デジタルの力で公共サービスの維持・強化や社会変革実現を目指すデジタル行財政改革会議の中間とりまとめが発表された。教育、交通、介護、子育て・児童福祉など他分野に及ぶ課題認識と今後の取り組み方針が示されている。
交通分野では、タクシードライバーの確保やライドシェア、自動運転、ドローンなどがテーマに据えられた。特にライドシェアに関しては、対価の目安をタクシー運賃の5割から8割に引き上げることや、ダイナミックプライシング(変動価格制)の導入も盛り込まれている。
以下、それぞれの分野でどのような方針が示されたのか、テーマごとに中身を解説していく。
▼デジタル行財政改革会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/index.html
▼デジタル行財政改革中間とりまとめ概要
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/pdf/chukan_gaiyou.pdf
▼デジタル行財政改革中間とりまとめ本文
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/pdf/chukan_honbun.pdf
記事の目次
■タクシー・バス等のドライバーの確保
ドライバー要件を緩和
深刻なタクシー・ハイヤー不足改善に向け、第二種免許取得や法定研修などにメスを入れ、ドライバーになりやすい制度に改める。
第二種免許取得に係る教習については、1日あたりの技能教習の上限時間を延長するとともに教習内容の見直しを行う。2024年4月以降なるべく早期に教習期間の大幅短縮を図っていく。
タクシードライバーに課せられている10日間の法定研修期間要件撤廃し、研修の短縮を図る。タクシー業務適正化特別措置法のもと一定地域においてドライバー登録に課されている地理試験についても2023年度中に廃止する。加えて、外国人ドライバーの積極採用を可能とするため、2024年4月以降に行う第二種免許試験を20言語に多言語化して実施できるようにする。
地域特有の地理試験などは、カーナビやアプリが普及・浸透した現代においては化石試験と言える。
タクシー事業そのものの変革も重要
なお、タクシー業界をめぐっては近年、相乗りサービスや事前確定運賃サービスが導入されるなどさまざまな規制緩和が進められている。ドライバーの確保も重要だが、タクシー事業そのものの経営環境を変革し、ビジネスしやすい形態へとアップグレードしていく必要がある。
全国ハイヤー・タクシー連合会は2016年、サービスの高度化に向け業界において今後新たに取り組む事項について取りまとめた。相乗り運賃や事前確定運賃、ダイナミックプライシング、相互レイティング、タクシー全面広告、第2種免許緩和など11項目にわたる。
2019年には、MaaSへの積極参加や自動運転技術の活用方策の検討、など追加項目も発表している。第2種免許緩和に関しては、ICTの活用によって安全面を強化することを前提に、取得要件を現行の21歳から19歳、経験3年から1年に引き下げ・短縮を要望する内容だ。
国土交通省は2019年に事前確定運賃の導入を認可したほか、2021年に相乗りサービスを認可するなどその都度規制緩和を図っている。事前確定型変動運賃(ダイナミックプライシング)についても試験導入が始まっているようだ。
【参考】全国ハイヤー・タクシー連合会の改革方針については「日本のタクシー業界、改革へ11案策定 ダイナミックプライシングや相乗りサービス」も参照。
【参考】タクシー業界の改革については「タクシー2.0時代、20の革新 自動運転やMaaSも視野」も参照。
■自家用車・ドライバーの活用(ライドシェア)
タクシー事業者のもとライドシェアを条件付き解禁
タクシー事業で不足している移動の足を補うため、自家用車や一般ドライバーを活用したライドシェアを導入することとした。タクシー事業者が運送主体となって地域の自家用車・ドライバーを活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月から開始する。
タクシー不足については配車アプリのビッグデータを活用し、タクシーが不足する地域や時期、時間帯の特定を行い、客観指標化する。このデータに基づきライドシェア可能な条件を明確化する仕組みだ。
枠組みとしては、「道路運送法第78条第3号」に基づく新制度となる。第78条は自家用自動車の有償運送について定めたもので、第3号は有償運送を禁ずる同法の適用対象から「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」を除外する内容となっている。
一般ドライバーとタクシー事業者の詳細な関係は不明だが、安全の確保を前提に雇用契約に限らずに検討を進めることとしている。おそらく、雇用関係は結ばないものの、タクシー事業者が車両やドライバーの安全性を都度管理し、安全教育を実施するような形になるものと思われる。
また、新制度と合わせて、従来の自家用有償旅客運送制度(道路運送法第78条第2号)についても2023年度内に使いやすい制度へ大幅改善していく。対価については、従来タクシー運賃の50%が目安とされていたが、これを80%に引き上げるほか、ダイナミックプライシングの導入なども進める。
【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2023年最新版) 解禁・導入時期はいつ?」も参照。
さらに、自家用有償旅客運送の担い手に関する規制も緩和し、運送実施主体からの受託によって株式会社が参画できることを明確化する。
道路運送法に定められていない無償運送などについても、ドライバーへの謝礼の支払いが認められることを明確化し、利便性を向上する。
これらの方策について、できるものから早期開始して実施効果を検証するとともに、タクシー事業者以外がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度に関しても、2024年6月に向け議論を進めていくこととしている。
従来の自家用有償旅客運送において、旅客から収受する対価は実費の範囲内とされており、運送に要する燃料費や人件費などの範囲内であると認められることや、旅客にとって明確であることなどが求められている。区域を定めて行う自家用有償旅客運送の対価については、近隣のタクシー運賃の2分の1を目安にすることとされている。これを80%まで引き上げるのだ。
新設するタクシー事業者管理下のライドシェア事業にもこの目安が適用されるかは不明だが、こちらにも同様のルールが適用されるのか、または別途明確な運賃水準が設けられるのか注目したい。
このほか、自家用有償の導入や運賃などについて協議会で一定期間内に結論が出ない場合、首長が判断できるよう見直しを行うほか、運行区域についても柔軟に設定できるよう見直しを進めていく方針だ。
【参考】ライドシェア解禁に向けた新制度案については「ライドシェア「タクシー会社による雇用が条件」 政府方針、骨抜きの解禁か」も参照。
■自動運転
全都道府県実施に向け予算措置、責任の所在や審査手続きも継続検討
自動運転レベル4の社会実装・事業化を後押しするため、全都道府県で自動運転に係る事業性確保に必要な初期投資に係る支援の予算措置を行ったという。
また、デジタルライフラインの全国整備の一環として、2024年度からデジタル情報配信道などの整備を進める。
自動運転車両を巡る交通事故などに関する社会的なルールの在り方については、専門家・関係省庁により検討を行う場を2023年12月に設置し、2024年5月をめどに一定の結論を得る。
このほか、道路交通法と道路運送車両法に基づく走行に係る審査に必要な手続きの透明性・公平性を確保するための方策についても、2024年春に一定の結論を得るため、警察庁や国土交通省等関係省庁において検討を進める。
検討にあたっては、2023年11月に発足した「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」や、今後各都道府県に新設する「レベル4モビリティ・地域コミッティ(仮称)」において行われる個別事業における審査手続に関する議論との連携を行うこととしている。
【参考】レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティについては「自動運転レベル4、日本が国を挙げて「出遅れ解消」へ新組織立ち上げ」も参照。
混在空間下におけるレベル4支援拡充を
これまでの政府目標は2025年度を目途に自動運転サービスを50カ所で実現する――というものだったが、2023年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」では、新たに2027年度までに無人自動運転移動サービスを100カ所以上で実現する目標を掲げている。
こうした計画実現に向け、自動運転に必要なローカル5Gの整備や、自動運転支援道(トラック・バスの自動運転車用レーンなど)の設定、道路インフラから情報提供を行うシステムを整備・検証する事業などを進める予定となっている。
これまでに、レベル4の自動運行装置として認可を受け、かつ道路交通法に基づく「特定自動運行」として許可を得ているのは福井県永平寺町の自動運転「ZEN drive」のみだ。同様のシステムは沖縄県北谷町でも採用されている。
道の駅関連では、かみこあに、奥永源寺渓流の里、みやま市山川支所、赤来高原で自動運転が実装されているが、実質レベル2やレベル3、一般交通の進入がない専用区間でのレベル4にとどまる。
このほか、BOLDLYらが取り組む自動運転サービスが茨城県境町や羽田イノベーションシティ、北海道上士幌町、愛知県日進市、岐阜県岐阜市で定常運行を行っているが、基本的に実質レベル2の運行となっている。
BRTのような専用道路でレベル4実現を図る動きも加速しているが、やはり混在空間でレベル4を実現しない限り、本当に必要とされる移動需要を満たすサービスを展開することはできない。50カ所、100カ所の目標を満たすには、混在空間におけるレベル4が不可欠なのだ。
ティアフォーなどの開発勢もレベル4実装に向けた事業展開を加速している。こうした取り組みを支援する自由度の高い政策も求めたいところだ。
【参考】自動運転支援道については「自動運転支援道、茨城県日立市の一般道で「先行導入」へ」も参照。
■ドローン
レベル3.5新設、許可申請手続き簡素化も
地域における円滑な配送を実現するため、デジタルライフラインの全国整備の一環として2024年度から送電網や河川上空でのドローン航路の設定を行う。
さらに、無人地帯における目視外飛行を実現するレベル3飛行に関し、2023年12月に「レベル3.5飛行」を新設した。第三者賠償責任保険に加入する操縦ライセンス保有者が機上カメラなどのデジタル技術を活用することで、補助者や看板の配置などの立入管理措置なく道路や鉄道などの上空横断を伴う飛行を可能とした。
2024年度早期には、ドローンの利用者が行う飛行申請に対する許可・承認手続を1日で完了できるよう目指すとともに、型式認証取得機増加によって許可・承認手続を不要化する。
このほか、ドローン利用事業者からの意見や要望を踏まえた制度見直しを継続的に行うため、2023年12月に「無人航空機の事業化に向けたアドバイザリーボード」を設置した。
「空」関連では空飛ぶクルマに注目が集まっているが、モノを輸送するドローンの利活用についても着々と進められているようだ。
■【まとめ】一般ドライバーの確保策は?
タクシー関連では、「ライドシェア」目線で見ると骨抜き案であることは否めないものの、この制度の下一般ドライバーが集まってくるのであれば、「タクシー不足解消」という本質的な課題を解決できるのは確かだ。一般ドライバーの確保策が今後求められることになるかもしれない。
自動運転については、支援道の設定やインフラ連携などレベル4実装に向けた取り組みが着実に進められている。今後、混在空間下でのレベル4を意識した取り組みも具体化し、民間開発のさらなる加速を後押ししてほしいところだ。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標は?(2023年最新版) セグメント別に解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)