福山市の自動運転事故「白線なし区間での検証が不十分」

評価基準見直し、再発防止へ



広島県福山市内で実証中の自動運転バスが2022年3月に起こした接触事故に対し、福山市と日本モビリティが事故原因について発表した。車線境界線(白線)のない区間における安全検証の不足とドライバーの安全確認不足を主な要因としている。

この記事では、実証の概要とともに事故原因について解説していく。


▼福山市における自動運転実証実験中の接触事故に関するご報告|日本モビリティ
https://www.nichimobi.com/リリース情報/2022070801

■実証の概要

福山市は2018年ごろから自動運転実証を行っており、自動運転バスの実証は2020年度に開始したものと思われる。

2025年に同市で開催予定の「世界バラ会議」において、レベル4相当の無人自動運転バスの運行を目指す計画を掲げており、同市策定のロードアップによると、2023年度までに運転席有人の自動運転バスと一部遠隔監視による無人自動運転バスを運行し、2024年度からレベル4自動運転バスの実装に着手する計画としている。

2021年度は、群馬大学発ベンチャーの日本モビリティが事業委託を受け、遠隔監視による運転席無人状態のレベル4と、市内中心部における運転席有人によるレベル3の実証を進める計画で、レベル4実証は市営競馬場跡地を活用した「みらい創造ゾーン」と呼ばれる閉鎖空間で実施し、1周約0.7キロのコースを低速で走行したという。


一方、レベル3実証は、駅前大通など往復約5.4キロの公道を、乗降車デモを交えながら走行する予定だった。接触事故が発生したのはこの実証だ。

使用車両及び遠隔監視システム=出典:福山市公式サイト(https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/digital/255746.html

【参考】関連記事としては「自動運転レベル3とは?」も参照。

■事故の概要

接触事故は2021年3月22日、実証実験初日の2便目で発生した。自動運転バスが片側2車線の県道22号線(福山鞆線)左側車線を自動運転で走行している際、右側車線を並走していた貨物自動車と接触した。

けが人はなく、自動運転バスの右ミラーと運転席側に取り付けていたセンサーカバーがトラックに接触した。大きな破損はなく、カバーの塗装がはげた程度で済んだようだ。当時、セーフティドライバーが同乗し、レベル3相当の運行を行っていた。


事故発⽣付近の衛星写真(Google Mapから引⽤)=出典:日本モビリティ・プレスリリース(https://www.nichimobi.com/リリース情報/2022070801

※Google Mapで現場を確認したい場合は以下より。

■事故の要因
自動運転システムに異常見られず

日本モビリティによると、システムログデータを分析した結果、ハンドル制御指令値は正常な範囲で直線方向に走行しており、制御量算出からハンドルまでの伝達は正常に行われていたという。

GNSS測位データと自己位置データに関しては、GNSS測位データが制御に用いる自己位置と重なっており、GNSS測位も現実と乖離した位置を示していないことが確認できたため、事故時においても自己位置推定機能に問題は生じていなかったという。

センサーとシステムに関しては、事故後に試験車両を自社に戻して試験路で動作確認したところ、こちらもすべて正常に動作することを確認した。

これらのことから、自動運転システムそのものには何ら問題は発生しておらず、正常に動作していたことが判明した。

なお、ドライバーに対するヒアリング調査では、「自動運転操作モニターがちらついたように見え、それに気を取られて右側の安全確認がおろそかになり、横のトラックと接触した」と証言している。

原因は途絶えた「白線」にあり?

走行区間の多くは車線境界線(白線)が引かれていたが、事故が発生した場所は隣のレーンと白線で区切られていない区間だった。

事前の実証準備段階では、車両のタイヤが白線を逸脱していないか目視で安全検証を繰り返し行っていたが、安全検証の基準が不十分であったため、白線寄りの位置で自動運転の走行軌道が作製されてしまったという。

つまり、自動運転システムによる正常な走行軌道が白線寄りとなっており、隣のレーンに近い位置を走行するよう設定されていたということになる。

これらのことから、白線がない区間における安全検証の不足と、運転手の不注意による対応の遅れが重なり事故が発生したものと結論付けている。

評価基準見直しなどで再発を防止

再発防止策として、安全検証時に行っていたドライバーと現場システム担当者による目視の走行位置関係の確認・記録に加え、白線が存在しない場所においても個々の状況に応じて白線に相当する評価基準を策定し、確認・記録を行うこととしている。

また、これまでのドライバー教習では、車両やシステムに異変を感じた際は自動運転を必ず解除し事前に危険回避行動をとるよう指導していたが、今回の事故をケーススタディとして周知徹底するとともに、異変に至らなくとも気になる事象が生じた際も躊躇なく自動運転を解除するよう追加するとしている。

■【まとめ】2重3重の安全確保策で自動運転システムを向上

今回のケースのように、走行路において白線が途切れる区間の存在は珍しいものではなく、隣接レーンの車両との距離が近くなることも少なくない。交差点においては多くの場合センターラインも消失し、対向右折車両がはみ出し気味に停止していることもある。

通常走行時においてボーダーラインとして有効に機能する白線だが、これに頼り切ることなく安全を確保・予測する機能も自動運転には必須となる。

高精度3次元地図による道路境界線の存在(仮想地物)との関係や、周囲を走行する車両検知の存在など気になるところだが、こうした事案を一つずつ確実にクリアし、自動運転システムのいっそうの向上に期待したいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転車の事故(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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