西日本旅客鉄道(JR西日本)のMaaSアプリ「WESTER(ウェスター)」と名古屋鉄道のMaaSアプリ「CentX(セントエックス)」が、2023年1月31日から連携を開始した。観光情報の発信やアプリ間リンク連携などを図り、利用者の満足度を高めていく狙いだ。
各地で続々と誕生するMaaSだが、サービスの質を高めていく上で今後の焦点となるのはMaaS同士の連携だ。移動サービスの全体最適化を図ることにおいて、どういった形の連携が望ましいのか。両社の取り組みとともに、MaaSの進化のあり方に触れていこう。
記事の目次
■WESTERとCentXの連携
観光情報発信などの情報面で連携
今回の連携では、WESTERの「マイ駅」に名鉄名古屋駅が設定可能になるほか、おでかけスポットやイベントを探すことができる「おでかけ」で名鉄沿線の観光情報を発信する。今後、CentXの「おでかけ情報」においても、関西圏の観光情報発信を検討していく。
また、WESTERの「便利サービス」、CentXの「メニュー」から相互にアプリ間遷移を行うことも可能となる。
一部の情報連携にとどまるが、全体最適化を図っていく過程における第一歩と言える。
■WESTERとCentXの位置付け
WESTERは統合型MaaS
JR西日本のWESTERは、西日本エリアに広がるMaaSをスムーズに利用可能にすること、社外パートナーとの連携の接点になること、移動と生活サービスを連携させることを目的とした統合型MaaSアプリだ。
主な機能としては、鉄道情報の提供や経路検索機能、駅混雑度傾向情報提供機能、おでかけスポット情報提供機能、クーポン配信機能が挙げられる。同社のネット予約サービス「e5489(いいごよやく)」や、東海道・山陽・九州新幹線のエクスプレス予約・スマートEXも利用可能だ。
同社は一般的なMaaSアプリとして、せとうちエリアにおける観光型MaaSアプリ「setowa」を展開していたが、対象エリアに新たに北陸エリアが加わり、WESTERブランドの観光サービス「tabiwa by WESTER」として2022年11月にリニューアルした。
tabiwa by WESTERは、経路検索や予約、デジタルチケットの販売などを行う一般的なMaaSアプリだが、WESTERは1つ上の階層に位置し、各エリアのMaaS連携を可能とする統合型プラットフォームとしての役割を担うイメージだ。
同社は、WESTERを基軸にMaaSを進化させていく計画だ。2025年には、大阪・関西万博に向け大阪市高速電気軌道など7社が共同構築する「関西MaaS」と「tabiwa by WESTER」をシームレスにつなげ、利便性を高めていく構想も持ち上がっている。
【参考】関西MaaSについては「国内初は「関西」!鉄道会社7社、MaaSで仲良く手を組んだ」も参照。
CentXはエリア版MaaS
一方、名古屋鉄道は愛知県・岐阜県を中心としたグループ沿線地域の交通・生活・観光サービスをつなぎ、シームレスな移動実現を目指すエリア版MaaS構想を推進している。その核となるのがCentXだ。
名古屋鉄道はもともと自社交通サービスに特化したアプリ「名鉄Touch」を提供していたが、地域の交通・生活・観光サービスをつなぐ新たなプラットフォームとして2022年3月に「CentX」に名称を改め、機能拡充を図っている。
沿線都市のマイクロ版MaaSと連携し、その上でWESTERのような全国版MaaSとも連携を図っていく中規模型MaaSのイメージだ。
名古屋鉄道はこれまでに、愛知県が実証を行っている名古屋東部丘陵地域MaaSと連携しているほか、トヨタファイナンシャルサービスなどとの連携強化を図り、トヨタ系MaaSアプリ「my route」とのデジタルチケットの相互販売などの取り組みに着手している。
【参考】CentXについては「交通アプリ、リニューアルで続々MaaS化!名鉄アプリも」も参照。
■MaaSの進化
階層型MaaSの概念が登場?
MaaSは、各自治体が中心となって構築を進める比較的狭域なものと、鉄道事業者など民間主体で構築を進める比較的広域型のものに分類できる。
これまでは各地に点在する形でそれぞれが個別最適化を図る取り組みが中心だったが、徐々に近隣のMaaSとの連携や主要プレイヤー間の連携など、全体最適化を見据えた動きが出てきた。
JR西日本と名古屋鉄道の取り組みはまだ模索段階のような印象だが、全国版・統合型のWESTERとエリア版のCentXの連携――というのが1つのポイントだ。特定エリアに点在する小規模MaaSが中規模MaaSを通じて連携し、さらに全国規模のMaaSにつながっていく――といった階層型MaaSの考え方も、今後のMaaSの進化を担う1つの道筋になり得る。
それぞれのMaaSがどのような役割を担い、またどのような連携のあり方が最有効となるかは未知の領域だが、各MaaSが個別に最適化されれば完成――というわけではない。各MaaSの個別最適化は第一フェーズであり、これに続く第二フェーズを見据えた取り組みがすでに始まっているのだ。
JR各社やANAのように広域エリアを対象とした事業者や、トヨタのように全国型かつマイクロ型として利用可能なMaaS展開を進める例もある。
効率的かつ効果的な移動のあり方を模索する各社の動きが、今後MaaSを通じてどんどん表面化してくるのかもしれない。
■【まとめ】MaaS間連携が進化を呼び込む
移動サービスの最適化を推し進める上では、MaaS間における一定レベルの連携は欠かせなくなる。どこまでの情報・サービスを連携させていくのかなど、まだまだ模索が続きそうだが、主要MaaS各社が今後どのような戦略を進めていくのか、また、業界としてどのように全体最適化を図っていくのかなど、進化の過程に要注目だ。
【参考】関連記事としては「MaaSとは?(2023年最新版)」も参照。