AIと脳波を接続だと…? イーロンマスクの野望と自動運転とテスラ

日本の研究者も学術論文発表



アメリカ航空宇宙局 (NASA) のジョンソン宇宙センターでスペースXに関する記者会見に臨むイーロン・マスク氏=出典:NASA

自動運転に欠かせない先端技術であるAI(人工知能)。開発各社がディープラーニング(深層学習)の導入などで高性能化を競う中、米電気自動車大手のテスラ社でCEOを務めるイーロン・マスク氏が異彩を放つ取り組みを進めている。人間の脳とAIを接続する試みだ。

■イーロン・マスク氏と脳科学スタートアップ企業

投資家であり実業家であり、そしてエンジニアでもあるイーロン・マスク氏は、テスラ社以外にもロケットを製造開発するスペースX社や決済サービスのPayPal社、自動車専用道路や超高速交通システム「ハイパーループ」のためにトンネル掘削を行うボーリング・カンパニー、AIを研究する非営利団体OpenAIへの参加など幅広い分野で実業や投資を行ってきたが、その中の一つに神経科学技術を開発するスタートアップ企業Neuralink(ニューラリンク)がある。


詳細は明らかにされていないが、ニューラリンク社は埋め込み型のデバイスを介して、脳とコンピューターの間で大量の情報をやり取りするインターフェースの技術開発を行っているという。いわば、人間の脳も一つのコンピューターとなり、他のコンピューターへ指令を送ったり受けたりできるようにする概念だ。

【参考】Neuralink社の「ウェブサイト」では2018年6月現在、デジタル・デザイナーやメカニカルエンジニアなどの募集などを行っている。

なお、同社は医療研究企業として登録されており、脳卒中や脳腫瘍などで脳に損傷を負った患者の行動を支援するなど医療分野での活用を第一の目的としている。


■実現したらどうなる?

この技術が確立されれば、医療分野だけではなくさまざまな分野への応用の期待が高まる。

脳とコンピューターが直接つながることで、例えば頭の中で描いた文章や絵を直接パソコンに表示させることはもちろん、アプリの起動やゲームの操作もできるようになるだろう。頭の中に音楽をダウンロードして脳で直接聞くようなことも考えられる。自動車の運転に関して言えば、ブレーキやアクセル操作はもちろん目的地を想像するだけで自動運転で連れて行ってくれるかもしれない。

モノのインターネット(IoT)の普及によりさまざまなモノがコンピューターでつながれば、頭の中で念じるだけで電化製品や自動車などを操作することも可能になる。飛行機や自動車などに搭載されたカメラと接続すれば、目をつぶっていても疑似旅行体験ができる。人間と人間の脳がつながれば、テレパシーで情報交換することも可能になる。現代で言う超能力がAIの力で実現するのかもしれない。


出典:NASA

イーロン・マスク氏の頭の中にも当然自動運転などへの応用もすでに織り込み済みと思われる。また、各種メディアの取材の中で同氏は「コンピューターの脅威に立ち向かうこと」を一つの理念に掲げている。AIには「シンギュラリティ(技術的特異点)」「2045年問題」と言われるものがある。日々進化を続けるAIが、ある一定の段階に達すると進化のスピードが爆発的に加速し、人間の知能を超えて文明の進歩の主役に躍り出ることを意味し、AI研究の権威である未来学者のレイ・カーツワイル氏によるとそれが2045年頃に到来するという。

コンピューターが高度に発達したときに人類が自身の必要性を失わないためには、自らをAIで強化していく必要がある、という観点に立っているのがイーロン・マスク氏だ。

■日本における脳波の研究

日本にも脳波研究を進める研究者はたくさんおり、東京農工大学教務職員の池西俊仁氏と同教授の鎌田崇義氏は「脳波を用いた前方車両追従時におけるドライバの加減速意図の推定手法の検討」という自動運転に関連した論文を発表している。

運転操作などにおける行動において認知や判断、操作といった処理を脳で行っているが、この認知や判断といった意図を事前に検出・推定できればドライバーの操作ミスを防ぎ運転支援に応用できるのではないか、といった主旨で実験を行っている。

また、自動車メーカーの日産も脳波測定による運転支援技術(Brain-to-Vehicle)の開発を2018年1月に発表している。ドライバーの脳波を検知することで次の運転操作のタイミングやドライバーが持つ違和感を把握し、リアルタイムにクルマの制御に活用する技術で、ドライバーは自動車からの自然なサポートに気が付くことなく、自分自身が自動車を思い通りにコントロールしているという感覚が高まるという。

イーロン・マスク氏が提唱する脳とAIを直接つなぐような技術は現段階では眉唾ものに感じられるかもしれないが、脳波を活用した新しい自動運転技術はすぐそこまで来ているのかもしれない。


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