米国のエンジニア系YouTuberのMark Rober氏のある実験が話題となっている。カメラ搭載車両とLiDAR搭載車両による衝突回避実験により、双方のセンシング能力を対決させた動画だ。
結果として、カメラを搭載したテスラ車が偽の壁に突っ込むなどLiDARに敗北する形となったが、自動運転分野では今なお「カメラ VS. LiDAR」論争が続いている。
開発企業の多くがLiDARを併用する一方、一部の企業はカメラ主体のセンシングにこだわり、コンピュータビジョンの開発に取り組んでいる。
果たして、カメラのみの自動運転は可能なのか不可能なのか……。話題の動画とともに、カメラとLiDARのセンシング技術に迫ってみよう。
記事の目次
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■カメラ VS. LiDAR
Rober氏はNASAで勤務経歴を持つエンジニア
Mark Rober氏は、NASAの研究所で火星探査車開発などに携わった経歴を持つエンジニアで、2011年にYouTuberとしての活動を開始した。チャンネル登録者数 6,550万人を誇る人気で、科学系・イタズラ系動画を中心にアップしている。
2025年3月16日にアップした「自動運転車を欺けますか?」では、LiDAR技術に注目したコンテンツを製作している。前段では、真っ暗で先が見えないディズニーのスペースマウンテンに乗車し、懐に隠し持ったLiDARで建物内をマッピングした様子を公開している。
後段では、自動車に搭載されたLiDARに話題を移し、Rober氏が所有するテスラのカメラがLiDARを搭載した高級車にどれだけ対抗できるかを確認する実験の様子を公開した。
テスラ「Model Y」とLiDARを搭載したレクサス「RX」でガチンコ勝負
テスラのModel Y(Autopilot)と、Luminar TechnologiesのLiDARを搭載したレクサスRXを用意し、カメラとLiDARそれぞれの認識技術がテストコースに設置したさまざまな障害をクリアできるか――といった内容だ。
障害は以下のの6種類を用意し、時速40マイル(約64キロ)で走行してダミー人形を正確に検知・認識しブレーキがしっかり作動するかを実験した。
- ①ダミー人形のみ
- ②飛び出すダミー人形
- ③霧
- ④雨
- ⑤光
- ⑥偽の壁
①のダミー人形のみのケースでは、テスラ、RXともしっかりブレーキが作動して停車した。②は、停車中のクルマの陰からダミー人形が急に飛び出してくるシチュエーションだが、こちらも双方がクリアした。
③は、人間の視界では捉えられない霧の中のダミー人形を認識できるかを実験。RXのLiDARは、人形をしっかり検知している様子が車内ディスプレイで確認でき、衝突することなくブレーキが作動した。一方、テスラはまったくブレーキを踏むことなく人形に衝突した。
④は、ダミー人形の周りに放水車で水の膜を張った。LiDARも当初は水を認識してダミー人形を検知できていなかったが、ギリギリで急ブレーキし衝突を免れた。テスラは、③同様人形をはね飛ばした。
⑤では、はげしい逆光下で実験。LiDARはダミー人形をしっかりと検知し、心配されたカメラも人形の姿をとらえ、衝突することなく停車した。
そして⑥偽の壁だ。発泡スチロールの壁の表面に、背景と全く同じ景色の画像を貼りつけたものを用意した。壁の裏側の道路や空などを精巧に映した画像を貼りつけ、ぱっと見壁が存在しないように見せかけたものだ。人間の目であれば壁の外枠を何となく認識できるため違和感を覚えるが、果たして各センサーの反応はどうなのか。
まず、LiDARは画像の内容を無視して「壁」そのものを認識し、しっかりと停車した。壁に何が写されているのかは把握できないものの、空間そのものを認識するため壁を壁として認識したのだ。
一方、カメラはと言うと……壁の画像にまんまと騙され、盛大に壁をぶち破ってしまった。LiDARとは逆に、画像の中身を正確に認識してしまったがゆえに、壁を壁として認識できなかったのだ。
カメラはだまし絵が苦手?
結果として、LiDARを搭載したRXはすべての障害をクリアしたのに対し、カメラを搭載したテスラ車は霧、雨、そして偽の壁の3つをクリアすることができなかった。
物理的に視界が遮られる霧や雨はもちろんだが、偽の壁も見抜けなかった。人間の目に近い機能を持つゆえに、だまし絵的な存在に弱いのだ。
トリックアートの世界では、オブジェクトが壁から飛び出して見える絵画や地面に穴が開いているように見えるもの、見る角度によって印象を大きく変える作品などさまざまなパターンがある。
人間の目に近ければ近いほど錯視の影響を受ける
人間の目の錯覚を利用するだまし絵の技術は、当然ながらカメラにも通用する――ということだ。現実的に大がかりなトリックアートが道路上に設置されることはそうそうあり得るものではないが、近年、事故防止を目的に錯視効果を利用した路面標示「イメージハンプ」が増加傾向にあるようだ。
物理的な凸部(ハンプ)を錯覚させる図柄で走行車両に減速や停止を促すものだ。歩車道境界ブロックを模した路面表示(京都府宇治市)や、横断歩道がブロック状に立体的に見える路面標示(京都府亀岡市)などさまざまなタイプがある。
精巧な図柄ではないが、見る角度によっては一瞬「お!?」となって注意が向く仕掛けだ。こうしたイメージハンプに対し、自動運転やADAS向けの車載カメラはどのように反応するのか。
今のところ、SNSなどには「ADASが反応した」旨の投稿は見当たらないため、車載カメラは障害物と認識していないものと思われる。しかし、海外にはより立体的に見えるイメージハンプもある。そのうち、カメラが騙されるイメージハンプが登場してもおかしくはない。
ADASはともかく、自動運転車が注意を払って減速するだけならまだ良いが、完全に障害物と信じ込んで停止し続けると厄介なことになる。
このほか、例えば光の加減でビルが透けて見えるような錯視なども自然界では発生する。光と影による錯視をある程度パターン化し、AIを学習する必要があるのかもしれない。
もちろんLiDARにも苦手はある
今回のRober氏による実験からは、LiDARに死角なし――といった印象を受けるが、LiDARのみで自動運転を実現するのも当然至難の業となる。
LiDARは照射したレーザーが対象物に跳ね返り戻ってくるまでの時間により、物体までの距離を正確に測定する。そのため、実体のないイメージハンプや単純なだまし絵の類には無反応となる。視覚に騙されることなく、そこにレーザーが跳ね返る物体があるかどうか――がすべてなのだ。
雨や霧などレーザーに影響を及ぼすものは苦手であるものの、散乱光子も含め情報を集めるアルゴリズムの開発なども進んでおり、悪天候下での性能向上も図られているようだ。
しかし、レーザーによる点群を集めて物体の形状や距離を測定しているため、その物体が何かを正確に把握する能力はカメラに劣る。カメラであれば、そこに映し出された物体、例えば「犬」が秋田犬なのか柴犬なのか北海道犬なのかを判別することもできる。AI次第だが、解析するための情報を得やすいためだ。
しかし、LiDARはこうした細かな分別は苦手と思われる。大型犬や小型犬といった分類はできるものの、犬種までを判別するのは至難だ。場合によっては、タヌキを犬と認識するかもしれない。
大半は自動運転に影響しない許容範囲の誤認かもしれないが、だまし絵同様、人を模したロボットや人形を誤認することを悪用したイタズラなどの餌食になる可能性がある。
LiDARが発するレーザー光を正確に追跡し、発出元となるLiDARにレーザーを狙い当てることでLiDARによるセンシングを無効化する研究なども行われており、LiDARと言えど決して万能ではないのだ。
それゆえ、開発企業の大半はカメラやLiDAR、ミリ波レーダーなどさまざまなセンサーを併用し、各データを統合して認識能力を高めている。種類の異なるデータを統合するのは大変でより大きな情報処理能力が求められるが、こうしたセンサーフュージョンも自動運転の要素技術に数えられる。
【参考】LiDARへの攻撃については「慶応の学生ら、走行中の自動運転センサーを無効化 「脆弱性」を発見」も参照。
LiDARは高精度3次元地図活用で自動運転能力を向上
LiDARを使用するメリットの一つに「高精度3次元地図」がある。LiDARにより道路や周辺環境を事前に3Dマップ化し、安全走行に役立てることができる。
LiDAR搭載車で事前にODD(運行設計領域)内を何度も走行し、車線や縁石、信号、街路樹、道路標識など、道路上や周辺の構造物をくまなく3D情報としてマップ化する。精巧な地図として単純に利用することもできるが、走行中の車載LiDARが取得したリアルタイムのデータを3D地図と突合することで、現在車両が走行している位置を正確に把握することが可能なる。また、車道の真ん中に仮想の線を引き、それを参照しながら走行することなどもできる。
カメラでもマップ情報と突合して自車位置を把握することは可能だが、LiDARの方がより正確に把握することができる。
自動運転にLiDARを活用する多くの企業は、こうした使用方法によってLiDARを有効活用しているのだ。
【参考】高精度3次元地図については「自動運転向け地図・マップ解説 開発企業は?」も参照。
■自動運転車の開発動向
レベル3モデルはすべてLiDARを使用
自家用車においては、やっと自動運転レベル3の実用化が広がり始めた段階だ。2021年にホンダ、2022年にメルセデス・ベンツ、2024年にBMWがそれぞれフラッグシップモデルへの搭載を行った。2025年には、ステランティスもレベル3システムを発表している。
実用化済みの3社は、いずれも車両にカメラとLiDARを搭載している。高精度3次元地図を用い、安全性を高めているのだ。
一方、ハンズオフ運転を可能とする高性能ADASレベル2+においては、LiDAR非搭載モデルが大半を占めている。
普及を見据えるレベル2+においては、LiDAR搭載によるコスト増や車両デザインへの影響などを考慮する動きが強い印象だ。
【参考】自動運転レベル3については「「4社目」の自動運転レベル3、またトヨタじゃなかった」も参照。
カメラ主体の自動運転開発を進める企業
LiDAR非搭載の自動運転開発を進めるのは、米テスラと日本のTuringが代表格だ。人間が目と脳の機能を中心に安全に手動運転ができるのであれば、コンピュータも目をカメラ、脳をAIで代替することで同様に安全走行が可能になる――という論理だ。なお、テスラは自動運転実証時にはLiDARを使用している。
このほか、イスラエルのMobileyeもカメラ主体の自動運転開発を進めているが、同社はLiDARによる自動運転開発も進めている。それぞれ独立した自動運転を併載することで冗長性を高める狙いのようだ。
カメラそのものの高性能化も重要だが、AIの力でどこまでのセンシングが可能になるのか。各社の開発動向に注目したい。
■カメラ単体の自動運転は実を結ぶのか……?
現行技術をベースに考えれば、LiDARを併用した方が安全性を高められるのは言うまでもない。LiDAR不要の自動運転を否定する気はないが、カメラ単体であるならばやはりいかにして弱点を克服するか……が付きまとう。
カメラ単体の開発行為は、果たして実を結ぶのかどうか。未来への挑戦はまだまだ続きそうだ。
【参考】関連記事としては「LiDARセンサーとは何?自動運転やiPhone向けで注目!何ができる?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)