食事、仕事、娯楽、睡眠——。現代社会の中で人間が生活するうえで欠かせないものだが、近い将来、こうした活動のすべてを車内で行うことができるようになるかもしれない。そう、完全自動運転車の実現だ。
車内は従来の「乗る」空間から「くつろぐ」空間へと変化し、ドライバーは移動時間を有効活用して、日常的に時間を取られていた各種活動を効率的に行うことが可能になる。
中でも注目なのが「睡眠」だ。活動量計メーカーのポラール・エレクトロ・ジャパンの調査によると、対象となった世界28カ国中、日本人の平均睡眠時間が最も短かったという。働き過ぎなのか、通勤通学に時間を取られ過ぎなのかといった要因はさておき、日本人においては特に睡眠時間が重要ともいえる結果だ。
今回はこの「睡眠」に着目し、車中泊ブームなどを踏まえながら、自動車が将来「寝室」となる可能性について調べてみた。
【参考】睡眠時間に関する調査については「自動運転普及で睡眠時間が増える 日本人は世界最悪レベルで寝ていないという事実」も参照。
■自動運転が普及すれば…
完全自動運転が実現すれば、従来クルマを制御する「運転」作業に従事していたドライバーは、移動時間を有効活用できるようになる。
本を読んだり食事をとったり仕事をしたり……。専属ドライバーのもと、助手席や後部座席でくつろぐことができるようなイメージだ。
この車内における移動時間の有効活用策の一つが「睡眠」だ。手動運転中、助手席でいつの間にか寝息を立てている同乗者をうらやましく思ったことはないだろうか。運転中のウトウトは厳禁だが、完全自動運転車ではこれが可能になる。
睡眠を前面に打ち出したコンセプトカーも存在する。スウェーデンのボルボ・カーズが2018年9月に発表した完全自動運転のEVコンセプトカー「360c」だ。
インターネットへの接続も自在で、移動しながら仕事を進めることができるミーティングルームやオフィスのほか、しっかりと体を休めることができる寝室として、就寝スペース・設備を備えたイメージも発表している。睡眠の際に使う毛布にシートベルトの機能を持たせるなど、安全確保に向けた現実的かつ独創的なアイデアも目を引く。
こうしたコンセプトモデルが正式に発表されるということは、自動運転車を寝室にする発想は決して夢物語ではなく、将来実現し得る話だからだ。
自動車メーカー以外でも、カナダのデザインアトリエ「Aprilli Design Studio」は、自動運転車を活用した「移動式ホテル」のデザインを発表。家具販売のスウェーデン企業・イケアの研究機関「SPACE10」も自動運転車向けの家具デザインを発表しており、七つのコンセプトのうち一つが「ホテル」をイメージしたものとなっている。異業種からの注目度も高く、新たなビジネスとしての実用化に注目だ。
【参考】ボルボのコンセプトカーについては「ボルボが完全自動運転コンセプトカー360cを発表 シートベルト代わりに「布団ベルト」」も参照。
■カーシェアを利用して…
需要が伸び続け、全国各地にステーションを広げるカーシェアも、「寝室」としての可能性を秘めている。
海外観光客の増加などを背景に都市圏を中心に慢性的なホテル不足が続いており、民泊やカプセルホテル、さらにはインターネットカフェといった本来の目的外宿泊も増えている。インターネットカフェは簡素に区切られた半個室で、ネット使い放題、飲み放題、マンガ読み放題などのサービスを受けつつ、ナイトパック料金により格安で一晩過ごせるため、とにかく安く済ませたい層の人気を集めているようだ。
このインターネットカフェに近い使い方が、カーシェアでも可能だ(目的外利用のため、推奨するわけではない)。
カーシェアは、最寄りのステーション(駐車場)から移動サービスを利用し、元の、あるいは別のステーションに返す仕組みだが、車中泊の要領で素泊まりすることも可能といえば可能なのだ。
料金は、タイムズカーシェアの場合、レイトナイトパック(24時~翌9時)が2060円、ダブルナイトパック(18時~翌9時)が2580円、オリックスカーシェアは、夜間パック(20時~翌9時)が2500円、NISSAN e-シェアモビはレイトナイトパック(24時〜翌6時)が2400円から、ダブルナイトパック(18時〜翌6時)が3200円からといった相場だ。移動も可能なため、「ちょっとコンビニへ」といったことももちろん可能だ。
ラゲッジスペースを広く取った就寝しやすい車中泊向けの車両を各社が用意すれば、低料金で宿泊困難な大都市や宿泊先のない地方などで、ちょっとした需要が喚起されてもおかしくはないのでないか。
なお、カーシェアに自動運転技術が導入された場合を想定すると、長時間=長距離移動はレンタカーの分野となるため、お昼寝レベルの短時間睡眠なら利用できそうだ。
【参考】カーシェア各社の料金については「カーシェアの各社サービス料金を比較 市場拡大中のMaaS系サービス」も参照。
■車中泊プラットフォームを使えば…
クルマで寝泊まりする「車中泊」もじわじわ人気を高めている。全国各地の道の駅などでルールやマナーに関する問題が発生しており、車中泊を禁止する動きもあれば、推進しようとする動きもある。
九州周遊観光活性化コンソーシアムは車泊(車中泊)に注目し、車中泊を有償化するルール整備や地域滞在消費を促進する取り組みを進め、その仕組みを九州から全国へ拡大していくことを目指している。
また、全国各地に点在する駐車場や空き地を有効活用し、車中泊やテント泊スポットとしてシェアする「Carstay」も、新たなプラットフォームサービスとして注目を集めている。
こうしたサービスとカーシェア、レンタカーなどを組み合わせることで、移動と睡眠を両立した新しいカーライフやビジネスが創出されるかもしれない。
【参考】九州周遊観光活性化コンソーシアムの取り組みについては「車泊(クルマハク)、九州から全国へ 車に泊まりながら滞在型観光、MaaSの類型として注目」も参照。Carstayについては「車中泊スポットシェアのCarstay、3000万円の資金調達 MaaSサービスとして注目集める」も参照。
■【まとめ】睡眠特化型車両の導入で潜在需要が明らかに
完全自動運転の実現が車内睡眠を可能にするのは言うまでもなく、現在の自動車においても、快適に睡眠をとることができる車内環境を整えることで、車中泊ブームが定着する可能性もありそうだ。
キャンピングカーほどの設備とはいかないまでも、眠ることに特化した車両をレンタカーやカーシェアなどで用意すれば、潜在的な需要を探るとともに、車中泊プラットフォームのような新たなサービスの創出に一役買いそうだ。
車中泊に関する一定のルール作りは必要だが、車中泊プラットフォームに代表される新サービスが実現すれば、こうした移動手段もMaaS(移動のサービス化)の一角を担う存在になり得るだろう。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。