
慶應義塾大学の研究チームが、自動運転におけるLiDARの新たな脆弱性を発見した。離れた場所から走行中の車載LiDARのセンシングを無効化できることを世界で初めて実証した。
自動運転車においては、こうしたリスクは人命に直結するため事前にありとあらゆる手段で対策を講じなければならない。慶大チームはどのような脆弱性を指摘しているのか。その中身に迫る。
▼走行中の自動運転センサーを長距離から無効化できることを発見~脆弱性を明らかにし、より安全な自動運転車両の開発に貢献~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250225-2/index.html
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■慶応大の研究概要
LiDARのセキュリティ研究に注力
研究成果を発表したのは、慶應義塾大学理工学部電気情報工学科の吉岡健太郎専任講師と、同大学院修士課程の学生2人、及びカリフォルニア大学 アーバイン校のアルフレッド・チェン助教授と同大学院博士課程の学生など計9人。
吉岡氏らは、2024年2月に自動運転用LiDARに対する網羅的セキュリティ調査を世界で初めて実施したことを発表しており、継続的に研究を進めている。
同チームは今回、高速走行車両のLiDARを追従可能なシステムを開発し、これを長距離から無効化できることを実証した。最新の防御機能を備えたLiDARにも通用することを検証し、実際に自動運転システムを搭載した車両を用いて実証したという。新たな脆弱性の発見だ。
以前から車載LiDARに攻撃する手法は研究・指摘されていたが、それらは低速・短距離の環境下に限られていたという。低速走行状態の車両を対象に、近距離から攻撃しないと成立しないなど、現実的な攻撃環境下とは異なるシーンに限定したものだったのだ。
また、最新のLiDARはさまざまな防御機構を組み込んでいるため、これら防御策の有効性についても未知数という。
【参考】研究チームの過去の発表については「自動運転用LiDAR、サイバー攻撃で「景色が改ざんされる」脆弱性」も参照。
走行中の車載LiDARへの攻撃手法を開発
そこで研究チームは、以下に焦点を当てた。
- ①高速で走行する車両に対する長距離からのLiDAR攻撃の実現可能性
- ②最新のLiDARに搭載されている防御機構の有効性の検証
- ③実際の自動運転車に対するLiDAR攻撃の影響の実証
まず、新たなMVS(Moving Vehicle Spoofing) システムを開発した。IR カメラによるセンサー検出・追跡機構、高精度自動照準機構、レーザー攻撃機構で構成しており、IR カメラの導入により、LiDAR自身が発するレーザー光を正確に追跡することを可能にした。IRカメラで車載LiDARを検出し、レーザーを狙い当てる方式だ。

110メートル以上離れた場所からでも車両に搭載された小さなセンサーを追跡でき、さらに、精密なサーボモーターと制御アルゴリズムによって移動する標的に対して0.1度以下の精度で照準を合わせることも可能にした。
実車に LiDARを搭載し、実験用コースで実施した実験では、実際に時速60キロで走行する車両に対し110メートル離れた地点から攻撃を行った。その結果、攻撃開始地点の110メートルから車両の制動ブレーキ距離20メートルの地点までの広範囲にわたり、平均96%以上の攻撃成功率を達成したという。
これは、走行中における大半の期間で自動運転システムが歩行者などのオブジェクトを見落とす可能性があることを意味する。自動運転車が歩行者などを検知できず、重大な事故につながる危険性があると指摘している。
最新LiDARにも攻撃は通用
最新LiDARへの有効性に関しては、A-HFR攻撃の発見と実装により、防御機構(Pulse Fingerprinting 機構)を回避する新たな攻撃手法を発見したという。
LiDAR のスキャンパターンを分析し、そのパターンに適応して高周波のレーザーパルスを生成する手法で、従来の防御機構が想定していない高周波(最大 24MHz)で攻撃レーザーパルスを照射することで、防御機構を回避することを可能にした。A-HFR 攻撃は、複数の防御機構を備える LiDAR モデルに対しても強力な消失攻撃に成功したという。

自動運転車による検証でも攻撃は成功
これらの研究成果は、オープンソースの自動運転スタック「Autoware」を搭載した自動運転車両(Pixkit)を使用し、実験用コースでさまざまな攻撃シナリオを検証した。
Autowareは、ティアフォーが開発を主導する自動運転ソフトウェアで、Pixkitは、中国PIX Movingが展開する自動運転開発キットだ。
LiDAR 点群を消失させる攻撃では、前方の停止車両を LiDAR のデータから消去することで、自動運転車が障害物を認識できず衝突を誘発可能であることを確認した。また、存在しない物体を注入する攻撃では、架空の「壁」を注入することで、自動運転車にブレーキを誘発させることができたという。存在するものを認識できないようにし、逆に存在しないものを誤認識させることもできるようだ。
このような LiDARへの攻撃により、自動運転システムの意思決定プロセスに深刻な混乱を引き起こすことが可能であることを実証した。


今後は防御策の開発に注力
研究チームは今後、今回明らかにした脆弱性に対抗するための防御策の開発に注力するとしている。具体的には、悪意のあるレーザー攻撃に対する LiDARの耐性向上技術や、偽装データの注入を防ぐ新たなアルゴリズムの開発などを挙げている。
また、レーダーやカメラなど異なる種類のセンサーとの組み合わせによる安全性向上の可能性も探求する。これらの多様なセンサーを組み合わせることで、一部のセンサーが攻撃を受けた場合でも全体の安全性を維持することが可能になると期待される。
研究成果については、コンピュータセキュリティシンポジウム(CSS)が定める倫理的配慮のためのチェックリストに従い、脆弱性をあらかじめ LiDAR メーカーや自動運転車メーカーに通知し、一定の対策期間を経て公開している。
悪用される前に事前対策を
要約すると、研究チームは走行中の自動運転車に搭載されたLiDARへの効果的な攻撃手法を編み出し、本来認識するべきオブジェクトの消失や、架空のオブジェクトを認識させることに成功した。
こうした攻撃が走行中の自動運転車に行われた場合、歩行者に気付かず衝突したり、何もないところで突然急ブレーキを踏んで停止したりする可能性が高まり、非常に危険だ。
こうしたリスクをあらかじめ顕在化することで、悪用される前に事前対策を講じ、セキュリティを高めよう――という取り組みだ。
■LiDARの仕組み
レーザー光で点群情報を収集
LiDARは、無数のレーザー光をあたり一面に照射し、それが物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで物体までの距離や方向を測定するセンサーだ。
一本のレーザー光が測定するのは「点」に過ぎないが、このレーザー光を無数に辺り一面に照射することで点が「点群」となり、それぞれの到達点までの距離の違いを測定することで、照射範囲を立体的に把握することが可能になる。対象物までの距離や形状などを把握するのに適したセンサーなのだ。
物体との「距離感」は自動運転の重要要素
レーザー光のため、数百メートル先まで瞬時に把握することができ、高速走行を前提とした自動車のセンシングに適している。
特に、「距離感」が重要な意味を持つ自動運転車には最適とも言える。自車両周囲の歩行者や道路の白線、縁石、交通標識、信号、他の車両など、さまざまなオブジェクトとの正確な距離をつかみ、相対的な位置関係を把握することで衝突することなく安全な走行が実現できるためだ。
テスラなど例外はあるが、自動運転開発企業の大半がLiDARを主要技術に据えている。それほどLiDARは重要なのだ。
このLiDARのレーザー照射に干渉し、言わば偽りの情報を収集させるのがLiDARへの攻撃となるが、いざ攻撃対象となった場合の影響は非常に大きく、重大事故に直結する。
LiDARそのものの防御機能を高めることはもちろん、研究チームが指摘する通り、カメラなど他のセンサーと併用することで冗長性を高め、LiDARが攻撃を受けても他のセンサーがそれをカバーし最低限安全な走行を維持できるシステムが重要となる。
【参考】LiDARについては「LiDARセンサーとは何?自動運転やiPhone向けで注目!何ができる?」も参照。
■【まとめ】セキュリティ分野の重要性高まる
今回の研究はLiDARの脆弱性に関するものだが、だからLiDARは危険――ということではない。パソコン・インターネットなどのコンピュータ環境と同様、攻撃されることを前提としたうえで想定されるリスクをいかに事前に解決していくかが重要なのだ。
自動運転車におけるこうしたリスクは人命に直結する。AIやLiDARなど、進化途上の技術が多用されていることもあり、セキュリティ分野の研究開発は今後いっそう重要性を増していくことになりそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転用センサーの種類解説 LiDAR、カメラ、ミリ波レーダー、超音波センサー・・・」も参照。