国土交通省が2040年を見据えた道路政策ビジョンのロードマップ「今、道路の景色を変えていく~2040年道路政策ビジョンへのロードマップ~」を策定した。
2020年に発表した道路政策ビジョン「2040年、道路の景色が変わる〜人々の幸せにつながる道路〜」に基づき、2040年の社会を見据えた道路施策の当面の取り組みとロードマップについて整理したものだ。
20年後の未来は、恐らく自動運転技術がスタンダード化し、道路交通の在り方は今と大きく変わっていることが予想される。この記事では、自動運転関連のトピックをピックアップし、今後の取り組みに迫っていく。
▼2040年、道路の景色が変わる|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/road/vision/pdf/01.pdf
▼今、道路の景色を変えていく~2040 年道路政策ビジョンへのロードマップ~
https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001583.html
【参考】関連記事としては「【資料解説】「2040年、道路の景色が変わる」国交省ビジョン案、自動運転やMaaSも」も参照。
記事の目次
■ロードマップの概要
「今、道路の景色を変えていく~2040年道路政策ビジョンへのロードマップ~」では、道路政策ビジョンの実現に向けて、社会資本整備審議会道路分科会の基本政策部会で出された意見をもとに、以下の7分野において、当面の取り組みと2030年代までのロードマップが取りまとめられている。
- ①自動運転
- ②ICT・交通マネジメント
- ③拠点施策
- ④新たなモビリティの利用環境
- ⑤グリーン社会の実現
- ⑥自転車利用環境
- ⑦道路空間の利活用
以下、①自動運転②ICT・交通マネジメント④新たなモビリティの利用環境――の中から、自動運転に関する意見や取り組みを紹介していく。
■自動運転
自動運転専用の道路モデル構想を
これまでの会議の中で、委員からは以下の意見があった。レベル5を想定した道路の在り方や自動運転専用レーン構想、自動運転トラックの運行関連など、2040年を見据えた長期展望が示されている。
- レベル5を想定し、路側センサーで検知した情報を路車間通信で自動運転車へ伝えるようなシステムの検討が必要。コスト面も踏まえ研究を始めてほしい。
- 都市部で自動運転に対応する街路の諸元を検討し、モデル地区における実装を行うべきタイミングではないか。
- さまざまなところで自動運転が利用できるよう、規制緩和や実証実験を行っていく必要がある。
- 将来的に高速道路におけるトラックの自動運転を支援する運行会社の設立が想定される。運営に関し道路行政として支援を行うとともに、支援サービスの対価として徴収した料金で自動運転に対応する道路への投資を行っていくことが考えられる。
- 自動運転トラックの運行管理について、自動運転とマニュアル運転を切り替える拠点が重要。既存のSA・PAなどの施設との兼ね合いなどで、NEXCOとトラック事業者、通信システム会社などの役割分担や料金について検討が必要。
- 自動運転専用の高規格幹線道路など専用の道路モデルを構想してほしい。
- 交通規制を遵守する自動運転車と実際の交通状況の間に乖離があるのか、分析が必要。
- 人間中心の安全に関する理念を再確認し、社会で合意形成を行うことが必要。また、自動運転サービスを持続可能なものにするためには地域公共交通活性化再生計画の議論の中だけでは難しく、スキームから考え直すということも考えられる。
- 自動運転が混在する時期とほぼ100%の時期とで考え方の整理が必要。NEXCO東日本「自動運転社会の実現を加速させる次世代高速道路の目指す姿(構想)」では、自動運転普及に伴う交通容量向上により道路構造のスリム化が記述されている。道路の必要性について批判が出た際どう対応するのか考えていかなければならない。
- 過去、地図情報が国家安全保障上の機密情報であったことも踏まえ、自動運転に必要な地図情報を公開するにあたり安全保障に関わる省庁と情報共有・調整をしながら進めてほしい。
- 日常生活シーンでの自動運転や宅配ロボット、超小型低速モビリティも視野に入れた街路のネットワークとしてのリデザインやハブ、カーブサイドのあり方についても検討いただきたい。
サービス導入に関する手引きを2022年度中に策定
上記意見を踏まえた当面の取り組みとして、以下5点が示されている。
- ①高速道路における自動運転実現に向け、先読み情報に関する官民共同の実証実験を2023年度に実施し、実現に向けた課題・方策を整理
- ②自動運転トラックの運行管理システムについて、道路管理者の保有するデータの活用など関係省庁及び物流事業者と連携しつつ検討
- ③中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの導入に関する手引きを2022年度中に策定
- ④地域での持続可能な自動運転サービス導入に向け、地域公共交通計画の計画段階から自動運転へのインフラ支援を調整する枠組みに関して、2022年度より検討を開始
- ⑤地域の自動運転移動サービスと連携し、一般道における路車協調システム等の検討を2022年度より開始
いずれも、国の自動運転に関する取り組みの指針となってきた官民ITS構想・ロードマップをはじめとするこれまでの取り組みの延長線上にあるイメージだ。これまでに積み重ねてきた数々の実証や研究を、道路政策の面からもさらに加速させていく構えだ。
■ICT・交通マネジメント
データプラットフォーム「xROAD」公開・拡張へ
自動運転時代のITSについては、「冗長性を持った通信インフラを確保すべき」「xROADの上に各社サービスが乗ってくるような新しい情報サービスプラットフォームとして次世代 ITSを作ると宣言してはどうか」「高速道路だけではなく一般道路においてもどういったことができるかを考えていく必要がある」――などの意見が出された。
また、データプラットフォーム関連では、「サービスのユーザーエクスペリエンスと道路側のデータプラットフォーム(xROAD)をどのように関連させていくかということが課題」「国土交通省が収集している点群データは、自動運転車が必要とする地図の更新に活用できるのではないか。ドライブレコーダーを利用できれば画像データも取得できる」――といった声が上がっている。
当面の取り組みとしては、2022年度末までにデータプラットフォーム「xROAD」の道路管理者向け試行版を作成し、一部データの先行オープン化を実施するほか、地下占用物件の位置情報や地方道のデータ取得などさらなる充実を図るとともに、2023年度にデータのさらなるオープン化と道路管理アプリケーションの作成に着手する。
また、MMS三次元点群データなどを活用し道路管理の効率化を図るため、2025年度までに国管理道路で全線取得をすすめ、さらに2022年度より収集データを公開して民間企業などによるアプリケーション開発を促進する方針だ。
■新たなモビリティの利用環境
BRT導入に関するガイドラインを2022年度中に作成
新たなモビリティの利用環境に関しては、以下のように、BRT(バス高速輸送システム)や自動配送ロボット実装に向けた声が多く上がっている。
- 大規模BRTで抜本的に交通問題を改善するような方向性にも視野を広げてほしい
- BRTについては、道路空間の再編や専用レーンの確保など多くの自治体が知りたいと思う。そのためのマニュアルを充実させてほしい
- 自動配送ロボットを念頭に、自動運転に対応した歩道の幅員や構造の在り方、あるいは横断歩道との連担構造も含めて考えていく必要がある
- 宅配ロボットや超小型低速モビリティの自動運転も今後期待される。既存の交通手段との共存も考慮し、都市域での今後の道路・街路ネットワークとしてのリデザイン、ハブやカーブサイドのあり方なども含めて検討いただきたい
また、「モビリティサービスは最先端の話が進んでいるが、インフラ側は何十年も続く施設を作ることになる。関連技術の動向と齟齬がないよう、インフラ整備の方向性の検討を進める必要がある」とする意見も出されている。
当面の取り組みとしては、モビリティハブの連携など利用者が複数の交通モードを利用しやすい環境整備も含めたBRTの導入に関するガイドラインを2022年度に作成する。
また、自動配送ロボットの実証実験などの状況を踏まえつつ、ロボットの走行支援として必要な空間の整備やデータ連携の検討に2022年度から着手することとしている。
■【まとめ】道路も100年に1度の大変革期へ
委員からの意見にもあるように、インフラ(道路)は建設後何十年も続く施設となる。路車連携などのシステム面は更新が比較的容易かもしれないが、道路は一度作ると改変は困難を極める。20年、30年先の未来を可能な限り正確に予測し、備えていかなければならない。
2040年には、レベル4の自動運転車がどれほどの割合で走行しているのか。レベル5は実現しているのか。自動運転車の普及により、道路交通はどれほど効率化されるのか。新たなモビリティの登場は?……など考えるべき点は山積している。
自動車業界が100年に1度の大変革期を迎えていると言われているが、道路も同様に大変革期を迎えている。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標(2022年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)