
ロボタクシーの運行ルールを州任せにせず、市が自ら管理したい。そう求める動きが米国の自治体で広がっている。ミネソタ州ミネアポリス市議会では、ロボタクシーの運転席に人間の監視員を置くよう義務付ける条例を7対6で可決した。連邦議会で全米統一ルールを目指す法案が審議される一方、現場の市が発言権を求める構図が鮮明になっている。
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■サンディエゴ市議会が求めた「地元統制権」とは
「地元統制権」とは、ロボタクシーを市内で走らせるかどうか、どんな条件で走らせるかを、市が自分で決められる権限のことだ。現在のカリフォルニア州では、この権限を州が握っている。
サンディエゴ市議会は9月14日、この権限を市に戻すよう州議会とギャビン・ニューサム知事に求める決議を8対0で可決した。
決議の柱は3つある。1つ目は、自動運転タクシーの運行に対する地元の権限を取り戻すこと。2つ目は、事業者と市、警察や消防が安全対策で連携すること。3つ目は、サンディエゴ国際空港での無人車両の運行を禁じるよう空港当局に促すことだ。
ただし、決議に法的な拘束力はない。市が州に意思を示したにとどまる。
決議に強制力はない。それでも、州が握ってきたロボタクシーの許可権限に、市が公式に異議を唱えたのは一つの転機だ。「地元統制権」を求める動きが広がれば、事業者は州の許可に加え、走る街ごとの合意づくりを迫られる。
【参考】関連記事としては「テスラに乗れなくなる日が来る? ニュージャージーで自動運転を巡る法律バトルが勃発」も参照。
■なぜ市は口を出せないのか、カリフォルニア州の許可制度
市議会が「要請」という形しか取れなかったのには理由がある。カリフォルニア州では、自動運転車に対する権限が州の機関に集中しているためだ。公道での無人走行は州の車両管理局DMVが、乗客を運ぶ旅客サービスの許可はカリフォルニア州公益事業委員会CPUCが担う。市や郡には、運行の可否を決める法的な権限がない。
ウェイモのサンディエゴ参入も、この仕組みのなかで決まった。CPUCが8月に許可を出し、9月1日にサービスが始まっている。地元のサンディエゴ都市圏交通システムMTSは正式に異議を申し立てたが、それでも参入は認められた。
フォンウィルパート議員は、運行のあり方どころか、そもそもサンディエゴで走らせるべきかどうかについても、地元の議員が方針を決める機会がなかったと指摘する。街を走る車のルールを、その街が決められない。地元統制権を求める声の出発点はここにある。
ウェイモは「時期尚早」と反論
ウェイモ側は決議に反対した。州・地方政策担当マネージャーのアダム・レーン氏は会合で、決議を「極めて時期尚早」と批判。同社はCPUCによる2025年初めからの審査を経ていると説明した。
同氏によれば、サービス開始から1週間で数千回の乗車を安全に終え、待機リストには10万人を超えるサンディエゴ市民が登録しているという。重傷につながる衝突事故が94%少ないとする自社データも挙げた。さらに、警察や消防などの初動対応要員約300人への訓練と、空港での3カ月にわたる試験を済ませたとして、地元との協力に力を入れていると強調した。
一方で、決議を後押ししたのは運転手たちの声だ。タクシー運転手の団体は、タクシーや非緊急の医療搬送車は地元のMTSが規制しており、自動運転車も同じく地元で規制すべきだと主張する。運転手団体の代表ルイス・アリアス氏は「運転手は使い捨てではない」と訴えた。安全と雇用。2つの論点が重なったことが、出席議員全員の賛成につながったと言える。
【参考】関連記事としては「ウェイモとAmazon 自動運転のテスト走行で人間を怪我させていた」も参照。
■ミネアポリスは「人間の監視員」を義務付ける条例を可決
サンディエゴが州への要請にとどまったのに対し、市が自ら規制に踏み込んだのがミネアポリスだ。市議会は10月1日、ロボタクシーの運転席に人間の監視員を常に座らせるよう義務付ける条例を7対6で可決した。
条例は、事業者に市の営業許可の取得と、運転席への監視員の配置を求める。発効は2027年10月の予定だ。提案した議員らは、公共の安全と運転手の雇用を守ることが狙いだと説明している。
ただし、成立は見通せない。ジェイコブ・フレイ市長は拒否権を行使する意向で、覆すには13人の議員のうち9人の賛成が必要になる。可決時の賛成は7票にとどまった。
ウェイモは条例を自動運転車の「事実上の禁止」だと批判する。州に権限を求めるサンディエゴと、市が先に規制をかけるミネアポリス。手法は違っても、ロボタクシーのルールを地元で決めたいという点は共通している。
■連邦は統一ルール、州は許可、市は発言権を要求
2つの市の動きの背後には、誰がロボタクシーのルールを決めるのかという権限の問題がある。連邦、州、市の三層で、向いている方向がそろっていない。
連邦議会では、全米統一の枠組みを目指す自動運転法案SELF DRIVE Actが2月5日に下院へ提出された。州や自治体による独自の規制を、連邦法が上書きできる条項を含む。成立すれば、各地の規制は大きく制約される。もっとも、審議は進んでいない。2月10日に下院の小委員会を12対11の1票差で通過したものの、全体委員会での採決には至っていない。
州の段階では、カリフォルニアのように州の機関が許可を出し、事業の拡大を認める例がある。一方のミネソタでは州の枠組みが整っておらず、市が先に動いた。そして市は、どちらの場合も発言権を求めている。連邦は統一ルール、州は許可、市は発言権の要求。三者の綱引きという構図だ。
サンディエゴの決議は、連邦に対して別の方向の働きかけもしている。自動運転車の製造者や事業者に緊急時の連携を義務付ける連邦法案H.R.10033への支持を明記した。規制を一本化する法案ではなく、現場の安全確保を求める法案を選んだ点に、市の立場が表れている。
こうした綱引きが激しくなる背景には、事業の急拡大がある。米メディアの報道によると、ウェイモは現在、米国の15都市で約4,000台を運行し、有料乗車は週平均50万回に達した。2024年9月時点では3都市だった。走る街が増えるほど、地元との摩擦も増える。国と自治体の役割分担は、日本で自動運転タクシーの導入が進む際にも避けて通れない論点だろう。
【参考】関連記事としては「ウェイモ 新たに3都市追加で「米国14都市を制覇」早くも4000台体制へ」も参照。
■ロボタクシーの「地元統制権」要求は全米で加速するのか
ロボタクシーをめぐる「地元統制権」の要求は、2つの市に限った話ではない。オレゴン州ポートランドでは7月、市議会の委員会が車両数の上限や乗降場所の制限、データ共有の義務付けを議論した。同州の公共放送は、ミネアポリスのほかワシントンDCやボストンでも、自動運転車の規制づくりが模索されていると伝えている。
もっとも、全米で一気に加速すると言い切れる段階ではない。サンディエゴの決議に強制力はなく、ミネアポリスの条例は市長の拒否権に直面している。権限を握る州や連邦が動かなければ、市の要求は意思表示にとどまる。
今後の焦点は3つある。カリフォルニア州議会と知事が決議に応じるか。ミネアポリス市議会が拒否権を覆せるか。そして連邦の自動運転法案が、自治体の規制を上書きする条項を残したまま前に進むかだ。
自動運転タクシーが実験から日常の交通へ移るにつれ、走る街の側が条件を出し始めた。全米で地元統制権を求める動きが加速するのか、それとも州と連邦が主導権を保つのか。サンディエゴとミネアポリスの行方は、その分かれ目を占う試金石となる。













