう。新しい社会の実現に向け、その変化の変遷を記録する意味でも引き続きさまざまな動向に注視していきたい。

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