関係者必読!空飛ぶクルマ「事業者用チェックブック」公開

リスクをリスト化、リスクチェックの質向上へ



出典:空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメントチェックブック

空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメント検討会が「空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメントチェックブック」の無償公開を2023年2月9日に開始した。

航空法改正により有人地帯上空での補助なし目視外飛行(レベル4飛行)が実現し、今後ドローンの活用が大きく進んでいくことが想定される。また、空飛ぶクルマの実用化を見据えた取り組みも加速するなど、新たなエアモビリティの社会実装期が目前に迫っている。


同時に、実用化・事業化に向けたリスクマネジメントの重要性も増していることから、同チェックブックを運航事業者に広く使用してもらうことでリスクチェックの質を標準化し、業界全体の安全性を確保しようとする取り組みだ。

この記事では、同チェックブックの中身とともに、ドローンや空飛ぶクルマにおけるリスクマネジメントに迫る。

▼空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメントチェックブック
https://www.drone-flyingcar-riskmanagement.jp/

■検討会とチェックブックの概要
東京海上日動が検討会設立を呼びかけ

空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメント検討会は、産業用ドローンや空飛ぶクルマを活用した事業において発生しうるリスクを体系的に網羅・整理し、適切な対策を提言することを目的に東京海上日動の呼びかけのもと2021年度に設立された。


東京海上日動と三菱総合研究所と共同で事務局を務めており、東京海上ディーアールや朝日航洋、日本航空、ACSL、SkyDrive、大江橋法律事務所、TMI総合法律事務所といった民間をはじめ、東京大学、神戸大学、慶應義塾大学なども参画している。

SORAに準拠しつつ第三者の権利侵害なども網羅

ドローンなどの運航にかかる損害とリスク要因の考え方の整理と、欧州航空安全局主導のもと無人航空機運航のリスクアセスメントとして発行されている「SORA(Specific Operations Risk Assessment)」のリスク評価の分析を踏まえ、運航安全をはじめ第三者の権利侵害や騒音、セキュリティリスク、事業者にとってのレピュテーションリスクなどについても議論を進め、チェックブックの作成を進めてきた。

チェックブックは、SORAに準拠する形で整合性を図りつつ、SORAに含まれない騒音やプライバシー侵害などについても網羅している。全69ページで、以下で構成されている。

  • ①はじめに
  • ②チェックブックの作成方針
  • ③リスクチェックの内容
  • ④チェックリストの活用
  • ⑤リスク要因の整理手法
  • ⑥検討会参加者のコメント
  • ⑦付録:海外動向調査

無人航空機を運航する事業者に広く使用してもらうことを想定しており、業界で統一したチェックブックを使用することで、リスクチェックの質を標準化できる効果を見込む。


また、将来空飛ぶクルマなどは新たなタイプの機体が導入され、制度更新によって運航環境が変化していくことも想定される。そうした際にこのチェックブックの内容を土台とすることで、リスクマネジメントの議論を継続しやすくなるという。

③「リスクチェックの内容」が本書の中心となっており、安全管理体制の確認、地上リスク、空中リスク、運航におけるその他の第三者権利の侵害リスク、その他の事業者自身にとってのリスク――に分けてチェック項目を洗い出している。

④「チェックリストの活用」では、ユースケースを想定したリスクチェック方法の具体例として、運送の事例に適用した場合のシミュレーションを掲載している。

⑤「リスク要因の整理手法」では、損害とリスク要因の考え方を潜在因子(ハザード)、原因事象(ペリル)、損害(ロス)の3種類に再整理し、異常運航時や通常運航時における損害発生スキームなどについて解説している。

以下、③「リスクチェックの内容」を中心に本書の中身を紹介していく。

■チェックリストの内容
安全管理体制の確認

事業者が機体を運航するにあたり、安全管理の面から定期的に確認すべき事項として、以下を挙げている。

  • ①セキュリティ対策
  • ②人員のマネジメント
  • ③機体の管理
  • ④安全情報の活用

①は、通信システムのアップデートや、機体とクラウドネットワークの運用環境の互換性確保、情報の機密性確保に向けたアクセス制限や物理的な隔離などだ。対策としては、機体メーカーやサービスプロバイダなどとの定期的な情報交換などが挙げられている。

②では、操縦士や整備士に対する訓練プログラム・マニュアルの存在や訓練プログラムの信頼度、運航マニュアルの有無、国家ライセンスの取得・更新や定期的な訓練といった運航に関わるクルーの管理体制などが相当する。外部監査の導入や定期的な内部監査、整備規程要領の作成、定期的な技能審査の実施などを対策に挙げている。

③では、機体の第三者認証や適切な頻度・内容による整備、製造元への連絡体制などを挙げている。国が管理する機体認証の保有や機体情報の一元管理、独自の社内規程や社内教育の整備などを進めておく必要がある。

④では、フライトレコーダーの搭載、メーカー技術情報の取得、整備記録、安全情報の記録に基づく事故分析体制や点検・訓練要領の更新、国への報告体制の確立などを挙げている。日ごろからヒヤリハット事例を共有し、自発的なインシデント報告を行う体制を整えることなどが必要としている。

地上リスク

万が一事故が発生し、機体が落下したときの地上の人や物品に与えるリスク要因として、以下を挙げている。それぞれ、運航ごとにチェックすることが望ましい事項だ。

  • ①地上の環境要因
  • ②機体の性能及び装備に関わる要因
  • ③ペイロードの性質に係る要因
  • ④ペイロードの重量に係る要因
  • ⑤運航方式による要因
  • ⑥運航管理体制
出典:空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメントチェックブック(※クリックorタップすると拡大できます)

①は、イベント会場やオフィス街、住宅街など、地上に人命がある経路を運航する際のチェックリストで、対策として事前申請により航空当局の認証を得ることや立ち入り措置の実施、リスク評価の実施などを挙げている。ケースによっては、飛行の取りやめやルート変更も検討すべきとしている。

文化遺産や歴史的建造物が位置する保護地区や環境保護地区、空港周辺、原発、首相官邸などの政府重要施設などの周辺を飛行する予定がある場合も要注意だ。

②では、運航時の運動エネルギーがSORA・EASA基準に基づいた閾値を超えるケースや、機体構造として物理的に危険な個所があるケース、燃料を使って推進するケースを挙げている。対策としては、パラシュートの装着や軽減素材の使用、制限速度の設定、地上リスクを考慮した運航計画の実施、定期的な燃焼系の機体整備などを挙げている。

③は、爆発性・引火性がある貨物や有害物質の輸送や鋭利性がある貨物の輸送におけるチェックリストで、危険物輸送や物件投下の事前申請を行い、航空当局や関係者の認証を得ることや、地上のリスクを考慮して経路を変更することなどを対策として挙げている。

⑥では、安全な運航管理体制に向け、燃料や電力などリソース需給状況の把握や不足時の対策、通信状況の確認、操縦士の運航前アルコール濃度検査、活動記録による疲労管理、気象情報の事前収集、機体の位置や操縦士・整備士・クルーの様子がわかる連絡体制の構築、システム側から機体を操作できるような仕組みの構築、操縦士に問題が起きた際の救難信号がわかるような仕組みの構築などを対策として挙げている。

また、ドローン飛行により被害が出てしまった場合に備え、関係機関や現場との緊急連絡体制や応急措置手順、原因究明体制など、定期的な緊急時を想定した訓練を実施することも必要としている。

空中リスク

無人航空機が空中でその他の物体に衝突する空中リスクとして、以下をチェックリストに挙げている。

  • ①有人航空機
  • ②無人航空機
  • ③運航経路の変更に関する要因
  • ④ペイロードの性質に係る要因
  • ⑤ペイロードの重量に係る要因
出典:空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメントチェックブック(※クリックorタップすると拡大できます)

①及び②では、旅客機などのIFR航空機が飛行する空域や、ヘリコプターや空飛ぶクルマが飛行する可能性のある空域、無人航空機や気球が飛行する可能性のある空域を飛行する場合、あらかじめ飛行する経路をFISS(情報管理システム)に登録し、リアルタイムに情報や通知を得ることや、航空局による飛行計画の認証取得、安全間隔を確保できるようなシステムの装備、飛行経路の見直しや空域の変更などを考慮すべきとしている。

③では、気象の急変や機材の不調、その他航空機の回避などに対応した飛行計画の変更に備え、運航管理サービスの活用やFISSへの登録などリアルタイム通知機能の活用、DAAなど運航安全をバックアップする地上システムの活用、機体挙動を監視する監視要員・監視機器の複数地点への配置、通信途絶時の手順、操縦士不能時のバックアップ体制の構築などの対応が必要としている。

運航におけるその他の第三者権利の侵害リスク

プライバシーの側面やその他運航に伴って発生し得る現象により第三者の権利を侵害するリスクとして、以下を挙げている。

  • ①第三者の権利侵害リスクが想定されやすい民地や事業所
  • ②資産が集積する場所
  • ③騒音
  • ④電磁波
  • ⑤風圧
  • ⑥光
  • ⑦環境汚染
  • ⑧プライバシー侵害
  • ⑨景観権
  • ⑩物品輸送
出典:空飛ぶクルマ・産業用ドローン事業におけるリスクマネジメントチェックブック(※クリックorタップすると拡大できます)

①は、鉄道や空港、港湾などの事業地や公衆浴場、居住用マンションなどの付近、新製品開発を行う企業の私有地、宗教施設、風俗街などを想定しており、②は畜産用地や大規模駐車場などを例に挙げている。

③では、健康被害が発生する可能性がある100デジベル以上の場合、メーカー認証がある機体を購入するほか、機体に騒音低減策を施すことや、飛行経路や飛行時間帯などの検討を行う。耳障りとなる60デシベルを超える場合は、騒音低減策を施し60デシベル以下に収まっていることを確認したり、住宅地を避けて運航したりする。

④~⑥についても、低空飛行や人からの距離30メートル以内の飛行を避けることや、認証が取れた機体の使用、立ち入り措置を講じるなど、被害が出ないようあらゆる対策を実施する。

⑧は、機体に広範囲または高解像度な撮像を可能とするカメラや不特定多数のデータ取得を可能とするセンサーなどを搭載しているケースにおいて、飛行ルートの変更やぼかし機能を有するカメラの搭載、情報の公開範囲を制限する社内規程を作成するなどの対策が必要としている。

その他の事業者自身にとってのリスク

上記に含まれない事業者自身の財務やコスト面からのリスクとして、「機体回収」を挙げている。機体の不時着や一部の部品・積み荷が落下した場合などを想定したものだ。

■【まとめ】各事業者が安全にサービスを提供できる環境づくり構築へ

ドローンや空飛ぶクルマの実用化にあたっては、第一に安全性に注目が集まることは言うまでもない。実証が進むにつれ騒音や風圧などに対する注目も高まっていくだろう。

その後、本書で触れているプライバシー関連の事象などにも注目が集まり、多角的な面から改めて運航ルールが整備される可能性もありそうだ。

自動運転車同様、エアモビリティも実用化が進むにつれサービス主体は専門家の手を離れていくことになる。その意味で、さまざまな事業者が安全にサービスを提供できる環境づくりは非常に重要なものとなる。本書は、こうした場面で大いに貢献しそうだ。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事