空飛ぶクルマ関連で「航空法施行規則」を改正 知っておきたい8項目

救命胴衣の装備義務などについて記載



出典:国土交通省

国土交通省航空局は、空飛ぶクルマが関連する「航空法施行規則の一部を改正する省令」を2023年11月30日付で公布、同年12月31日に施行する。空飛ぶクルマにおける救命胴衣の装備義務などについて記載されている省令となる。

この省令については2023年9〜10月にパブリックコメントの募集が行われており、提出された意見が12あったものの、修正無しで公布されている。改正の概要について解説する。


■航空法施行規則の一部を改正する背景

国交省は、2018年に設立された「空の移動革命に向けた官民協議会」にて、「空飛ぶクルマ」の実現に向けて官民の関係者と協議を行ってきた。この協議会で「空の移動革命に向けたロードマップ」をとりまとめ、2025年の大阪・関西万博における空飛ぶクルマの運航開始に向け、2023年度中に必要な基準整備を実施する方針が示された。

空の移動革命に向けたロードマップ=出典:経済産業省

空飛ぶクルマは、「電動化」「新たな飛行形態(垂直離着陸やマルチローター)」という点で従来の航空機と異なるため、従来の航空機の特徴を前提とした現行の航空法施行規則では対応できない規定が存在するという問題が浮上した。

空飛ぶクルマの運航を実現するためには、その特徴を踏まえた安全基準や運航基準、騒音基準などを定める必要がある。そのため、航空法施行規則を改正するに至った。

▼「航空法施行規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について|国土交通省航空局
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000263731


■空飛ぶクルマ=垂直離着陸飛行機・マルチローター

今回の改正のポイントは3つだ。

1つ目は空飛ぶクルマを「垂直離着陸飛行機」「マルチローター」と規定した点だ。空飛ぶクルマについては、ヘリコプターと類似した飛行特性を有するマルチローターについて、有視界気象状態の要件を現行のヘリコプターと同様とするよう改正を行う。

すでに4件、空飛ぶクルマとしての型式証明申請が受理されているが、Joby AviationとVertical Aerospaceが垂直離着陸飛行機、VolocopterとSkyDriveがマルチローターに区分けされるようだ。

出典:国土交通省

2つ目は「『燃料』に電気エネルギーを含むと整理」、3つ目は「『発動機』に『電動機』を含むと整理」になっている。航空機は、航空運送事業の用途で用いる場合または計器飛行方式により飛行する場合は、航空機の種類等の区分に応じて、規定の量の燃料を携行しなければ、航空機を出発させてはならないこととされている。


空飛ぶクルマにおいても、その飛行性能を考慮した量の燃料を携行させる必要があることから、電力により作動する発動機(電気発動機)を装備した飛行機や回転翼航空機は、着陸地までの飛行に要する燃料の量に、着陸復行後に再度着陸を行うまでに必要な燃料の量などを加えた量を携行するよう、規則の改正を行ったという。

また、有視界飛行方式により飛行する空飛ぶクルマは、飛行計画における代替空港などの設定の有無により、携行すべき燃料の量を異なることとするため、規則を改正した。さらに、当分の間は空飛ぶクルマは法第79条ただし書の許可に係る場所での離着陸を想定していることから、「代替空港等」を「代替空港等又は法第79条ただし書の許可に係る場所」とする旨の経過措置を定めることとした。

■知っておきたい8項目

今回の全ての規則改正をまとめると下記になる。

  • 1.ヘリコプターに係る有視界飛行状態の要件に、マルチローターを追加
  • 2.空飛ぶクルマで3分以上水上を飛行する場合は、救命胴衣の装備義務
  • 3.代替空港等の設定の有無に応じ、携行しなければならない燃料を規定
  • 4.特定操縦技能(操縦技能の維持の確認に特に必要なもの)の審査を型式ごとに実施
  • 5.空飛ぶクルマの発動機停止等に係る重大インシデントの報告対象を規定
  • 6.空飛ぶクルマの技能証明取得に必要な飛行経歴、試験科目を規定
  • 7.空飛ぶクルマの機体の安全性基準、騒音基準、排出物基準を規定
  • 8.場外離着陸場への離着陸、低空飛行などの許可権限の委任について整理

2については、空飛ぶクルマは飛行可能時間や航続距離が短いことから、水上かつ緊急着陸に適した陸岸から一定以上離れた場所を飛行する場合、やむを得ず水上に緊急着陸する事態が発生する恐れがある。そのため当該飛行をする場合における必要な救急用具を定める改正を行う。

4については、特定操縦技能の審査は航空機の種類ごとに行うようになっていた。しかし空飛ぶクルマについては、航空機の種類が飛行機であっても離陸または着陸に係る滑走をせずに離着陸可能なものや、回転翼航空機であっても多数のローターにより機体制御を行うものが開発されており、同じ航空機の種類であっても既存の航空機とは異なる操縦特性があり、必要な知識や能力が異なる。そのため、空飛ぶクルマの特定操縦技能の審査については、既存の航空機の種類とは分けて審査するよう改正を行う。

5については、発動機を多数有することが想定される空飛ぶクルマの場合は、停止した発動機の数や位置によっては、必ずしも現行の規則において想定されている「事故が発生するおそれがあると認められる事態」と同程度の事態となるとは限らない。そのため空飛ぶクルマの個々の型式に特化した基準を規定する必要がある。空飛ぶクルマの場合は、国土交通大臣が定める数以上の発動機の停止等があった事態が重大インシデントに該当することとなるよう改正を行う。

6については、技能証明を受ける要件の1つである飛行経歴においては、空飛ぶクルマは飛行特性が多様であり、求められる飛行経歴は型式ごとに定める必要がある。また空飛ぶクルマに装備される電気発動機については、航空整備士などは整備をした機体の安全確認を行う能力を求められるため、学科試験に電気発動機に係る科目を追加する。

7については、空飛ぶクルマに装備される電気発動機は、既存航空機と比べ騒音特性などが異なり、これに適した基準が必要である。このことから、騒音基準が適用される航空機の区分に電気発動機を装備した航空機を追加し、当該航空機に関する騒音の基準は国土交通大臣が別に定めることとするため、改正を行う。

■法改正で実用化の環境が一層整う

2025年4月から開幕する大阪・関西万博まで、1年半を切った。法改正が行われることで、実用化に向けての環境が一層整うことになりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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