空飛ぶクルマは「クルマじゃない」!?万博前に呼称変更か

eVTOL?AAM?UAM?何と呼ぶのが適切?

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出典:Joby Aviationプレスキット

初めて「空飛ぶクルマ」と聞いたとき、どのようなモビリティを頭の中に描いただろうか。おそらく、多くの人は陸上を走行する「クルマ」が空を飛ぶ姿を思い浮かべたのではないだろうか――。

2025年開催の大阪・関西万博を重要なマイルストーンに据える空飛ぶクルマ。機体の展示や実証、動画の公開など目にする機会も徐々に増えてきた。

機体を目にした人からは「楽しみ」「未来を感じる」といったポジティブな声が聞こえる一方、「イメージと違う」――という声も少なくない。

頭の中で描いていた「空飛ぶクルマ」のイメージと、実際の空飛ぶクルマの姿がかけ離れており、「クルマじゃない!?」と声を上げる人がSNSなどで溢れ始めている。

そもそも、「クルマ」とは何なのか。「空飛ぶクルマ」とはどのようなものなのか。言葉の定義を含め、ネーミングに対する考え方をまとめてみた。

■「空飛ぶクルマ」の呼称に対する反応
「空飛ぶクルマ」はダサい?ロマンがある?

SNS「X」で空飛ぶクルマの呼称について軽く検索すると、以下のような意見がずらりと並んだ。

呼称変更を望む主な理由は、「クルマらしくない」と「ダサい」……に集中しているようだ。

一方で、以下のように理解を示す意見もある。

恐らく、最初に「空飛ぶクルマ」と名付けた人も、「クルマ」ではないことを当然認識しつつキャッチーなコピーとしてネーミングしたのではないだろうか。

仮に、後述する「eVTOL」や「UAM」といった呼称を使用した場合、一見でその中身を理解・想像できる人はほとんどおらず、ムーブメントを起こしにくい。

批判があるのも事実だが、キャッチコピーとしての「空飛ぶクルマ」というネーミングは、良くも悪くも一定の効果を発揮しているようにも感じる。

■クルマとは?
そもそも「クルマ」とは?

誰もが知っている「クルマ」だが、その定義は明確ではない。一般的には、自家用車に代表される四輪(あるいは二~三輪)の自動車を指す場合が多く、実際「クルマ=自動車」として扱われるケースが大半を占める。

言葉で言うところの「車」は、本質的に「車輪」と同義で、軸を中心に回転する輪状のものを指す。効率よくモノや人を移動するために紀元前に発明された技術で、その技術は現代に通じる。

馬車や荷車のようなものをはじめ、歯車なども原理は同じだ。輪の形状のものを回転させ、何かしらの効用を得るものに「車」が用いられている。

自動車は、燃料や動力を用いて人力に頼ることなくエネルギーを発出させて動かすため「自動(Auto)」とつけられたものと思われる。ともかく、語源をたどれば「車輪」を活用することが前提となるのだ。

一方、道路運送車両法では、「自動車」は「原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれによりけん引して陸上を移動させることを目的として製作した用具」と定義されている。

原動機によって線路などに縛られることなく陸上移動を可能にするものが自動車となる。同法では「車輪」を活用することは問われていないが、陸上移動が絶対条件となる。

これらを踏まえると、「車輪を活用したもの」もしくは「原動機によって陸上移動するもの」を「クルマ」「自動車」と捉えることができる。

■空飛ぶクルマとは?
空飛ぶクルマとは?海外での呼称は?

空飛ぶクルマも明確な定義はないが、多くの場合「垂直離着陸機(VTOL)」を指す。特に近年は電動の「eVTOL」が主流で、パーソナル用途を視野に入れた新たなエアモビリティ全般を総じて「空飛ぶクルマ」と呼ぶことも多い。

海外では、「Skycar(スカイカー)」「Aircar(エアカー)」「Urban Air Mobility(アーバン・エア・モビリティ/UAM)」「Advanced Air Mobility(アドバンスト・エア・モビリティ/AAM)」「Personal Air Vehicle(パーソナル・エア・ビークル)」「Flying cars(フライング・カーズ)」などさまざまな呼び方が混在しているが、近年はUAMやAAMが一般化し、Skycarなどは特定企業のモデル名に落ち着いている。

こうした呼称が日本における「空飛ぶクルマ」という呼称につながったものと思われるが、海外でも「~car」のように「クルマ」を意識したネーミングが少なくない。

自動車のような手軽で自由な移動を「空」で実現する――といった思いが込められているものと思われる。

官民協議会は空飛ぶクルマを「AAM」と呼称

国土交通省・経済産業省が主導する空の移動革命に向けた官民協議会は、「空飛ぶクルマの運用概念Concept of Operations for Advanced Air Mobility(ConOps for AAM)」の中で、空飛ぶクルマを「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」と位置づけている。

その上で、諸外国では「AAM」や「UAM」と呼ばれることが多いことから、国際的な議論とのハーモナイズを図り空飛ぶクルマを「AAM」と呼ぶこととした。

また、AAMのうち、主に都市部で行われる短距離・低高度のAAM運航をUAM、より長距離を飛行するAAM運航を「Regional Air Mobility(RAM)」とすることとしている。

これはあくまで議論上性質・性能の異なる機体などを明確に区別するための内規的定義であり、一般に対してはおそらく引き続き「空飛ぶクルマ」の呼称を使うものと思われる。

【参考】官民協議会における呼称については「UAM・AAMとは?空飛ぶクルマの略称表記解説(2023年最新版)」も参照。

空飛ぶクルマは車輪付き?陸上移動可能?

では、「空飛ぶクルマ」はこうした車輪の活用や陸上移動を可能にしているか。タイプ(後述)によるが、現在世界各国で開発されている機体の多くは車輪を備えず、陸上移動ができないモデルだ。

現在、国土交通省が航空法に基づく型式証明申請を受理した「空飛ぶクルマ」は4社だ。SkyDrive(SD-05/現SKYDRIVE)、Joby Aviation(S4)、Volocopter(VC2-1/VoloCity)、Vertical Aerospace(VA1-100/VX4)で、このほかAirXがパートナー契約を結ぶEHangの「EH216」も有力だ。同社のモデル「EH216-S」は2023年10月、eVTOLとして中国初の型式証明を取得した。

EHangやSKYDRIVE、Volocopterは固定翼を持たないマルチロータータイプ、Joby AviationとVertical Aerospaceは固定翼を備えた推力偏向可能なベクター・スラストタイプといった違いはあるが、全モデルがeVTOLとして垂直離着陸を前提とした飛行形態となっている。

Joby AviationはVertical Aerospaceのモデルは一応小型の車輪を備えているが、動力と連動しているかは分からない。仮に原動機で前後進できるとしても、それはバーティポート内のちょっとした移動用途などに限られるもので、一般車道を走行できる仕様ではない。

形状、機能ともに「クルマ」からかけ離れたものであることは言うまでもないだろう。

【参考】型式証明申請については「空飛ぶクルマ、審査申請4件目は「英国機」!日本の空を制すのは?」も参照。

空陸両用モデルの開発も着々

一方、米ASKAやAlef Aeronauticsのように、「空飛ぶクルマ」という呼称にふさわしい「空陸両用モデル」を開発する企業も少なくない。3~4輪のタイヤで一般車道を走行し、飛行時は格納式の翼を広げて飛行を可能にする。滑走路で加速してから飛行するタイプと垂直離着陸が可能なタイプが存在する。

アウディやエアバスなどの開発グループのように、車道を走行するシャーシモジュール、飛行する際に使用するドローンモジュールをそれぞれ開発し、利用者が乗り込むパッセンジャーモジュールを付け替えることで空陸の飛行・走行を両立させるアイデアもある。

ASKAは米連邦航空局(FAA)に型式証明を申請済みで、Alef AeronauticsもFAAから「特別耐空証明書」を取得している。

こうしたモデルに対しては、「空飛ぶクルマ」や「フライングカー」といった呼称を用いても特に異論は出ないだろう。

【参考】Alef Aeronauticsについては「米連邦航空局、「空陸両方」の空飛ぶクルマに特別耐空証明書」も参照。

■【まとめ】万博前に改名議論を巻き起こそう!

一部の空陸両用モデルを除く大半の「空飛ぶクルマ」は、やはり「クルマ」と呼ぶべきではないのか。仕組みに対しては、マルチローターやリフト・クルーズ、ベクター・スラストといった区別ができるが、飛行専用、空陸両用などの機能別に機体を区別する呼称は今のところ存在しない。

さまざまなモデルの開発が進む中、ひとまとめに「空飛ぶクルマ」と称する時代はもう終わったのかもしれない。とはいえ、「アドバンスト・エア・モビリティ(AAM)」ではやや長く、AAMと省略すると意味が分かりづらい。人が乗ることを前提とした「エアライド」などは良い線かもしれない。

空飛ぶクルマが万博で広く世界に発信される前に、こうした呼称問題を解決したほうが良いのかもしれない。

ただ非難するだけでなく、ふさわしいと思うネーミングを発信して改名議論を巻き起こすのも一考だ。

【参考】関連記事としては「ラサール石井さん、空飛ぶクルマに「大きなドローンやん」」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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