自動運転実現に向け、高速道路における研究や実証も盛んになり始めている。NEXCO3社はそれぞれAI(人工知能)カメラを活用した実証などに着手し、次世代対応の高規格道路の進化に向け取り組みを加速している。
一方、国においても高速道路のパフォーマンス向上に向けた議論が加速している。自動運転の導入も施策の1つに位置付けられ、2024年度にも一部区間で「自動運転レーン」の実証を開始する計画だ。
高速道路における自動運転実用化に向け、どのような議論や取り組みが進められているのか。その実態に迫る。
▼高速道路の進化事業について|第63回国土幹線道路部会(2024年3月5日)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001727347.pdf
記事の目次
■高速道路における自動運転実用化に向けた議論
次世代高速道路に自動運転は欠かせない存在に
国土交通省所管の社会資本整備審議会道路分科会は、幹線道路のネットワークのあり方やパフォーマンス向上などに向け2012年に国土幹線道路部会を設置し、さまざまな議論を進めてきた。当初は自動運転を想定していなかったが、近年の社会情勢や技術開発状況などを踏まえ、議論の中身もバージョンアップが図られてきた。
高規格道路ネットワークのあり方をめぐっては、従来の高規格幹線道路と地域高規格道路を一体的な道路ネットワークとして「高規格道路」に再整理し、自動車専用道路に相当する速達性や信頼性などを確保していく方針が2023年度までの議論で確認されている。
その際、委員や有識者からは「自動物流道路(オートフロー・ロード)は物流危機への対応として非常に重要」「自動物流道路の構築にスピード感を持つことは大事」「暫定二車線区間を自動運転車の物流路線として一車線増やすことも考えられる」「観光客や免許を持たない高齢者などの移動がスムーズとなるよう、バスタなどの拠点整備や自動運転、速度の遅いスモールモビリティの活用などにより、公共交通の利便性向上に向けた取り組みを併せて進めてもらいたい」といった意見が出された。
次世代高速道路に向けては、自動運転技術の導入を見据えた施策が必要不可欠となりつつあるようだ。
路車協調や拠点機能の高度化が重要
高規格道路ネットワークのあり方中間とりまとめ案では、高規格道路の役割として、経済成長・物流強化、地域安全保障のエッセンシャルネットワーク、交通モード間の連携強化、観光立国の推進、自動運転社会の実現、低炭素で持続可能な道路の実現、道路の枠を超えた機能の高度化複合化が掲げられた。
車両単体では対応が難しい落下物検知や車両・インフラ間のコミュニケーションを可能とするセンサー、通信設備、官民データ連携基盤などの次世代ITSのデジタルインフラストラクチャー整備が重要であり、道路の電脳化を図っていく必要があるとしている。
拠点機能の高度化に向けては、高規格道路ネットワークへの社会的要請の変化に伴い、ネットワークが連結するSA・PAや道の駅、バスタなどの拠点施設が果たす多様な役割が重要性を増しており、物流効率化に資する中継輸送拠点機能やダブル連結トラックの休憩機能、自動運転トラックの手動・自動切換え機能、交通結節機能など、多様なニーズに応じて進化していくことが求められる。
自動運転社会への移行の観点からは、高規格道路上や近傍における拠点施設が自動運転と非自動運転の切換え拠点として交通ハブ機能を担うことが想定されているため、こうした機能も踏まえた拠点整備の促進を図るべきとしている。
自動運転実現に向けたインフラ支援としては、管制センターによる遠隔監視や自動運転車の本選合流を支援する情報提供、全区間をカバーする5G(V2N)やスポット的な路車間通信(V2X)を可能にする通信設備、自動運転の有人・無人を切り替える施設、AIカメラや車両データを活用した落下物の早期自動検知など、先読み情報の収集・提供、専用通行帯や優先通行帯などの通行帯規制の法定標示や周知などが考えられている。
高速走行にはより広範囲の情報が必須
さまざまな条件下で無人走行を行う自動運転車は、カメラやLiDARなどの車載センサーによって自車位置や道路状況、路上の障害物などさまざまな情報を検知・解析することで安全な走行を実現する。
高速道路においてもこうした仕組みは同様だが、車両が非常に速い速度で進行するため、検知しなければならない前方の範囲も大きく広がる。車載センサーで検知・解析し、車両制御の判断を下すまでに車両が前進する距離が長くなるため、より先の道路の状況を把握する必要があるのだ。
こうした課題解決に向けては、センサー機能の向上も求められるところではあるが、やはり限界がある。あらかじめ収集した落下物や事故車両などの情報を取りまとめ、V2I技術などで早期に一般車両や自動運転車に発信する方が効果的に安全性を高めることができる。
また、合流地点にける情報提供も肝要だ。合流地点では、一定速度で走行しながら走行車線を走行するクルマの動向を見極め、スムーズに合流しなければならないが、速度域が高いため、早めに車線別の車両位置や速度を把握できた方がよい。
高速道路においては、情報の収集や解析、提供体制を構築することで安全性・冗長性を高めることができるのだ。
■高速道路における自動運転実用化に向けた取り組み
国総研が官民協同でV2I技術などを研究
国土交通省国土技術政策総合研究所は2021年、自動運転の普及拡大に向けた道路との連携に関する共同研究に着手した。民間企業等27者(28団体)参画のもと、自車位置特定補助情報(横断方向)や先読み情報などに関する研究を約3カ年にわたり実施した。
自車位置特定補助情報関連では、車載センサーによる自動運転車の自車位置特定を補助するため、区画線や路面標示の要件案の作成などを進めた。先読み情報関連では、車載センサーで検知できない前方の状況を車両に提供することで自動運転を支援するため、対象とするユースケースの特定や、各ユースケースにおいて収集・提供する情報項目の特定、情報収集・提供フォーマット案の作成、情報収集・提供システム仕様案の作成などを進めた。
NEXCO東日本は中日本と合同で実証実施
NEXCO東日本は2020年10月、高速道路上の事故や落下物などの事象を交通監視カメラ映像から自動で検知する技術の開発・実証をNEXCO中日本と共同で実施すると発表した。
高速道路の脇に設置したズーム・旋回が可能な交通監視カメラで、①画角を自動で認識して交通事故などを発見する技術②照明が設置されていない夜間でも交通事故などを発見する技術――について検証するとしている。
これまで24時間365日人力によって監視してきた確認作業において、AI検知を活用した効率的なオペレーションの追加を検討し、高速道路の全線監視を目指していく方針としている。
なお、実証には富士通とオムロンソーシアルソリューションズ、センスタイムジャパン、日立国際電気が関わっている。
センスタイムジャパンは、ディープラーニング技術を活用した交通映像分析技術の活用を提案したようだ。既存のカメラによる道路交通映像から、車や二輪車などを高精度に検出・追跡可能で、自動運転支援に関わる開発で培った障害物検知などの技術を融合し、高速道路で発生する異常事象などの検知技術をカスタマイズしたという。
▼高速道路上の事故や落下物などの事象を交通監視カメラ映像から自動で検知する技術開発・実証を開始します|NEXCO東日本
https://www.e-nexco.co.jp/pressroom/head_office/2020/1028/00008642.html
NEXCO西日本はAIカメラの活用を開始
NEXCO西日本は2021年3月、新たにAI画像処理技術を活用した道路情報の収集・提供に取り組むと発表した。
従来、道路利用者らからの通報を受け、道路管制センターがカメラ映像を目視確認することで事故や落下物などの異常事象を認知し、道路情報板やハイウェイラジオなどを通して情報提供している。また、車両感知器やプローブデータによって渋滞を自動検知し、渋滞長や所要時間情報も提供している。
このように、通報や手動によるカメラ確認などに頼っていた異常事象の検知を、新たにAI画像処理技術を活用して自動化し、その検知結果を人間がチェックする仕組みを構築することで、情報提供の半自動化を図っていくという。
先行地区での運用期間中にさまざまな環境条件で検知を行い、継続的に学習することで精度向上を図るとともに本格的な展開に向けた運用上の課題を抽出する。技術基準を確立した後、随時他区間への展開を進めていくこととしている。
▼AI画像処理技術を活用した道路情報の収集・提供を開始します|NEXCO西日本
https://corp.w-nexco.co.jp/corporate/release/hq/r3/0331a/
NEXCO中日本は「i-MOVEMENT」でイノベーション促進
NEXCO中日本は、高速道路モビリティの進化に貢献する革新的なプロジェクト「i-MOVEMENT(アイムーブメント)」を立ち上げ、事故削減や渋滞解消、災害対応、自動運転、貨物輸送の進化、キャッシュレス化など多方面にわたるイノベーションで高速道路の利便性を高める取り組みを推進している。
自動運転関連では、やはり先読み情報の収集・提供に注目している。現在の体制では、リードタイムは事象発生から1時間程度要する場合もあり、自動運転車に使用するには遅過ぎるほか、個々の車両への伝達手段も必要になるとしている。
最新のセンサーなどでほぼリアルタイムに事象を検知できるようにし、高速大容量、低遅延、多接続な通信を実現することで数秒で先読み情報の提供が可能になるよう取り組んでいるようだ。
こうした取り組みを加速するため、同社は2019年にイノベーション交流会を設立し、多方面の企業・団体が保有する先端技術と組み合わせた技術実証を進めている。
本田技研は、走行車両情報や気象情報、冬季路面の撮影画像をもとに、冬季路面の走行リスクの定量的把握の精度を実証するほか、路面変状を迅速かつ効率的に検出して補修するため、一般車両の走行データを活用した路面変状を検出する技術と運用手法の有効性についても実証を進めている。
東芝は、ドライブレコーダーやスマートフォンなどで撮影した画像や映像をもとに、画像認識技術を活用した路面状態把握や異常検知に関する実証を進めている。
富士通は、交通事故防止や渋滞発生抑制などの事前対策と、事象検知の迅速化による早期復旧実現に向け、車両位置や走行速度などのプローブデータを可視化した事象検知の可能性について実証を進めている。
実証を経て実用段階に移行した取り組みもある。フジミックは、SNSなどの外部情報から交通事故や緊急事象などの高速道路関連情報を抽出し、現場状況把握の迅速化を図る実証を行った。
三菱電機は、三次元点群データを用いて構造物などの変状データによる管理の技術要件と効果を抽出するためのシステム検証を行った。
建設中区間での実証にも着手
NEXCO中日本は2023年度、E1A新東名高速道路建設中区間で高速道路の自動運転時代に向けた路車協調実証にも着手している。
ユースケースとして、以下を挙げており、三菱重工やソフトバンク、沖電気工業、KDDI、富士通、日本電気、三菱電機、交通総合研究所などの参加のもと実証を進めている。
- ①路上障害情報の後続車への提供
- ②路面状況や走行環境に応じた最適な速度情報等の提供
- ③車載センサーなどを活用した維持管理情報や運行支援情報等の収集・提供
- ④コネクテッド車の緊急停止時における遠隔監視、操作
- ⑤交通状況に応じた情報提供による高速道路ネットワークの最適化
- ⑥交通状況に応じた車群制御情報の提供による交通容量の最大活用
- ⑦目的地別の追随走行支援
【参考】三菱重工らの取り組みについては「「先読み情報」を自動運転車へ配信!三菱重工らが実証実施へ」も参照。
【参考】ソフトバンクらの取り組みについては「自動運転時代、高速道では「リスク情報」が瞬時に共有される」も参照。
■【まとめ】自動運転支援道の取り組みで一連の事業が加速
2024年度には、デジタルライフライン全国総合整備計画におけるアーリーハーベストプロジェクトとして、新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA間で自動運転支援道整備に向けた実証が始まる。この中でV2X・V2N通信の環境整備なども進められる予定で、これまでの研究や実証が大きく加速していくことになりそうだ。
AIカメラなどを活用した情報集・提供は、自動運転に限らず一般車両にも有効なものとなる。安全かつ利便性の高い高速道路への進化に期待したい。
【参考】関連記事としては「NEXCO東、次世代高速道実現へ自動運転分野で共同研究」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)