「ライドシェア新法」提言の全貌、全72頁の未来のカタチ 新経済連盟

運転手は「届出制」、企業側は「登録制」

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一般社団法人新経済連盟(所在地:東京都港区/代表理事:三木谷浩史)は2018年5月、全72ページに及ぶ「ライドシェア新法」の提案を国土交通大臣をはじめとする関係大臣宛てに提出した。日本国内では規制が壁となってなかなか進まないライドシェアの議論に一石を投じる構えであるとみられ、規制改革推進会議などに新法制定に向けた早急な議論を呼びかけている。

この記事ではライドシェアを取り巻く環境について解説した上で、新経済連盟が提言したライドシェア新法の内容を紐解く。

■ライドシェアの2分類とは?

ライドシェアは、直訳すると「相乗り」だ。自家用車の所有者と移動手段として自動車に乗りたい人を結び付ける新たなモビリティとして、日本を含む世界中で注目されている。

ライドシェアを大きく分類すると、一般のドライバーが出発地や目的地が同一である人を自家用車に同乗させ、ガソリン代などのかかった費用を分担する「カープール型」と、ある事業主体が運営するプラットフォームにおいて一般のドライバーと乗客を仲介し、ドライバーが自家用車を用いて有償の運送サービスを提供する「配車型サービス」に分けられる。

配車型のライドシェアサービスは、米ライドシェア大手ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)社やアメリカ国内でシェアを伸ばしているリフト(Lyft)社、中国ライドシェア大手の滴滴出行(DiDi)、東南アジア最大手のグラブ(Grab)、インドで普及が進むライドシェアサービスのOLA(オラ)などが提供している。

基本的にドライバー側は利益目的としてサービスを提供するため、日本では道路運送法における「国土交通大臣の許可のない自家用自動車は有償で運送できない」という規定に抵触することになる。なお2016年には、外国人観光客の交通手段確保などを目的に特区認定を受けたエリア内において、ライドシェアの運用を認める国家戦略特区改正法が公布されている。

カープール型のライドシェアサービスは、利益目的ではなくコストを分担して交通費を節約することが目的のため、道路運送法に抵触せず日本国内でもサービスを提供することができる。一例として、「notteco(ノッテコ)」がこのプラットフォームを提供しており、乗せたい人と乗りたい人をマッチングするアプリを運用している。

【参考】nottecoのサービスや法的解釈については「コストシェア型の日本のライドシェアアプリ「notteco」ってどんなサービス?|自動運転ラボ 」も参照。

■新経済連盟の提言①ライドシェアの必要性

新経済連盟の提案では、ライドシェアの必要性について①需給構造の変化②観光立国③経済効果④生産性向上⑤消費者利便性——を挙げている。

①では、タクシーサービスの需要と供給の観点からドライバー不足を指摘。中長期的にもドライバー不足は進行するとし、シェアリングエコノミーの仕組みによる兼業ドライバーの活用が必要不可欠になるとしている。②では、訪日外国人観光客の増加を挙げ、快適な移動オプションとして外国人が使い慣れているライドシェアを提供することが観光立国に必要不可欠としているほか、蔓延している白タク対策としても新法整備が是正につながると提言している。

③では、ライドシェアを導入した場合の経済効果を約3.8兆円と試算。世界のユニコーン企業(企業としての評価額が10億ドル以上かつ非上場のベンチャー企業)上位10社のうち、1位(Uber)と4位(Didi)がライドシェア企業であることなどを示し、成長産業でありながら法整備の遅れにより日本ではプラットフォームが育つ余地がないとしている。

④では、自家用車や個人の空き時間の有効活用などを挙げているほか、⑤ではライドシェアは需要のバラツキに柔軟に対応することができ、移動オプションが増えることで消費者利便性の向上に期待できるとしている。

■新経済連盟の提言②ライドシェア新法の提案

2018年6月15日施行の住宅宿泊事業法(民泊新法)を引き合いに、ライドシェアも新法制定により新たな「業」として道路運送法から切り出して適用除外にすべきとし、ドライバーだけでなくプラットフォーム提供者側の規制・責任のあり方にも言及している。

提言したライドシェア新法における「所管省庁」「ドライバー」「プラットフォーム」「ユーザー」の相関図=出典:新経済連盟「ライドシェア新法」の提案

具体的には、プラットフォームは登録制、ドライバーは届出制とし、各種義務付けの規定や無登録プラットフォームに掲載したドライバーへの罰則などを提案している。安全面については、行政やプラットフォームによるドライバー情報などの把握を通じて犯罪抑止を図ることが可能としている。

■新経済連盟の提言③国土交通省の見解に対する連盟の考え方

2016年11月に新経済連盟が提出した「ライドシェアの実現のための法環境の整備」に対し、国土交通省は下記を理由に、対応が不可と判断をしている。

その理由は①運行管理や車両整備管理などの責任の主体について対策が不十分②事故発生時の責任についてプラットフォームに保険加入を義務付けするとあるが、これらの措置はプラットフォームに事故の当事者としての責任を負わせるものではない③世界の状況として、ドイツやフランスなどでは禁止されており、プラットフォームとドライバーの関係についてもドライバーの地位や待遇が世界各地で問題になっている④国内34万人のタクシー運転手の労働環境にも深刻な影響を与える——などだ。

これに対し、新経済連盟は反論を展開した。

①に対しては「個人タクシーも条件は同じだが、責任を負う主体を置いていないとはされていない」など例を挙げ、将来的にはAI(人工知能)技術の活用によりドライバーの体調や飲酒の有無なども判別することができるとしたほか、ウーバー社の保険システムについても例示している。

③に対しては、米国や中国などすでに法環境を整備した国が多く存在し、また訴訟においてドライバーは労働者ではないなどの判決もでているとし、そもそも訴訟が提起されていることが検討不可の理由にはなりえないとした。④に対しては、タクシーとライドシェア間の人材獲得競争などにより待遇改善やサービス向上が図られるとしたほか、タクシーについても不要な規制は緩和すべきとした。

【参考】提言の詳しい内容については、新経済連盟の公式サイト内「『ライドシェア新法』の提案」を参照。

■ライドシェア新法が制定されたら未来はどうなる?

安全面や責任のあり方などの課題がクリアされ、提案どおりにライドシェア新法が制定された場合、社会はどう変わるのか?

まず最初に考えられるのは、既存のタクシー会社やバス会社も変革を迫られるということだ。

需要の高い地域では顧客争奪戦が繰り広げられるため、サービス向上やより効率的な運営が必要となるだろうし、場合によってはタクシー会社そのものがライドシェア会社に変わるかもしれない。鉄道など、競合しつつも相乗効果を望める事業者や旅行会社などは、ライドシェアへの新規参入や提携が相次ぎそうだ。

利用者側の観点では、タクシーやバスが不足している地方の過疎地域などの足としてライドシェアが有効に機能することが期待される。また、自家用車や時間を持て余している人が活用することで、提案されているとおり経済効果はいっそう高まるだろうし、渋滞の緩和効果もありそうだ。

さらに、提案を飛躍させて貨物自動車運送事業法の改正なども視野に入れれば、荷物の運搬などの事業も合わせて可能になるかもしれない。最終的には、完全自動運転の実現によりライドシェアは実質的に無人のカーシェア事業に変わるかもしれない。ウーバー社などライドシェア大手が自動運転システムの開発に力を入れているのは、将来的に無人化を目指している表れだからだ。

日本はライドシェアとともに今後どういう未来を形作っていくのか。その展開に注目していきたい。

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