万博の跡地、トヨタによる「大阪版Woven City」への期待感

人工島「夢洲」は自動運転シティにもってこい?

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出典:大阪府

2025年開催予定の大阪・関西万博。開催の是非をめぐる論争が巻き起こっているが、その一方で会場跡地の利活用に向けた市場調査もすでに進められているのをご存じだろうか。

大阪府・市が2023年夏に発表したサウンディング型市場調査結果によると、アリーナやサーキット場といったエンターテインメント施設の整備をはじめ、さまざまな意見・アイデアが寄せられたようだ。中には、モビリティサービスの中核機能の整備といった案もあった。

こうした大規模跡地を活用し、自動運転をはじめとした実証・実装エリアを整備するのも一考の余地がある。Woven Cityの大阪版のようなイメージだ。夢洲は、こうした実証・実装エリアに適した環境を備えているのだ。

夢洲がどのような点で自動運転などの実証・実装エリアに向いているのか、解説していく。

■夢洲の概要
夢洲にはIRも建設予定

万博の会場は、面積約390ヘクタール(390万平米)の人工島・夢洲だ。同様の人工島・舞洲と咲州の中間やや西側に位置する。万博や埋め立て問題などで近年注目を集めているが、その開発の歴史は古く、ごみ処分の埋立地として昭和の時代に整備計画がスタートしている。

当初は、埋め立て後の跡地を6万人が居住可能な新都心とする計画などが浮上していたが、バブル崩壊などを背景にとん挫している。21世紀に入ると、島の東側が物流ゾーンとして開放され、利活用がスタートした。

2024年度には大阪メトロの夢洲駅が開業する予定で、2025年度には万博が開催される見込みだ。また、統合型リゾート(IR)の建設予定地(約49万平米)も同地で、2029年を目標に整備する計画が進められている。

IR建設後、夢洲跡地の開発に着手

万博会場は155万平米を予定しているが、今回の跡地活用の対象となっているのはこのうちの約50万平米のエリアとなる。夢洲駅を起点に第1期として統合型リゾートを建設し、エンターテインメントの集積や国際競争力を有するMICE施設の整備、ICT等最先端技術を活用したスマートなまちづくりによって国際観光拠点を形成する。

その後、第2期として隣接する万博跡地の開発を開始する。万博の理念を継承しつつ、第1期で創出されたにぎわいを引き継ぐ形で国際観光拠点機能のさらなる強化を図る構想だ。

マーケット・サウンディングに11団体が意見

この跡地の速やかな活用に向け、大阪府・市は2023年、民間事業者から広く意見・提案を募るサウンディング型市場調査(マーケット・サウンディング)を実施した。その結果、建設企業や不動産企業など11団体から提案が寄せられた。

施設の用途に関しては、ホテルやアリーナ、劇場、野外ライブ会場、サーキット場といった屋内屋外のエンターテインメント施設、住宅などの提案があったという。

また、まちの骨格となるオープンスペースやモビリティサービスの中核機能の整備、まちの移動手段として域内周回バスやマイクロモビリティ、ゴンドラ、スマートなまちづくりを担うエリアマネジメント組織の提案なども寄せられたようだ。

府・市は、これらの提案を踏まえながら「夢洲まちづくり基本方針」に示す国際観光拠点の形成を目指し、検討を進めていくとしている。

▼夢洲第2期区域のまちづくりに向けたサウンディング型市場調査について|大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/daitoshimachi/yume-saki/2kims.html

出典:大阪府
出典:大阪府
■夢洲のポテンシャル
開発自由度高い人工島

モビリティサービスの中核機能の整備などの提案が寄せられている点が注目だ。提案の詳細は不明だが、こうした跡地は開発における自由度が高く、次世代モビリティに対応したインフラ実証や整備を含め、総合的な取り組みを行いやすい。

また、人工島である点もポイントだ。他エリアとの交通結節点が限られるため、独自の規制・ルールを敷きやすいのだ。公道である限り特別な許可が必要だが、例えば自動運転実証エリアとして、島の出入り口にゲートを設置し、一般車両の入島を規制したり、注意を促したりすることができる。

島全体を自動運転特区とすることで、一般的な混在空間では着手しにくい初期の自動運転実証をスムーズに行うことが可能になる。自動運転シティとして、自動運転モビリティがスタンダードとなる近未来に向けたインフラ実証・整備を進められる点も大きい。

さらには、周辺が海に囲まれている利点を生かせば、空飛ぶクルマや自動運航船などのモビリティ実証も行いやすいものと思われる。

IR施設も先端技術の結集に寄与

さらには、既存物流拠点を生かした自動運転サービスや、統合型リゾートと連携した取り組みを進めやすい点も魅力だ。

国際会議場や展示場といったMICE関連施設では、最先端技術の見本市などを誘致しやすい。こうした特性を生かし、先端技術開発を進める企業誘致やサービス実証・実装地としての展開を図りやすくなる。

米ラスベガスが好例だ。同地では、早くから配車サービス大手Lyftと自動車部品大手のAptivが自動運転サービスの実証を行っており、同事業を引き継いだMotionalが自動運転タクシーのサービス実装に向けた取り組みを進めている。また、世界最大級の見本市CES開催時には、参加企業が周辺でさまざまなサービスを提供することも多い。

こうしたビジョンを官民が共有し、戦略的に跡地開発を進めることができれば、世界に誇るべき未来を先取りした自動運転シティやスマートシティを形成することができる。世界各地の英知が集結する万博とも関連付けることができ、大阪府・市としても願ったりかなったりではないだろうか。

【参考】IRと自動運転については「自動運転実用化、IR・カジノは絶好の舞台!国内外で構想&実証」も参照。

世界にも自動運転シティやテストコースが存在

まちを模した自動運転のテストコースとしては、米ミシガン大学の「Mcity」や韓国の人工都市「K-City」などがある。リアルな環境下で自動運転実証を加速させる狙いだ。

Mcityでは、コネクテッド化・自動化された車両などの性能や安全性をテストする専用試験場が備えられており、民間企業の参画のもと研究開発が進められている。トヨタやデンソー、ホンダといった日本勢も参画している。市街地や郊外の道路を再現したテストコースで、歩行者となるダミー人形なども用意されているという。

クローズドな環境ではあるものの、リアルに近い状況下で実証できるのがポイントだ。

中国では、スマートシティを意識した新都市開発が雄安新区や安亭地区などで進められているという。夢洲は、こういった新たな都市開発に近いイメージだ。未来を目掛けインフラ整備から都市づくりを進めることで、既存インフラなどに左右されない都市開発を行うことができる。

まち全体がスマート化され、自動運転がスタンダードとなる未来の都市を実証を交えながら創造していくには、一から開発可能な環境が重要になる。こうした観点で考えると、夢洲は最適地の1つと言えるのではないだろうか。

【参考】世界の自動運転シティやテストコースについては「“住めない街”続々…自動運転テスト向け、仮想の”人”も歩き出す?」も参照。

■Woven Cityの概要
新モビリティのテストコースとなる実証都市構築へ

自動運転シティ開発に関連した取り組みとして、現在トヨタが静岡県裾野市で建設中の「Woven City(ウーブン・シティ)」が挙げられる。

約70.8万平米に及ぶトヨタ自動車東日本の東富士工場跡地を活用し、自動運転をはじめとした新たなモビリティと生活を結びつけるようなさまざまな実証を行う「まち」を一から作り上げるプロジェクトだ。

自動運転モビリティ用の道と、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナード、歩行者専用の3種類の道路を地上に、また地下にも物流用途の道を作るなど、交通インフラそのものが既存のまちとは異なる。

実証に携わるエンジニアや起業家をはじめ、子育て世帯や高齢者世帯などが住民となり、リアルな生活環境下でさまざまな実証を行う。実証パートナーには、エネオスなど数社がすでに名乗りを上げている。

詳細は不明だが、2024年夏ごろに第1期工事が終了し、その後2025年にも一部実証を開始する予定だ。当初は360人ほどが居住し、最終的には2,000人規模まで拡大する。

大阪版Woven Cityのメリット

Woven Cityはあくまでトヨタ独自のプロジェクトであり、かつ私有地のため非常に自由度が高い開発・実証を行うことができる。反面、参画を希望する企業はトヨタの意向に沿う必要があり、そのお眼鏡に適わなければはじかれることになる。

では、仮にトヨタが万博跡地の利用権を握るなどして「大阪版Woven City」プロジェクトを立ち上げた場合、どうなるか。裾野市における本家Woven Cityとどのような違いが表れるだろうか。

夢洲の場合、対象エリアの土地を取得するにしろ借地にしろ、周辺は一体的開発が望まれる公共用地・民間用地となる。私有地内に留まらず周辺エリアを意識した開発が求められるため、本家ほど自由度の高い開発はできそうもない。

しかし、大きなメリットもある。もともとが公共用地であり、一体的開発を前提としているため、府・市との連携をはじめ、MICE関連施設や物流施設との連携、幅広いパートナー企業の参画が期待できる。公共プロジェクトとして事業を展開することができるのだ。

本家Woven Cityは、良くも悪くもトヨタ主導のプロジェクトである。当初は地元自治体の裾野市もスーパーシティ・スマートシティ実現に向け「スソノ・デジタル・クリエイティブ・シティ構想」を立ち上げるなど連携の構えを見せていたが、市長が変わると同構想は計画半ばで終了した。

同市は、Woven Cityとの連携や周辺整備事業を止めるわけではないとしているが、温度が下がった印象は拭えない。この手のプロジェクトにおいて、自治体との連携は取り組みを広げるために欠かせないものと思われる。Woven Cityで培った技術、例えばe-Paletteによる自動運転シャトルバスを、最寄りの駅からWoven Cityまで運行させたり、小学校などの送迎に活用したり……といった社会実装フェーズにスムーズに移行できるからだ。

自治体や他社と協調した上で構想を練ることができる大阪版であれば、同エリアの将来を見据えたプロジェクトを行うことができるはずだ。

■【まとめ】Woven Cityの観点踏まえ未来都市づくりを

本家Woven Cityはまだ開業前ではあるものの、大阪版が実現すれば一味違った展開で事業を進めることができるものと思われる。

トヨタに限らず、府・市とともに各社が結集し、Woven Cityのような観点で一から未来都市を形成していくのも「夢」があるのではないだろうか。

最終的に夢洲でどのような都市開発が行われることになるかは分からないが、未来を見据えた取り組みを進めるのであれば自動運転実装を前提としたまちづくりは欠かせないものとなる。

さまざまな問題が取りざたされている同地だが、世界が注目するような都市づくりで未来への道を切り開いてほしい。

【参考】関連記事としては「レベル4自動運転バス、万博終了後「レベル2格下げ」で転用案」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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