技術の進展とともに拡大を続ける自動運転分野。その波は農機具メーカーにも及んでおり、スマート化を進める農業分野において非常に重要な役割を担っている。
大手農業機械メーカーの株式会社クボタ(本社:大阪府大阪市/代表取締役社長:木股昌俊)も、農機の自動運転化に力を入れる代表的な企業だ。
農業分野において自動運転がなぜ必要なのか。現在の技術水準はどのレベルに達しているのか。クボタの取り組みや製品を題材に、その答えを明らかにしよう。
■自動運転技術が農業に役立つ理由
自動運転と農業は「相思相愛」
自動運転と農業。この二つは相思相愛と言うほど相性が良い。自動運転は、GPSなどの位置情報やカメラやLiDAR(ライダー)などによるセンサー類で自己位置の特定や周囲を検知し、その情報をもとにAIが判断・機械を制御する仕組みで、人通りの多い繁華街など複雑な環境になればなるほど求められる機能や技術は飛躍的に高まる。
一切の限定条件なしで無人自動運転が可能となる自動運転レベル5(完全運転自動化)の実現にまだまだ時間を要するのは、自由に動き回る歩行者や自転車などへの対応や、広大な道路交通情報をすべて把握しなければならないからだ。
一方、限定領域下で無人自動運転が可能となる自動運転レベル4(高度運転自動化)は、複雑な要素を排除・克服した環境(限定領域)に対応すれば実現可能となるため、レベル5に比べれば当然ハードルは低い。
歩行者や障害物と遭遇する可能性が低い自動車専用道路や、事前に詳細な交通環境を情報化した一定区間のみを走行する場合など、想定外のトラブルは起こりにくくなるためだ。
自動運転レベル4にうってつけ
農業に話を戻すと、畑や水田などは私有地であり、通常不特定多数の人が出入りすることはない。走行区間(ほ場)も定まっており、走行する速度もゆっくりだ。自動運転レベル4を実現するにはうってつけの条件が揃っていると言えるだろう。
また、農業が高齢化や後継者不足が顕著な産業であり、労働力不足が慢性化していることも自動運転を導入するメリットと合致する。近年、ロボット技術やICT技術などを活用したスマート農業が普及し始めており、農作業における省力化や生産効率の向上、品質の向上などに一役買っているが、このスマート農業の確立において自動運転が担う役割は非常に大きい。
また、輸入作物の影響による価格の下落や天候の影響など、農業経営を取り巻く環境は厳しさを増している。大規模化や効率化、ブランド化を図るうえでも、自動運転技術が生きる場面はいろいろ出てくるだろう。
かつて手作業という重労働の緩和・効率化を目的に開発・進化を遂げてきた農業機械が、自動運転という新たな技術によって進化し、農業を取り巻く環境を変えていくのだ。
■クボタの自動運転事業
スマート農業の実現に向け、クボタは「農機自動化による超省力化」と「データ活用による精密化」を主軸に据えて研究開発を進めている。
農機自動化による超省力化:農機レベル2をトラクター・田植機・コンバインの3種で実現へ
農林水産省が定義する農機の自動・無人化のレベルは3段階あり、レベル1が慣性計測やGPSなどを備えた「搭乗状態での自動操舵」、レベル2が現場の立ち合いや搭乗監視などを要する「有人監視下での自動化・無人化」で、複数台による協調作業もこれに含まれる。そしてレベル3が遠隔監視で自律制御を行う「完全無人化」となっている。
クボタは、直進キープ機能を内蔵した田植機やオートステアリング対応のトラクタを2016年にいち早く製品化・発売し、2017年にはレベル2のアグリロボトラクターを発売した。2018年には、アグリロボコンバインの投入によりトラクター・田植機・コンバインの全3機種でGPS搭載農機の製品化を果たしており、コンバインや田植機のレベル2完成に向け開発を進めているほか、制御システムの高度化や外周作業の無人化、ほ場内作業のさらなる自動化を進めていくこととしている。
将来的には、レベル3技術による遠隔監視のもと、農道を走行し、複数のほ場で無人作業を行うことが可能な農機を実現する予定という。
そのためには、3次元ダイナミックマップの活用など自動車メーカーの技術の吸収や、安全システムのさらなる高度化、農業用高速通信インフラの整備、道路交通法の緩和などが必要とし、自動・無人化農機の運用効果をより高めるため複数農機の運用・管理にも備え、最適走行ルートの作成支援や自動農機の情報収集などを行い、モニタリング・活用できる仕組みの構築も進めていくこととしている。
データ活用による精密化:営農支援サービス「KSAS」を展開
経営を「見える化」して効率的な生産を支援するシステム「KSAS (Kubota Smart Agri System)」を2014年から販売している。トラクターや田植機、コンバインとICTを融合させたクラウドが構成する営農支援プラットフォームサービスで、2018年9月時点で6,000軒を超える農家が利用している。
スマートフォンやパソコンなどの端末を使い、対応農機と連携したデータを収集・活用することで、農業経営の見える化を実現しており、作業効率の改善や施肥量などのコストの低減、安心安全な良食味米の生産を可能にするという。
2017年には連携可能な中間管理機やポストハーベスト機器(乾燥システム)も発売しており、今後は農薬散布用ドローンなどとの連携や、稲作だけでなく畑作・野菜作にも適用できるよう開発を進め、機械化一貫体系とデータ連携の拡張を図っていく。
また、機械から収集した収穫・生育情報や外部の気象情報などのビッグデータを地図情報に重ねたレイヤーマップを活用し、可変施肥・施薬、生育予測、病害虫予測などを実現していくほか、農家が用いる会計・販売などの各種情報システム、流通や金融機関などの外部データとも連携し、その収集したビッグデータを分析、AI(人工知能)などにより処理し、シミュレーションによる最適作付計画の提案など利益の最大化にも貢献していくこととしている。
自動車などモビリティ分野における自動運転業界では、MaaS(Mobility as a Service)に向けスムーズな移動や料金の支払いなどを実現するプラットフォームサービスの開発が進められているが、その農業バージョンのようなイメージだろうか。農業に特化し、トータルで営農をサポートする仕組みを開発しているようだ。
■クボタが販売・発表している自動運転技術を搭載した車種
アグリロボトラクター「SL60A」:農機レベル2を実現
有人監視下における無人自動運転作業(耕うん・代かき)を可能にしたトラクター「Agri Robo(アグリロボ)SL60A」は、付属のリモコンから遠隔指示することにより作業の開始・停止を操作可能で、周辺で監視しながらほ場内側を自動で耕うん・代かき作業することができる。
無人機の各所に搭載されたレーザーや超音波ソナーが物体との距離を計測し、無人機の周囲で人や障害物を検知した場合、自動走行を停止する。タッチ操作が可能なターミナルモニターも備えており、ほ場のマッピングや経路選択、車速やエンジン回転数など、自動走行に必要な各種設定を行うことができる。手動による通常運転と自動運転(またはオートステア)のモード選択もスイッチ一つで可能だ。
また、2台を1人でコントロールすることも可能だ。単独で無人運転が可能な無人機と、無人機の監視機能を搭載し自動運転が可能な有人機があり、前方の無人機を後方の有人機に乗車した作業者が監視しながら自動運転作業を行う2台協調作業ができる。
無人機に付属されたリモコンを使えば、従来のトラクターに乗車・操作しながら無人機の監視を行うこともできるため、無人機のみ購入すれば2台同時作業も可能となる。無人機のキャビン上部に4個のカメラが装備されており、前方・後方の映像や4つのカメラで生成した俯瞰映像を有人機の監視モニターや別売のタブレット端末で見ることもできる。
価格(2017年発売当時)はロータリー仕様なしでRTK基地局付きが1100万円、RTK基地局なしが970万円となっている。
畑作用大型トラクター「M7シリーズ」:オートステアリング機能搭載
GPSを活用したオートステアリング(自動操舵)機能「ファームパイロット(Farm Pilot)」を内蔵したモデル。GPS信号の受信位置や車速などから、自動的に前輪の切れ角を調整しながら自動操舵を行うことができる。設定した基準線を基にガイドラインが表示され、トラクターをガイドラインに合わせてオートステアボタンをONにすることで自動操舵走行を開始する。基準線の設定は「直線」と「カーブ」が選択でき、直線経路と曲線経路両方に対応している。
小型トラクター「NB21GS」:小型農機初の自動運転モデル
大型機種が主体だった自動運転機能を、国内で初めて小型の機械に搭載したモデルで、GPSによる直進アシスト機能を備えている。ハンドル自動制御により機械の操作に不慣れな人でもまっすぐ作業することができ、価格も安価なため、熟練者の確保が難しい担い手の人手不足解消や小規模農家の省力化・軽労化に一役買いそうだ。
田植え機RACWEL「EP8D-GS」:直進自動操舵機能搭載
GPSを活用した直進自動操舵機能「ファームパイロット」を初めて備えたモデル。植え始めの一工程目に基準線を登録することで、次工程からは基準線に対し自動的に平行走行し、まっすぐに植付けすることができる。あぜへの衝突防止やほ場外への逸脱防止機能なども備わっている。
アグリロボコンバイン 「WRH1200A」:自動運転による稲・麦の収穫作業を可能に
オペレーター搭乗のもと、自動運転アシストによる稲・麦の収穫作業を可能にしたモデル。準備として、事前にほ場の周囲を3周以上手動で刈ることでほ場マップ(作業ルート)が自動で生成され、以後、自動で作業エンジン回転数や刈取・脱こくクラッチのオンオフ、刈取部の昇降、方向修正、次行程への旋回移動などを行う。
自動運転アシストによる刈取り中は、車速の増減や刈取部の昇降の手動操作が可能なほか、グレンタンク下の収量センサーでモミ重量を計測し、モミが満タンになるタイミングを予測。最適なタイミングで、事前に設定したモミ排出ポイント付近まで自動で移動する機能も備えている。
開発中のモデル:新型3種を2019~2020年に発売予定
新型のアグリロボトラクタは、ほ場内やほ場周辺でオペレーターが監視している条件下で、耕うん、代かき、施肥などの幅広い作業を自動で行うことができるモデル。販売中のアグリロボ「SL60A」が60馬力なのに対し、新モデルは100馬力の動力を備えており、2019年中に発売予定。
一方、新型のアグリロボ田植機(8条植)とアグリロボコンバイン(自脱型6条刈)は、オペレーター搭乗のもと自動で田植え作業や刈取作業を行うことができる。アグリロボ田植機は2020年、アグリロボコンバインは2019年に発売予定となっている。3種とも従来モデルの機能を拡張した最新機で、さまざまな市場ニーズに応えてラインナップの拡充を図り、スマートの農業の具現化に少しずつ近づいていく方針だ。
【参考】開発中のモデルについては「クボタ、自動運転農機のラインナップ拡充 大型トラクタも投入へ」も参照。
■農機の自動運転化は世界的な潮流
国外でも農機の自動運転化は進んでいる。世界最大の農機メーカー・米「Deere & Company(ディアアンドカンパニー)」も自動運転開発に力を入れており、2017年に農業ロボット開発を手掛ける米「Blue River Technology(ブルーリバーテクノロジー)」を買収するなど、GPSやAI、画像解析技術などを次々と吸収し、開発を進めている。農機の自動運転化は世界共通のようだ。
クボタは2018年の基本方針で、グローバル・メジャー・ブランドに向けた活動を加速・拡充し、経営のグローバル化を図っていくこととしている。ほ場のサイズや経営規模、気候、技術や安全基準など世界の農業をひとくくりにすることはできないが、クボタが世界戦略を推し進めるうえで自動運転技術が大きな武器になる可能性は十分考えられる。
緻密な日本の農業で培ってきた経験や技術に自動運転を掛け合わせたクボタの技術が、農業分野の将来を一変させることに期待したい。
【参考】農機の自動運転化については「【各社戦略まとめ】自動運転農業機械に秘めた可能性 スマート農業市場、2025年に120億円市場」も参照。