自家用車への自動運転レベル3搭載が始まって4年余りが経過した。2025年12月までに自動車メーカー3社が実現している。普及に苦戦している感も強いが、レベル4販売計画を掲げる新興企業が登場するなど、技術革新は続いている。
こうした最先端技術は、基本的にフラッグシップモデルを対象に実装されるが、一般モデルへの搭載が始まればある意味普及期が到来したと言える。
では、日本独自規格の軽自動車における自動運転技術はどの水準に達しているのか。軽自動車市場の動向に迫ってみよう。
記事の目次
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■自動運転ができる軽自動車は現時点で存在しない
軽自動車に自動運転技術はまだ早い?
結論から言うと、現在自動運転ができる市販の軽自動車は存在しない。将来自動運転システムが搭載される日が訪れるとしても、それはコンパクトカーなどに同技術が普及してからとなる。
軽自動車は日本の独自規格であり、排気量660cc以下、長さ3.4メートル以下、幅1.48メートル以下、高さ2メートル以下の三輪および四輪自動車とされている。
海外では東南アジアなどでも出回っているが、先進国においては排気量や安全基準などが合致しない場合が多い。設計変更し、基準を満たせばAセグメントに含まれる。日本国内で独自の進化を遂げた車両だ。
日本の戦後復興期、そして高度経済成長期にかけ、自動車普及を担う存在として市場が形成された。日常使用を満たす走行能力や安全性、ボディサイズ、低価格が支持を集め、バブル崩壊後の不況期においても、日常的な足として、セカンドカーとしてシェアを高めている。現在、国内販売の3台に1台を軽自動車が占めている。
一部例外はあるものの、基本的には「低価格」であることが重要視されているため、最先端技術が導入されることはほとんどない。自動運転技術はその最たるものだ。
レベル3システムのオプション価格は概ね100万円前後に設定されることが多く、これを軽自動車の価格に上乗せして販売しても、需要は全く伸びない。軽自動車の購買層の大半は、安全装備に高い関心があったとしても、高額な費用を捻出してまで導入しようとは思わないためだ。
最先端技術の多くは、フラッグシップモデルから搭載が始まる。徐々に搭載モデルを拡大し、量産技術化とともに普及していくのだ。この流れで見ると、軽自動車に自動運転技術が搭載されるのは、おそらく同技術が完全にスタンダードなものになってからと思われる。感覚としては、現在のレベル2水準までレベル3が普及すれば動きが出始まるかもしれない……といった感じだろう。
■自動運転レベル3からが自動運転
そもそもレベル3がまだ普及していない
自動運転技術はレベル0~5に区分することができる。「0」は運転支援なし、「1」と「2」は運転支援、そして「3」以降が自動運転に相当する。1や2は、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストといった、自動車の制御を支援する機能が相当する。あくまでドライバーが運転に責任を持つ領域だ。
一方、レベル3は、一定条件下で自律走行を可能にする。例えば、高速道路で晴天時、時速80キロ未満で走行する場合……などの条件が揃えば、自動運転が可能になる。しかし、システムが何らかの原因で自律走行を継続できなくなった場合、ドライバーに手動運転を要請することがあり、ドライバーはこのリクエストに迅速に応じなければならない。自動運転のお試し版と言っても良いかもしれない。
2025年現在、自家用車における自動運転技術の最高峰は、この自動運転レベル3だ。レベル3の実用化は、ホンダが2021年に限定販売したレジェンドで幕を開けた。高速道路渋滞時にレベル3走行を可能とする「トラフィックジャムパイロット」の型式指定を国土交通省から取得し、LEGENDに搭載された「Honda SENSING Elite」の一機能として実装した。
高速道路本線上の渋滞時において、自車の速度がシステム作動開始前に時速30キロ未満であることなどを作動要件としており、作動後は時速50キロを超えるとODDを外れる。つまり、時速50キロまでの渋滞時に自律走行を可能とするシステムだ。
限定販売から4年半が経過しているが、国内ではレジェンドに追随する動きは出ていない。海外では、メルセデス・ベンツとBMWのドイツ勢がフラッグシップモデルへのオプション設定を開始しているが、まだ大きな波は起きておらず、普及・拡大期は訪れていない。
現状、アッパーミドルクラスへの搭載なども始まっていない。そのような状況下、各モデルを飛び越えて軽自動車にレベル3を搭載する――というのは、荒唐無稽となる。軽自動車の自動運転化は、まだまだ先のようだ。
【参考】関連記事「自動運転レベルの定義【0・1・2・3・4・5の解説表付き】」も参照。
【参考】関連記事「自動運転レベル3(条件付運転自動化)の定義とは?展開企業・車種は?」も参照。
■高度なADASが軽自動車にも搭載
レベル2のスタンダード化スタート
軽自動車の自動運転化にはまだまだ時間を要するものと思われるが、先進運転支援システム、いわゆる高度なADASの搭載はしっかりと進んでいる。
自動車市場においてADASの搭載が本格化したのはここ15年ほどだ。クルーズコントロールの実装に始まり、10年ほど前からはレーンキープアシストも備えたレベル2車両の普及が始まった。軽自動車は一息遅れて搭載が始まるイメージで、そのころは衝突被害軽減ブレーキの搭載が標準化し始めた段階だ。
今では、普通乗用車においてはレベル2がスタンダード化し、もの珍しい存在ではなくなった。10年前の高度な技術が標準化したのだ。現在、一定条件下でハンドルから手を放すことができるハンズオフ機能(レベル2+相当)に注目が集まっている状況だ。
軽自動車においては、レベル2搭載のスタンダード化が始まっている。国土交通省のASV(先進安全自動車)技術普及状況調査によると、「全車速域定速走行・車間距離制御装置(全車速ACC)」搭載の国内向け普通・小型乗用車の生産台数は2024年に192万2,663台(総生産台数224万4,435台)で86%、レーンキープは「車線逸脱抑制」が201万2,748台で90%、「車線維持支援」が188万3,124台で84%となっている。
軽乗用車は、「全車速域定速走行・車間距離制御装置(全車速ACC)」が71万4,305台(総生産台数120万869台)で59%、レーンキープは「車線逸脱抑制」が95万2,027台で79%、「車線維持支援」が49万7,356台で41%となっている。
普通・小型乗用車に比べれば搭載率は低いが、全車速ACCは過半を超え、車線維持支援も40%を超えている。両方を備えている割合は不明だが、おそらく3割台に達しているものと推測される。今後、モデルチェンジのタイミングで新規搭載するなどさらに普及が進んでいくことは間違いなさそうだ。
■優秀なADAS搭載の軽自動車の車種
日産は全軽車種にプロパイロット選択可
スズキは、予防安全技術「SUZUKI Safety Support (スズキ・セーフティサポート)」においてアダプティブクルーズコントロールや車線維持支援機能・車線維持機能を提供している。
両者を備えた軽モデルは、2025年12月現在ジムニー、ワゴンRスマイル、スペーシア、スペーシアカスタム、スペーシアギアとなっている(メーカーオプション含む)。
スペーシアギアは、高速道路走行中に全車速追従機能・停止保持機能付アダプティブクルーズコントロールや車線維持支援機能、車線逸脱抑制機能などを作動することができる。
このほか、歩行者や自転車も検知可能なデュアルセンサーブレーキサポートⅡや標識認識機能、死角における視界をサポートする全方位モニター用カメラなど、普通乗用車顔負けの機能を搭載している。
【参考】関連記事「スズキの自動運転戦略」も参照。
ダイハツは、予防安全機能「スマートアシスト」に全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロールやレーンキープコントロールを備えている。
両機能を備えた軽モデルは、タフト、ムーブ、ムーブキャンバス、タント、タントファンクロスをラインアップしている。ミライース以外の全軽モデルがレベル2を搭載しているのだ。このほか、スマートパノラマパーキングアシストやパノラマモニター、標識認識機能なども用意されている。
日産は、デイズ、SAKURA、ルークスの3車種をラインアップしているが、いずれの車種も同社のレベル2ADAS「プロパイロット」に対応している。
プロパイロットは、高速道路における単調な渋滞走行と長時間の巡航走行の両方に対応し、アクセル、ブレーキ、ステアリング操作をクルマがアシストする。国内メーカーのレベル2機能としては、トップ水準の技術だ。
このほか、駐車時のステアリング、アクセル、ブレーキ、シフト、パーキングブレーキに至るすべての制御をアシストするプロパイロット パーキングや、プロパイロット緊急停止支援システム、全方位における衝突回避などを支援する360°セーフティアシストなども用意されている。普通乗用車と変わらない水準だ。
特別な機能は別だが、アダプティブクルーズコントロールとレーンキープコントロールは、一度技術を確立すれば汎用性を発揮し、さまざまなモデルへの搭載もそれほど難しくはない。センサーにかかるコストなども量産効果で低下していれば、レベル2は軽自動車にも搭載しやすい技術となったのだ。
軽自動車に自動運転技術はマッチするのか
今後、このレベル2の高度化と普及が軽自動車でも進行することは間違いない。ただ、ハンズオフ可能なレベル2+や自動運転領域となるレベル3に関しては、正直なところまだ先が読めない。
レベル2+はミドルレンジモデルへの搭載も行われており、拡大期に入っているものの、その勢いはまだゆったりしたものだ。この技術が普通乗用車においてスタンダード化・低コスト化しなければ、軽自動車への搭載は始まらないものと思われる。レベル3も同様だ。
それ以前に、現行のレベル2+やレベル3は高速道路を対象にしたものだが、それが軽自動車オーナーの意向・需要にマッチするかどうかも見極める必要がありそうだ。
BYDが軽自動車市場に参入
国内メーカー独占状態の軽自動車市場だが、気になる動きもある。中国EV大手BYDだ。同社はジャパンモビリティショー2025で初の海外専用設計モデル「BYD RACCO(ビーワイディー ラッコ)」のプロトタイプを公開した。BYD製の軽自動車で、2026年夏に日本市場に導入予定としている。
軽自動車市場で人気のあるハイトワゴンタイプのBEVで、スライドドアも備えている。価格帯は、補助金導入後の実質価格で200万円を下回る水準になると想定される。
BYDも、アダプティブクルーズコントロールや緊急時車線維持支援といったレベル2システムを実用化している。ATTO3は、この二つの機能を組み合わせたナビゲーションパイロットを実現している。自動運転分野ではファーウェイと提携しており、技術革新速度も速い。
「ラッコ」にどこまでの機能が搭載されるかは不明だが、こうした海外勢の参入が市場に変化をもたらす可能性がある。BYDの動向に注視したい。
【参考】関連記事「中国BYD、150万円の激安自動運転EVを発売へ!その名も「神の目」」も参照。
■【まとめ】イノベーターの登場で市場が大きく変わる可能性も
軽自動車に高度な自動運転技術を搭載するには、その性質上技術の低コスト化を待たなければならない可能性が高い。将来レベル3が搭載される日が訪れるとしても、10年くらい待たなければならないかもしれない。
ただ、BYDのようなイノベーターが参入することで、市場が大きく変わっていくことも想定される。普通乗用車においても、おそらく数年以内にレベル4技術が導入される。自家用車市場そのものが変化していく過程で、軽自動車もその影響を受けることになるだろう。
各社の動向とともに、市場全体の動向にしっかりと注目しておこう。
【参考】関連記事としては「自動運転が可能な車種一覧(タイプ別)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)