「Apple Car」の生産をめぐる報道合戦がなお過熱しているようだ。米メディアなどによる最新の報道によると、米アップルは韓国の起亜自動車(KIA)と生産委託に向け交渉を進めているという。
最終的にどのような結末を迎えるのかはわからないが、こうした報道合戦の要因には、同社への関心の高さと秘密開発主義が挙げられる。
アップルはなぜかたくなに秘密主義を貫くのか。この記事では、アップルの最新報道とともに、秘密主義に隠されたアップルの戦略・サービスについて推測する。
記事の目次
■Apple Carをめぐる報道合戦が過熱
Apple Carをめぐる報道合戦は、ロイター通信が2020年末、「アップルが2024年までに自動車生産を行う計画」と報じたことをきっかけに過熱した。
台湾メディアや韓国メディアも合戦に加わり、「Apple Carを2021年9月にも発売する」「ヒュンダイとパートナーシップを締結予定」とする報道などが相次いだ。いずれも関係筋の話として報道されている。
ヒュンダイは当初、アップルを含む複数の企業と協議を進めている旨発表したがすぐに訂正し、文中から「アップル」を削除した。憶測が憶測を呼ぶ典型的な例だが、結果として火に油を注ぐこととなった。
アップル、ヒュンダイ、起亜はノーコメント
最新の報道では、韓国メディアが2021年2月までに、アップルが起亜と同月中に提携を交わし、アップルが4兆ウォン(約3,800億円)を出資して米ジョージア州にある起亜の工場に新たな生産ラインを設けることが報じられたようだ。
米CNBCも追随しており、最終的にアップルがヒュンダイや起亜以外のパートナーを選ぶ可能性も示唆しながら、アップルカーはラストマイルを担う自動運転車として、ロボタクシーや配送の用途として利用される可能性にも言及している。なお、アップル、ヒュンダイ、起亜の3社ともコメントは控えている。
このほか、アップル事情通のアナリストが「アップルカーはヒュンダイのEV(電気自動車)プラットフォームをベースに開発される」と発表。日本経済新聞は、2月5日の東京株式市場でマツダをはじめ国内自動車株が急騰したことに対し、「アップルカーの生産委託先に国内自動車メーカーも選ばれるのではないかという思惑が広がった」と言及している。
ヒュンダイ、起亜、そしてアップルの株価も報道を受けて一時急騰しており、アップルカーをめぐる報道合戦は株式市場を巻き込む形で進行しているようだ。
【参考】アップルの自動運転開発については「Appleの”極秘”自動運転プロジェクト、判明情報を一挙まとめ」も参照。
■初志貫徹して秘密主義を貫く開発プロジェクト
アップルの自動運転開発は、プロジェクト「Titan(タイタン)」として周知の事実となっているが、同社は初志貫徹して秘密主義を貫いている。
プロジェクトを明確に裏付けするものは、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対しアップルが送った意見書や、米カリフォルニア州車両管理局(DMV)が公表している自動運転公道実証に係る許可や実績、自動運転に関する各種特許といった公的機関が発表したものと、自動運転開発スタートアップの米Drive.aiの買収といった外形的事実に限られる。
ティム・クックCEO(最高経営責任者)も、一連の事実から自動運転開発を進めていることを認めたものの、詳細については一切明かしていない。
■秘密主義に隠されたものは?
自動車メーカー以外の自動運転開発企業は、一般的に移動や配送といったサービス用途向けに自動運転開発を進めている。自動運転技術が普及する第一段階においては、リスクやビジネス性の観点などからパーソナル用途よりもサービス用途の方が適しているからだ。
こうした前提に立つと、開発企業は公道実証を盛んに行うとともに自社の技術力を周知し、パートナー企業や取引企業の獲得を目指すのが常套手段と思われるが、アップルはあえて逆の道を進んでいることになる。
単純に「時期尚早」と考えているだけかもしれないが、他社とは一線を画す戦略やサービスを考えている可能性も十分考えられる。
アップルの場合、そもそも「自動運転車」に対する概念・考え方が異なることも考えられそうだ。この場合、当然開発に向けたアプローチも異なってくるため、秘密主義を貫く意義が出てくる。
■Apple Carの出発点はiPhone?
もしかすると、アップルにとっての自動運転車は「iPad」や「iPhone」などと同列であり、場合によってはiPhoneなどの各種機能やサービスを提供するための1つのハードウェアに過ぎないのかもしれない。
デバイスとして違いがありすぎるが、イメージとしては「Apple Watch」のような感覚だ。Apple Watchは腕時計であって腕時計ではない。iPhoneと連携して各種機能を発揮する腕時計型のデバイスだ。
つまり、アップルにおける自動運転車は、人やモノを乗せて移動することができる新たなデバイスであり、コンピューター機器なのだ。
Apple Carの出発点は「車」ではなくiPhoneなどと同様のデバイスであり、これに基づいた独特の開発アプローチをたどっている。Apple Carでは、iPhoneなどで培った各種機能を最大限発揮できるほか、既成概念を覆すような移動と結び付けた新たな技術・サービスなどが実装される。
このように考えれば、秘密主義を貫くのも十分理解できるはずだ。
■OS戦略の可能性も?
もう1つの観点は、「OS戦略」だ。パソコンにおけるmacOSやモバイル端末におけるiOSのように、自動車や自動運転車にもOSが標準搭載される時代がやってくる。
これからの自動車は、あらゆる機能がECU(電子制御ユニット)制御されコンピューター化が大きく進行するとともに、コネクテッド化により通信機能が標準化される。自動車がまさにコンピューターと化すのだ。
現在、アップルや米Googleは、車載インフォテインメント機能を中心にスマートフォン連携を可能にするサービス実装を進めているが、自動車の各機能の状態などを把握し、一部機能をスマートフォンで実行することが可能なサービスの実装にも力を入れている。
自動車の各機能を網羅するには、自動車そのものをOS化するのが理想である。カナダのBlackBerry(ブラックベリー)はこの分野に早くから注目し、業績を高めている。
グーグル然り、アップル然りで、この分野への進出を逃すはずがない。自動運転車の開発を通じて必要な知識や技術を蓄え、自動車・自動運転車向けのOSを備えたデバイス「Apple Car」で大々的にお披露目するといった戦略も考えられる。
Apple Carでは、他の自動運転車では味わえないアップルならではのサービスを受けることができるが、それを可能にするのはアップルの自動車向けOSだ――といった形で、メーカーに売り込んでいく算段だ。
【参考】BlackBerryの取り組みについては「カナダBlackBerry、自動運転分野で大躍進!どんな技術を展開?」も参照。
■【まとめ】Apple Carは差別化を図ってくる…はず
あくまで憶測に基づいた記事だが、ただ1つ、「アップルは必ず差別化を図ってくる」ということだけは間違いない。
Waymoや中国企業などすでに実用化域に達している企業から見れば、アップルは後発組となる。後発組のアップルが数年後、満を持して他社と変わりのない自動運転車を発表すれば、アップルブランドを傷つけることになりかねない。
必ず度肝を抜くような技術やサービスを実装するはずで、場合によっては、固まりつつある自動運転車の既成概念をさっそく崩すような仕掛けを用意しているはずだ。
他社とは異なるアプローチで設計されるはずのApple Car。公式発表を心待ちにしたい。
【参考】関連記事としては「自動運転、Uberは後退、Appleは前進?」も参照。