「安全」と「安心」は大違い!自動運転の社会実装に向け、区別して考える必要性

数値化可能な「安全性」、抽象的な「安心感」



自動運転に対する社会受容性も年々高まってきているが、半信半疑の人もまだまだ多い。未知の技術である自動運転の安全性を信頼できず、不安を拭えないからだ。







自動運転が社会に受け入れられるためには、「安全」と「安心」という2つのキーワードがポイントになりそうだが、この2つは同一のものではなく、区別して考える必要がある。

この記事では、自動運転における「安全」と「安心」について解説していく。

■自動運転における「安全」とは?──数値化が可能なもの

「安全」の対義語は「危険」だ。自動運転における安全は、事故などの「危険=リスク」を極力低下させることで高めることができる。移動中の乗員や周囲の歩行者らの身に危険を及ぼす要因を1つずつ無くしていくことが、自動運転車の安全性を高めることにつながる。

この安全性に直結する代表的な指標は「事故率」だ。国内における自家用車や貨物、二輪車などの保有台数は約8,000万台で、対する交通事故件数は2019年中に約38万件発生した。やや大雑把な計算方法であることはご容赦いただきたいが、現在の道路交通における事故率は車両当たり0.5%弱となる。

従来の自動車と比較し、自動運転車が安全であるためには、最低でも事故率0.5%を下回る必要や、死亡事故や重傷事故の発生率を低下させる必要がある。

自動運転車が事故を起こす場合の原因は?

手動運転における事故の9割はヒューマンエラーに起因すると言われている。漫然運転や不注意、操作ミス、スキル不足などだ。では、自動運転車が事故を起こす場合の原因は何か。

その1つは、認識技術の不足や欠陥だ。自動運転車は、カメラやLiDAR(ライダー)などのセンサーが目の役割を担い、車両の周囲の状況を映し出す。この映し出された画像に何が映っているかを正確に把握する技術が認識技術だ。

画像には、道路をはじめ前方を走行する車両や自転車、歩行者、信号機、道路標識などあらゆるものが映っているが、これら1つひとつを正確に認識することで、脳の役割を担うAI(人工知能)が車両の加減速や操舵などどのように制御すべきかを判断する。

この認識技術に誤りがあった場合、どうなるか。例えば、深夜に黒い服装をした歩行者を見落とせば事故の危険性が高まる。信号機の赤と青を間違えば、重大事故を起こしかねない。手動運転における漫然運転や不注意のようなもので、認識技術は自動運転の安全を担保する上で非常に重要かつ根幹をなす技術と言える。

車両制御に関するAIの判断能力も重要

また、認識した事象に対し、どのように車両を制御するかといったAIの判断能力も重要だ。前走車の減速をいち早く認識し、自車両も減速しなければ追突する可能性がある。加速したままカーブに差し掛かかれば車線を逸脱する可能性もある。あらゆる危険要因をいち早く察知し、迅速に車両を制御しなければならないのは手動運転と変わらない。

自動運転車はその性質上、速度制限など道路交通法を順守し模範的な走行を行うが、人間の役割を担うセンサーやAIがミスを起こせば、当然ながら事故の危険性は高まるのだ。

誤検知や誤判断を起こさないセンサーやAIシステムが求められるのは言うまでもないことだが、突発的な悪天候に見舞われることや、センサーの目の前をどこからか飛んできたビニール袋が横切って視界を遮られるようなこともあるだろう。その際、一瞬とは言え認識や判断に遅れが生じることは十分考えられる。

二重三重の安全策を講じる必要性も

安全性を高めるためには、センサーなどに頼り切るのではなく、複数の安全策を講じる必要がある。例えば交差点において、道路交通情報を送信する交通インフラと通信してリアルタイムの信号情報や歩行者情報などを入手し、判断材料として加味するシステムなどが挙げられる。

人間に代わってコンピュータが自動車を制御する自動運転車が信頼を得るには、手動運転をはるかに上回る安全性が求められる。さまざまな技術・手法を駆使し、二重三重の安全策を講じなければならないのだ。

■自動運転における「安心」とは?──主観的かつ抽象的なもの

「安心」は、言葉が示す通り心の状態を表しており、不安を感じることなく心が落ち着き安んじている状態を指す。主観的かつ抽象的なものであるため、明確な基準は存在しない。

例えば、既存の手動運転車において、自分は助手席に座っているとする。運転を任されたドライバーが見通しの悪い住宅街を猛スピードで走行したり、運転中にスマートフォンを操作したり、あるいは眠たそうにうつらうつらしていれば、どのように感じるだろうか。多くの人は不安を感じ、今すぐ降車したくなるのではないだろうか。

また、普段の自分の運転と比較し、過剰ではないものの速度が速い場合や前走車との車間距離が短い場合、アクセルワークやハンドルワークが雑な場合はどうか。不安や不快に感じる人もいれば、気にならない人もいるのではないかと思われる。

一般論として「安心の方向性」を定めることは可能

「安心」は主観であるため、明確に数値化してどこまでが安心でどこからが不安か――といった線引きをするのは困難を極める。ただ、一般論として「安心の方向性」を定めることは可能だ。

例えば、「高速と低速ではどちらが安心か?」と問われれば、大半の人は低速を選ぶ。「アクセル・ブレーキワークが激しい場合とおとなしい場合ではどうか?」と問われれば、おとなしい場合の方が乗り心地が良く、より安心を感じられるのが一般的だろう。

こうした方向性を明確にすることで、自動運転車における「安心」とは何かを導き出すことが可能になる。

安心感を左右する要素は?

安心感が高まる要素の1つ目は、自動運転車が乗員や周囲の歩行者らに危険を感じさせないような運転を行うことだ。安全性の向上は安心感の向上に直結する。交通ルールを順守し、事故を起こしにくい安全な走行が安心感を生むのは言うまでもないことだろう。

また、乗り心地の良さも安心感を育む重要な要素となる。滑らかなアクセル・ブレーキワークやハンドリングをはじめ、揺れを感じにくい車室空間は乗員にリラックス効果を与える。

自動運転車は将来、移動会議室や移動ホテルなどさまざまな用途に活用されることが想定されているが、自動車に乗っていることを忘れさせるような快適性の向上が安心感の向上につながり、多目的な活用を助長する。

もう1点、自動運転車に乗る人が自動運転に関する正しい知識を持っているかどうかも安心感を左右する要素となる。自動運転車の基本的な仕組みをはじめ、どのような移動が可能でどのような機能を備えているか、またどのような移動が不可能で、どのような行為を行うと危険を伴うのか……といった知識を身に着けていれば、自らの行動で不安を解消することが可能になるだろう。

■安心感の向上が危険を招くレベル3の罠も

上述したように安全と安心は別物だが、両者は密接な関係にあり、安全性の向上が安心感の向上につながることに触れた。しかし、安全性の向上に伴う安心感の向上が、かえって危険を招くケースもあることに言及しておこう。

代表的な例が「自動運転レベル3」だ。レベル3は条件付運転自動化と呼ばれるもので、一定条件下、例えば高速道路における渋滞時などにおいて、システムが車両のすべての制御を行う。自動運転システムの作動中は、ドライバーは運転管理義務を免れ、車両周囲の監視を行う必要がなくなる。いわゆる「アイズオフ運転」が可能になるのだ。

ただし、一定条件を満たすことができないと自動運転システムが判断し、手動運転の要請が行われた際は、ドライバーは直ちに運転操作を行わなければならない。そのため、レベル3においてはドライバーは睡眠や飲酒などを行うことが禁止されている。

ここに罠がある。非常に高性能なレベル3が完成し、自動運転システム作動中の安心感が向上すると、車内で食事をとったりゲームに夢中になったり、あげく寝落ちしてしまうドライバーが出てくるのだ。

類似した事例はすでに発生している。レベル3ではなく、あくまで運転を支援する機能を備えたレベル2車両において、ハンドルから手を離すだけでなく車両周囲の監視を怠って事故を起こす例や、走行中にシートを倒して睡眠した事例(2020年9月にカナダで運転手の男性が危険運転の罪で訴追)なども報告されている。

誤った知識が必要以上の安心感につながり、自らの危険のみならず周囲をも危険にさらす悪例と言えそうだ。本題の主旨から外れた寄り道となるが、まもなくレベル3の実用化も本格化する見込みのため、しっかりと頭に入れておくべき問題として触れておく。

■【まとめ】安全かつ安心なモビリティを理想像に

「安全」と「安心」は密接な関係にあるものの決してイコールな関係ではないことに触れた。自動運転の社会実装に向けては、それぞれ区別した対策が求められるのだ。

安全性の向上においては、自動運転システムの完成度を高めることが先決であり近道となる。一方、安心感を向上させるためには、安全性を高めるだけでなく、乗り心地の向上や知識の向上など、乗員の体感や印象を向上させることも必要となるのだ。

自動運転車が安全な乗り物となり、かつ安心して利用できる乗り物となることが理想の自動運転社会となる。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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