自動運転車や空飛ぶクルマの開発が国内外で進んでいるが、地球ではなく月面で自動運転を実現しようという取り組みも進んでいる。
トヨタは2019年7月にJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同で、月面での有人探査活動に必要な有人与圧ローバ「ルナクルーザー」の研究を行うことを発表している。この共同研究の進捗についての説明会が、このほど開催された。その中身を解説していこう。
【参考】有人与圧ローバにおける「ローバ」(Rover)とは、宇宙開発分野においては「惑星探査車」のことを指す。
■人が乗らないときは無人で…
有人与圧ローバに関するJAXAとの共同研究は2022年に完了しており、現在は2024年の本体開発スタートに向けて先行開発の段階であるという。また2022年末には、三菱重工とコンポーネント(要素)単位の提供協力ではなく、システムレベルで開発そのものについて連携することを確認しており、トヨタ・JAXA・三菱重工の3者のタッグによる取り組みになる。
有人与圧ローバは、気圧を調整し地上に近い環境を作り出した「与圧キャビン」という密閉空間を持つ。そのため重力が地上の6分の1、昼は気温が120度まで上がり、夜はマイナス170度まで冷える過酷な環境においても、従来の月面車のように船外活動服を着用する必要がないという。また移動機能と居住機能を併せ持つため、月面の着陸地点にしばられることなく、長期にわたって移動しながら探査することが可能になる。
有人与圧ローバは、2人の宇宙飛行士が30日にわたって移動しながら探査することができる。さらに人が乗らないときは無人で走りながら、さまざまな活動をすることも可能なようだ。無人で走る…すなわち自動運転機能の搭載を想定しているというわけだ。
■オフロード自動運転技術の重要性
有人与圧ローバには、再生型燃料電池、オフロード走行性能、オフロード自動運転、UX(ユーザーエクスペリエンス)という4つのコアとなる技術があるという。
このうちオフロード自動運転は、月面探査において非常に重要な技術とされている。道も地図もない月面、しかも地上と違いGPSが使えない環境において、自己位置を推定し、障害物や路面勾配など周辺環境を把握し、安全に走行できる経路を策定するという高度な技術になる。
現在はトヨタの「RAV4」を改造したテスト車両を用いて、月面を模したテストコースで自動運転機能の開発評価を進めているようだ。なお月面における自動運転技術は、災害時における遠隔・自動での状況確認や、危険な地域への物資輸送などにも貢献できると考えられている。
■近い未来にトヨタの技術が宇宙でも
三菱重工は2020年代半ばの打ち上げを目指し、月極域探査計画(LUPEX)向け「LUPEXローバ」の開発を進めている。月面の水資源探査を担うものだ。今回トヨタがLUPEXローバの開発において、自動運転技術をはじめ地上車で培った技術でサポートすることが発表された。
トヨタが誇る自動運転技術が、JAXAや三菱重工と協業することにより、近い未来に宇宙でも活躍しそうだ。引き続き注目だ。
【参考】関連記事としては「トヨタ、月面で「オフロード自動運転」実現へ」も参照。