自動運転レベル3(条件付き運転自動化)技術の実装が間近に迫り、条件付きではあるものの「手放し」による運転が間もなく実現しようとしている。
ただレベル3には特有の危険性もしばしば指摘されている。それは状況によって「システム」と「人」が運転を交代しなければいけないという点だ。自動運転をしているからといってドライバーが油断していると、交代が遅れて思わぬ事故を誘発しかねない。
ただその危うさをクリアするため、運転手がどういう状態かを把握する「モニタリング(監視)技術」などの開発に力を入れている企業も目立つようになってきていることに注目したい。特に最近では技術の向上が飛躍的に進んでおり、自動運転レベル3解禁に向けて準備が整いつつある。
レベル3の危険性やその危険性をクリアする技術の開発状況について解説する。
【参考】自動運転レベル3については「【最新版】自動運転レベル3の定義や導入状況は?日本・世界の現状まとめ」も参照。
記事の目次
■自動運転レベル3に潜む危険性
自動運転レベル3では、例えば自動車専用道路で一定の速度で走行する場合など、特定の条件下でドライバーの代わりに自動運転システムが自動車の操作を担う。ただし、システムから手動運転の要請があった際には、ドライバーは直ちに運転操作を行わなければならない。
つまり、運転者とシステムが混在して運転操作に対応することになるが、システムから手動運転への要請があった際のドライバーの対応に危険性が潜在している。
レベル3における自動運転中、ドライバーはハンドルから手を放し、周囲を注視しなくてもよくなる。改正道路交通法が施行されれば、スマートフォンや車載テレビの閲覧なども可能になる。しかし、当然ではあるが飲酒や睡眠は許可されない。システムからの要請にすぐ対応できないからだ。
では、読書や通常の飲食はどうか。改正法に明確な規定がないため安全運転義務違反などに問われる可能性もあるが、一般的に考えれば読書などは問題ないはずだ。では、飲食はどうか。サンドイッチなら良さそうだが、ラーメンだと熱い汁をこぼして万が一の場合も考えられる。ゲームはどうか。熱中し過ぎたり、すぐに手を離せない状況だったり……と、線引きが難しくなってくる。
グレーゾーンはいろいろと考えられるが、ここに個別の判断が持ち込まれることで、いざというときにシステムからの要請に瞬時に応えられないケースが出てくることになる。現行の法制下においても、運転しながら平気でスマートフォンを操作しているドライバーが後を絶たない状況を考えると、ドライバー由来の危険性を助長する恐れがあるのだ。
【参考】改正道路交通法については「【解説】自動運転解禁への道路交通法と道路運送車両法の改正案の概要」も参照。
■自動運転に対する「慣れ」が油断を誘発する?
また、自動運転に対する慣れによって、ドライバーの油断を誘発するケースも考えられる。運転操作から解放されたことにより、ついウトウトして……というケースは絶対に避けなければならない。
レベル3の危険性を象徴する例として、米EV(電気自動車)大手のテスラ車のオーナーが2016年5月に起こした衝突事故が挙げられる。このテスラ車はレベル3ではないが、ドライバーは事故当時「部分的な自動運転システム」を稼働し、手放し運転をしていた。システム側はドライバーに対しハンドルを握る警告を何度も出していたが、ドライバーはほぼ従わず、その結果トレーラーの側面に衝突した。
ドライバーの油断や慢心に対する対策をより厳密に講じなければ、この手の事故が続発する可能性が高くなるのだ。
【参考】テスラの事故については「テスラ自動運転車の交通事故・死亡事故まとめ 原因や責任は?」も参照。
■その危うさをクリアする「運転手監視技術」
世界で初めてレベル3システムの量産車への実装を可能にしたアウディA8には、最新のドライバーモニタリングシステム(DMS)が搭載されている。
必要が生じた際にドライバーが即座に運転操作に戻れる状況にあるのか、カメラを使って常にドライバーの状況をチェックしており、ドライバーの頭の位置や動き、目の瞬きなどをデータ化し、ドライバーが一定時間以上目を閉じたままであれば、運転操作に戻るようドライバーに注意を促す。
この通告・警告にはいくつかの段階があり、ドライバーが手動運転の要請を無視し、その後の警告にも対応しなかった場合には、ドライバーの健康に異常が生じている可能性が高いと判断し、クルマを自動的に減速して車線内に停止させ、ハザードランプを点灯させる。さらに、それでもドライバーからの反応がない場合には、モバイルネットワークを介してエマージェンシーコールを発信するという。
こうしたDMSは、レベル3に限らずレベル2以下のADAS(先進運転支援システム)にも有効なことから、自動車メーカーをはじめ各社が開発に取り組んでいる。
■デンソーも技術開発、赤外線で顔解析
例えば住友理工株式会社は、特殊なゴム素材を使ったスマートラバー(SR)センサーによるステアリングタッチセンサーをはじめ、運転手の心拍や呼吸、動きなどを検知するドライバーモニタリングシステムを開発している。
デンソーは、後付け可能なドライバーモニターシステム「DN-DSM」を製品化している。赤外線カメラで撮影したドライバーの顔を画像解析し、脇見や眠気、居眠り、不適切な運転姿勢の状態を検知し、ドライバーに注意を促すという。
2019年4月に中国で開催された「上海モーターショー2019」では、画像認識アルゴリズムや視線検知技術を使った最新の「ドライバーステータスモニター」や、運転手の視点移動を抑えることでより安全性が向上する技術「ヘッドアップディスプレイ」などを発表している。
【参考】デンソーの取り組みについては「デンソー、運転手の顔の解析技術など展示 上海モーターショー2019 先進安全や自動運転への取り組みPR」も参照。
■国交省はドライバー異常時のガイドラインを発表
自動運転レベル3では、ドライバーの異常時などに安全に車両の走行を自動停止する仕組みなどを備えることも求められることになる。
国土交通省は2018年3月には、ドライバーの健康状態が急変し、運転の継続が困難な状況に陥ってしまう事故などを想定した「ドライバー異常時対応システム」のガイドラインを発表。ドライバー異常を検知する機能や車両を路肩などへ退避させる機能、システムの状態を車内外に報知する機能を基本に据えている。
同年9月には「自動運転車の安全技術ガイドライン」を発表し、レベル3の自動運転車について①自動運転システムの作動状況を運転者が容易かつ確実に認知することができる機能②運転者がシステムからの運転操作を引き継ぐことができる状態にあることを監視し、必要に応じ警報を発することができる機能③システムからの引き継ぎ要求を運転者が確実に認知することができる機能④システムから運転者に運転が引き継がれたかどうか判別することができる機能――を備えることを求めている。
【参考】安全技術ガイドラインについては「国土交通省、自動運転レベル3とレベル4に関する安全技術ガイドライン作成」も参照。
■【まとめ】レベル3の安全確保は過剰なレベルがちょうど良い
レベル3の安全性確保に向けては、システムからの手動運転要請にドライバーが適切に対応できるかがカギになるが、各種警報だけでは物足りず、緊急停止システムなども必要であることが分かった。
ドライバー異常時対応システムのように、システムの要請にドライバーが対応しない場合、異常が発生したとみなして追走車両など周囲の安全を確保しながら車両を強制的に停止するとともに、自動でエマージェンシーコールを発する機能まで備えれば、多くのドライバーはシステムの要請に正しく応答するのではないかと思われる。
自動運転が誘発するドライバーの油断・慢心による事故は、本末転倒以外の何ものでもない。過剰と言われるほどの安全策が義務化されてしかるべきなのである。
【参考】自動運転レベルの定義については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」も参照。