2025年開催予定の大阪・関西万博における自動運転車の運行計画概要が、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)の資料から明らかになった。会場外3.3キロ、会場内4.8キロのルートを大型・小型の自動運転バスで運行するという。総運行ルートは合計8.1キロだ。
会場外でも会場内でも、いずれも「自動運転レベル4」での運行を目標として掲げている。レベル4は、運行中は人間による遠隔監視などを除き、人間の介入を一切前提としない水準を指す。ただ資料では、一部では誘導のために磁気マーカーが使われる予定であることなどが説明されており、どこまで「本当の自動運転レベル4」で運行できるのか、実力が問われることになりそうだ。
大阪メトロの取り組みを中心に、万博における自動運転サービスやその後の計画に触れていこう。
▼Osaka Metroにおける自動運転バスの取組みについて|第1回新モビリティ導入検討協議会|大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/47151/00464500/siryo3.pdf
記事の目次
■大阪メトロの取り組み
新モビリティ導入検討協議会発足
万博における自動運転サービスの概要が明らかになった資料は、大阪府が設置した「第1回新モビリティ導入検討協議会」(2023年12月21日開催)で発表されたものだ。
同協議会は、交通課題を抱える南河内地域を中心に持続可能な地域公共交通を確保するため、万博で導入される自動運転バスなどの新しいモビリティの活用に向けた協議・調整を行う場として設置された。
主に、自動運転バス導入エリアの選定や、自動運転バス運行にかかる実証実験の実施・検証、その他新モビリティ導入に関する必要な事項にかかる検討・調整などを担う。
初回の会議では、先導的モデル事業となる見込みの南河内地域における実証計画案や、大阪メトロによる自動運転バスの取り組みについて説明されたようだ。
都市型MaaS構想のもと、自動運転導入を促進
大阪メトロは、事業成長戦略の一環として「都市型MaaS構想(e METRO)」を掲げている。データの蓄積・分析・予測や最新技術によるストレスフリーな移動、自由自在な移動のパーソナル化、フィジカル空間での生活・都市機能の整備、サイバー空間での生活を豊かにするサービスを構造化し、すべての事業活動の有機的結合を図っていく構想だ。
多くの企業との協業のもと、鉄道や路線バス、オンデマンドバス、シェアサイクルなど多様なモビリティをシームレスに繋ぎ、「モビリティの最適ミックス」を実現することで大阪市内の移動・生活の利便性の飛躍的向上を目指すとしている。
こうしたモビリティソリューションの1つが自動運転バスだ。交通事故や渋滞の減少、小型車を使った高頻度輸送による細かなニーズへの対応、労働条件に左右されない24時間運行、ドライバー不足の解消、持続可能な交通、大気汚染の軽減などを目指し、万博をはじめ大阪府内における導入を促進していく方針だ。
【参考】都市型MaaS構想については「危機感抱く大阪メトロ、生き残りへ「都市型MaaS」展開」も参照。
会場内外で大型・小型自動運転バスを計10台運行予定
万博では、自動運転レベル4の運行を目指す。試行を重ねた自動運転技術を披露する場とし、その価値を広く世界に訴求するという。その後も万博のレガシーを生かし、進化した交通サービスを大阪で実装し、都市の活性化に貢献するとしている。
万博における自動運転バスの実装は1つのマイルストーンであり、これを通過点に本格的な社会実装につなげていく方針だ。
計画では、会場外においては会場となる夢洲と、その手前にある人工島・舞洲に設けた駐車場間の公道約3.3キロを大型EV(電気自動車)バスで運行する。公道は歩車分離された信号のある混在交通下で、信号協調のほかGNSS受信不良部では特殊塗料や磁気マーカーなども活用する。同ルートの実証は2024年3月に開始する予定だ。
一方、会場内では全長6.99メートルの小型路線バスタイプを使用し、会場内や外周道路をめぐる約4.8キロのコースを運行する。高精度3次元地図とLiDARを主とした自動運転システムで、協調システムとなる道路側の設備は不要としている。
こちらも2024年3月に自社用地などで実証を開始し、会場内・外周道路が完成した区間から随時走行試験を進めていく方針だ。
いずれも「レベル4」運行を目標に掲げている。数十万人単位が来場する場となるため車内の安全確保に向け保安要員が同乗する可能性はあるが、原則運転席無人でセーフティドライバーは不要となる技術を実装するのだろう。
なお、過去の発表では、会場外では大型EVバス65台を導入し会場へのピストン輸送を行う計画で、うち自動運転車両を6台導入予定としている。会場内では、35台の小型EVバスを終日運行する計画で、うち4台が自動運転車両という。
中期経営計画も随時改訂
大阪メトロは2018年、同年度から2024年度に向けた中期経営計画を策定した。この中で、自社サービス沿線地域において自動運転コミュニティバスサービスの提供を掲げ、2020年にサービスを開始し、2024年までに20路線の開設を目指す方針を発表している。
その後、同年11月に博覧会国際事務局総会で大阪・関西万博の開催が決定したことを受け、2019年度の改訂版では2020年度に夢洲・舞洲など湾岸部の4路線で自動運転バスを実用化する計画や、万博の工事輸送・万博会場への来場者輸送で自動運転バスを活用する方針が加えられた。この際、バスの自動運転化は条件付き運転自動化となるレベル3を想定している。
最新バージョンとなる2023年度改訂版では、AI(人工知能)オンデマンドバスや自動運転など、世界最高水準のテクノロジーを積極導入し、圧倒的に便利な移動手段を確立する交通革命に挑戦することが明記されている。
自動運転を含むさまざまなモビリティを組み合わせた移動を提供し大阪における交通課題の解消を進めるとともに、シームレスで利便性の高い交通サービスの進化を追求し、未来を感じる安全なモビリティなど、移動の選択を増やしていく。
万博に向けては、交通や関連事業を通じ全社を挙げて最大限貢献していくこととし、自動運転バスを含むEVバスによる会場内外輸送をはじめ、会場の主要玄関となる夢洲駅(仮称)の建設や中央線の増発、ラッピング車両の運行、森之宮用地における賑わいの創出・周辺エリアの回遊性の向上を図っていく方針だ。
これまでの自動運転実証
自動運転サービス実現に向けた取り組みは、2019年に本格化する。同年12月、グランフロント大阪の閉鎖空間でレベル4相当の実証を実施し、SBドライブ(現BOLDLY)とともに一般試乗会も実施した。
2020年1月には、大阪湾ベイエリアの公道においてレベル2状態での信号協調実証を実施した。2022年3~4月には、テストコースや公道においてレベル2状態での複数台・車種の遠隔監視実証に着手した。
あいおいニッセイ同和損害保険、NTTドコモ、大林組、関西電力、ダイヘン、凸版印刷、日本信号、パナソニック、BOLDLYとの大がかりな共同事業で、万博会場を想定した1周約400メートルのテストコースにおいて複数台の自動運転車両を運行し、自動運転走行の一元管理の課題抽出と非接触充電による電動モビリティへの充電制御に関するエネルギーマネジメントの技術検証などを実施したほか、舞洲スポーツアイランド内の舞洲実証実験会場とコスモスクエア駅間の公道で自動運転車両やパーソナルモビリティへの乗車体験会も実施した。
同年12月からは、舞洲のテストコースを中心にレベル4実証や一部自動運転車両を遠隔操作する実証などに着手した。
テストコース内では、添乗員がいるものの操作には関与しない実質レベル4での走行を実施し、公道ではGPSを主とした自己位置推定や、GPS受信不良エリアにおける特殊塗料「ターゲットラインペイント」の活用などを検証した。
遠隔監視関連では、遠隔監視員1人が3台・2車種の自動運転車両の車両情報や車内外情報、位置情報などを遠隔監視し、レベル4の社会実装を見据えた運用確認を行った。また、テストコース内では遠隔操作による一部自動運転車両の停止・発進などを実施した。
2023年度以降は自社調達する自動運転車両や遠隔監視システムを用いて、万博を想定したルートにおける実証を繰り返し、システムの向上を図っていく。そして万博終了後、大阪府内の交通サービスへの社会実装を目指していく方針だ。
【参考】大阪メトロの実証については「大阪メトロ、地下鉄やバスで自動運転技術の実証実験 万博控え」も参照。
万博終了後は府内各エリアでの展開目指す
万博終了後は、府内の南河内地域を中心に自動運転バスの導入を図っていく。協議会立ち上げのきっかけとなった南河内地域では、同エリアで運行していた金剛バスの全路線が2023年12月で廃止されたほか、阪神地域の一部路線で阪急バス、守口市域や寝屋川市域等の一部路線で京阪バスがそれぞれ運行廃止するなど、路線の縮小が進んでいる。
ドライバー不足やドライバーの高齢化、運行経費の増加、利用者減少による事業採算性の低下などが要因で、南河内地域では不足する公共交通を確保するため、市町村が事業主体となって南海バスや近鉄バス、直営コミュニティバスによる路線を統廃合し、約6~7割の便数を確保しているという。
今後も運行廃止の動きがあるといい、こうした問題はさらに深刻化していくとの見通しだ。こうした背景を踏まえると、万博という一大事業を契機に自動運転モビリティの実装を広げていく戦略は有効と思われる。
ただ、実装に向けたスピード感は正直なところ鈍く感じる。万博におけるモビリティを効率的に転用していく意味では仕方ない面もあるが、万博後速やかにレベル4実装を図ることができるよう、導入予定地域で並行して実証を重ねることもできるはずだ。
大阪メトロをはじめ、関係自治体や他の交通事業者、開発事業者とともに、早期実装に向けた取り組み着手に改めて期待したいところだ。
【参考】南河内地域における交通課題については「レベル4自動運転バス、万博終了後「レベル2格下げ」で転用案」も参照。
■大阪メトロ以外の取り組み
阪急バスは観光バスタイプの自動運転バスを運行
万博に向けては、阪急バスも自動運転バス導入を計画している。淀川左岸線2期区間(新大阪駅~会場間シャトルバス運行区間の一部約4キロ)で万博期間中に観光バスタイプのEV高速バスによる自動運転サービスを提供する予定という。
2024年2月には、第1段階として、淀川緊急用河川敷道路で自動運転装置の機能や走行における安定性確認向けた実証として、自己位置推定手法の切り替え試験(最高時速60キロ)や高速運転試験(同)などを実施する。磁気マーカーやターゲットラインペイントを活用する予定のようだ。
堺市も万博に照準合わせART導入
一方、堺市は、万博や2031年のなにわ筋線開通の機を捉え、魅力と活力がみなぎる都市への変革に向け「堺・モビリティ・イノベーション(SMIプロジェクト)」に取り組んでいる。
交通を切り口に、環境や健康福祉、観光、産業振興などさまざまな分野にわたって都心部の魅力を大きく向上させるプロジェクトで、次世代都市交通(ART)の導入などが盛り込まれている。
自動運転車いすを用いた実証などがすでに行われており、2023年度から自動運転技術の実証やEV、FCVなどの車両の段階的導入を進め、万博開催のタイミングで「ART1.0」の運行を開始する計画としている。
■【まとめ】本格レベル4の実装と波及に期待
万博に向け自動運転開発・実装を促進し、その流れを生かしたまま周辺エリアでの実装につなげていく戦略だ。東京オリンピック・パラリンピックではこうした波及・継続的観点がうかがえなかったため、その後の展開も含め期待したい。
一方、万博は世界各国の最新技術や文化が集う場だ。なんちゃってレベル4ではなく、無人走行が可能な本格レベル4で国内外の来場者を迎えられることを願いたい。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「自動運転と大阪の現状」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)