国内最大手の重工業メーカー・三菱重工業(以下三菱重工)。その技術は、インフラをはじめエネルギー、航空、宇宙と非常に多岐にわたる産業で活用されている。
交通インフラをはじめとしたモビリティ関連も例外ではなく、鉄道分野では早くから自動案内軌条式旅客輸送システム「AGT」の開発を手掛けてきた。
近年は、自動車分野における自動運転開発との関わりも深めており、全方位で社会インフラのスマート化を推し進めている印象だ。
この記事では、三菱重工×自動運転関連の取り組みを紹介する。
記事の目次
■自動車分野における取り組み
高度自動運転車両の試験・検証システム共同開発へ
三菱重工グループ3社は2021年9月、自動運転車両の試験・検証システムの共同開発に向け、スペインに本拠を構えるエンジニアリング企業Applus+ IDIADAと協力していくと発表した。
三菱重工業と三菱重工機械システム、三菱重工冷熱は、雨や雪、霧、光といった任意の自然環境と走行状況の組み合わせを自由に生成し、自動運転システムを高い精度で試験可能な屋内型の統合環境試験装置と、仮想環境下における網羅的な検証が可能なシステムをIDIADAと共同で開発する。
統合環境試験装置の開発にあたっては、三菱重工が有するレーダ波反射・散乱制御技術や、三菱重工冷熱が有する空調・冷凍機の環境試験技術、三菱重工機械システムが有する自動車用試験装置に関するシステムインテグレーション技術など、グループ3社の技術を結集する。
一方のIDIADAは、自動車メーカーの車両開発・試験・認証に関し多くの実績を誇るという。世界標準の自動運転試験システムを開発し、OEMやセンサーメーカーの開発をバックアップしていく構えだ。
【参考】自動運転試験システムの共同開発については「雪でも霧でも自在に作成!三菱重工が「自動運転試験装置」開発へ」も参照。
高速道路におけるV2I実証に参画
三菱重工と三菱重工機械システム、三菱重工エンジニアリングは2022年10月、高速道路における自動運転支援を目的とした路車間通信(V2I)の実証に参画すると発表した。
実証は、NEXCO中日本が公募した「高速道路の自動運転時代に向けた路車協調実証実験」で、建設が進められているE1A新東名高速道路の一部区間約4キロにおいて、V2I実証を2023年度中に実施する予定としている。
具体的には、未供用区間である神奈川県の新秦野ICから静岡県の新御殿場ICまでを活用し、前方の先読み情報をV2Iによって自動運転車両へ配信する「路上障害情報の後続車への提供」や「路面状況や走行環境に応じた最適な速度情報等の提供」、自動運転車による追随走行を成立させる情報を提供する「目的地別の追随走行支援」を検証する予定という。
【参考】V2I実証については「「先読み情報」を自動運転車へ配信!三菱重工らが実証実施へ」も参照。
自動バレーパーキング実用化に向けスタンレーロボティクスと協働
自動バレーパーキングシステムの社会実装に向け、三菱重工は2021年、スタートアップの仏Stanley Robotics(スタンレーロボティクス)と自動搬送ロボット事業を共同展開していくことに合意したと発表した。
自動バレーパーキングは、車両に搭載されたセンサーなどを活用するシステムが開発の主流となっているが、スタンレーロボティクスは車両搬送AGV(無人搬送車)「Stan」を開発している。
各車両を自走させず、代わりに自動運転機能を持つStanが運ぶ仕組みだ。利用者が駐車施設近接に設けられた「バース」という場所に駐車すると、Stanが車両を拾い上げ、空いている駐車エリアに自動搬送する。
乗車する際は、スマートフォンアプリで出庫予約を行うと、予約時間に合わせてStanが車両をバースまで自動搬送する。
車両の装備に関わらず、多くの自家用車を対象に自動バレーパーキングサービスを提供することを可能にする技術だ。
千葉県の酒々井プレミアム・アウトレットで実証に着手しており、入庫・車両搬送・駐車・出庫の全過程を無人で実行する段階に達しているようだ。
【参考】三菱重工による自動バレーパーキングについては「広い駐車場の「わずらわしさ」を自動運転で解決!三菱重工の挑戦」も参照。
■鉄道分野における取り組み
国内外でAGTを導入
鉄道分野では、専用軌道上で無人運転が可能な自動案内軌条式旅客輸送システム「AGT(Automated Guideway Transit)」の開発を行っている。いわゆる全自動無人運転車両システムで、三菱重工は国内ではAGT、海外では「APM(Automated People Mover)」の名称を用いている。
新交通システムとして国内外で導入が進んでおり、国内では東京ゆりかもめや日暮里・舎人ライナー、埼玉新都市交通ニューシャトル、広島新交通アストラムラインを手掛けている。
海外では、中国の香港国際空港APMやマカオLRT、米国のマイアミ国際空港APMやアトランタ国際空港APM、ワシントン・ダレス国際空港APM、シンガポールのセンカン・プンゴルLRTやチャンギ国際空港APM、韓国の仁川国際空港APM、UAEのドバイ国際空港APMなどが代表的だ。
空港向けのAGT「Crystal Mover」や、従来の新交通システムの約2倍に相当する最高時速120キロを実現する「Urbanismo Super AGT」、輸送力が高く都市の主幹交通としても対応可能な「Urbanismo-22」など、さまざまなブランド展開で地域の需要に沿った輸送システムを提供している。
2022年にAGT採用のマカオLRTの延伸プロジェクトを受注したほか、2023年にシンガポールのセンカン・プンゴルLRT向けの新車両を追加受注するなど、導入後の評価も高いようだ。
■その他モビリティ関連
プラント自動巡回点検防爆ロボットの開発
三菱重工は2023年5月、海上プラットフォームの自律操業に向けた研究開発を横河電機とともに開始すると発表した。
「海洋石油・天然ガス分野における脱炭素化等推進に係る日本財団-DeepStar連携技術開発助成プログラム」のもと、海上プラットフォーム上で動作するロボット管理プラットフォームの開発やAIアプリケーション開発、ロボットシステム開発、プラント巡回点検防爆ロボット「EX ROVR(エクスローバー)」の第二世代機「ASCENT」を活用した実証などを行う。
EX ROVRは防爆性能を有し、階段昇降を含むマルチフロアを自律移動可能という。画像撮影やガス濃度の測定、音声録音、熱画像取得も可能で、危険を予測する自動点検やインシデント発生時などの活用を想定した取り組みを進めるようだ。
自動運転消防ロボットの開発
三菱重工は、自動運転可能な消防ロボットも開発している。石油コンビナートなど、消防隊員が近付けない火災現場での活躍に期待が寄せられるソリューションだ。
消火冷却を効果的に行う「放水砲ロボット」と、最大300メートルまで消防用ホースを自動敷設し水を供給する「ホース延長ロボット」の2機種を、偵察・監視ロボットや指令システムと組み合わせることで「消防ロボットシステム」を構成し、専用の運搬車両1台に搭載して現場に移動することができるという。
石油コンビナートなど消防隊員の接近が困難な火災現場での活躍が期待されるところだ。
【参考】自動運転消防ロボットについては「消火2.0時代へ…三菱重工業、自動運転可能な消防ロボ開発」も参照。
自動運転旅客搭乗橋の開発
三菱重工交通・建設エンジニアリングは2021年4月、世界初となる完全無人自動運転による旅客搭乗橋の共同開発契約を成田国際空港と締結したと発表した。空港ターミナルビルにおけるグランドハンドリング作業の高度化・効率化を図る狙いだ。
すでに実証に着手しており、自動運転機能向上に寄与する技術を順次開発して2025年9月に完全無人自動運転の実用化を目指す計画だ。
【参考】自動運転旅客搭乗橋については「自動運転技術の「トリプル導入」で空港が近未来化!旅客搭乗橋も新たに」も参照。
物流のオートメーション化ソリューションも提供
物流関連では、三菱ロジスネクストが特設オンラインサイトで物流機器の自律化・知能化ソリューションコンセプト「ΣSynX(シグマシンクス)」を公開している。
グループ製品全体を自律化・知能化するソリューションコンセプトで、「予測計画」「遠隔制御」「人機協調」「システムプラットフォーム」「検証評価」「遠隔保守」といったコア技術で構成されている。
複数の自動運転フォークリフトや無人搬送車を効率的に差配する群制御技術などにより、倉庫作業などのオートメーション化を推進していく構えだ。
■【まとめ】縁の下の力持ち的立ち位置で自動運転を推進
事業の守備範囲が非常に広く、縁の下の力持ち的な立ち位置で柔軟に他社と手を組み、さまざまな需要を満たすソリューションを世に送り出している印象だ。
持ち前のITS(高度道路交通システム)技術を武器に、自動運転をインフラ側から支援するV2Iの領域でさらなる活躍が期待されるほか、スタンレーロボティクスとのバレーパーキング事業の本格展開なども今後注目が高まりそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでいる?(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)