鳩山元首相の長男、Uberに「渋滞税」構想 タクシー革命を提言

「特定個人タクシー」制度や運賃自由化を提唱



左:鳩山由紀夫元首相、右:鳩山紀一郎氏=出典:それぞれ首相官邸/国民民主党公式サイト

本格ライドシェア解禁の是非を巡る議論が過熱している。推進派と否定派の思惑が一致することは基本的になく、推進派が強硬策に出るのか、それを否定派が阻止するのか、あるいは落としどころを見出せるのかなど、議論の行方に注目が集まっている。

一方、独自の施策を提案する動きもある。国民民主党で東京都第2区総支部長を務める鳩山紀一郎氏は、X(旧Twitter)で約1万字に及ぶ独自施策を公開している。鳩山氏は、旧民主党政権で内閣総理大臣を務めた鳩山由紀夫元首相の長男だ。


鳩山氏の案は、紆余曲折することも想定されるライドシェア議論にどのような影響を与えるのか。その中身を紹介していこう。

【参考】ライドシェア関連の法整備については「ライドシェアの法律・制度の世界動向(2024年最新版)」も参照。

■鳩山紀一郎氏の「タクシー革命」案

需給問題は表面的な問題に過ぎない

鳩山氏は、2023年12月21日付けでXに「必要なのは『ライドシェア解禁』ではなく『タクシー革命』だ」と題して長文を投稿した。


自身を政治家および交通学者と称し、党とは関係のない個人的な見解・主張として「タクシー革命」案を掲げたのだ。

まず、今回のライドシェア解禁に向けた議論の背景にあるタクシーの供給不足は「表面的な問題」に過ぎず、根本問題は「タクシー会社のオーナーや経営者によるタクシードライバーの搾取」にあるとしている。加えて、自民党政治家がタクシー会社のオーナーや経営者と癒着している点にも言及している。

鳩山氏は、タクシーの実車率(総走行距離のうち、料金が発生している距離の割合)に着目し、東京のような大都市でも約50%という低い水準になっていることから、日本のタクシーは供給不足と同時に需要不足にもなっていると指摘する。

その原因として、「タクシードライバーの収入が低すぎること」と「タクシー料金が高すぎること」を挙げている。ドライバーの収入が低過ぎるため供給不足が起き、同時に料金が高過ぎるために需要不足が起きるというロジックだ。


タクシードライバーの搾取が根本問題

そして、この2つの背景にあるのが「タクシー会社のオーナーや経営者によるタクシードライバーの搾取」とし、これを根本問題に据えている。

鳩山氏の試算では、東京の場合、法人タクシードライバーは乗客から受け取る料金のうち平均15%程度を経営者に吸い上げられているという。

また、タクシー料金にも規制がかけられており、その裏にはタクシー会社のオーナーや経営者の意図が反映されていると指摘する。

タクシー料金が自由化により安くなり、タクシーが「大多数の国民が乗れるもの」になれば、値下げ圧力にさらされ「搾取」が成立しなくなるかもしれず、経営者らは意図的にタクシー料金を高くしているという。

さらに、こうした規制の背景として「自民党政治家とタクシー会社のオーナーや経営者の癒着」を挙げている。タクシー会社の経営者らが自民党政治家のために政治献金などの支援を提供する見返りとして、政治家は規制を温存している──としている。

それゆえ、自民党政権は「タクシー会社の利権を守ることを前提としたライドシェア解禁」、つまり自家用車活用事業の実現が目標であり、本格版ライドシェアの実現は目指していないという。

タクシー革命の柱「特定個人タクシー」新設、料金自由化へ

そこで鳩山氏は、独自の「タクシー革命」案を掲げた。同案では、以下5点を骨子とした政策を実現することで、タクシー料金の大幅ダウン(平均20%程度)やタクシードライバーの収入の大幅アップ(平均20%程度)、タクシーの利便性の向上、タクシーの安全性の向上を図るとしている。

①既存の法人タクシーと個人タクシーとは別に、新たに「特定個人タクシー」という枠組みを作る

より多くのタクシードライバーがタクシー事業者に依存することなく働けるようにするため、「特定個人タクシー」という新たな枠組みを設ける。その要件は次に記す。

②「特定個人タクシー」の条件は、「第一種運転免許をもっていること」・「法定の車検を受けた自動車を使うこと」・「危険運転などの重大な交通違反がないこと」・「簡単な運転テストに合格すること(既存のタクシードライバーは免除)」・「流し営業(運転中に道端の乗客を探すこと)をしないこと」の5つのみにする

簡単な走行テストを設けるのは、ペーパードライバー対策としている。運転経験がほぼないドライバーが軽率に特定個人タクシーのドライバーになることを防ぐためだ。

流し営業禁止を条件に据えたのは、運転中に乗客を探したり乗客を乗せるために急停車したりする必要があるという意味で通常の運転より危険度が増すためとしている。

よって、特定個人タクシーは基本的にUberなどのプラットフォーマーによる配車サービスを使用する。こうしたマッチングは非常に効率的で、特定個人タクシーの増加に伴い配車効率性はいっそう向上するため、プラットフォーマーが配車するタクシーの利便性は加速度的に向上していくとしている。

③タクシー料金は基本的に自由化する

タクシー料金が自由化によって大幅に下がれば、それに伴って乗客が大幅に増え、実車率も大幅に高まる。そして、乗客が大幅に増加しても特定個人タクシーによってタクシー総数が十分に増えれば、供給不足(需要過多)を懸念する必要もなくなる。タクシー革命によってタクシーの需給が全体的に最大化されるとしている。

また、ダイナミックプライシングの導入もカギとなる。タクシー料金が自由化される中、プラットフォーマーがダイナミックプライシングを活用して乗客とタクシードライバーのマッチングをリアルタイムで最適化することで供給不足や需要不足を回避できる。

例えば、需要が大きく増えればタクシー料金は高くなる。このような料金が高い時だけ稼働する特定個人タクシーが増加することで供給不足を回避できるとしている。

④過度な渋滞が起きている時には、プラットフォーマー(たとえばUber、GO、S.RIDEなど)のマッチングに対して一定の「渋滞税」を課す

タクシー革命によりタクシーの需給が最大化されると、渋滞リスクが発生する。道路が公共財である以上、渋滞はできるだけ回避しなければならない。

このため、過度な渋滞が起きている際は、プラットフォーマーのマッチングに対し一定の税金を課す。ダイナミックプライシングを前提にすれば、過度な渋滞が起きている際はタクシー料金が非常に高くなっているため、それに税金を課すのは合理的としている。

⑤プラットフォーマーにも、安全性の確保について一定の責任を負わせる

合理的範囲内でより厳しく安全性を追求することは重要で、特定個人タクシーが基本的にプラットフォーマーの配車サービスを使う以上、プラットフォーマーにも安全性の確保について一定の責任を負わせるべきとしている。

具体的には、タクシードライバーによる暴行などの犯罪行為や、スピード違反や飲酒運転などを含めた危険運転を防ぐため、車内にドライブレコーダーや監視カメラ、アルコール検知器、緊急通報ボタンなどの設置を義務づける必要があるとする。

また、想定ルートからの著しい逸脱などの異常事態を察知するため、GPS搭載を義務づける必要も指摘している。タクシードライバーの労働時間や車両の車検履歴などについても、政府が直接運営するアプリなどを通じて管理・監督すべきとしている。

タクシードライバーが事故を起こした際、被害者に十分な補償ができるよう、プラットフォーマーに団体自動車保険への加入を義務づけることも考えられる。このように、プラットフォーマーに一定の責任を負わせる形で安全対策を徹底的に強化すれば、特定個人タクシーはむしろ今のタクシーより安全になるとも考えられるとしている。

■国内ライドシェアをめぐる現況

特定個人タクシーは事実上本格版ライドシェア?

鳩山氏が提唱する「特定個人タクシー」は、事実上本格版ライドシェアと言える。鳩山氏の見立てでは、現在進められている本格ライドシェア議論は形式だけのもので成立することはなく、政治家と業界の癒着構造は続く。その構造を壊すための新サービスが特定個人タクシーなのだろう。

その上で、業界の運賃規制を撤廃することで競争を促進し、低運賃化を実現することで需要と供給双方を活発化させる――といった内容だ。

関係者や識者から見れば突っ込みどころがありそうだが、渋滞税の導入など精査すれば効果を発揮しそうな施策もうかがえる。

タクシードライバーの低収入は事実だが……

既存のタクシー事業においては、人件費が原価の7割超を占めている。厚生労働省の調査によると、2022年9月の有効求人倍率は、全産業平均1.20ポイントに対し、ハイヤー・タクシー運転者は3.99ポイントに上る。

年間労働時間は2021年に全産業平均と同一水準まで下がったが、年間収入額は全産業平均489万円に対しタクシー運転者は280万円となっている。平均年齢も、全産業平均43.4歳に対し60.7歳と非常に高い。

ドライバー不足は顕著で、鳩山氏が指摘する通りドライバーの収入が低過ぎるということは事実だ。ただし、原価構造を踏まえれば、特定個人タクシーや運賃自由化などで果たしてドライバーの収入がどれだけ上がるのかは未知数だ。

「自家用車活用事業」がスタート

国は2024年4月、日本版ライドシェアと称される新制度「自家用車活用事業」をスタートした。タクシー事業者による運営管理のもと、一般ドライバーが自家用車でタクシーサービスを提供することが可能になった。

ただし、一般ドライバーは事実上タクシー事業者と雇用契約を結ぶような形となっているため自由度は低く、2種免許を要しないパートタクシードライバーが解禁されたような格好となっている。

また、導入エリアも、供給不足が客観的に認められるエリアで、時間帯や導入台数などに条件が課されている。

本格版ライドシェアは6月に一定の方針を提示

これに続く本格版ライドシェア解禁の是非を問う議論も現在規制改革推進会議で進められており、2024年6月に一定の方針・案を取りまとめる予定だ。

焦点は、タクシー事業者に限られている運行管理をプラットフォーマーに解禁すべきか否か……という点と、運行可能なエリア・時間帯などの制限をどのように設計するか……という点だろう。

鳩山氏が指摘する通り、政権与党とタクシー業界のつながりは深く、議論は紆余曲折することが予想される。一方、河野太郎氏に代表される改革推進派については、その本心は鳩山氏の想像とはかけ離れている可能性も高いだろう。

【参考】タクシー事業におけるライドシェアの影響については「タクシー会社「倒産ドミノ」か ライドシェア、全面解禁の検討へ」も参照。

■【まとめ】タクシー事業者の位置づけを明確にすべき時が来た?

本格版ライドシェア議論がどのような結論を見出し、どのような結末を迎えるのか。場合によっては、事実がどうあれ鳩山氏が指摘するように「癒着」というワードが飛び交い、議論はただのポーズだった……と言われる可能性もあるだろう。

「公共交通の担い手」とされるタクシー事業者の位置づけを明確にすべき時が来たのかもしれない。常に競争にさらされる都市部においては、代替交通も豊富なため各事業者がビジネスの腕を磨く一方、地方部においては、まさに「公共交通の担い手」として生かさず殺さず的な経営を余儀なくされているケースもみられる。

このタクシー業界の公益性をどのように判断し、どこまで保護すべきか、どこまで競争原理を働かせるべきか……という線引きを明確にすべき時が来たのではないだろうか。

今回のライドシェア議論を通して、こうした観点の議論も進むものと思われる。その行方に注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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