国土交通省はこのほど、航空施設と飛行機の駐機場を結ぶ「ランプバス」の自動走行実証実験の結果に関する資料を公表した。
自動運転の早期導入場所として期待される空港では、トーイングトラクターの自動走行実証と並んでランプバスの実証も盛んに行われるようになってきている。
この記事では、全日本空輸(ANA)などとAIROによる令和元年度のランプバス自動走行実証実験の結果について紹介していく。
▼資料URL
https://www.mlit.go.jp/common/001335400.pdf
記事の目次
■ANAの実証実験結果は?
ANAは、先進モビリティ社やSBドライブ社とともに羽田空港で実証実験を行なった。期間は2020年1月22日から1月31日までの平日8日間で、走行回数は合計で57回、乗車人数は合計138人だった。走行ルートは、第2ターミナルの制限区域内である北乗車場から「#65スポット」付近を周回する約1.9キロで、1月23日と24日は夜間検証も合わせて行なった。
初の試みとして「SLAM」技術を活用
中国のBYD社の車両を使用し、今回の実証実験で初の試みとして、「SLAM」技術を活用したという。このSLAMとは、「Simultaneously Localization and Mapping」の略で、各種センサーから取得した情報から、自己位置推定と地図作成を同時に行うものだ。
このSLAMのほか、静止衛星システムのGNSS(Global Navigation Satellite System)と慣性航法の3つの自己位置推定技術が連携し、さまざまな走行環境において自動運転切り替えがスムーズ実施できることが確認できたという。
そのほか今回の実証実験の成果としては、夜間や多少の雨であれば晴天日と同等レベルでの走行が可能だったことや、試乗者アンケートでは発進・停車・加速時などがスムーズで快適だったと高い評価を得たことがあるようだ。
手動操作が1キロあたりで3回程度
この実証実験では予定していない手動操作が1キロあたりで3回程度発生した。その約6割は自己位置推定技術の精度によるものだといい、なかでも今回初めて活用されたSLAM技術の安定性に課題が残ったようだ。
今後の課題としては、自己位置推定の技術面の高度化や自動走行に関する機器操作の簡易化と手順の確立、ドライバーの自動運転車両に関する知識向上などが挙げられている。
■AIROの実証実験結果は?
丸紅と自動運転ベンチャーZMPの合弁企業であるAIROは、中部国際空港でランプバスの実証実験を行なった。実施期間は2019年12月16日から18日までの3日間で、ZMP社の「RoboCar Mini EV Bus」車両を使用した。走行ルートは到着便を想定した駐車ポイントからオープンスポットを中継する往復約3キロのコースだ。
自動運転レベル4での運用を想定
主に自動運転レベル4(高度運転自動化)での運用を想定して、リモートコントロールセンターからオペレータが指示するフリートマネジメントシステムの機能を検証したという。
走行回数は合計で18回。総走行距離54.9キロのうち自動運転率は99.8%を維持できたが、交差点での車両認識不足などにより予定していないオーバーライド(動作変更)が4回あったようだ。
障害物の自動回避システムも検証
障害物の自動回避システムに関しても検証した。この自動回避システムは障害物があった際に回避ルートを自動生成するもので、この実証実験で技術面では実施可能であることが確認されたという。
今後の技術的課題としては、大型車両や特殊車両の検知や回避対応などが挙げられている。
■【まとめ】早期導入が期待されるが怖さも
自動運転技術は走行範囲が限定されたエリアでは導入しやすい。特異なシーンに遭遇しにくいからだ。そういう意味でも空港での導入は早期に実現する可能性が高い。
ただ空港では航空機などが常に発着しているため、小さなエラーが事故や運航への影響につながりかねないという怖さもある。ゆえに今後も実証実験が続けられ、実用化に向けてより自動運転の安定性などが高められていく。
▼資料URL
https://www.mlit.go.jp/common/001335400.pdf
【参考】関連記事としては「丸紅とZMP、空港での自動運転バス実用化へ「最終実験」 合弁会社AIROが中部空港で」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)