課題を洗い出し!全国のMaaS実証、参加者の感想から成功の鍵を探る

アプリはおおむね高評価、クーポンの充実求める声も

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経済産業省と国土交通省が主体となって進めている「スマートモビリティチャレンジ」の2019年度におけるパイロット地域の取り組み状況が公表されている。

全国各地でさまざまな形のMaaS実証が行われ、一定の成果を得たようだ。都市部では円滑でストレスのない移動を、地方では移動手段の持続的な確保などが主目的となるMaaSだが、事業を継続的に実施するためにはマネタイズ(収益化)が欠かせない。

収益化の道はいくつかあるが、近道であり王道なのが、参加者の声をしっかりと探ることだ。MaaS実証は未来の顧客となる住民らを巻き込む形が基本であり、率直な感想や意見を集めやすい。こうした声をしっかりとフィードバックし、需要を高めていくことが重要だ。

今回は、野村総合研究所が取りまとめた資料をもとに、マネタイズに向け利用者の声を拾っていこう。なお、参加者の声は各地域で実施された実証実験ごとに記事の中で紹介していくが、主な感想だけを羅列すると以下の通りとなる。

▼令和元年度 スマートモビリティチャレンジ パイロット地域の取組状況|野村総合研究所
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20200422_01_s01.pdf

■スマートモビリティチャレンジの概要

スマートモビリティチャレンジは、将来の自動運転社会の実現を見据え、新たなモビリティサービスの社会実装を通じた移動課題の解決や地域活性化を目的に、地域と企業の協働による意欲的な挑戦を促すプロジェクトで、2019年度にスタートした。

地域の交通課題解決に向けたモデル構築を推進する「新モビリティサービス推進事業」と、新しいモビリティサービスの社会実装に取り組み事業計画策定や効果分析を行う「パイロット地域分析事業」があり、新モビリティサービス推進事業の先行モデル事業には計19事業、パイロット地域分析事業には計13事業がそれぞれ採択された。

今回野村総合研究所が取りまとめたのは後者で、以下に分けてそれぞれのエリアの取り組み状況をまとめている。

以下、利用者アンケートなどを公表しているエリアをピックアップし、検証結果を紹介していこう。

【参考】新モビリティサービス推進事業については「いざMaaS元年へ!決定した19の先行モデル事業の詳細 自動運転やライドシェアの導入も」も参照。

■新潟県新潟市:定額サービス導入した高レベルMaaS実現へ
出典:野村総合研究所

新潟県新潟市では、鉄道やバス、オンデマンドバス・タクシー、カーシェア、シェアサイクルなど多様な交通手段を定額制で提供し、生活サービスと連携した形でMaaSレベル3~4相当のサービスを全市的に展開する取り組みを進めている。

具体的には、新潟交通や日本ユニシスなどが参加し、交通系ICカード「りゅーと」を活用したMaaSアプリ「りゅーとなび」やオンデマンドバスの実証を2020年2月から3月にかけて実施した。利用者からは、クレカ以外の決済手段を求める声などが出たようだ。

詳細については下記の記事を参照していただきたいが、MaaSアプリ「りゅーとなび」については「乗車可能な範囲を分かりやすく表示してほしい」「クレカ以外の決済手段が欲しい」、オンデマンドバスについては「オンデマンドバスは高齢者が利用するのに有用」「オンデマンドバスの運行エリアを拡大してほしい」といった意見があった。

【参考】新潟市のMaaSについては「新潟市でのMaaS実証実験、住民の「生の声」はどんなだった?」も参照。

■静岡県静岡市:AI相乗りタクシー含むMaaS実証
出典:野村総合研究所

静岡市では、鉄道や路線バス、AI相乗りタクシーといった複数の公共交通や生活・観光関連サービスなどとの連携を図ったドア・ツー・ドアの移動サービスを都市部の大サンプルモニターへ展開し、サービスの受容性やビジネスモデルの成立可能性を検証する取り組みを進めている。

静岡鉄道やタクシー事業者9社、未来シェア、JTB、ソニーペイメントサービス、計量計画研究所、名古屋大学、国土交通省静岡国道事務所などが参加し、相乗り運賃の社会受容性・価格感や相乗りタクシーの事業採算性、社会受容性と事業採算性のバランス、データ連携による異なる交通モード間の交通行動調査、大サンプルモニターによる交通行動変化、商業・生活サービス連携に関する効果分析について検証することとし、2019年11月の1カ月間、AI相乗りタクシー実証実験を行った。

実証の結果、登録者数は456人に上り、利用者は延べ315人、このうち相乗り回数は83回となった。アンケートでは、AI相乗りタクシーの満足度が76%、継続利用意向78%、MaaSアプリに対する満足度71%、相乗りに対する抵抗感のなさ85%などおおむね評価された一方、運賃の満足度が37%と低い結果となった。

■群馬県前橋市:前橋版MaaSやワンマイルタクシーを実証
出典:野村総合研究所

前橋市では、自動運転バスをはじめ鉄道やタクシー、デマンドバス、自転車といった多くの交通モードを統合したMaaSアプリを開発するほか、予約が必要となるタクシーやデマンドバスにはAI配車システムを搭載し、一括経路検索・予約・チケッティング・決済を可能とする仕組みを導入し、市内の集客力のある施設と連携して公共交通利用ポイントなどの付加価値を創出する取り組みを進めている。

前橋市とNTTデータ経営研究所、ジョルダン、NTTドコモ、未来シェア、NTTデータ、群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター、各交通事業者が協同し、2020年1月から3月にかけて各施設で特典を受けることができるクーポンを交えた前橋版MaaSアプリの実証や、自宅とバス停をつなぎ乗り換え移動を促進するワンマイルタクシーの実証を行った。

実証の結果、アプリのダウンロード数は749回で、利用者は累計942人、クーポン発券数は219回となった。利用者を年代別でみると、多い順に40代181人、50代158人、30代114人という結果になった。ワンマイルタクシーは運行回数86回、延べ123人が利用した。

アンケートでは、アプリの評価が高かった点として「経路検索で十分目的地に行ける」「クーポン連携」「これまで知らなかった経路を知れた」といった声が挙がった一方、改善点として「一部の交通手段が検索対象外となっていて手間だった」「クーポン連携施設が少ない」「掲載されている施設情報の数が少ない」などの声が寄せられた。全体的な満足度では、約7割が便利だと思うと回答したようだ。

一方、ワンマイルタクシーでは電話予約が大半を占め、「電話予約の際のオペレーターの案内が分かりやすい」「ワンマイルタクシーで十分に目的地に行けた」といった声が挙がった。改善としては、「乗換えポイントを増やしてほしい」「自家用車と同等のサービス」「路線バス以外の公共交通機関への接続」といった声が寄せられたようだ。

■滋賀県大津市:クーポン付きMaaS実証
出典:野村総合研究所

大津市は、住民と観光客を利用者として想定し、自動運転バスと4種類の公共交通をはじめ、ホテルや観光施設、小売店、飲食店などを便利に利用できるMaaSを提供し、利用者の周遊を促進する取り組みを進めている。

大津市や京阪ホールディングス、京阪バス、日本ユニシス、京都大学大学院工学研究科などが参加。交通・乗換案内や観光・お店情報、スマートフォン版1日乗車券、クーポンなどを搭載したMaaSを開発し、紅葉が見ごろを迎える観光トップシーズンの2019年11月に約1カ月間にわたり実証を行った。

アプリのダウンロード数は2808人に上り、そのうち約半数が実際に乗車券を購入した。また、4人に1人以上がスタンプラリーやクーポンを利用したようだ。

最も利用が多かったのは全エリア乗り放題の周遊チケットで、観光向け乗車券は総じて目標値を上回った一方、市内を走行する大津エリアの乗車券は目標未達となり、観光客向けと住民向けで需要に明らかな差が出た。アンケートの結果、全員が今後もアプリを利用したいと回答した。

改善としては、クーポン対象のロケーションが分かりづらい点や店舗スタッフへの周知不足、MaaSの対象エリアが分かりづらい点、オフラインでの利用ができない点などが挙げられた。

■北海道上士幌町:貨客混載やパーソナルモビリティを交えたMaaS実証
出典:野村総合研究所

上士幌町では、オンデマンド型の移動手段によって地域住民やシェアオフィスなどの長期滞在者の移動需要を束ねて運行コストの抑制と利便性の高い移動サービスを目指すとともに、中長期的な取り組みとして、貨客混載やパーソナルモビリティ、自動運転の導入についても試行を続けている。

実証には上士幌町やJapan Innovation Challenge、TKF、SBドライブ、MaaS Tech Japanなどが参加し、シャトルバスやレンタサイクル、レンタ電動キックボード、路線バス、カーシェアなど各モビリティの予約や決済機能を備えた専用MaaSアプリの提供や、自動運転バス試乗、買いもの自動配送サービスなどを2019年10月の3日間実施した。

利用実績は、貨客混載を可能にした自動運転バスで88点の商品を配送したほか、MaaSアプリはダウンロード数83人、予約利用は延べ122件となった。

MaaSアプリの認知度は36.3%と低く、事前周知が不足したとしている。望ましい決済手段は、クレカ70.4%、現金41.5%の状況で、支払いプランは周遊プラン65.9%に対し、都度払いが34.1%となった。

利用者からは、観光情報の積極的な提供を求める声をはじめ、「免許がなく自転車にも乗れない人用の乗物があれば良い」「路線バスの接続が悪い」「Android版も利用できると良い」などの声が寄せられた。

■愛知県豊田市:デマンドバスによる貨客混載を実証
出典:野村総合研究所

愛知県豊田市は、新モビリティやAIシステム、自動運転によるヒトの移動と、貨客混載の地域バスなどモノの移動に取り組み、そのうえで移動サービスや農作物、学校給食、宅配物といった地域サービスなどを一つにつなげるプラットフォームを民間企業と共働して検討・構築し、豊田市域内外への展開を目指すとしている。

実証には、豊田市や豊栄交通、小原タクシー、豊田中央タクシー、モネテクノロジーズ、ヤマト運輸などが参加し、オンデマンドシステムを導入した地域バスを軸に貨客混載に関する取り組みを実施し、乗車していない空き時間に宅配便の配達がどれくらい実施できるのか、ドライバーの業務オペレーションの確立と処理可能量の試算などを行った。

実証の結果、ドライバーからは「住宅地図があれば配達は問題がない」「旅客をバス停で待たせるリスクを避けるため、空き時間に余裕がないと配達を始められない」といった声が挙がった。

スポットで空き時間があっても、次の予約を意識し手軽に1件配達しようという気分にはなれず、また多くの乗客が電話によって予約しているため、遅れが発生した場合に通知する手段がないことなどから、改善すべき点が浮き彫りとなったようだ。

■大分県大分市:自動運転導入コストを算出
出典:野村総合研究所

大分市は、自動運転技術によりバスの運行費用を削減し、現行のネットワークの維持・拡充や運行費用(人件費)の削減による行政負担の抑制、公共交通の運転手不足に対する打開策とするため、自動運転の事業採算性改善効果の分析を実施した。利用者アンケートの介在しない内容だが、独自分析が非常に興味深いため紹介する。

自動運転技術の導入に向けたシミュレーションでは、公開情報などを元に費目とコスト水準を設定し、年間コストが遠隔監視機材・システム利用料12万円、遠隔監視者人件費400万円、サーバー利用費60万円、自動運転システム導入費及び維持費が中型バス338万円、小型車両169万円などと設定した。

その上で、現行の自動運転システムは高価だが普及に伴い価格の下落が想定されることから、導入時期を後ろ倒しすることで事業性が高まる可能性に言及し、費用の低減を見越して2025年以降に導入すると投資額がドライバーの人件費を下回り、経済的メリットが出てくるとしている。

また、2030年前後には2020年比で約半分程度の投資で導入が可能になると予測する一方、高齢者の増加など需要の高まりを踏まえ、価格の下落幅が落ち着く2025年頃が自動運転の社会実装を実現する一つのターゲットとなり得るとした。

既存の交通体制と自動運転サービスを導入したケースのコスト面での比較はまだ例が少なく、貴重な分析と言えるのではないだろうか。

■【まとめ】移動目的を満たす地域の結束力がカギに

利用者からは、移動手段やルートの多角化を求める声をはじめ、クーポンの充実を求める声も多く挙がった。単純な交通サービスの提供にとどまらず、飲食店や観光拠点などさまざまな施設と積極的に連携し、移動目的を満たすことが重要なようだ。MaaSアプリそのものについては、おおむね受け入れられている点も見逃せない。

また、自動運転の導入においては、技術面や社会受容性もさることながら、実際の費用対効果もしっかり見据えなければならない。その意味で、大分市のようにさまざまな観点から分析・検証する取り組みも今後増加する可能性がある。

スマートモビリティチャレンジは2020年度も引き続き実施されている。各地の検証結果を踏まえ、より充実した実証が行われることに期待したい。

▼令和元年度 スマートモビリティチャレンジ パイロット地域の取組状況|野村総合研究所
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20200422_01_s01.pdf

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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