月の「永久陰」で自動運転!模擬試験で建機の複数稼働に成功

鹿島が発表、JAXA・芝浦工大と研究開発

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出典:鹿島建設プレスリリース

鹿島建設は2023年11月20日までに、自動遠隔建設機械による月面環境での作業を想定した模擬試験を行ったことを発表した。

自動運転と遠隔操作により複数の機械を同時に稼働させることなどにより、月面での「永久陰」領域などでの施工に必要となる構成技術、要素技術の妥当性を確認することができたという。

■鹿島による研究開発

鹿島は、建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」の開発を2009年から実施しており、ダム工事を中心に多数の実工事に適用している。2016年からは宇宙航空研究開発機構(JAXA)や複数の大学と共同で、A4CSELをベースにした月面拠点建設の実現と地上での展開・活用を目的とした自動運転と遠隔操作による連携作業について、研究開発を進めている。

2021年からは、JAXAと芝浦工業大学と共同で、国土交通省の公募事業「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」に参画し研究開発を行っている。この事業はこれまでの成果を発展させ、月面での建設作業を想定した研究開発を行うものだ。

JAXAがまとめた国際宇宙探査シナリオ(案)で検討している月面での推進剤・燃料などの推薬生成に向け、月のクレーター内部などの永久陰に存在するとされる水を含む砂の掘削(水掘削)を想定した作業を地上で実験するという内容になっている。

なお永久陰とは、月の北極や南極のクレーター内部など、周囲より低い場所で長い時間日のあたらない領域のことを指すという。

■月面での作業を想定した実証実験

今回の実証実験は、鹿島の約2ヘクタールの広さの実験場「鹿島西湘実験フィールド」とJAXA相模原キャンパスを結び、自動遠隔建設機械による月面環境での作業を想定し行った。

3台の自動・遠隔操作用に改造した建設機械(バックホウ2台、クローラダンプ1台)を鹿島西湘実験フィールドに配置、JAXA相模原キャンパスを指令拠点として、月での水掘削を想定した掘削・運搬作業シナリオに基づき、自動制御と遠隔操作のハイブリッド施工を実証した。

出典:鹿島建設プレスリリース

実証は、下記の手順で行われた。

■測位システムがない環境でも作業可能

今回の実証は、実際の月での活動とは異なる条件であったものの、月面の永久陰領域等での作業を想定したシナリオに沿って実験を行った。

その結果、GNSSなどの測位システムがなく通信遅延が発生する環境においても、複数の建設機械が土砂の掘削・運搬作業を効率的に行うことができたことで、月面の永久陰領域などでの作業に必要となる構成技術や要素技術の妥当性が確認できたという。

3者は今後、今回の一連の作業を精緻に再現するシミュレーターの開発を進め、実証実験で得られたデータや月面環境データを活用し、月面上での作業を模擬する段階につなげていくとしている。

また、SLAMは地球上においても、GNSSが使用できないトンネルや地下工事の自動化に不可欠となる複数機械の同時かつ動的な測位技術として利用できる技術となる。今回検証した精度向上策とともに、地球上の現場でもSLAMを活用していくという。

トヨタも取り組む月面での自動運転技術

一見すると、月面と地球における地上の作業では状況が全く異なるように感じるが、月面で活用できる技術が身近にも転用できることが分かった。またその逆もあるかもしれない。

ちなみにトヨタもJAXAや三菱重工と共同で、月面での自動運転の実現に向けて開発を進めている。「月面×自動運転」や「宇宙×自動運転」は、今後の自動運転開発の注目分野と言えそうだ。引き続き注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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