自動運転分野では世界中の企業が開発競争にしのぎを削り、実用化を目指して多くの実証実験が行われている。国内では自動運転レベル3(部分運転自動化)を解禁する道路交通法の改正案が国会で成立し、政府が主導する実証実験も盛んだ。
このような自動運転領域においての実証実験需要の高まりを受け、被験者募集や実験受託などの支援サービスを行っている企業がある。エイジェックマーケティングリサーチ株式会社(本社:東京都港区/執行役員社長:大場和幸)=AMR=だ。
自動運転ラボは同社を訪れ、大場和幸社長にサービスの概要や実証実験の今後の動向などを聞いた。
記事の目次
■被験者探しも、運営業務の受託も
Q まずは御社の概要と自動運転分野における事業概要について教えて下さい。
大場氏 我々は人材の総合プロデュース企業であるエイジェックを親会社に持ち、さまざまな分野に関する市場調査や基礎研究の実証実験コーディネートなどを展開しています。自動運転分野でも実証実験を支援するサービスを提供しており、具体的な支援方法としては大きく分けると2パターンです。
1つ目は、クライアント様がすべて実証実験の準備を整えて、そこに私たちがリクルート(募集)した被験者をアテンドするというサービスです。弊社では登録しているモニターが2万8800人ほどおりますので、実験の規模やテーマに合わせて年齢や性別などさまざまな属性の被験者を集めることができます。最近では高齢者の方を求められる実証実験なども増えてきています。
2つ目は、実証実験そのものの運営を含めて受託し、すべて私たちがコーディネートするという支援サービスです。実験を行う場所の確保や付帯業務も含めて、自動運転関係専属のコーディネーターが手配を行います。最近では実車を使った公道実験や、テストバンクなどクローズドコースでの実験のご要望もあり、被験者のアテンドのみの支援よりも、実証実験の運営コーディネートの方が増えてきていますね。
Q 自動運転車そのものを所有してはいるものの、実験を運営するノウハウを持たない企業も、御社にすべてお任せで実験の実施が可能というイメージですか?
大場氏 実験の内容によっては弊社だけでは対応しきれない場合もありますが、パートナー企業様と協力をしながら全体の運営を担える体制を整えています。大学で研究開発を行う先生や企業の研究員の方々が本来すべき仕事に専念できるよう、実証実験の付帯業務はすべて私たちがワンストップで代行するのが「究極の支援サービス」だと考え、弊社の一番のウリにさせていただいています。
今後増えてくるさまざまな実証実験のニーズにお応えできるよう、協力頂くパートナー企業様もどんどん増やしていきます。
■さまざまな地域での被験者集めにも自信
Q 実証実験ではどのような属性の被験者が求められることが多いですか?
大場氏 実証実験の目的はさまざまですが、最近では特定の社会課題の解決を目指した実証実験で、その実証実験に合った被験者のリクルート依頼が多いですね。高齢者の事故を減らすことを目的とした実証実験では65歳以上の被験者、といった具合です。
Q 社会課題の解決という視点で見ると地方都市の実証実験も増えています。交通の便が悪い中山間地域などでは被験者を集めるのも簡単ではないと思いますが、いかがでしょうか。
大場氏 エイジェックグループでは北海道から沖縄まで40都道府県に全国展開をしておりまして、90拠点に約1万7000人の仲間がおります。そのためメンバーは集めやすいですね。どの土地でも、どのタイミングでもメンバーを集めてお応えできるような体制になっております。
■被験者の反応をデジタルデータで収集可能
Q 御社の自動運転実証支援サービスは、どのような企業・団体からの依頼が多いですか?
大場氏 自動運転領域では基礎研究が多くなりますので、東京大学や筑波大学など自動運転開発を行う大学や国の研究機関での事例が多いですね。自動運転分野にさまざまな業種の企業様が参入していることもあり、大手通信会社などのほか、家電や住宅機器、建設・建築などの業種の企業様からも依頼があります。
例えばドライブシミュレーター装置を使って被験者の反応を収集する実験に関する依頼では、弊社側でドライブシミュレーター装置を手配し、被験者も集めました。そして、被験者の脈波や視線の動き、脳波を測定して運転中にヒヤっとした瞬間などをデジタルデータ化し、その結果は自動運転技術の安全性向上などに向け、基礎研究で活用されています。
ドライブシミュレーターにはディスプレイとハンドルを机に設置するだけの簡易的な装置から、本体が動いて振動や傾きまで再現するような本格的な装置までさまざまな種類がありますが、弊社ではそのすべて手配できる体制を整えています。デジタルデータで被験者の反応を集めることができることも弊社の強みです。
ちなみに案件別の依頼件数ではいまのところ、「行動実験」「DS(ドライブシミュレーター)実験」「評価実験」の順で件数が多くなっています。
■実証実験の場所の手配から実験準備まで
Q 自動運転を含むMaaSサービスの実証実験も増えてきていますが、御社でのサポート事例はありますか?
大場氏 MaaS領域ですと、地方での実証実験サポートのご依頼が増えてきています。自動運転車両に乗る人のアテンドももちろんですが、運営自体のお手伝いをさせていただくケースが多いですね。実際にMaaSの実証実験を行うとなると、車両を走らせる以外の付帯業務が多く発生します。
例えば乗降地ひとつを取り上げても、交渉も含めた場所の確保、当日の設置や乗客の誘導、安全確保などさまざまな業務の遂行が求められます。他にもセンサーに追従するタイプの自動運転実証では、数キロにわたって端末の設置や撤去をする人員も必要となります。こうした細かい業務は多くの人手が必要になるため、私たちが人員を確保して運営をサポートさせていただいています。被験者から運営スタッフまで、必要とされるさまざまな人材を確保することができるのは、弊社ならではの強みです。
Q 当日の運営以外ではどのようなサポートがありますか?
大場氏 ほかには、MaaSを普及させるためのマーケティング業務も受託させて頂いております。例えばオンデマンド交通サービスなどのシステムを開発しているクライアント様と、タクシーやバスなどの地域の交通事業者様をおつなぎするお手伝いなどですね。
また実際にサービスをユーザーに使ってもらうため、アプリの普及や認知度アップに向けた業務も請け負っております。アプリの普及や認知度アップに向けては、実際にその地域でチラシを手配りするといった地道な活動が重要です。
自動運転ラボ 確かにアプリをダウンロードしてもらわないと、実証実験をしてもユーザーに使ってもらえませんよね。実証実験に関わるかなり細かい付帯業務まで対応されていて、「縁の下の力持ち」という印象ですね。
大場氏 こうした細かい付帯業務は、自動運転開発をしている大手企業の社員さんが自らやるのはコスト的にも時間的にも効率が良くありません。そこにニーズがあれば、働きたいという希望を持った方をおつなぎするのが私たちの役割ですので、基本的にどんな仕事でもお受けする方針です。
【参考】支援サービスの詳細については「次世代モビリティ研究支援サービス」からpdfファイルをダウンロードして内容を確認できる。
■実証ニーズに応え、エンジニア育成にも注力
Q 自動運転の開発段階が進むと、乗車してただ感想を述べる一般の被験者だけではなく、技術面でのフィードバックを的確にできるエンジニア知識を持った被験者も求められます。そのような人材をどのように確保していきますか?
大場氏 自動運転に限った話ではありませんが、いまは世の中全体でエンジニア不足が続いています。高額な報酬を設定してエンジニアを募集している企業もいますが、お金を出しても集まりにくいのが現状です。そもそもエンジニアの数自体が足りていない状況です。
そんな中、エンジニア人材の育成という部分はまさに弊社の本業というところです。エイジェックグループは全国に40カ所の県知事認定職業訓練校を運営しており、エンジニア育成コースも主力メニューです。当グループに入ってくる新卒(2019年採用1642名)の育成は元より、クライアント先社員様の研修も行っております。
【参考】関連記事としては「自動運転車に実証実験・テスト走行が必須な理由 実用化に向けて回避すべき危険・リスクは?」も参照。
■「答え」となるデータ提供が、必要となる実験を減らす
Q 今後新しく取り組むサービスや力を入れていくサービスの構想はありますか?
大場氏 その一つが「データの分析・解析」です。現在は自動運転の実証実験で私たちが収集したデータはクライアント企業様が自ら分析と解析を行い、安全性の向上などの対策につなげています。対策についてはクライアント様が行うべきだと思いますが、その手前の分析と解析も可能なサービスを提供したいと考えています。
さらに、将来的には分析済みデータの提供サービスを展開したいと考えています。現在多くの企業が自動運転開発を進めていますが、研究開発のために必要となる実証実験の種類やデータはある程度同じになってきます。つまり私たちが実験テーマの答えとなる分析済みの実証実験データを持っていれば、クライアント様が実証実験を必要以上しなくてもよくなります。このことにより、自動運転開発の効率化を支援したいと考えています。
■変わる車内空間、「人の反応」のデータ収集にも貢献
Q 今後はどのような分野での支援ニーズが増えそうですか?
大場氏 例えば、システムが運転の主体となる自動運転レベル4(高度運転自動化)以上の自動運転では、ハンドルが無くなり、車のシートも新幹線のように対面になるなど、まったく新しい車内空間となる可能性が高いです。
そう仮定した場合、そのような空間では人間はどのように過ごす傾向があるのか、車酔いは発生するのかといった、実証実験をしなければ検証できないケースが増えてくることが予想されます。そのような実験ニーズにも積極的にチャレンジしていきたいですね。
どんなに技術が進化して新しいサービスが生まれても、実際に使うのは人ですから、実際に使い勝手がいいものでなければサービスは普及しません。人材会社がベースとなっている弊社だからこそ、その視点は大切にしていきたいです。
■【取材を終えて】「黒子役」が技術の進化を下支えする
最先端技術の集合体である自動運転技術。ただその技術をさまざまな人々が暮らす実社会の中で実用化するためには、何度も微調整を繰り返していかなければならない。そしてその微調整のためには実証実験が繰り返し必要となり、被験者もその都度必要となる。
エイジェックマーケティングリサーチは実証実験においては「黒子役」だ。ただその黒子役の活躍が自動運転の進化を大きく下支えする。こうしたことを強く感じさせたインタビューだった。
>>【全4回特集・目次】自動運転の進化、鍵は実証実験!〜その最前線に迫る〜
>>【インタビュー】自動運転の実証実験をトータルサポート!「縁の下の力持ち」のエイジェックマーケティングリサーチ社(特集:自動運転の進化、鍵は実証実験!第1回)
>>【解説】自動運転の実証実験に欠かせない最重要12項目とは!?(特集:自動運転の進化、鍵は実証実験!第2回)