半導体大手の米NVIDIAは2024年11月12〜13日、「AI Summit Japan 2024」を東京都内で開催する。NVIDIAのJensen Huang(ジェンスン・フアン)CEO とソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長執行役員の孫正義氏による対談を目玉に、AIに関するさまざまなセッションが行われるようだ。
過去にNVIDIA株を保有していたが、いまよりはるかに安い株価で全部を売却してしまっているSBG。現在、NVIDIAは世界トップクラスの時価総額を誇る一大企業に成長しており、株価も売却当時からみればはるかに高値となっているが、同社のさらなる潜在的成長性を考えれば、今回の対談で孫氏がNVIDIA株の再保有を発表する可能性はゼロではない。
NVIDIAとSBGのこれまでの縁を振り返りつつ、再投資を含むより強固な両社のパートナーシップの可能性に迫る。
記事の目次
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■AI Summit Japan 2024の概要
孫会長やTuringの青木CTOらも参加
AI Summit Japan 2024は11月12~13日の日程でザ・プリンス パークタワー東京を会場に開催される。招待制イベントで、参加するには招待コードが必要だ。
NVIDIAや各業界で変革に取り組むパートナー企業などが参加しており、生成 AIや産業デジタル化、ロボティクス、大規模言語モデル(LLM)など、50以上のセッションやライブデモを通じてAI における各分野のリーダーたちが知見・考察を披露する。
フアンCEOと孫会長は、AIとアクセラレーテッドコンピューティングで何が可能になるのかなどについて、11月13日に対談するようだ。
また、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻・人工物工学研究センターの松尾豊教授による講演「日本の生成 AI 現在地と未来 〜 今知っておくべきこととは 〜」や、Turingの青木俊介CTOらによるパネルセッション「ソブリン AI 、その役割と創造する新たな可能性」なども予定されている。
▼NVIDIA AI Summit Japan 2024
https://www.nvidia.com/ja-jp/events/ai-summit/
■NVIDIAとSBGの関係
NVIDIAに3,000億円投資
SBGは2016年12月、NVIDIAに29億ドル(約3,000億円)を出資した。同社株の平均取得単価は105ドルだ。この年、SBGはソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の設立を決定し、また英ARM Holdingsを総額約240億ポンド(約3.3兆円)で買収している。
投資事業と半導体戦略を本格化させた年だが、この時はまだNVIDIAへの出資はそれほど話題にならなかった。3.3兆円で買収したArmと比べれば当然と言える。
カラー取引で売却益をしっかり確保
NVIDIA株はその後順調に値を上げ、2018年9月には280ドル台に達したがその後急落し、同年12月には134ドルまで下がった。SBGの直近の決算上、連結営業利益に4,000億円レベルの赤字影響を与えていたが、下落リスクを相殺するカラー取引などにより、純利益では逆に3,000億円取り戻したという。
要は、元の29億ドルのうち7億ドルが普通出資で、この部分を33億ドルで回収したのだ。こうした投資の手法を、2019年3月期第3四半期決算説明会で孫会長が直々に説明したことでNVIDIAに注目が集まった。
最終的に、NVIDIAへの投資は28億7,800万ドルで、時価58億1,800万ドル、損益(グロス)29億3,600万ドルで全株エグジットしている。
売却後にNVIDIA株は急伸……
なお、NVIDIA株はその後持ち直し、2019年10月に200ドル台を回復すると、2020年末には500ドル台を突破し、2021年6月には800ドル台に達した。2021年7月に1株を4株に株式分割し200ドル台となり、同年11月に300ドル台を超えた後2022年末にかけて下落していく。
2023年に入ってからは大きな伸びを見せ、同年末に約500ドル、そして2024年5月には1000ドルを超えた。タラレバ論だが、もしSBGがずっとNVIDIA株を保有していれば、その価値は約40倍に膨れ上がっていたことになる。
リスクヘッジでしっかりと利益を生み出した手腕は評価に値するが、結果論として「あの時売却しなければ……」といった悔いが残っていてもおかしくないほどNVIDIAは大きく成長した。
【参考】NVIDIA株については「NVIDIA株、一段高へ期待感!車載半導体、自動運転向けで採用加速」も参照。
NVIDIAへのArm売却計画は空振りに……
孫会長とNVIDIAの関係はこれだけではない。SBGは2020年9月、Armの全株式をNVIDIAに売却する方針を発表した。
取引価値は最大で400億ドル(約4.2兆円)で、このうち契約時にSBGとArmに対して20億ドルが現金で支払われ、クロージング時にSBGとSVFへ100億ドルの現金と215億ドルのNVIDIAの普通株式(4,436万6,423株)が支払われる内容だ。
業界に激震が走る買収契約だったが、その影響の大きさから独占禁止法への抵触が当初から懸念されており、英国、EU、米国、中国などの規制当局の承認や、その他一般的なクロージング要件の充足が求められていた。
NVIDIAは、Arm買収後も引き続きオープンなライセンスモデルの運用を行い、Armの中立性を維持するとしていたが、最終的に規制当局が難色を示し、買収契約は破談となった。
Armの企業価値は買収時の6~7倍規模に
思惑通りに進めることができなかったものの、SBGはNVIDIAが前払いした12.5億ドルを手にしたほか、この破談がArmの再上場へとつながった。Armは2023年9月、米ナスダック市場に上場した。
Arm株は始値56.10ドルでスタートし、初日の終値は63.59ドルをつけた。その後も順調に伸ばし、2024年10月1日時点で136.08ドルの値をつけている。時価総額は1,436億ドル(約21兆円)とすでに上場時の2倍を超えた。
上場時から10兆円以上、2016年のArm買収時からは18兆円の価値が上積みされているのだ。
【参考】Arm上場については「Arm上場後20分間の「爆騰」の正体 自動運転事業の有望性に投資家殺到」も参照。
実はArmを売りたくなかった?
そもそも、Arm売却は苦渋の決断だったという。SBGは2020年、コロナ禍において守りを優先するため、4.5兆円のアセットを資金化する意思決定を行った。この資金化計画にArmも含まれ、Armの将来性とグループ全体のAI戦略を踏まえて導き出した案がArm株のNVIDIAへの譲渡だったのだ。
孫会長は「SBGレポート2024」の中で、Arm上場に関して「過去にはArmをNVIDIAに売却するという決断を下したこともあった。結局は規制上の課題から売却契約を解消したが、もし取引が成立していれば、先日時価総額世界一となったNVIDIAの大株主になっていた。もし今、ArmとNVIDIAのどちらか1社を買うチャンスが与えられたなら、迷わずArmを選ぶ。それぐらいArmの将来を信じている」としている。
SBGでCFOを務める後藤芳光氏も「NVIDIAも成長期待の大きな企業だが、同社にとってArmはもはや欠くことのできない存在になっているのではないか。その意味で、半導体サプライチェーンの最上流に位置するArmをグループの根幹に据えておけることは、我々のAI戦略をより加速させていくことになる」とし、「あのとき(Arm売却の)ディールが成立していれば、保有していたであろうNVIDIA株の株価上昇によりSBGのNAVは今よりさらに伸びていたはず。しかしこの先20年を見据えれば、Armを保有する価値はそれをさらに上回っていくのではないか」と評価している。
仮に売却実現なら保有するNVIDIA株は78兆円に……
なお、仮にだがNVIDIAへのArm売却が成立していた場合、SBGはNVIDIAの普通株式を4,436万6,423株取得していた。1株→10株の株式分割を経て同社株は現在120ドルほどだ。単純計算すると、約5,300億ドル(約78兆円)の値となる。
投資家としての短期目線では、売却が成立していた方が良かったと言える。SVFの観点から見ればとてつもない成果としてビッグニュースになっていただろう。
それでも、孫会長は今ならArmの将来性に賭けるという。伸び盛る両社を天秤にかけるのは難しいが、投資価値よりも事業価値を選んだ格好だ。
NVIDIAに翻弄される孫会長?
ここうした過去を振り返ると、SBGや孫会長は、NVIDIAに自ら進んで振り回されてきたようにも感じられる。
過去のNVIDIA株売却時、SBGはしっかりと利益を確保したものの、もし保有し続けていればその利益は莫大なものとなっていた。また、Arm売却が実現していれば、莫大な資金で新たな投資やチャレンジを行っていたものと思われる。
早くからArmとNVIDIAに注目していたSBGの先見の明はさすがの一言だが、その想定を上回る成長をNVIDIAは成し遂げたのだ。結果論ではあるものの、投資事業を軸に据えるSBGとしては、これまでの判断は成功であり、失敗でもあると言える。
NVIDIAとArmは良好な関係を継続
ArmをはじめとするSBGとNVIDIAはビジネスパートナーとして引き続き良好な関係を築いている。NVIDIAとソフトバンクは2023年5月、生成AIと5G・6Gに向けた次世代プラットフォーム構築に向けた協業を発表している。NVIDIAベースのプラットフォームを今後構築予定の日本各地への分散型AIデータセンターに導入する予定だ。
また、NVIDIAは2024年3月、最新データセンター向けチップにArmベースのCPUを採用したことを発表している。
ArmとNVIDIAの関係は今後も深まっていく可能性が高い。NVIDIAの業績がArmにも反映されるようなウィンウィンの関係とすれば、孫会長が再びNVIDIA株の保有を考えてもおかしくはないのではないか。
すでにNVIDIAの株価は相当上がってしまっているが、Armとともに相乗効果を発揮し、さらに伸長することを期待すれば、高い買い物であっても泣く泣く?再保有する可能性もありそうだ。
自動運転での両社の躍進にも期待?
ArmとNVIDIAは、自動運転分野においても今後相乗効果を発揮していく可能性が高い。Armは2024年3月、完全自動運転車の開発を加速する一連の新技術として、自動車の開発期間を最大2年短縮可能なバーチャル開発環境を発表した。
これまでの車載用途に特化した9Armvベースのプロセッサー群やサブシステムに加え自動運転向けのソリューションを拡大している。
自動運転は将来的な市場の拡大を見込みNVIDIAも早くから力を入れている分野だ。自動運転車をモバイル端末として見れば、Armの低消費電力性能は後々必須の技術となる。膨大な電力を消費するNVIDIAの高性能ソリューションとArmの低消費電力技術のべストマッチングに期待したいところだ。
【参考】自動運転分野におけるArmについては「10兆円企業のArm、自動運転業界の「影の覇者」へ!孫正義氏の救世主になるか」も参照。
ASI実現に向けた取り組みで再投資も?
孫会長の頭の中には、早くもASI(人工超知能/Artificial Super Intelligence)実現の向けたビジョンが広がっているようだ。ASIは人間の知能をはるかに超えたAIで、シンギュラリティの到来を象徴するようなものとなる。
現在開発の中心となっているのはAGI(人工汎用知能/Artificial General Intelligence)で、マルチタスクへの対応や自律進化、判断・意思決定などを可能にするものだ。このAGIが進化していくと人間の頭脳のような柔軟性を発揮できるようになり、そして自己進化で未知のタスクにも対応可能な人間の能力を超えたASIが実現する。
AIがこのレベルに達すればその進化は指数関数的に加速していく。つまり、シンギュラリティの到来を意味する。
孫会長は、その基盤テクノロジーを提供するのがArmだが、単独で実現することはできず志を共有するパートナーたちと技術面・資金面で協力しながらゴールに向かっていきたいとしている。このパートナーの有力候補がNVIDIAやGoogle、Microsoftなどだ。
SBGがASI実現に向け本格始動する際、NVIDIAと再び強く結びつく可能性は十分考えられる。こうした面からも、NVIDIAへの再投資の道が開かれるのかもしれない。
■【まとめ】NVIDIAへの投資でAI戦略を次のステージへ
やはりSBGとNVIDIAは切っても切り離せない奇妙な縁で結ばれているように感じる。そのうち我慢?できなくなった孫会長が再びNVIDIAに投資し、AI戦略のステージを引き上げにかかるかもしれない。
まずはAI SummitでフアンCEOと孫会長がどのような言葉を交わすのか。要注目だ。
【参考】関連記事としては「完全解明!自動運転×半導体、世界の有力企業11社一覧」も参照。