「ラーメンから航空機まで」と例えられるほど幅広い商品やサービスを取り扱う総合商社。明治時代以降、長らく日本の経済を支えてきた存在だが、自動運転の分野においてはどのような事業を行っているのだろうか。今回は、一般的に総合商社と呼ばれている国内7社について、その取り組みを調べてみた。
- 豊田通商、シンガポールのMaaSスタートアップに出資
- 伊藤忠、イギリスで個人間カーシェア事業に参入 Hiyacar社と資本提携
- 丸紅、自動運転技術を活用したまちなか移動サービス事業に参画 日本総研が主導
- GMOクラウドのつながるクルマ事業、双日との提携で国内外で展開加速か
記事の目次
■三井物産:先進ビジネスモデルを事業化してさまざまな国へ
2018年5月に発表した中期経営計画において、モビリティを4つの成長分野の1つとして定め、自動車素材から移動・輸送サービスに至るまでの自動車バリューチェーンの拡充を推進していくこととしている。
計画に先立ち、2017年10月に自動車メーカーのDaimler(ダイムラー)AGとともに、欧州においてEV充電システムを提供し、EV用電池を利用した電力事業を展開する「The Mobility House AG」社に出資参画したことを発表している。先進的ビジネスモデルの事業化に取り組み、米国や日本など他地域における事業拡大を目指すこととしている。
また2017年12月には、乗用車をはじめとした電動モビリティ向けの電池システムを製造しているフランスの会社Forsee Power社への出資参画や、電気バスを製造・販売するポルトガルのバス製造会社CaetanoBus社と資本業務提携したことも発表している。
一方、日本国内では、ソフトバンクグループ傘下でスマートモビリティ事業を手掛けるSBドライブ社と連携し、自動運転技術を活用した新しいモビリティサービスの取り組みを行っている。
また、2018年10月から2019年3月末まで、東北電力、日産自動車、三菱地所とともに電気自動車の蓄電池を活用し、蓄電池を電力系統に接続して充放電する技術(V2G:Vehicle to Grid)の構築に向けた実証プロジェクトに取り組んでいる。
このほか、自動運転の制御開発などを手掛けるベンチャーのAZAPA株式会社への出資も行っており、バーチャルとリアルを繋ぐ計測事業の強化や人と機械の融合を目指した自律的制御システムの開発、モビリティサービスを始めとする都市インフラシステムにおける制御技術の適用などについて研究開発の強化を図っている。
【参考】AZAPAについては「創業10年のAZAPA、自動運転技術に注力 掲げる「共創」の理念とは?」も参照。
■双日:GMOクラウドと提携 コネクテッド事業参入へ
GMOインターネットグループのGMOクラウドと、自動車向けIoTソリューションを活用したコネクテッドカー関連事業の推進に関し、2018年9月に業務提携契約を締結したと発表している。
GMOクラウドは、車載コネクタを通じて車両状態の自動解析と遠隔診断が行えるIoTソリューション「LINKDriveシステム」を開発している。カーオーナー向けや事業者向けにスマホアプリ版やプロ版、自動車整備事業者向けのクラウド型スキャンツールなどがあり、業界でも大きな注目を集めてきた。
両社はコネクテッドカー市場が世界的に拡大する中、このソリューションの国内外での市場開拓を進めるとともに、関連業者とのシステム・サービス連携をオープンに進めながら新たなサービスの開発を共同で進めていく。将来的には、コネクテッドカー関連事業を担う合弁会社の設立も見据えている。
【参考】GMOについては「GMOクラウドのつながるクルマ事業、双日との提携で国内外で展開加速か」も参照。
■豊田通商:トラックの隊列走行からソフトウェア開発、MaaSまで幅広く事業展開
総合商社の中でも最も自動車分野と結びつきが強い豊田通商は、2016年に経済産業省が公募したスマートモビリティシステム研究開発・実証事業のうち「トラックの隊列走行の社会実装に向けた実証」を受託。トラック隊列走行の実用化に向けた技術開発や実証実験、事業面の検討を大型車メーカーや物流事業者などと協業のもと行っており、2018年度は後続車無人システム(後続車有人状態)の公道実証を開始する予定のほか、CACC(協調型車間距離維持支援システム)技術などを活用した後続車有人システムの公道実証を進めている。
2018年4月には、豊田通商グループにおけるエレクトロニクス事業の中核企業であるネクスティエレクトロニクスが、システム開発を手掛けるキャッツ株式会社へ資本参加し、次世代オートモーティブ社会における車載ソフトウェア領域のサービス開発を行っていくことを発表している。
キャッツが有する車載組込開発ツールの強化に加え、自動車業界向けに次世代技術を用いたソリューションを共同で開発・提供することで、CASEを中心とする次世代オートモーティブ社会の実現に向けた取り組みを加速していく構えだ。
また、2018年10月にはシンガポールでMaaS事業を展開するスタートアップ企業「mobilityX」に、リードインベスター(最大の投資提供者)として第三者割当増資による投資を行うことを決定したと発表している。
【参考】mobilityXについては「豊田通商、シンガポールのMaaSスタートアップに出資 周辺国への展開支援」も参照。
■三菱商事:三菱自動車をサポート データセンター事業にも本格参入
2017年5月に発表した「中期経営戦略2018」の中で、注力事業分野の一つに自動車を挙げている三菱商事は、三菱自動車工業の普通株式を公開買付けにより取得することを2018年2月に発表し、続けて翌3月に持ち分法適用会社にしたことを発表している。出資比率を増し、自動車ビジネスの環境変化に対応した新たな成長戦略へのサポートなど企業価値向上に関する取り組みを強化していく構えだ。
また2017年10月には、米国データセンター事業者であるDigital Realty Trust社と合弁会社を設立し、データセンター事業に共同で取り組んでいくことを発表している。三菱商事が保有するデータセンターを資産として組み込み、新規開発や既存データセンター物件の取り込みなどを通じて2022年には運営資産を2000億円規模に拡大することを計画しているという。
自動運転を含め AIやIoT、クラウド利用の普及により急激なペースで増加するデータを処理・管理する基盤としてデータセンター市場へ本格参入し、将来のビジネス展開を図る構えだ。
■住友商事:CASE領域で事業模索 AZAPAとAI開発へ
自動車リースを手掛けるグループ会社である住友三井オートサービス(SMAS)などの事業基盤を活用し、ベンチャー企業と積極的に連携しながら新しい時代に対応した事業の創出を図っていく構えで、EV関連の事業基盤などの資産や経験、ノウハウをベースに、シェアリングビジネスやコネクテッドプロジェクト、完全自動運転、EV事業の4つの領域で新規事業を模索することとしている。
2018年1月には、自動車分野における新技術の開発、実用化促進を目的に、技術と顧客およびマーケットのニーズの橋渡しとなるプラットフォームの構築に本格的に取り組むこととし、第1弾としてAZAPAとの間でAI(人工知能)アルゴリズムを搭載した自動車制御コンピュータに関する共同開発契約を締結している。
また、シェアリングの分野では、2016年9月に駐車場シェアリングサービスを提供するakippaと業務提携契約を締結し、営業活動における協業体制を構築していくこととしているほか、2017年12月には、カーシェアリング用自動運転EVメーカーである米Rivian Automotiveの第三者割当増資を引き受けて出資参画している。
■伊藤忠商事:カーシェアリングを手始めに次世代モビリティ分野で新たな事業構築へ
2018年10月に、英国でP2P(peer-to-peer:個人間)カーシェアリング・プラットフォーム事業を展開する「Hiyacar Limited」と資本提携することに合意したと発表している。
伊藤忠商事は子会社を通じてイギリスとオランダで地域最大手となる約930の店舗網でカーメンテナンス事業を行っており、カーシェアリングという新たな事業との接点により自社事業の次世代化の契機とするほか、P2Pカーシェアリング事業に関連して蓄積される各種データの活用など、次世代モビリティ分野での新たな事業構築を推進していくこととしている。
また、2018年4月には、パナマにおけるトヨタ・レクサスの独占販売代理店「Ricardo Pérez S.A.」株式の70%を取得し経営権を獲得したことを発表しており、既存の販売代理店事業の運営・拡大に留まらず、「CASE」(Connected:接続性、Autonomous:自動運転、Shared:共有、Electric:電動化)領域の事業や環境・社会貢献を図る新たな事業モデルなどの構築も目指していくとしている。
【参考】Hiyacarについては「伊藤忠、イギリスで個人間カーシェア事業に参入 Hiyacar社と資本提携」も参照。
■丸紅:移動サービス事業に参画 自動運転向けソフトウェアの取り扱いも開始
日本総合研究所が進める「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」への参画を2018年10月に発表しており、利用者ニーズや新しいモビリティサービスの社会実装ノウハウなどを活用し、国内外における将来のモビリティ社会の到来を見据えたモビリティサービスやフリートマネジメント事業(商用車両のライフサイクルの最適な管理を行う事業)へ積極的に進出していくこととしている。
また、同10月にはソフトウェア開発を手掛ける独「Acellere GmbH」と代理店契約を締結し、ソフトウェア静的解析プラットフォーム「GAMMA」の取り扱いを開始した。ドイツでは自動車産業における自動運転技術開発にGAMMAの採用が進むなど、複雑なソースコードで構成されるソフトウェアの品質確保において有効性が認められているという。
【参考】まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアムについては「丸紅、自動運転技術を活用したまちなか移動サービス事業に参画 日本総研が主導」も参照。
■役割が多様化する総合商社 今後の自動運転開発への関わり方に注目
従来から自動車部門を設置し、自動車の製造や販売面などで関わっていた総合商社も、多種多様な業種の連携のもと開発が進められている自動運転の分野においては、その役割が多様化しているようだ。世界各地の技術やサービスを結び付ける役割や企業をつなぐ役割、資本参加による開発支援、実証実験の支援など、幅広いネットワークや組織力、資金力を生かした事業展開が散見される。
米グーグルなどに代表されるインターネット上の総合商社ともいえるテクノロジー企業が幅を利かせる中、主導権争いに加わるような参入を目指すのか、あくまで縁の下の力持ちを演じるのか。今後の動向を注視したい。
【参考】関連記事としては「【日本版】自動運転開発を手掛ける主要企業・会社総まとめ 自動車メーカーからベンチャー・スタートアップまで、LiDARやカメラ開発も」も参照。