米国・中国間の貿易摩擦が続いている。2024年12月には、米商務省が中国への半導体輸出に関する新たな規制を発表した。中国政府も対抗措置をとる構えだ。
最先端技術の象徴の一つである半導体分野は、両国間の駆け引き材料としてよく持ち出される。同分野で躍進したNVIDIAも、心中穏やかではないだろう。
そんなNVIDIAは、中国拠点におけるエンジニア強化を図っているようだ。ブルームバーグによると、新たな自動運転技術の研究を柱にこの一年間で従業員を1,000人増加させたという。ソフトウェア開発にも力を入れるようだ。
半導体製品の販売に苦慮する中国市場において、ソフトウェアソリューションによるビジネス拡大を図っていく──という可能性はないだろうか。もしかしたら、自動運転ソフトウェアを自社開発し、展開していく──ということも否定できない。
NVIDIAはどこに向かっているのか。中国市場における動向や最新動向を交え、その背中を追ってみる。
記事の目次
編集部おすすめサービス<PR> | |
車業界への転職はパソナで!(転職エージェント) 転職後の平均年収837〜1,015万円!今すぐ無料登録を |
|
タクシーアプリなら「GO」(配車アプリ) クーポン超充実!「実質無料」のチャンスも! |
|
新車が月5,500円〜!ニコノリ(車のカーリース) 維持費コミコミ!頭金は0円でOK! |
|
自動車保険 スクエアbang!(一括見積もり) 「最も安い」自動車保険を選べる!見直すなら今! |
編集部おすすめサービス<PR> | |
パソナキャリア | |
転職後の平均年収837〜1,015万円 | |
タクシーアプリ GO | |
クーポンが充実!「乗車無料」のチャンス | |
ニコノリ | |
新車が月5,500円〜!頭金0円でOK! | |
スクエアbang! | |
「最も安い」自動車保険を提案! |
■NVIDIAの中国事業増強の概要
北京では自動運転開発強化に向け200人を追加
ブルームバーグによると、NVIDIAは2024年、中国拠点における従業員を3,000人から4,000人規模へと増加させた。複数の関係者が明かしたという。
NVIDIAは中国の北京、広州、上海、深センに拠点を構えており、増加した1,000人の従業員は各所に振り分けられているものと思われる。
北京では、人員拡大戦略の核として自動運転の研究チーム強化に向け約200人を追加したとしている。関係者によると、アフターサービスとネットワーキングソフトウェア開発チームも拡大したという。
貿易摩擦で板挟みに……
NVIDIAの売上高に占める中国市場の割合は、15~20%ほどと言われている。米国、台湾に次ぐ3番目の規模だ。決して無視することのできない巨大市場だが、近年は米中間の貿易摩擦のはざまで揺れ動いている。
米政府による段階的・小出しの半導体輸出規制に都度対応を余儀なくされている。規制基準を下回る中国向け半導体を開発・販売→米政府が規制強化→新基準を下回る半導体を開発・販売……と、まるで米政府といたちごっこを続けているような状況だ。
2024年12月には、米商務省が特定の半導体製造装置を新たに輸出規制対象とするなど新たな規制を発表した。
これを受けてのものかは定かではないが、中国政府はNVIDIAに対し独占禁止法違反の疑いで調査を開始したことが報じられている。NVIDIAが報復の標的にされているのだ。NVIDIAとしてはたまったものではないだろう。
中国政府は脱NVIDIAに向け国産の高性能半導体の開発を後押ししているが、なかなかうまくいかないようだ。
ファーウェイやスタートアップなど先進半導体の開発に力を入れる企業は多いが、まだまだNVIDIAの足元にも及ばない。NVIDIAソリューションを導入している中国企業は非常に多いが、性能面・互換性などの観点から他メーカー製への乗り換えは容易ではないという声も聞こえる。
中国企業サイドとしては、まだまだNVIDIAに依存しなければならない状況が続くのだ。
ソフトウェアに活路を見出す?
国際情勢の影響は免れないものの、NVIDIAにとって中国は重要な市場であることに変わりはなく、あの手この手を駆使してシェア確保を図っていくものと思われる。
さて、話を戻す。ブルームバーグによると、自動運転の研究に力を入れ、ネットワーキングソフトウェア開発チームも拡大していくという。
長期的な半導体需要が見通せない中、ソフトウェア領域で勝負をかける――とする見方もできないわけではない。特に、自動運転分野においては、自律走行の核となる自動運転システムをはじめ、通信やセキュリティなど、専門性の高いさまざまなソフトウェアが必要となる。
こうした各種ソフトウェアを最大限効果的に働かせるためのSoCがNVIDIAの本領だが、ソフトウェア展開も本格化することでより堅固なビジネススタイルを確立できる。
中国を舞台に新たな一手に出るのか、NVIDIAの動向に要注目だ。
■NVIDIAの自動車向けソフトウェア
自家用車から自動運転車まで対応可能なOSを提供
NVIDIAは、自動運転・自動車関連のソフトウェアとして「NVIDIA DriveOS」を提供している。自動車認証機関 「TÜV SÜD」認定の業界標準に準拠した安全性とセキュリティの方法論を使用して開発された自動車用オペレーティングシステムだ。
高度なAI推論や高性能コンピュータービジョン、高度なグラフィックス、ハイエンドオーディオ、複雑な安全性とセキュリティのユースケースなど、最先端の自動車製品の要件を満たすよう設計されている。
自動運転とAIを活用したコックピットエクスペリエンスもサポートしている。画像処理や多様なセンサーフュージョン、AIアクセラレーション、低オーバーヘッドのプロセス間通信、デバッグとプロファイリング向け開発者ツールのためのソフトウェア開発キットを備え、Linux やQNXをアプリケーションオペレーティングシステムとして使用できるという。
カメラフレームはGPUメモリに直接ロードされ、NvMediaによる高性能センサーインターフェイスと処理を実現できる。ハードウェアアクセラレータ間のゼロコピー データ転送による効率的なデータ転送を実現する NvStreams もサポートしている。
プログラミング関連では、クラウドやワークステーションからSoCへスムーズな移行を実現する。大規模な開発者ベースで広く採用されているプログラミングモデル「NVIDIA CUDA」と「TensorRT」をサポートしており、クラウドからターゲットまで統合された APIをサポートする。
■NVIDIA×中国自動車メーカー
ほぼすべてのOEMや新興開発勢がNVIDIAを採用?
中国振興EVメーカー勢にもNVIDIAソリューションは広く使用されている。Li Auto(理想汽車)は、次世代車両の集中型車載コンピューターとして NVIDIA DRIVE Thorを採用する。BYD、XPENG、GAC(広州汽車)系のAIONもNVIDIA DRIVE Thorの採用を決めている。
GWM (長城汽車)やGeely系のZEEKR、 Xiaomi、NIO 、百度が出資するJIDU Autoは、自動運転システムの強化にNVIDIA DRIVE Orin プラットフォームを採用する。
WeRide、AutoX、Pony.ai、Momenta、DeepRoute.ai、Neolixといった自動運転開発新興勢も当然のようにNVIDIA製品を使用している。AI処理には高性能なコンピューターが必須のため、上を目指せば目指すほどNVIDIAへの依存率は高くなる。
BYDなどは、2024年10月に香港市場に上場した中国のAIチップ開発企業Horizon Roboticsのソリューションも採用しているが、やはりNVIDIAからは離れられないのかもしれない。
一方、貿易摩擦による輸出規制を懸念し、百度がファーウェイにサーバー用AIチップを大量注文したことなども報じられている。
今後、規制がいっそう強化され、その影響が明らかに自動運転分野にまで及んだ際、各社はどのような動きを見せるのか。要注目だ。
【参考】EVメーカーにおけるNVIDIAのシェアについては「NVIDIAの自動運転チップ、EV企業の推定シェアは60%強」も参照。
■NVIDIAの最新動向
Orin生産開始、次世代モデルThorも発表
自動車セグメントにおけるNVIDIAの売上高の推移を過去3年分見ていこう。2023年度第1四半期(2022年2~4月)は1億3,800万ドル、第2四半期は2億2000万ドル、第3四半期は2億5,100万ドル、第4四半期は2 億 9,400 万ドルで、通期では前年比60%増の9 億 300 万ドルとなった。
この年度は、NVIDIA DRIVE Orinの生産を開始した年だ。Orinは、前世代機より最大 5 倍高速に動作し、平均 2 倍のエネルギー効率を実現するとしている。
また、次世代モデルとなるNVIDIA DRIVE Thor も発表された。2,000 TFLOPSを誇る 集中型コンピューターで、Geely 傘下の Zeekr が 2025 年にBEVに統合する計画も発表された。
このほか、台湾Foxconnとのパートナーシップも発表されている。世界の自動車市場向けにFoxconnがNVIDIA DRIVE Orin ベースの電子制御ユニット(ECU)を生産するほか、Foxconn が製造するBEVに高度に自動化された運転機能を実現する DRIVE Orin ECU とDRIVE Hyperionセンサーを搭載する――といった内容だ。
両社は2023年10月、スマートカーの開発・量産化に向け新たなデータセンター「AIファクトリー」の構築を共同で進めていくことも発表している。
Foxconnが展開するEV開発・製造に向けたオープンプラットフォーム「MIH」の成果次第では、NVIDIAも膨大な恩恵を受けることが予想される。新規格の自動車づくりに向けた取り組みの行方に要注目だ。
【参考】NVIDIAとFoxconnの取り組みについては「米NVIDIAと台湾Foxconn、自動運転向け「AI専用データセンター」を建設へ」も参照。
2028年には自動車セグメントは140億ドル規模に
2024年度第1四半期(2023年2~4月)の収益は2億9,600万ドル、第2四半期は2億5,300万ドル、第3四半期は2億6,100万ドル、第4四半期は2億8100万ドルで、通期では前年比21%増の11億ドルとなった。
この年のAIカンファレンスで、自動車設計受注が今後 6 年間(2023 年~2028年)で 140 億ドルに増加する見込みを発表している。自動運転車の増加をはじめ、NVIDIA製品を搭載した自家用EVが大きく伸びていくことを見込んでいるようだ。
第3四半期までで前年通期の売上を超す
2025年度第1四半期(2024年2~4月)の収益は3億2,900万ドル、第2四半期は3億4,600万ドル、第3四半期は4億4,900万ドルで推移している。第1~3四半期累計で11億2,400万ドルに達しており、すでに前年度に並んでいる。前年比40%増のペースだ。
BYD、XPENG、GAC の AION Hyper、Nuro などが、次世代向け商用EVの車両群にBlackwell GPU アーキテクチャを搭載した次世代NVIDIA DRIVE Thorプラットフォームを採用したことが発表されたほか、Lucid と IM Motorsが欧州市場をターゲットにした車両モデルにNVIDIA DRIVE Orinプラットフォームを使用していることも明らかにされた。
また、CerenceやGeely、Li Auto、MediaTek、NIO、SoundHound、Tata Consultancy Services、Waabi、Wayveといったパートナー企業が、NVIDIAのクラウドツーエッジテクノロジーを使用し、インテリジェント AI アシスタントやドライバーモニタリングシステム、シーン理解などに取り組んでいることも発表された。生成AIを活用した取り組みにも注目が集まるところだ。
このほか、物理的に正確なセンサーシミュレーションを可能にし、あらゆる種類の完全自律型マシーンの開発を加速するマイクロサービスセット「NVIDIA Omniverse Cloud Sensor RTX」も発表した。
より正確でリアルな仮想環境でセンサー認識と関連するAIソフトウェアを大規模にテストできるソリューションだ。
同セグメントにはロボットも含まれており、トヨタや安川電機、セブン&アイ・ホールディングス、理経が、NVIDIA OmniverseやNVIDIA Isaac、NVIDIA Metropolisなどを製造現場や小売店での顧客行動分析などに用いていることも発表された。
株価は2024年に2.8倍に
貿易摩擦に関する情報を受け株価は上下動を繰り返しているが、2024年12月13日終値は134.25ドルで、時価総額3兆2,878億ドル(約505兆円)となっている。
年初の2024年1月2日の終値は481.68ドルで、時価総額1兆1,800億ドルほどだった。6月に株式分割(1株→10株)を行っているため、この一年間で株価や時価総額は約2.8倍上がっている。
生成AI市場の伸びなどを背景にNVIDIAの業績は今後も伸び続ける可能性が高い。現在、各セグメントにおいてシェアが低い自動車も、自動運転化やSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)化で需要が伸び続けることが予想される。
米中間の火種のほか、EUも独占禁止法違反の疑いでNVIDIAの調査を開始するなど懸念もあるが、アップルなどを抜き史上初の時価総額4兆ドル達成に期待したいところだ。
【参考】NVIDIAの株価については「NVIDIA、世界初の「時価総額4兆ドル企業」へ!自動運転向け需要で”株価一段高”か」も参照。
■【まとめ】「出る杭は打たれる」日がいつか訪れる?ソフトウェア領域で挽回?
依然としてその強さが際立つNVIDIA。米中両政府の板挟みで大変な中国市場でも圧倒的な存在感を発揮しているようだ。
ただ、EUの独禁法違反調査のように、「出る杭は打たれる」時がいずれ訪れる可能性が高い。こうした未来を見据え、ソフトウェア領域に力を入れる――という戦略は至極真っ当なものと思われる。
開発と実用化の波がうねり続ける自動運転分野は、こうした事業にもってこいではないだろうか。NVIDIA製自動運転ソフトウェアの登場にこっそりと期待したい。
【参考】関連記事としては「自動運転、米国株・日本株の関連銘柄一覧(2024年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)