無人配送に力を入れる楽天グループは、東京都内で実施中の商品配送サービスに米Avrideの自動配送ロボットを新たに導入すると発表した。順次10台まで増やす予定で、サービスの利便性向上を図っていく構えだ。
国内外のロボット開発事業者と手を組む楽天。EC事業者として、最終的にどのようなビジネスモデルを構築していくのか。今回はAvride製という非国産のロボットの追加導入となったが、配送ロボットの領域では特に導入コストが重要となるため、コストが安いと思われる海外製の導入は当然の一手と考えられそうだ。
楽天の取り組みとともに、自動配送ロボットの最新動向に迫る。
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■楽天の取り組み
Cartkenに続きAvride製ロボットを導入
楽天グループは2024年11月、自動配送ロボットによる商品配送サービス「楽天無人配送」を、東京都中央区晴海全域、月島と勝どきの一部(以下晴海周辺)で開始すると発表した。同年8月から試験運用を行っており、正式にサービスインした。
スターバックス コーヒー 晴海トリトンスクエア店、スーパーマーケット文化堂月島店、吉野家晴海トリトンスクエア店の3店舗の商品計5,300品以上を、晴海周辺のマンションやオフィス、公園など62カ所の指定届け先にロボットが配達するサービスだ。配送料は100円に設定している。
当初のリリースでは、米Cartken製のロボットを導入するとしている。自動運転と遠隔監視・操作のもと、スタッフが随行することなく無人で最高時速5.4キロで走行し、商品を届ける。独自開発したロボット配送の専用サイトや配送管理システムにより、複数台同時運行のロボット配送におけるオペレーションを最適化しているという。
そして2025年2月、新たなロボットの導入と対象店舗や地域の拡大などを発表した。パティスリーハットとファミリーマート晴海センタービル店が新たに参画し、商品数は計4,500品以上としている。11月からの運用で対象品を絞ったようだ。
対象地域は、晴海全域と月島1~4丁目の一部、勝どき1~6丁目の一部へと拡大し、指お届け先も90カ所に増加させている。
ロボットは、新たにAvride製を採用した。順次10台まで増やす予定で、ロボットの種類や機体数の増加にあたり、注文内容に応じて最適なロボットの自動割当などを行う配送管理システムの改良や、自動配送ロボット10台体制によるサービス提供の実証なども実施したという。
京東集団、パナソニック、ホンダとも実証
早くから無人配送に取り組んでいる楽天は、2016年にドローン配送ソリューションを提供するサービス「楽天ドローン」を開始し、2018年にはドローンとUGV(無人地上車両)を組み合わせた配送実験にも着手している。
2019年には、無人配送ソリューションに中国の京東集団のドローンと自動配送ロボットを導入することに合意したと発表した。京東集団は2017年に宅配用の自動配送ロボットを発表しており、大学構内などで運行実証を進めていた。
京東集団の自動配送ロボットは長さ171×幅75×高さ160センチの中型モデルで、最大積載量50キロ、最高時速15キロで走行できるモデルだ。
その後2020年代に入り、国内開発勢が台頭し始めると、楽天はパナソニック、西友とともに神奈川県横須賀市や茨城県つくば市内でサービス実証を実施した。ロボットが公道を走行し、店舗から住宅地へ配送する実サービスに沿った本格的な実証だ。
なお、パナソニックのロボットは長さ115×幅65×高さ115センチの小型タイプで、最大積載量30キロ、最高時速4キロで運用している。
2021年7月には、ホンダとともに筑波大学構内及び一部公道における自動配送ロボットの走行実証を開始したことを発表した。ロボットのスペックは公表されていないようだが、小型低速モデルだ。
2022年11月に開始したつくば市内での取り組みには、Cartkenのロボットが導入されている。長さ71 ×幅45.5×高さ120センチの小型で、積載容量24リットル、最高時速6キロの「Model C」、及び長さ97 × 幅56×高さ93センチ、積載容量114リットル、最高時速6キロの「Model E」を活用したようだ。
今回の晴海周辺におけるサービスでも、まずCartken製の自動配送ロボット「Model C」が導入された。そして、最新のAvrideのモデルは、長さ 86.1×幅 65.5×高さ 117.8センチで、最大積載容量約54リットル、最大積載重量 25キロ、最高時速6キロという。
このように、楽天は京東集団、パナソニック、ホンダ、Cartken、Avrideなど開発各社と広く手を組みながら取り組みを進めてきた。
今後、国内最大級のEC運営事業者として自社サービスにロボット配送を生かしていくのか、あるいはクイックコマースやデリバリーなどの分野におけるプラットフォーマーとしてのビジネスを成長させていくのか、その動向に注目が集まるところだ。
自動配送ロボット導入促進実証事業に採択
楽天は今回の晴海周辺での取り組みにおいて、経済産業省の令和5年度補正予算「物流効率化に向けた先進的な実証事業」における「自動配送ロボット導入促進実証事業」による補助を受けている。
ラストワンマイル配送の課題解決に向け、自動配送ロボットを活用した配送サービスの社会実装に向け、サービス提供事業者が取り組む大規模なサービス実証事業に対する補助だ。公道を走行する自動配送ロボットの採算性を確保したサービスモデルを創出し、複数拠点・多数台運行による大規模サービス実証を通じて市場確立を図っていく。
同年度の採択事業者は楽天のみだ。税金が投入されている……という意味では、社会的意義を見出すためにも一定の成果が求められるところだ。同事業が継続的な実用化・サービス化に結びついているのか、しっかりとウオッチしていく必要がありそうだ。
■海外開発勢の概要
AvrideはYandexから分離・再始動した有力スタートアップ
Avrideは、ロシアのIT大手Yandexの自動運転開発子会社Yandex Self-Driving Group(YandexSDG)を前身とするスタートアップだ。YandexSDGはロシア国内をはじめ米国やイスラエルなど世界各地で自動運転タクシーや自動配送ロボットの実証を行っていたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴い活動停止を余儀なくされていた。
親会社のYandexを運営していた持ち株会社Yandex NV(現Nebius Group)は、国外事業の一部を分離した上でYandexをロシアの投資家コンソーシアムに売却した。YandexSDGも分離され、Nebius傘下の独立企業として2024年にAvrideに改称し、本拠地を米国に移して活動を本格化させている。
ロシア発祥……ということで敬遠される向きもあるかもしれないが、その実力は折り紙付きと言える有力スタートアップだ。
米国内ではすでにUber Technologiesと複数年に渡るパートナーシップを交わし、Uber Eatsのデリバリーへのロボット導入を進めている。テキサス州オースティンを皮切りに、同州ダラスとニュージャージー州ジャージーシティに拡大していくほか、2025年には自動運転タクシーの導入も計画している。
このほか、オハイオ州立大学や韓国の光州科学技術院などでもサービスを提供しているようだ。
【参考】Avrideについては「ロシア創業の自動運転企業、米国に「亡命」 Yandex、新社名で再出発」も参照。
三菱電機と手を組むCartkenは日本進出を加速中
Avrideより一足早く楽天と手を結んだCartkenは、グーグルでロボット開発などを手掛けていたChristian Bersch氏らが2019年に設立した米スタートアップだ。
三菱電機の関連会社Mitsubishi Electric Automotive AmericaがCartkenと共創活動を行っており、その縁で三菱電機が2021年に日本国内への導入をサポートしている。
三菱電機とイオンモールが2022年1月、イオンモール常滑でCartkenの自動配送ロボットを活用した商品配送サービスの実証を開始したほか、前述した楽天によるつくば市内でのサービスにも活用されている。つくばでは、走行距離6,500キロ超、走行時間1,400時間超の経験を積んだという。
2024年2月には、三菱電機とUber Eats Japanが自動走行ロボットを活用したオンラインデリバリーサービス提供に向け業務提携を交わしたと発表した。Cartkenのロボットを導入し、同年3月に東京都内の一部地域でサービスを開始している。
【参考】Cartkenについては「Uber Eatsの配送ロボ、開発者はGoogle出身!Cartkenの知られざる実力」も参照。
■国内開発勢の動向
ZMPは1人が10~19台を遠隔監視する技術を発表
海外モデルの導入が目立ち始めているが、国内勢も負けてはいない。国内開発勢の先駆けZMPは2021年、ENEOSホールディングスとの協業のもと東京都中央区佃・月島エリアで無人配送ロボット「DeliRo(デリロ)」を用いた実証に着手した。
デリロをサービスステーションなどに配備し、食料品や日用品など異なる店舗の商品を同時に一般消費者へ配送する独自のデリバリーインフラの構築を目指す取り組みだ。
2022年に実施した取り組みでは、エニキャリと共同構築するで、将来さまざまな種類・メーカーのロボットに接続できる注文サイト・決済・ロボットアサインなどの機能を必要な形で提供できるデリバリーシステムをエニキャリと共同構築し、これまでにないプラットフォーム型ロボットデリバリーシステムとして事業拡大を目指すとしていた。
デリロは長さ96.2×幅66.4×高さ108.9センチで、最大積載量50キロ、時速6キロで走行できる。コミュニケーション能力を備えている点もポイントだ。
2024年8月には、1人のオペレーターが10~19台のロボットを遠隔監視する最新技術の開発状況などを自社イベント「ZMP World 2024」で発表した。
パナソニックは複数地域・10台のロボット運行に着手
パナソニックホールディングスは、モビリティサービスプラットフォーム「X-Area(クロスエリア)」とともに自動配送ロボットの展開を推し進めている。
2023年7月には、改正道路交通法で規定された遠隔操作型小型車への届出第1号として藤沢市内でロボットの運用を開始し、8月には東京都千代田区丸の内でもロボットを活用した移動販売実証サービスを開始した。
2025年2月には、1人のオペレーターによる遠隔操作型小型車が複数地域で合計10台同時に公道走行する道路使用許可を取得し、実証を開始したと発表している。
藤沢市と大阪府門真市、佐賀県佐賀市の3地域で、合計10台の自動搬送ロボット「ハコボ」をフルリモート型で運行するという。
ティアフォーは異なる3種類のモビリティ連携実証に成功
ティアフォーは、時速6キロで走行可能な自動走行ロボットのプロトタイプ車両「Logiee」を開発し、岡山県玉野市や茨城県筑西市、福島県会津若松市などで実証を行ってきた。
玉野市では複数カ所で荷物を積み込み、複数カ所へ配送する実証、筑西市では2台のロボットを運用する実証、会津若松市ではティアフォーがトレーニング・認定した外部の監視・操作者による走行実証などを行ったようだ。
2024年12月には、KDDIやアイサンテクノロジーなどとともに、ロボットと自動運転車、ドローンの協調配送実証に成功したことを発表した。位置情報の定義が異なる3種類のモビリティを連携させる実証に成功したのは国内初という。
2030年を目途に、建物内からの配送や都心ビルへの配送を自動配送ロボット、都市部からの大規模な配送を自動運転車、陸上からの輸送が困難な地域ではドローン配送を行う――といった地域に適した全自動の荷物配送サービスの社会実装を目指すとしている。
LOMBYはセブン-イレブンと実証
LOMBYは、自動配送ロボット「LM-A」を開発している。自動車メーカーのスズキと共同開発契約を交わしており、量産化も視野に入れた取り組みを進めているようだ。
長さ97×幅63.8×高さ96.3センチで、305×460×37ミリ、及び365×460×370ミリの荷室を前後に備えている。
2023年にセブン-イレブン・ジャパンとともに東京都の南大沢エリアで実証を行っている。
KCCSは中速・中型モデルの開発に注力
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、主に車道を走行する中速・中型モデルの実用化に取り組んでいる。
中国Neolix製のものと思われるロボットを導入し、2021年から北海道石狩市などで実証を重ねており、2025年2月には、北海道大学と共同開発した中速・中型自動配送ロボットで準公道における雪道での走行試験を実施し成功したと発表している。
【参考】自動配送ロボットについては「配送ロボ、市場規模40倍で「超ドル箱」化へ 2030年に4,000億円予測」も参照。
■【まとめ】国内開発勢もさらなる奮起を
京東集団、パナソニック、ホンダ、Cartken、そしてAvrideとさまざまな開発企業と手を組む楽天。さまざまなロボットを試行し、本命を探している過程なのか、あるいは異なるロボットの共創を重視しているのか。
海外モデルの導入が相次ぐ中、国内開発勢にもいっそうの奮起が求められるところだ。パートナー企業とともに本格実用化に向けたさらなる取り組みに期待したい。
【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類解説 機能面や車両タイプから分類」も参照。