公益社団法人自動車技術会は2020年4月、「第8回カーデザインコンテスト」の受賞者を発表した。中高生らを対象にした創造力あふれるカーデザインを競うコンテストで、本年度は「10年後の暮らしを楽しくする乗り物」をテーマに募集したところ、全国から352件の応募があった。
年齢を重ねるにつれ忘れてしまいがちな遊び心や感性が詰まった作品ばかりだが、中には自動運転を想定した作品も散見される。
今回は、受賞作品の中から自動運転の要素を取り入れた作品や、自動運転を想起させる作品をピックアップし、紹介していこう。
■第8回カーデザインコンテストから
カーデザイン賞「Fun!mock」(栃木県立足利工業高等学校3年)
バイクのような爽快感とハンモックの心地良さを味わえる車で、自動運転機能が搭載されているようだ。網状のハンモック素材で自動車のシートを形成し、その両面を流線型の手すりが覆うようなデザインで、前部から上部にかけては完全に解放されている。いわば走行を楽しめる自動運転車いすの超豪華バージョンだ。
ハンドルなどは見当たらず、側面前部にボタンのようなものが配置されているほか、収納式のモニターや、レーザー光で地面に情報を映すシステムなどが搭載されている。車いすのように折りたためるため、収納時は省スペースで済むところも面白い。
ダビンチ賞「I’m Eye」(都立工芸高等学校2年)
目でコントロールすることが可能な新しい車椅子の提案で、ある意味自動運転を凌駕している。目をモチーフにしたそうで、後部の2輪と球状の前輪を備えた車いすをボディガラスで覆ったカプセル状のデザインだ。
眼球の動きを察知して移動する仕組みで、未来のヒューマンマシンインタフェース(HMI)技術と言えそうだ。
佳作「NMT-S」(栃木県立足利工業高等学校1年)
4輪バイクのようなデザインで、シートポジションを変えることでバイクの疾走感とクルマの快適感の両方を味わうことができるモビリティとなっている。
またがるタイプのシートがクルマのシートのように変形する仕様で、取り外し可能なルーフや自動運転モードも備えており、運転や休息を楽しみながらロングツーリングに臨める一台だ。
佳作「GREPS CAR」(女子美術大学付属高等学校2年)
車体にまかれたリボンから出る波動で重力をコントロールして動くという、想像力を超えたアイデアを盛り込んだ一台だ。
イルカやコウモリが持つエコーロケーション(反響定位/短いクリック音を発生させ、周囲から跳ね返った音を立体的な空間把握に利用する能力)をシステム化・動力とし、自動運転を実現するという。
また、車体はソーラーパネルと葉緑体で構成しており、常に発電と光合成を行うこともできるという。
佳作「mush」(女子美術大学付属高等学校2年)
ガラス張りのドーム型状で、最大15人乗車が可能な自動運転車となっている。ガラスは、中から外を見ることはできるが、外からは見えない仕様となっているほか、ディスプレイとしてプラネタリウムやさまざまな映像を楽しむこともできるようだ。
大規模商業施設や遊園地に一台あると人気が出そうなタイプだ。
佳作「Oz」(東京都立工芸高等学校2年)
360度センサーと透明液晶技術で景色を楽しむことができるモデルだ。将来、無機質なビルなどに囲まれた環境を想定したもので、センサーがビルとの距離を測定し、景色に合わせて透明液晶が好きな絵本や物語の世界観を映し出す仕組みで、プロジェクションマッピングのように周囲の建物が疑似的にスクリーンのように役割を果たすようだ。
車内にハンドルなどは見当たらず、形式を存分に楽しむコンセプトから、この作品も自動運転を想定しているに違いない。
佳作「SPSP」(福井工業大学附属福井高等学校2年)
自動運転中の移動空間に自由をもたらそうと、車内スペースを自由にカスタマイズできる機能を盛り込んだアイデアだ。
内壁がクッション素材のハニカム構造となっており、各パネルを引っ張り出すことで椅子にしたりテーブルにしたり自由に形状を変えることができそうなデザインだ。フロントガラスはスクリーンにもなり、インターネットサービスなどを楽しむこともできるという。
佳作「cocoon」(岐阜県立各務原西高等学校2年)
「車は人をつつむデザインでありたい」――というコンセプトのもと、繭のような丸みを帯びたデザインの多目的乗用車を発想したようだ。
LiDAR(ライダー)などのセンサーで自動運転を実現するほか、フロントガラスにナビを映すシステムなどを搭載しているようだ。
■過去の受賞作品から
第1回カーデザイン大賞「POPCORN」(静岡県立浜松湖南高等学校3年)
一台一台の小型モビリティがトウモロコシの実のように連結した新しい観光バスのコンセプトだ。目的地に到着後、個々のモビリティが自立型二輪カプセルとして自由に動き回ることができる仕組みとなっている。
パーソナルモビリティとバスという、相反するモビリティを両立させた斬新なアイデアだ。多彩な利用者層とデザインを考慮すると、自動運転機能が備わっているに違いない。
第4回佳作「楽楽車」(女子美術大学付属高等学校2年)
高齢社会に適応したやさしい車で、手動運転にも自動運転にも対応している。座席が90度回転し、スムーズな乗り降りを実現するほか、2段仕掛けのスロープで車いすの乗り降りも円滑にするアイデアが盛り込まれている。
第6回カーデザイン賞「癒バス」(東京都立工芸高等学校1年)
「癒し」をテーマにした自動運転バスで、外観はおしゃれコンテナのようなデザインである一方、内装は木をふんだんに使用したつくりで、畳ベンチを設置するなど和の心に触れることができる安らぎのデザインとなっている。
完全自動運転で運転席を排除し、フロントをガラス張りにすることで景色が額縁に収めた絵画のように楽しめるという。
■【まとめ】コンテストの世界でも自動運転がスタンダードに?
既成概念にとらわれない自由な発想と社会課題や趣向などを組み合わせた唯一無二のアイデアに、しばし目と時間を奪われてしまった。大人目線では技術的に不可能と思いがちだが、それも既成概念に過ぎないことを改めて考えさせられた。
なお、第8回では自動運転機能を盛り込んだ作品が急増している印象を受ける。過去にはシェアリングサービスや小型モビリティなどに由来するアイデアも豊富で、しっかり時代を反映しているところも見逃せない。
将来、こうした自由発想に基づくコンセプトが実現する日の到来を想像しながら、次回のコンテストを心待ちにしたい。
【参考】関連記事としては「自動運転バス、空飛ぶタクシー…未来のMaaSを担う次世代ビークルまとめ」も参照。