悲報!自動運転を利用したい高齢女性「たった2割」

50歳以上の女性対象にアンケート

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運転操作に不安を覚えがちな高齢者ほど自動運転に対する期待は高いと思われがちだが、結果はそうとも限らないようだ。ハルメク 生きかた上手研究所が50歳以上の女性を対象に2025年4月に実施したアンケート調査で、AIによる自動運転の利用意向が2割程度に留まることが判明した。

母数が多いせいもあるが、高齢者による逆走やアクセル・ブレーキの踏み間違いによる事故は連日のようにニュース化されている。こうしたドライバーが運転に不安を抱える前に自動運転車(サービス)に移行することが望まれるが、現状、技術的にも心情的にもおぼつかないようだ。

調査概要とともに、自動運転の社会受容性について考えてみよう。

■ハルメクによる調査の概要

50~87歳の女性577人が回答

ハルメク 生きかた上手研究所は2025年4月、自社のモニター組織の女性を対象にモビリティに関するWEBアンケートを実施し、50~87歳の女性577人から回答を得た。内訳は50代111人、60代304人、70歳以上162人で、シニア女性を対象にした調査だ。

調査によると、一都三県(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)在住者の移動手段は徒歩や鉄道、バスが主流となっている一方、それ以外の地方では自分で運転する自動車が最多になるなど、日常生活の足として自動車が必要不可欠な存在となっていることが浮き彫りとなった。

運転免許の返納に対する考え方では、年齢層による影響よりも、日常的に運転している人の方が自主返納に否定的な傾向がうかがえた。

また、「2025年6月に安全装置の搭載が義務付けられることをご存知か」という問いに対しては、認知が36.6%にとどまった。一方、同制度に86.3%が興味・関心を示したようだ。

*なお、この安全装置搭載義務付けは、おそらく「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」の搭載義務づけを指すものと思われる。日本が主導した同制度に関する国際基準が2025年6月に発効されたが、新型乗用車における義務付けは正しくは2028年9月からだ。

出典:ハルメク・プレスリリース

自動運転に前向きな人は24.3%にとどまる

そしてAIによる自動運転の利用意向だ。「すでに利用している」「利用したい」「まあ利用したい」の合計は24.3%で、「どちらでもない」の28.6%、「あまり利用したくない」「利用したくない」の合計34.5%を下回る結果となった。

その進歩や利便性、必要性に期待する声は57.2%に上る一方、まだ早いなどを含む不安や不信感を覚える人が37.1%、費用や使い勝手などを懸念する人は11.3%いたようだ。

自由回答では、「とても良いと思う。高齢者がブレーキとアクセルを踏み間違えたというニュースを聞くたびに早く実現すれば良いと思っている」「自動運転はありがたいと思うが、自動運転に必要なことを自分が判断できるか心配。機械に弱いし、判断力も衰えてくるだろうから」「安全性が保たれるならば、高齢者やさまざまな不自由を抱えた方々の行動範囲が拡大して、大変良い状況が訪れる」といった声が寄せられた。

出典:ハルメク・プレスリリース

自動運転はまだ信頼できない?

自動運転の利用意向が24.3%にとどまったのは正直想定外だ。対象が50代以上のため高齢者と言うと語弊があるが、率先して自ら運転したい層とは異なり、可能であるならば運転を代わってもらいたい人の方が多いものと思われる。

それでも、現状としては自動運転に対する信頼感より、自身の運転技能への信頼感が勝るのだろう。コンピュータに対する抵抗感や不慣れ、費用対効果などさまざまな要素が加わり、自動運転への期待度が停滞しているようだ。

■自動運転における社会受容性

自動運転に対する理解不足が背景に

こうした背景には、自動運転に対する理解不足と、それに伴う社会受容性の低さがある。

そもそも、自動運転がどういった仕組みで行われるのかを理解している人は少ない。得体のしれない技術に抵抗感を持つのは当然で、特に年配の方ほどその傾向が強いのではないだろうか。

その上、自動運転技術がどのように社会実装されていくのかも不透明だ。自動運転バスやタクシーなどが、いつ頃自身が生活するエリアで実現するのか、運賃含め既存サービスとどのような違いがあるのかなど、正確に把握するのは困難だ。

自家用車による移動が必須の地域では、自家用車における移動をほぼ完全に代替・補完することが可能なのか、可能であればそれはいつ頃なのかという点も知りたいところだろう。

さらには、自家用自動運転車が完成する日は来るのか、市販されるとしたら、価格はどれほどの水準になるのか……という点も気になるところだが、現時点で正確な情報を出すことはできない。不明な点が多いのだ。

未知の存在には不安がつきまとう

将来技術として、その実現・完成を前提に自動運転に期待を寄せる人は多いだろう。しかし、現状のイメージをもとに目の前の技術・サービスとして利用を問われれば、期待の中に不安が顔を覗かせてもおかしくはない。

未知の技術・サービスに不安がつきまとうのは世の常だ。特に、クルマは自分の身体を委ねるものであり、周囲の人を含め人命に直結する存在であるため、慎重になるのも仕方のないことと言える。

しかし、敬遠され続ける限り、人間による事故は起こり続けることになる。特に、移動するために自家用車を手放すことができず、危険を承知しつつも運転し続ける高齢者だ。逆走や暴走などにより事故を起こすことでようやく自家用車から離れる決心がつく人も多いが、それでは遅いのだ。

未知を既知に……

では、自動運転の社会受容性を向上させるにはどうしたらよいのか。一般的には、社会実装による効用と意義を示すとともに、体験機会などを増やして理解を深めていく手法が多い。安全性の向上や職業ドライバー不足の解決に資するなどのメリットを示し、目にする機会を増加させるのだ。

ただ、メリットや意義を提示されても、未知の技術は未知のままで、不安は結局拭えない。第一は、未知を既知にかえていくことにある。

自動運転の仕組みをわかりやすく解説し、その技術がSF・空想上のものではなく現実的なものであることをまず知ってもらわなければならない。AIの存在そのものに不安を感じる人も少なくないようだが、AIは人間が事前に設定した基準に基づいて判断を下しているに過ぎない。

基本は、自車両があらゆるものに対し接触しないよう制御されているだけ……などシンプルに捉えれば、AIに対する漠然とした不安は払しょくされるのではないだろうか。

後は、その精度に対する信頼感を獲得できるかどうかだ。カメラなどのセンサーはどこまで正確に車両周囲の状況を検知できるのか。網羅したシチュエーション・パターンに不備はないか。認識したシチュエーションに対し、どこまで迅速かつ正確に車両を制御することができるのか……などが問われることになる。

正直なところ、これらは現状不完全だ。不完全ゆえにまだまだ発展途上であり、本格的なサービス普及段階に達していないわけだが、そもそも一般的な人間のドライバーも不完全であることを踏まえれば、100点満点を求めることなく及第点を見出すことができるはずだ。

誇張することなく現状のレベルを人間のドライバーの水準に置き換えて説明することで、自動運転に対する現実感が高まるものと思われる。これが第一歩目だ。

【参考】自動運転の社会受容性については「自動運転、社会受容性を高めるアプローチ一覧」も参照。

自動運転、社会受容性を高めるアプローチ一覧(2024年最新版)

その上で、不確定ながらもいつごろにはどのようなサービスがどのような水準で実現するかを示すことができれば、リアリティが増す。

自動運転バスで言えば、現在の水準はようやくドライバーなしで一般車道を恐る恐る走行できるようになり始めたレベルだ。一部、路上駐車車両の回避や右折など苦手な部分も残されている。初心者ドライバーがバスを運転しているようなイメージだ。

ただ、このまま経験を積み重ねていけば「~年後にはナチュラルな運転が可能となり、交通量の多いより複雑な道路にも対応できるようになる」――といった感じで、見込みを示すのだ。可能であれば、現状の導入費用とともに、普及段階に達した際のコストなども示すことができれば、より理解が深まるかもしれない。

誇張することなく自動運転の現状と近い将来の見込みをしっかりと提示し、リアリティをもってもらうことが肝要なのではないだろうか。

■【まとめ】自動運転車が市民権を得るのはいつ頃か

単純に、自動運転車を目にする機会が増えるだけでも社会受容性は高まっていく。未知だったものが、頭の中で徐々に既知のものへと変換されていくためだ。1~2年後にはWaymoが東京都内で自動運転タクシーサービスを開始する可能性が高いが、こうした完成度の高い自動運転技術を目にすれば、不安は一気に払しょくされるのではないだろうか。

そう考えれば、自動運転車の導入が各地で進むとともに徐々に社会受容性は高まっていくことになる。当然と言えば当然だが、その逆も然りで、機運が高まらなければ自治体や民間企業も導入に向けた行動を起こしづらい面もある。

果たして、自動運転車が市民権を得るのはいつ頃になるのか。社会受容性の観点にもしっかりと注目したいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転車の市場調査・レポート一覧」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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