自動運転と不動産(2022年最新版)

ビルやマンションなど活躍シーンは多様

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出典:三井不動産プレスリリース

実用化に向けた取り組みが加速する自動運転技術。自動運転システムの開発事業者や交通事業者を中心とした取り組みに注目が集まりがちだが、不動産×自動運転技術の取り組みも徐々に裾野を広げ、実用化を見据えた実証が活発化している。

この記事では、自動運転車やロボットなどの有効活用を図る不動産関連の取り組みについて解説していく。

■自動運転×飲食店
出典:日本システムプロジェクト社プレスリリース

飲食店では、店内で注文を取ったり料理を各テーブルに運んだりする自動配膳ロボットなど、屋内向けロボットがすでに実用化されている。コロナ禍を契機に導入する動きが大きく広がった印象だ。

屋内向けロボット導入に際しては、ホール業務のオペレーションを見直すとともに、客とロボット双方が安全に通行できるようテーブルの配置や通路の幅、動線などを再考しなければならない。

今後は、デリバリー需要を背景に屋外向け宅配ロボットの導入に注目が集まるところだ。近隣オフィスや住宅街などを対象に、注文に応じてオンデマンドで料理を配送することで商機を広げることができる。

ホールスタッフや配送スタッフの役割をロボットが担うことで、人件費削減や業務の効率化を図ることが可能になる。導入効果を本格的に享受できるまでに時間を要するが、これからの飲食・小売の在り方として注目度が高まっていくことは間違いなさそうだ。

■自動運転×マンション
屋内ラストワンマイルに自動走行ロボットを活用
出典:日本郵便プレスリリース

都市圏に立地する高層マンションでは、エントランスから各戸までの屋内配送を担う宅配ロボット導入に向けた取り組みが進められている。いわゆる屋内ラストワンマイル配送だ。

高層マンションでは、エントランスから各戸の往復に数分を要するが、宅配のたびに住人や宅配事業者、あるいは管理人が往復することになり、意外と面倒だ。ここにロボットを導入することで、各人の負担を軽減することが可能になる。

日本郵便は2021年2月、オートロックシステム付きのマンションなどで配送ロボットを活用する日本初の実証に着手した。エントランスでロボットが郵便配達員から荷物を受け取り、指定された入居者の玄関前まで荷物を届ける取り組みだ。オートロックシステムやエレベーターなどの施設付帯システムと連動し、ロボットがマンション内を自由に動ける仕組みの構築を図っている。

【参考】屋内ラストワンマイルについては「FMSの高度化がカギに?日本郵便、複数台の自律配送ロボット実証に着手!」も参照。

マンション×MaaSに自動運転車の導入も

入居者が多いマンションは、一棟でニュータウンクラスの人口規模を誇る。こうした住民向けの移動サービスを模索する動きも活発だ。

日鉄興和不動産は2020年2月、自社開発した分譲マンションの住民を対象に専用マイクロバスをオンデマンド方式で運行するMaaS「FRECRU(フリクル)」の実証実験に着手した。近隣の駅や病院、公園などを乗降ポイントに設定し、配車リクエストに応じて有料送迎する仕組みだ。

一方、三井不動産はマンション住民向けに複数の交通機関を利用可能なサブスクリプションタイプのMaaS実証を2020年12月から進めている。

パートナーシップを結ぶフィンランドのMaaS Globalが開発したアプリ「Whim」を活用し、バスやタクシー、カーシェアなどの各モビリティサービスを月定額で利用する取り組みだ。

こうしたマンション×MaaSの取り組みは今後も増加するものと思われるが、将来的にモビリティサービスの選択肢として自動運転車が導入される可能性が高い。

ランニングコストを抑えた自動運転シャトルを導入できれば、主要駅などからやや離れた立地でも効用を高めることが可能になる。マンション×自動運転の取り組みにも今後注目したいところだ。

【参考】日鉄興和不動産の取り組みについては「「マンション向けMaaS」、実験的に始動!日鉄興和不動産が発表」も参照。三井不動産の取り組みについては「三井不動産、日本初のマンション住民向けMaaSサブスク!Whimを導入」も参照。

■自動運転×オフィスビル
出典:森トラストプレスリリース

オフィスビルや商業ビルなどでは、屋内向けデリバリーロボットや清掃ロボット、警備ロボットなどさまざまな自動走行ロボットが活躍しそうだ。

マンション同様、外からのデリバリー商品や荷物をロビーなどで配送ロボットに積み込んで各オフィスに届けるのはもちろん、ビル内に店を構える小売店からの配送などにも対応できる。

清掃ロボットや警備ロボットはビル内の共用スペースを中心に自律走行し、それぞれの役目を全うする。このほか、案内ロボットなどの活躍も今後拡大しそうだ。

【参考】オフィスビルにおける取り組みについては「自動運転、マネタイズは「ビルの中」から 宅配ロボの需要」も参照。

本格導入を目指す実証は盛んに行われており、三菱地所は横浜ランドマークタワーで運搬ロボット「PostBOT」や「EffiBOT」、SEQSENSE製の警備ロボット「SQ-2」、AVIDBOTS製の清掃ロボット「Neo」などの各種ロボットの実証を2018年9月に行っている。

森トラストは城山トラストタワー内で搬送ロボット「Relay(リレイ)」を活用したカフェメニューのデリバリー実証実験を2018年12月に行っている。

ソフトバンクも、本社が入居する東京ポートシティ竹芝オフィスタワーで自社が取り扱うロボット掃除機「Whiz(ウィズ)」や配送ロボット「RICE」をはじめ、警備ロボット「SQ-2」の導入を目指す取り組みを進めている。

近々では、三井不動産が2023年グランドオープン予定の東京ミッドタウン八重洲で、デリバリーロボットや清掃ロボット、運搬ロボットの本格導入を進める計画を発表している。

将来的には、屋上を活用して空飛ぶクルマ向けのポートを設置し、空の移動を可能にする動きなども出てきそうだ。

【参考】三井不動産の取り組みについては「国内初の実用化!オフィスビルで自動配送ロボ導入 三井不動産が発表」も参照。

■自動運転×大型ショッピングモール

大型ショッピングモールでは、自動運転技術の総決算とばかりにさまざまなモビリティが活躍する場面を想像できる。

配送ロボットや警備ロボット、清掃ロボットなどをはじめ、来場者向けの搬送ロボットや高齢者などに適した自動運転パーソナルモビリティの導入なども想定される。

さらには、来場者向けのシャトルバスを自動運転化した送迎用モビリティサービスや、駐車場内で自動運転を実現する自動バレーパーキングの導入なども考えられる。

関連する商業者、来場者ともに多く、さまざまな形で自動運転技術の導入を模索する動きが今後活発化しそうだ。

■自動運転×ディベロッパー

大規模開発を担うディベロッパーは、ショッピングモールのような取り組みをより大きく展開することが可能だ。再開発エリアや新規開発エリアにおいて、自動運転技術の導入を前提としたインフラ整備を進めることができる。

東京都の竹芝エリアはスマートシティの国家戦略特区に選定され、5Gやデータの活用、スマートビル、ロボティクスや自動運転モビリティの導入など、さまざまな観点からモデルケースの構築を進めている。

これまでに、MONET TechnologiesなどによるオンデマンドモビリティサービスやマルチモーダルサービスのMaaS実証や、ロボット導入に向けた各種実証などが行われている。ソフトバンクの本社ビルもこの竹芝エリアに立地する。

千葉県柏市では、三井不動産や東京大学などが柏の葉スマートシティ構想を掲げ、自動運転モビリティ実用化に向けた実証などを積極的に進めている。2021年6月には、ドローンや自動運転など各種ロボットの実証を行うことが可能なテストコースを備えた屋外ロボット開発検証拠点「KOIL MOBILITY FIELD」の供用を開始するなど、イノベーションに向けた取り組みがますます過熱している印象だ。

本格的な自動運転技術の導入には、屋内、屋外ともに一定のインフラ整備などが必要不可欠となる。スマートシティ化が加速する今後は、再開発エリアなどでこうした未来を早い段階から構想した上で整備を進めていかなければならない。

その意味で、大規模再開発などに必須となるディベロッパーによる自動運転関連の取り組みは、今後注目度が増していく可能性が極めて高いと言える。

【参考】柏の葉エリアの取り組みについては「自動運転も試せる!三井不動産、首都圏に検証フィールドを開設」も参照。

■【まとめ】不動産を絡めた取り組みに注目

不動産関連では、屋内向けの各種ロボットの導入をはじめ、住民や来場者を対象とした自動運転モビリティの導入を目指す取り組みが盛んに行われているようだ。

各モビリティの移動を担うのは道路だが、人やモノの移動の根源となるのは周囲の不動産だ。不動産を絡めることで自動運転技術のサービス化やビジネス化はより充実したものへと進化していくのだ。不動産×自動運転の取り組みに引き続き注目していきたい。

【参考】関連記事としては「自動運転、歴史と現状(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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