ドライバーレス走行を可能にする改正道路交通法の施行が目前に控えている。ドライバー不在の移動サービスがまもなく解禁されるのだ。
無人の自動運転サービスにおいては、これまでドライバーが担っていた運転操作がコンピューターに置き換えられる一方、ドライバーなどが担っていた運転操作以外の役割を誰がどのように担っていくかが課題となっている。
こうした課題解決に向け、輸送の安全確保などに関するルールの見直しを進めている国土交通省所管の「自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保等に関する検討会(以下、検討会)」は、運転操作以外の業務を行う者を新たに「自動運行従事者(仮)」として法令に位置付ける案を示すなど、論点整理を進めてきた。
車内無人の環境において、運転操作以外の業務をどのように代替し、安全を確保するのか。検討会が発表した報告書をもとに解説していく。
▼論点整理について|令和4年度 第4回 自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保等に関する検討会|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001580444.pdf
▼報告書(案)|自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保等に関する検討会|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001580445.pdf
記事の目次
■検討会における検討概要
無人サービスでも運転者が存在する場合と同等の輸送安全確保が必要
自動車運送事業においては、車両の運転操作以外にも運行記録の作成や事故発生時の旅客対応など、さまざまな役務が生じる。ドライバーが存在する従来の運送事業においては、こうした役割もドライバーなどが担っていた。
しかし、自動運転技術によってドライバーが車内からいなくなると、こうした役割の担い手もいなくなるケースが発生するため、対応策について整備する必要が生じている。
そこで検討会では、輸送の安全確保などのため運送事業者が具体的に講ずべき事項の設定など、自動車運送事業における輸送の安全確保等に関するルールの見直しについて検討を行ってきた。
道路運送法や貨物自動車運送事業法においては、運転者の存在の有無に関わらず、自動車運送事業者が輸送の安全確保に係る責務を負うことが原則となる。この原則に従い、自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保に関する基本的な考え方として以下に2点を示している。
運転者が存在する場合と同等の輸送の安全等の確保
運転者不在の自動運転車を用いた自動車運送事業においても、非常時における対応などこれまで運転者が担っていた運転操作以外の業務を確実に実施し、運転者が存在する場合と同等の輸送の安全などを確保すること。
事業の形態によらない運送事業者の責任
運送事業者が、運行状態の監視業務や非常時の対応業務などを外部の者に実施させることとする場合においても、運送事業者の責任の下、関係者の責務や役割分担を明確にした上で従前と同等の輸送の安全などを確保することが必要。
つまり、自動運転やドライバーレスであろうとも、従来と変わらぬ輸送の安全などを確保しなければならないということだ。
この基本的な考え方を踏まえ、検討会は5つの論点を整理した。
- ①運転操作以外の業務を行う者に対して、どのような要件等を求めるか。
- ②自動運転車による運送事業において、運転者がいる場合と同等の安全を確保するため、運送事業者に対してどのような対応を求めるべきか。
- ③旅客の乗降時及び乗車中の安全を確保するためにどのようなことを求めるべきか。
- ④貨物の積載状況を確認するために、自動運転車両内の設備としてどのようなことを求めるべきか。
- ⑤運送事業者から運行状態の監視業務や非常時の駆け付け業務などを契約によって外部委託する場合、運送事業者にどのような要件を課すべきか。
以下、各論点の詳細を解説する。
■①運転操作以外の業務を行う者の要件
新たに「自動運行従事者」を設定
運送事業者の従業員のうち、運転者が行っていた運転操作以外の業務を行う者を「自動運行従事者(仮)」として法令に位置づけ、以下の要件を設ける。
- 事業者の責任のもと、業務の内容について運行管理者から指導を受ける。
- 乗車し、または遠隔から業務を行う。
- 特定自動運行を行う間、自動運行従事者は運転操作を行わないため、運転者に対して行う「酒気帯びの確認」や「自動車運転免許の保持」は求めない。
- 特定自動運行を終了した後などに運転操作を行うこととなる場合、自動運行従事者は「運転者」となるため、その際は運転者の要件を求める。
- 車掌を含む乗務員同様酒気を帯びて業務してはならないことを求める一方、運転操作は行わないため運転者と同レベルのアルコールや健康チェック、拘束時間などの労務管理は不要とする。
- 旅客運送事業においては、車掌同様に事業用自動車内への持込制限や喫煙しないことを要件とする。
- 自動運行従事者は、道路運送法や貨物自動車運送事業法体系の運行管理者、整備管理者、道路交通法体系の特定自動運行主任者、現場措置業務実施者の業務を兼任できる。
- 自動運行従事者の人員数については、業務を確実に実施できる人員確保が必要だが、運送形態や道路状況、車両の仕様などにより異なるため一律に問わない。
- 同時に対応すべき事象が発生した際に対応を同時に行えない場合、自動運転車両の運行を全て停止することとする。
- 1台の自動運転車両を複数の自動運行従事者が扱うことは可能とする。
運転操作以外の業務を行う者を新たに「自動運行従事者」として位置付け、求められるべき各種要件を定めた。自動運行従事者は、車両への乗車、遠隔業務を問われず、改正道路交通法に盛り込まれた「特定自動運行主任者」などとも兼務できる。
配置すべき人員数についてはケースにより異なるため、現状においては定めないこととしたようだ。
【参考】特定自動運行主任者については「【資料解説】自動運転レベル4を解禁する「道路交通法改正案」」も参照。
■②安全確保に向け運送事業者にどのような対応を求めるべきか
事故時のすみやかな応急手当の実施がカギに
自動運行従事者が遠隔から業務を行う場合、従来と同等の対応ができないケースがあり、この項ではセキュリティ面で求められるべき考え方について取りまとめている。
乗客による犯罪行為や公序良俗に反する行為への抑止や対応については、車内にカメラなどを設置することによる抑止効果が一定程度見込まれるほか、パッシブな対応として遠隔からの声掛けによって制止や指示を行うことになる。
事故発生時の対応については、乗務員がいないケースにおいて「すみやかな応急手当」が従来と異なる対応を取ることになる。
乗客または周辺の交通参加者の協力が必要となることが想定され、これらの方に応急手当を行ってもらうため知識・技術や機器などを提供する観点から、適切な応急手当の方法を伝達するため自動運行従事者に上級救命講習や応急手当普及員講習を受講させることや、車両内にAEDや応急手当用品を搭載することなどを事業者に推奨することとした。
また、運送事業者において、安全確保のために必要な装置や体制などを確保するとともに、「すみやかな応急手当」の最善な方法を検討して対策を行うことで従来同様の安全性を確保することとしている。
自動運転車両を用いた運送事業における安全の確保については、自動運転車両技術の進展を見ながら引き続き検討していく方針だ。
■③旅客の乗降時及び乗車中の安全確保
自動開閉扉や自動音声装置によるアナウンスなどを徹底
乗降口の扉の開閉については、車室内外の状況を把握できるカメラやセンサーなどを活用して旅客の状況を確認し、自動運行従事者が遠隔地から扉を開閉するか、自動運転車両の装置で自動開閉する手法と、旅客自らが安全に扉の開閉を行うことが必要になる。
乗車中の旅客の安全確保においては、走行中に車内を移動しないことや、シートベルト搭載座席ではこれを着用させることを徹底する必要がある。
自動運行従事者が乗車しない場合は、自動運行従事者や自動音声装置によるアナウンスを徹底することや、全座席にシートベルトリマインダーを設置し、未着用の乗客のみ声掛けすることなどさまざまな方法が考えられるとしている。
■④貨物の積載状況確認に向け求めるべき要件
カメラやセンサーで積荷を遠隔監視
自動運行従事者は、トラックに積載する荷物について偏荷重が生じないように積載することや、運搬中に荷崩れなどによって車両から落下することを防止するため、貨物にロープやシートを掛けるなど必要な措置を講ずる必要がある。
また、自動運転車両内の設備として、自動運行従事者が遠隔から確実に実施するために必要となる最低限の装置を規定することが必要とし、カメラやセンサーなどによって遠隔から積荷の状況を確認できるようにすることを求める。
必要となる装置については、技術開発動向も踏まえて適宜見直しを行っていく。
■⑤運行状態の監視業務や非常時の駆け付け業務などを外部委託する場合の要件
的確かつ迅速な判断や指示系統を整備
運送事業者が運行状態の監視業務や非常時の対応業務などを契約によって外部委託する場合、運送事業者の責任のもと、関係者の責務や役割分担を明確にした上で従前と同等の輸送の安全を確保することが求められる。
運送事業者には、輸送の安全に関する規定に基づく措置を適切に講ずることができるよう、事業用自動車の運行に関する状況を適切に把握・判断し、必要な指示を行うための体制整備が義務付けられている。
このため、外部委託する場合においても、運送事業者が事業用自動車の運行に関する状況を適切に把握・判断し、必要な指示や旅客への連絡などを行える体制・設備を整備することが求められる。被委託者においても、遅滞なく運送事業者に指示を仰げるような体制・設備を整備することが必要となる。
■【まとめ】知見の積み重ねに期待
新たに「自動運行従事者」を設定したことが一番のポイントとなるが、運転操作以外の業務については、無人サービスが実装される過程で新たに生じることなども考えられるため、適宜検討を進めていく必要がありそうだ。
特に、事故時の対応などは課題が残る。事故の衝撃で遠隔通信なども途絶えた場合、どのような対応を迅速に講じるべきか。エマージェンシー対応の中身次第で、乗客の安全はもとより安心度合いも変わってくる。
安全なモビリティとして自動運転サービスを定着させるには必須の要件となるため、引き続きの議論と実際のサービスを通した知見の積み重ねに期待したい。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでる?(2022年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)